【日産スカイラインNISMO】“野武士”の血統(森口将之)

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「スカG」伝説のルーツとされる、日本グランプリでポルシェと戦った「プリンス・スカイライン2000GT」の量産版、「2000GT-B」。形式名で言うところの「S54B」に、その昔取材で乗ったことがあります。

古いクルマを扱う編集部に入りたての頃。今も語り継がれる「R32」、8代目「スカイライン」のデビューと「GT-R」の復活に合わせて、歴代スカイラインの高性能車種を集めようという企画が立ち上がり、R32が待つ日産の栃木のテストコースまで、全車自走で往復することになりました。

そのとき僕がステアリングを握ったのがS54Bでした。編集部に入りたて、年齢も一番若いのに、なぜか最も古いモデルを任されたのです。でもオーナーさんの日ごろの手入れが素晴らしかったこともあって、往復で200km以上の距離を、スムーズにこなすことができました。

とはいえ返却直前には、ちょっとしたトラブルがありました。S54Bはロードゴーイングレーサーという位置づけなので、トランク内に専用の給油口を持つ100リッターのガソリンタンクを据えつけていました。しかし僕はそのことを知らず、通常の給油口からガソリンを注いでしまったのです。

そこは単なる穴であり、見る見るうちにトランクはガソリンで満たされ、排水の穴から漏れ出しました。でも先輩たちは怒ることなく、「洗礼だよ」と笑っていました。この経験があったおかげで、その後古いクルマの取材でトラブルに遭っても、さほど驚かなくなりました。

それにしても今なお思い出すのはその走りです。3基のウェーバーキャブレターからは豪快な吸気音を、細い2本出しのマフラーからはハスキーな重低音を響かせながら、豪快に加速する様子は、野武士を思わせるものでした。

そのときは感覚的に“野武士”という言葉がひらめいたのですが、武蔵野で生まれた戦うクルマというプロフィールを考えても、的確な表現だったと思っています。

今回「スカイラインNISMO」をドライブしながらふと、この野武士というフレーズが頭に思い浮かびました。最新のクルマでありながら無味乾燥ではなく、エンジンの鼓動を適度に伝え、ステアリングホイールやペダルを使って自分から操る喜びを求めていける走りっぷりに、S54Bとの血のつながりを感じました。

この先、電動化が進んでも、この野武士っぷりは受け継いでほしいと思ったのでした。

(文:モータージャーナリスト・森口将之)

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