所有歴10年を迎えた2006年式シボレー・コルベット クーペ(C6型)とオーナーに見る「理想の個体」との出逢い方

中古でしか手に入らない車種が、年々増えている昨今。幸運にも手にすることができたオーナーに出逢うたびに、何が違うのかと考えずにはいられない。

今回登場するオーナーは、幸運にも「理想の個体」とめぐり逢ったひとりだ。愛車は2006年式のシボレー・コルベット クーペ(C6型/以下、C6)。左ハンドルのMTモデルだ。オドメーターは8万2000kmを刻んでいる。真っ白なボディに真紅の内装がまぶしく、スポーツカーの色気と華やかさを漂わせている。

今回はこのC6のオーナーに、愛車との出逢いや、歴代の愛車とのエピソードを伺いながら「欲しいクルマを手にできる人は何が違うのか」を感じとってみたい。

まずはオーナーの人物像から紹介していこう。男性オーナーは43歳。このC6と、通勤専用としてホンダ・S660の2台を所有している。

「両方とも2シーターのスポーツカーです(笑)。通勤はS660、休日はコルベットに乗っています。意識的に隠しているわけではないのですが、職場の数名にはC6を持っていることがバレています。『昨日○○にいただろう!』とツッコまれることもしばしばです(笑)。中には、私のC6に感化されたらしく、コルベット(C3)を買ってしまった人もいるんですよ」

とオーナーは語る。愛車はいずれも2シーターであることから、相当なクルマ好きを感じさせる。そんな彼の「原点」とは何だったのだろうか。

「幼い頃は、ミニカーを分解するのが好きな子どもでした。かなりの車種を覚えていたのに、日産・フェアレディZ(Z32型)に惚れる中学2年生になるまで、子供時代のしばらくはクルマへの興味を失っていたんです」

人生を変えた1台は、ズバリ、日産・フェアレディZ(Z32型)だったのだろうか?

「そうですね。とても憧れていて、新車で購入したクルマでもあります。ある日テレビを何気なく見ていたら、Z32のCMが流れたんです。スピンターンする赤いZ32の勇姿と『スポーツカーに乗ろうと思う。』のキャッチコピーに、当時中学2年生の私はすっかりやられてしまいました。あのCMのおかげで、日産車を乗り継ぐきっかけにもなりましたね。18歳になって運転免許を取得してからも、同級生がR32型のスカイラインやセリカなどのスポーツカーに乗って遊び回っている中、私はZ32に乗る日を夢見て、黙々と節約生活に勤しんでいました。当時はバブル景気の弾けた後でしたが、携帯電話はまだ高価で気軽に持てなかった時代でしたし、支出がほとんどなかったんです。あの頃が人生で一番お金を使わなかった時期だったと思います(笑)」

当時のクルマ好きな若者としても、かなりストイックではないだろうか。人生を変えた1台「Z32」を含めたオーナーの愛車遍歴を伺ってみた。

「18歳で免許を取得して、最初に乗ったのが日産・パルサー(N14系)でした。それを2年乗った後、20歳でついにZ32を新車で購入したんです。ツインターボは高かったので、なんとか手が届くNAの300ZX。当時は後部座席があってもいいだろうと思っていたので2by2(後部座席のあるモデル)を選びました。そのうちインターネットが普及した頃にZ33に乗り換え、オーナーズクラブにも入りました。その後、日産・マーチ(K11型)を買い足し、2台体制になりましたが、C6の購入資金を貯めたかったので、Z33を手放しました。普段のアシとして、日産・マーチ、スバル・ヴィヴィオ、ホンダ・ライフを乗り継ぎ、現在はホンダ・S660とC6の2台体制です」

ところで、コルベットといえば、アメリカの国民的スポーツカーとして知られている。オーナーのC6は、2005年から2014年まで生産されたシリーズ6代目にあたる。

C6が発表された当時、業界全体で車体サイズが大型化の傾向にあったなか、C6はホイールベースこそ拡大したものの、車体のコンパクト化を図っている。オーナーも、コンパクト化の恩恵を感じているようだ。

