大学生でGT-Rオーナーになる決断をしたZ世代の愛車ライフ
「幼稚園の頃に書いたクルマの絵くらいカクカクした外観、爺ちゃん家で見たことのある白いレースのかかった椅子を彷彿とさせるシート、安全性が高いとは言えないエアバックなしの薄いハンドル…感じ方は人によってそれぞれだろうけど、僕にはものすごくカッコよく感じたんです。ものすっっっっっごくね!」
そう話してくれたオーナーさんの愛車はBNR32型の日産・スカイラインGT-R。20代のオーナーさんよりもだいぶ年上の1993年式だ。
8代目となるR32型スカイラインに専用エンジンのRB26DETTを搭載し、4代目のケンメリ以降途切れていた“GT-R”の名を与えられて登場したBNR32。全日本ツーリングカー選手権で勝つために、アテーサE-TSやスーパーハイキャスといった最新技術を搭載して生み出されたこのクルマは、レースやゼロヨンなどさまざまなシーンで大活躍。当時のクルマ好きたちはもちろん、現在でも国内はもとより海外でも大人気の名車となっている。
小さい頃からクルマ好きだったというオーナーさんにとってもGT-Rは憧れの存在だったそうで「大学3年の夏に、たまたまこのBNR32を購入できるという機会に恵まれて『乗らずに後悔するくらいなら、乗って後悔しよう』と、当時乗っていたシルビアから乗り換えを決意しました」という。
大学生になって免許を取り、はじめての愛車として迎え入れたのは日産・シルビア(S15)だったというオーナーさん。本音を言えばランサーエボリューションIXに乗りたかったけれど、大学生が購入できる車両価格ではなかったため、泣く泣く断念。そして、これならどうだとオススメされたのが、馴染みのショップの倉庫に置いてあったシルビアだったのだとか。
最初は乗り気じゃなかったものの、実物を見てみると『最近のクルマにはない“良さ"があった』というオーナーさん。カセットテープは目にしたことがないし、よく分からないボタンや効果があるのか分からない機能もあったそうが、それが面白いと感じたのだそうだ。
「走ってみると、カメのように遅かったんです(笑)。もともと、ラリーカーやスポーツカーに乗りたかったクチだから、そういう走りを感じたくてアクセルペダルを踏んでみました。そうすると、すごく頑張ってるエンジン音が聞こえてくると共に、もうやめてと言わんばかりにハンドルが震えました(笑)」
それを体感した際には、思わずクスッと笑ってしまったと話してくれた。
ほかにも、コーナーを曲がった時に重心が安定せず、少し速度を落とそうかなと思えるくらい車体剛性の弱さを感じるところなども、旧車らしさを感じられたのだとか。
しかし「新型車でこの仕上がりなら不満を感じるだろうけど、旧車だとそれが愛おしく感じてしまうのは旧車7不思議の中のひとつですね」と深く頷いていた。
憧れだったGT-Rと過ごす旧車ライフは、思った通りキラキラしていたそうだ。ただ、諦めたこともあったという。
「維持費を払うので精一杯だったんですよ。だから、やりたいことをできるようになるのは社会人になってからだなと。それくらい、旧車を保持するということが大変で手間もお金もかかるんだと学びました」
たとえば、前オーナーが装着していたフロントバンパーの“豚鼻"と呼ばれるニスモダクトがどうしてもカッコいいと思えず、ノーマルの見た目に戻したいと思ってインターネットオークションで純正バンパーを検索してみると30万円からスタートだったとのこと。およそ3ヶ月分の給料が飛んでいくとなると非現実的で、渋々諦めたという。それならば、オフ会でよく見かけるリアシートを取り外すカスタムをしてみようと試みるも、工賃の見積書を見て断念したのだとか。
そんなわけで、大学在籍時はガソリンスタンドのアルバイトを可能な限り入れ、シーズンによっては2つ掛け持ちすることもあったという。そんな生活が苦にはならなかったのは、クルマに関するバイトだったからだと話してくれた。洗車、給油、出入りの誘導など、多種多様なクルマに触れることができるのは、願ってもないチャンスだったからだ。
