アメリカから連れ帰った、貴重な2003年式シボレー・コルベットZ06(C5型)。オーナーが愛する理由とは

クルマが好きになると、オーナーによっては「この1台」に惚れ込むことがある。そのクルマの歴史や開発者の想いにふれるたびに、愛情は深まっていく。

青い空の下に佇む、空の青よりも深いブルーのシボレー・コルベットZ06(C5型、以下Z06)は、53歳の男性オーナーが15年もの間、大切に乗り続けている個体だ。“本場”アメリカから持ち込まれている。当時、このモデルはアメリカ国内専用モデルだった。日本に持ち込む場合は並行輸入のみだった。そのため、日本国内での生息数はおそらく数台レベルだろう。ボディカラーはエレクトロンブルー。ちなみにコルベットのブルーは20色以上もあり、2004年式になるとル・マンブルーという、別のカラーが設定されている。この貴重な個体に注がれる愛情の深さは、オーナー自身が綴るブログからもうかがい知ることができる。

オーナーのZ06は、2003年式。シリーズでは5代目にあたる。ボディサイズは、全長×全幅×全高:4565×1960×1211 mm。「LS6型」と呼ばれるV型8気筒エンジンの排気量は5700cc、最高出力405馬力を誇る。

Z06は、例えるなら日産・スカイラインGT-Rのような存在だ。コルベットにはスカイラインのように幾つかのグレードがあり、なかでもZ06は「別格の存在」。設定がMTしかないのも、特徴のひとつ。さらに、オーナー同士の結びつきの強さも、名車ゆえである。

「アメリカに住んでいたとき、Z06に乗っていると、いろんな人に話しかけられました。コルベットは現地では“国産車”なのに、『Nice Car!』と声をかけられることがすごく多くて、信奉されているのを感じましたね。このクルマに乗るようになって知りましたが、コルベット乗り同士は、すれ違うときに挨拶をするんです」

新車で購入してから現在まで、オドメーターは6万8000キロを刻む。車体は15年間の年月を経ているとは思えないほど、抜群のコンディションである。なぜオーナーは、コルベットに魅せられているのだろうか。

「きっかけは、アメリカに引っ越したことだと思います。アメリカっぽいクルマに乗りたいと思ったんです。候補は、ダッジ・バイパーとコルベットでした。タイミング良く、近所の人がコルベットC4を売り出している情報を得て、個人売買で購入したのが最初ですね。このC4に乗ってコルベットが好きになり、歴史もいろいろ調べていくうちに惚れ込んでいって、次は当時新型だったC5に乗り換えました。それがこのZ06です」

アメリカに移住したことでコルベットの虜になったオーナーだが、もともとクルマは好きだったのだろうか?

「父親の影響が大きいと思います。私が高校生の頃、父は日産・グロリアのL28改に乗っていましたし、定年から晩年はカマロに乗っていましたから。自動車誌も大量に買い込んでいて、CAR GRAPHIC誌は創刊号からありました。OPTIONやアイドルが表紙だった時代のCARBOYなどもあったので、それらを読んで育ちました。
子どもの頃、フォード・マスタング マッハ1が欲しかったのは、映画の影響だと思います。父はカーアクション映画もよく観ていて、『バニシング IN 60"』や『激走!5000キロ』などをTVや劇場で一緒に観ましたね。
それから、買ってもらったミニカーのなかに特別お気に入りの一台がありました。後でわかったのですが、実はそのミニカー、コルベットのコンセプトカーだったんですよ。そのときからコルベットには、何か惹かれていたのでしょう」

まさに、クルマ好きなら憧れる環境、しかもクルマが盛り上がっていた時代である。現代の若いクルマ好きが聞けば、羨むこと間違いなしだ。取材を続けていると「親父の世代(50~60代)に生まれたかった」と話す若いクルマ好きが本当に多いのだ。次に、オーナーの愛車遍歴も伺った。

「最初がファイアーバードトランザムですね。『トランザム7000』を観て乗りたかったクルマです。結構弄りましたし、オーナーズクラブにも入っていました。その次が日産・フェアレディZ(Z32型)。2シーターでTバールーフのツインターボでした。次にバーキン・スーパーセブンを新車で買って、エンジンは日産のSR20(NA)に換装しました。その後スーパーセブンを日本に保管してアメリカに移住しました。あちらではマーキュリーのステーションワゴン、コルベットC4にC5、サンダーバードを増車しました。そしてZ06とともに帰国して、普段乗り用に三菱・レグナムを、妻用にコペンを増車しました。久しぶりに保管しておいたスーパーセブンに乗ったところ、加齢で体がついていけないのがわかり、ルノー・スポールスピダーに乗り換えました。そのうち、妻のコペンが現行のBMW・Z4になり、スポールスピダーからポルシェ・550スパイダーのレプリカに乗り換えました。現在はコルベットZ06を含め、5台と暮らしています。中でもコルベットZ06は15年という長い付き合いです。歴代の愛車でもっとも長く乗っていますね」

コルベットが好きというと、つい「アメ車好き」と思いがちだが、オーナーはメーカーを問わず、スポーツタイプを好むようだ。

「今5台あるうちの4台が2シーターです。妻と二人暮らしなので、ほとんど2シーターで事足りてしまうんです。人を乗せる時のために1台だけ4枚ドアを持っていますが、基本的に、クルマとしては2ドアが好きですね」

アメ車贔屓というわけではなく?