「大きすぎるという感覚はありません。今時のセダンのほうが大きいのではないかと思います。街中で乗っていても、取り回しに苦労するということはないですね」

そしてC6の魅力は、豊かなトルクを生む排気量5967cc・V型8気筒エンジンにもある。オーナーはこう話す。

「排気量が大きいと、ゆったりとした気持ちになれますね。市街地でも長距離も楽です。トルクがあるので、トラックに乗るように1速から2速を飛ばして3速に入れることもできますし、3速で2000回転まで回せば一般道路ではほぼ問題ない走りが可能なぐらいです。高速道路では5・6速のみでAT感覚。6速に入れて1000回転くらいで高速での巡航速度をキープできます。こういう場面で『アメ車』を感じますね。スポーツカーでありながら、大陸間の移動も考えられたGT的な要素を感じます」

オーナーはこのC6を2009年に手に入れ、今年で所有10年目を迎えた。ここで、あらためてC6との出逢いを振り返ってもらった。

「存在を知ったのは、自動車誌でスクープ記事を目にしたことからです。スクープというより、プロモーションですよね。キャリアカーの上にC6を載せて撮影されていました。そこでリトラクタブルライトが廃止されたことを知り、残念に感じた記憶があります」

そこから「乗りたい」心境になるまでどのような変化があったのだろうか。

「C6の存在を知った頃、私は日産・フェアレディZ(Z33型)とマーチ(K11型)を所有していました。フェアレディZのオーナーズクラブにも所属していたのですが、メンバーのひとりがコルベットに乗り換えると聞いたので、その方に、アメ車はどうなのか尋ねたんです。すると『最近のアメ車って壊れないよ。維持費もそんなにかからない』と返答がありました。税金に関して調べてみると、Z33とマーチの2台合算と、コルベットのそれとほぼ同じになります。保険代もZ33と同じで維持できるだろうという見込みもあり、現実味を帯びてきて、俄然、乗りたいという気持ちが高まりました」

C6の実車と対面したのはいつ頃なのだろうか?

「2009年のオートサロンへ行ったとき、当時、会場の近くにキャデラックの正規ディーラーがあったので見に行ってみたんです。そのとき、新車の価格を目の当たりにして愕然としました。さすがに手が届くはずがなかったんです。そこでZ33を売却して、貯金をしながら良い個体にめぐり逢うチャンスを待つことにしました」

現在の愛車との出逢いは?

「ある日、東京の専門店に入庫したC6の情報をネットで見つけました。それは赤のMTモデルでした。ボディカラーはできれば白が希望でしたが、MTモデルが絶対条件だったので候補にしました。その週の休日に確認に行こうと思いながら、以前立ち寄ったキャデラックの正規ディーラーのブログを開いて、何気なく読んだんです。すると偶然にも、その店にワンオーナーで左ハンドル、白のMTモデルが入庫したと書いてありました。しかも内装は赤じゃないですか!この仕様の2006年式モデルで日本へ正規で入っているのは10台もないといわれるほど、珍しい個体でした。オーナーが新車を発注する際にこの仕様を選んだのですね。すぐに店へメールをし、試乗のアポイントを取りました。少し試乗して、1時間後にはもう契約していました」

偶然なのに必然のような何かを感じてしまう。こうした運命的な出逢いは、中古車だからこそ生まれる「縁の賜物」なのかもしれない。このC6は、どんな経緯で入庫した個体だったのだろうか。

「前オーナーがマスタングに乗り換えるための下取りだったそうです。同じ店で購入された個体だったので、オーナーの素性もわかってラッキーでした。入庫したてだったので、車内にはまだ前オーナーの雰囲気が漂っていました。オドメーターも9200kmしか走っていなかったですし、サーキットも走らず、傷めないように丁寧に乗られていたことも確認できました」