「根本的なところは、社会人になった今も何変わっていません。ガソリン代がかかるので毎日乗りたいところをぐっと我慢して、週末にだけ乗ることがほとんどというくらい、維持費に追われています(笑)。でも、楽しいからそれができるんですよ。『このGT-Rに乗るために頑張っとるんやー!』ってね。週末が待ちきれず仕事終わりにドライブに行ってしまうこともありますけど(苦笑)」
そもそも、変わっていないというならば、家の本棚に並んでいた『湾岸ミッドナイト』を読み漁り、作中に登場するクルマに憧れを抱いていた少年時代から何も変わっていないというオーナーさん。『クルマが好き』という気持ちは色褪せることなく、愛車のことを考えるだけで幸せな気分になれるそうだ。
ちなみに湾岸ミッドナイトが家にあったのは、同じくクルマ好きのお父様が愛読していたからとのこと。祖父、曾祖父もクルマ好きで、お母様も維持できるのであれば好きなクルマに乗った方がいいと言うのだという。
「妹はカッコいい黒いセダンがいいと言ってR34型スカイラインに乗っています。家の前に2台が並んで停まっているのを見ると、すごいクルマ好きな家だなぁ…と自分でも思います(笑)」
ちなみに、ご両親は2台のサウンドの違いでどっちが帰ってきたのかが分かるらしい。
「BNR32の音と乗り味は最高ですよ。マフラーが変わっているというのもあるけど、運転席に乗った人しか分からない“その気にさせてくれる音”がするんです」
3000〜4000回転で変わりはじめ、5000回転で綺麗な音を響かせるそうで『速いというよりは音と乗り味がいい』と絶賛していたオーナーさん。身体の芯に響く、そんな音色なのだとか。
そして、そんなエキゾーストノートを最高のロケーションで味わうために、のと里山海道の直線をドライブするのだという。
また、ひとりで楽しむだけではなく「彼女と一緒にクルマ好きが集う“道の駅めぐみ白山"に行って、ソフトクリームを食べて帰るのが週末の恒例になっているんです」と、満面の笑みで教えてくれた。
このGT-Rのいちばんのお気に入りポイントは丸4灯のテールランプだというオーナーさんが、取材中に何度も使ったのが『カクカク』という表現だった。
幼稚園の頃に落書きしていたクルマくらいカクカクしているのがいいのだという。空力のことを考えると流線型の方が適していると頭では分かっているけれど、自分の中で“クルマといえばカクカク”であり、新型車を購入しないのも、そういう形のクルマが無いからだと話してくれた。
また、ノスタルジックな雰囲気を感じさせる黄色いライトとともに、当初は嫌いだったフロントバンパーのニスモダクトもお気に入りポイントになったというオーナーさん。
費用面はもちろんのこと、周りのクルマ仲間に褒められるので悪い気がしなかったのと、湾岸ミッドナイトの劇中に登場するBNR32乗りのキャラクターがこのダクトを装着していたこともあってそのままにしておいたところ、今では『BNR32には豚鼻が映える!』と感じるようになったのだとか。
「ようはロマンなんでしょうねぇ。そこに理由はなくて、ロマンが詰まってるんです」と、漫画の登場人物のような口調で語ってくれた。
そんなオーナーさんが施したというお気に入りのカスタムはホイールで、定番のボルクレーシングTE37ではなく、アドバンレーシングGTを装着しているところだそうだ。
「TE37のレイズホイールも1周回ってよさがわかる日がくるかもしれません。でも、そんなことは実は些細なことで、自分が満足するかどうか?なんですよね」
今後も綺麗な状態で乗り続け、愛読書の湾岸ミッドナイトにも“聖地”として登場する大黒PAに行くことを目標にBNR32ライフを楽しんでいきたいというオーナーさん。
「走りたくて、我慢できないんですよ」
根本的なところは小さい頃から何も変わっていない。それが彼にとってのロマンなのだ。
取材協力:しいのき迎賓館(石川県金沢市広坂2丁目1-1)
(文: 矢田部明子 撮影: 平野 陽)
[GAZOO編集部]
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