「そうですね。きっと、好きになったクルマがたまたまアメ車なだけです。最近気がついたんですけど、私のガレージには、偶然にもル・マンで優勝したクルマしか入っていないんです(笑)。550とコルベットが並んでいるのですが、いずれも優勝経験があります。こういうクルマがきっと好きなのだろうと思いますね」

オーナーの愛車遍歴を伺ったうえで、あらためてZ06の魅力を伺ってみたい。なぜ15年もの間、美しさをキープできているのだろうか。

「雨の日は基本的に乗らないようにしてきました。洗車も水は使わず、毛ばたきでホコリを払い、水なし洗車用のウエットタオルで拭き上げるだけです」

と、オーナー。美しさの秘訣は、毎日磨き上げるでもなく、自然体で接することなのかもしれない。このZ06との馴れ初めは?

「2003年の9月に購入しました。そのときはすでに2004年モデルが出ていたので値下がりしていたんです。2004年モデルとは60万円ほどの価格差があって迷いましたが、結局2003年式のディーラー在庫車を買うことにしました」

通常のC5コルベットとZ06の違いは?

「軽量化とボディ剛性アップのためにさまざまな工夫がされていました。まず、通常のコルベットはグラスハッチですが、Z06はノッチバックスタイルです。ガラスの面積が大きいと車重が重くなるので、軽量化のためにガラス面積を小さくしています。そしてタルガトップになりません。他にも、フロントガラスが1ミリ薄かったり、シフトレバーの中に入っている緩衝材がないため、ダイレクトな感触だったりします。ステアリングコラムもテレスコピック機構を省くことで剛性を上げてありますね。室内の遮音材もないので、普通のコルベットに比べると振動も音も大きい。チタンマフラーが標準で装備されているのと、ATの設定がないことも含めて、思いっきりの良さが気に入っています」

Z06に乗った家族の感想は?

「妻には『コルベットも普通のクルマになったわね』と言われました(笑)。C4は、ドアを開けるとサイドシルが、シートの座面よりも高い位置にありました。そのため乗り降りに苦労するんです。しかもトランスミッションが大きいので、助手席の足元が非常に狭い。それがZ06になると、トランスアクスルとなり、トランスミッションが後ろになったことで足元が広くなりました。サイドシルも下がったので普通のクルマと同じ感じになってしまったようです。たしかに、自分で運転していてもC4のほうが特別感はありました。『趣味のクルマ』としてはその乗りにくさが楽しかったと思います。Z06はクルマとしては正常進化しているので、使いやすくなっていますよね」

今までの愛車も、モディファイを施して楽しんできたオーナー。Z06にはどのようなモディファイが施してあるのだろうか?

「5年前にリアをカーボンでオーバーフェンダーにしました。もともとコルベットはFRPのパネルになっていて、それを丸々交換した形です。それから、ホイールはアメリカのメーカーForgetstar製のF14というモデルです。オフセットもこだわっていて、きちんとツライチになるようにミリ単位で測って、本国へオーダーしました。成田まで受け取りに行きましたよ。ゴールドにしたのは、ルノー・スポールスピダーに乗っていたとき、前のオーナーがゴールドのホイールを履かせていたのが気に入ったからです。サイズはフロント18インチの275、リア19インチの345です。フロントは純正よりも少し細くしてあります。なぜなら純正だと、はみ出しタイヤと認識されて車検が通りません」

低く構えたフォルムが美しいが、日本の段差には耐えられているのだろうか?

「実はですね、コルベットのフロントスポイラーは地上を擦るのが前提に作られています(笑)。したがって価格も安いんですよ。私は3年に1度、新しいものと交換しています」

Z06の特に気に入っている点とは?

「軽さでしょう。400馬力超えていて車重1400キロのクルマは、まずないですね。ステアリングを切って、ノーズがグイッと曲がったときの応答がものすごくいいです。あとは加速。0-60マイルが公式で3.9秒なんですが、意外と低回転のトルクが細いんです。そのかわり、踏み込んだときの加速はかなりものです。レブリミットの6500回転までは、あっという間です」

エンジンの排気量は5.7リッターなので、かなり豪快な回り方をするようだ。ここで、あらためてコルベットの魅力とは何かを尋ねてみた。

「フェラーリのように高級ではないけれど、歴史があって、さまざまな逸話や資料があって、クルマ自体もかっこいいけど、乗ってないときでも楽しめるクルマだと思いますね」

逸話のなかで、オーナーがもっとも好きなエピソードは?

「家のガレージではポルシェ550と並んでいるのですが、この550に乗って1954年と1955年のル・マン24時間レースでクラス優勝したドライバーZora Arkus-Duntovが、後にコルベットのチーフエンジニアになり、「コルベットの父」と呼ばれるようになります。まったく接点がないように見える2台が、実は深くつながっているわけです。こういう歴史を調べたりするのも楽しいです」

最後に、コルベットとの「これから」について伺った。

「きっと免許を返納するときまでコルベットに乗り続けます。『アガリの1台』ですよね」

そう話しながら、オーナーは顔をほころばせた。オーナーをはじめ、熱心なファンが世界中にいるコルベットは、これからもアメリカを代表するスポーツカーであり続け、その名車の系譜は後世に語り継がれていくに違いない。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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