念願のC6を手に入れて、変化したことはあったのだろうか。

「左ハンドルなので、右折のときは確認を怠らないように、より慎重な運転になりました。ロングノーズなのはフェアレディZに乗っていたこともあり、気にならないですね。しかもフロントフェンダーが左右に膨らんでいて、車幅を把握しやすいので助かっています。それから、燃費の良さに驚きました。市街地ではリッター6km/Lを切るくらいですが、高速で遠出したときはリッター11 km/Lまで伸びました。遠出の平均燃費はリッター7~8 km/Lです。エコランも一切していなくて、エアコンも効かせていてこのくらいです。エコランを心がければもっと伸びる可能性もあるでしょう」

C6で特に気に入っているポイントを尋ねてみた。

「車内から見る景色ですね。オーナーでないと見ることができないので。デザインでは、フロントフェンダーの膨らみとリヤフェンダーの抑揚の効いたラインが好きです。装備の中では、ヘッドアップディスプレイが気に入っています。当時の最先端を感じますよね」

世間の抱いている勝手なアメ車の先入観や誤解に基づいた質問になってしまうが、トラブルや修理は多いのだろうか。

「故障はしますが、極端な出費はないです。今までの大きな修理も、経年劣化から来ているものです。ラジエーターの水漏れとパワステフルードの液漏れくらいかな。あとは、ちょっとしたリコール対応ですね。車検も何度かディーラーでしていますが、通すだけだと20万円以内におさまります」

このC6に乗るうえで、もっともこだわっているポイントは?

「C6はオフの日に乗るクルマと決めています。休日であれば、雨が降っていても、ちょっとした買い物にもC6で行きます。それからもうひとつ、希望ナンバーを、前愛車のZ32と同じナンバーにしています。乗るクルマは、このナンバーを付けると決めているんです。もう1台のS660も同じナンバーにしていますよ」

オーナーは本当に欲しい1台に出逢うと、そのとき乗っている愛車を手放してまでチャンスを待つほどの情熱を持っている。ここで少し意地悪な質問を投げかけてみた。「このC6を売ってでも手に入れたいクルマ」は今、あるのだろうか。

「乗り換えるつもりはありませんが、あえて挙げるなら、シリーズ最終型のダッジ・バイパーです。またはコルベットの高性能グレードZR1もいいですね。C7ではなく、C6のZR1に乗ってみたいです。それ以外、興味をそそるクルマはありません」

今後、愛車とどう接していきたいかを伺った。

「アガリの1台と呼ぶのには抵抗がありますが、半分足を突っ込んでいるようなものかもしれないですね。今までの車歴でいちばん長いですし。今後はクラッチ交換も考えているくらいですから。息をするように修理をお願いしているので、今後も乗りたいと思っているし、乗っていくのでしょう(笑)。10年という節目を迎えてメンテナンスも増えていくと思いますが、乗り続けていきたいですね」

最後に、アメ車の購入を迷っている人へのメッセージを伺ってみた。

「これまで何度もアメ車の『燃費・故障・維持費』について聞かれるので、正直聞き飽きてしまいました(笑)。国産でも普通に3リッタークラスの新車はあるわけですし、コルベットは思ったほど壊れません。気軽に乗れると思いますよ」

もし「欲しいクルマが手に入る人は何が違うのか?」と聞かれたならこう答えたい。「素直な気持ちを忘れないこと」だと。知識量や経験値が増えていくにつれ、打算や妥協も増えていく。もちろん、クルマ選びにおいて「妥協」は現実的な選択肢として重要だが、粘り強さを超えた先に、見える景色は必ずあると思うのだ。もし、周りに念願だったクルマを中古で手に入れたオーナーがいたなら、手に入れた経緯を一度尋ねてみてほしい。おそらく「偶然」のエピソードが、ひとつはあるはずだ。それはクルマに対する「素直さ」がもたらすモノだと感じている。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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