我々はなぜ「イタフラ車」に惹かれるのか…愛すべき最新コンパクト4選

我々はなぜ「イタフラ車」に惹かれるのか…愛すべき最新コンパクト4選
◆無性に乗ってみたくなる

今からもう、25年も前のこと。仕事で初めて訪れたパリで、ちょっとしたカルチャーショックを受けた。否、予備知識はあったのだ。小さいころからクルマ雑誌に囲まれて育ったから、ヨーロッパの街街では洒落た小さなクルマたちが元気よく走り回っている、なんてことは、先刻承知のはずだった。

想像を超えていた。洒落て元気、なんてもんじゃない。街全体がもうまるで、プジョーやルノーやシトロエンで動いているみたい。路上駐車の嵐も、見ていてまったく飽きないし、色あせたボディから、凹んだフェンダー、錆びたバンパーまで、見るモノ全てが、格好いい。人とクルマとの“いい関係”、が滲み出ているなぁ、と思った。

ボクは赤いシトロエンをメーカーから借りて乗っていたのだった。石畳の狭い路地をすいすい通りぬけ、凱旋門のまわりを勢いよく駆けた。雨のあがったセーヌ川沿いへと降りてゆき、クルマを停めてエッフェル塔を眺める。パリジャンにでもなった気がした。

今でもヨーロッパの街から日本へ帰ってくると、無性に、小さなフランスやイタリアのクルマに乗ってみたくなる。それは、センスのいいブランドの服を着こなしたい、とか、美味しいフランス料理に舌鼓を打ちたい、とか、そういう気持ちに似ているんじゃないか、と思っている。

◆毎日を元気にしてくれる実用車…シトロエンC3

日本であえて小さな輸入車に乗るからには、そこにはっきりとした個性が求められるんじゃないかと思う。異国情緒、とでも言おうか。その点、最近のシトロエンデザインには、いかにもフランスの今風のクルマらしい香りが、濃密に漂っている。

『C3』の愛嬌ある顔だちは、まるでペットのようだ。こまごまとした日々の煩わしさを忘れさせてくれる。それでいて、可愛いらしい一辺倒でもなくて、見ようによってはシャープなマスクだったりもするから、男女を問わず、ウケそう。ちょっとSUVっぽいのそこかしこの演出も、イマドキで、とてもアクティヴなイメージがある。

インテリアも、機能一点張りのコクピットスタイルではなく、リビングルームにおいてあったとしても成り立つような、シンプルでモダンなデザインだ。

とまぁ、内外装のデザインだけで大いに興味をそそられるC3なわけだけれども、最も魅力的なポイントは実は別にあったりする。それは、運転して楽しいこと。1.2リッターの3気筒ターボエンジンと、シャシーの塩梅が秀逸で、乗っても楽しいのだから、毎日を元気にしてくれる実用車として、文句の付け様もない。

◆何気ない瞬間にパリを感じる…DS 3

フランス人は合理精神に満ちている、とよく言われる。簡単にいうと、ケチだ。だから、実は彼らのマイカー選びは経済性重視だし、日本人のように見栄をはったりすることなど、あまりない。だからといって、没個性であっていいわけでもないあたりもまた独特。合理的に選んでみたらユニークだった。そういうクルマが好まれているんじゃないか。

さしずめ、DSブランドなどは、その最右翼だろう。好き嫌いのはっきりと分かれるデザインに、マジメな装備と機能を詰め込んだ『DS 3』に乗ってみると、まるでパリを走っているような気分になる。なにしろ、走りに膨らみがあった。何気ない瞬間、たとえば、発進しはじめた瞬間、とか、ハンドルを切り終える直前、とか、そういったときに、とてもいい感じがする。良い香りの女性とすれ違った感覚に、それはよく似ているのかもしれない。

個性豊かな見映えに、仕立ての良い室内、そして快活で上質な走り。偉大な名に恥じず、クルマ好きを魅了するのだった。

◆姿カタチからは想像できないほどファン・トゥ・ドライブ…フィアット500

“チンクェチェント”はイタリアの国民車だ。これがフェラーリを生んだ国のコンパクトカーなの?と思ってしまうほど、ぽってりとしたデザインなんだけれども、愛嬌があって、不思議なほど、これまたイタリアン。だから、見ているだけで、何だか元気になってくる。

乗り込んでみても、いわゆる上質さとはまるで無縁。その代わり、どこまでもポップだ。もし自分が、クルマ通勤のサラリーマンだったなら、フィアット『500』を選ぶかも知れない。憂鬱な月曜の朝でも、会社に着く頃には笑っていられそうだから。クルマそのもののポテンシャルも高く、姿カタチからは想像できないほどに、ファン・トゥ・ドライブ。2気筒エンジンが、独特の音を響かせて、元気よく走る。

気持ちいいからって、エンジンのまわし過ぎにはご用心。ぽろぽろ言わせながら、マイペースに転がしてさえいれば、燃費も素晴らしい。

◆「これでいいんじゃないか」と納得させられる…ルノー トゥインゴ

『トゥインゴ』は、とてもルノーらしい。それも、日本人好みのカングーやルノースポールの両極端な路線ではなく、本国的な“らしさ”。シンプルさのなかにある凝ったディテールや、シャープなラインと可愛らしさの共存など、そのスタイリングは見ていていちいち飽きない。

乗り込んでみれば、とってもチープなのだけれど、安いクルマなんだから、これでいいんじゃないか、とむしろ納得させられる。デザインの力、というよりも、ルノーという国民的ブランドの哲学が、ぶれずにはっきりと現れているからなのだと思う。

世にも珍しいRRレイアウトもまた、“らしさ”のひとつ。なにしろ、スペース効率がいいから、小さくまとめやすい。そのうえ、乗り味もまたユニークで、小回りが効く。実用が個性を着ているようだ。若い時分にこんなクルマと出会ったら、幸か不幸か、一生変わったクルマを選ぶようになるだろう。

西川淳|自動車ライター/編集者
産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰して自動車を眺めることを理想とする。高額車、スポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域が得意。中古車事情にも通じる。永遠のスーパーカー少年。自動車における趣味と実用の建設的な分離と両立が最近のテーマ。精密機械工学部出身。



(レスポンス 西川淳)

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