【BMW 5シリーズ 1500km試乗】何だかんだ言ってもやっぱりEセグの主役級[後編]
BMWのEセグメントプレミアムラージ『523d M Sport』で1500kmほどツーリングする機会があった。前編はシャシーの動的質感について述べた。後編はまずパワートレインから入っていこうと思う。
◆まだまだ一級品のパワートレイン
パワートレインは2リットル直4DOHCターボディーゼル+8速ATの組み合わせ。エンジン性能は最高出力140kW(190ps)/4000rpm、最大トルク400Nm(40.8kgm)/1750-2500rpm。ATは独ZF社製で、全段ロックアップ、ギア飛ばしシフト可能という高性能タイプ。本国では「520d」に相当するスペックだが、日本では3シリーズとの差別化のためか、5シリーズに20という末尾が付くのを嫌ってか、523dとされている。
さて、そのパフォーマンスだが、絶対性能面はもちろん140kW級の域を出るものではない。が、先進国の中で速度域がブッチギリに低い日本ではこれ以上何の必要があろうかというくらいの速力はちゃんと発揮してくれる。
フィールは素晴らしい。メルセデスベンツやプジョーなどと同様、スピーカーから倍音成分の音を出し、エンジンのメカニカルノイズと共鳴させて中和するシステムを持っているが、まずその中和のセンスが良く、不自然さが全然ない。ガララララという音ではなく、ルロロロロ…というサウンドを奏でる。この2リットルエンジンは「B47D20」という形式で、エンジンのモデルライフとしては後半に入ってきているユニットだが、持ち前の伸びきり感の良さ、回転のスムーズネスは健在で、まだまだ一級品として通用する。
8速ATのパフォーマンスも良好。通常運転時のシフトチェンジの切れ味とロックアップ締結の強固さの相乗効果で、スロットルへの反応はダイレクト感豊かだった。また、パドルシフトによるマニュアル変速のレスポンスが素早いのも特徴で、山道を気分良く走るのにはうってつけだった。
燃費は今どきの2リットルターボディーゼルとしては標準的。実測値は東京を出発し、奈良、和歌山、大阪市街などを周遊し、奈良・天理に達した1014.4kmが17.8km/リットル(給油量57.06リットル)。そこから神奈川・厚木までの449.0kmが19.5km/リットル(給油量23.02リットル)。高速道路、郊外路とも基本的に優速な流れに乗って走っての数値なうえ、第1区間は高野山や大阪の渋滞路、大阪~奈良間の暗峠などを通行して数値なので、十分にアクセプタブルな燃料消費率であろう。が、内燃のBMWなのだから、堂々のトップランナーというくらい伸びてほしいとも思うところである。
◆メリハリある前後席、人間中心の操作系
居住性は基本的にとても良い。前席、後席ともスペースはたっぷり目だが、前席はコクピット感重視、後席はゆったり感重視と、メリハリがついている。BMWといえば、昔は走りのためには居住区はタイトになってもやむなしという割り切ったパッケージングを持っていたが、高級車市場においてメルセデスベンツ、レクサス、アウディ、ボルボなどと同じレイヤーで、しかも数を出していく必要に駆られている以上、自社の理想ばかりを追っているわけにもいかないのであろう。そのぶん独自性は希薄になったが、高級車としての仕立ては間違いなく向上している。
コモディティ化の波はインテリアデザインにも及んでいる。かつては「てやんでえ、クルマにとって大事なのは質なんだよ。見栄えを飾るのなんざあ日本車やアメ車にやらせておきな」といわんばかりの江戸っ子気質なところがあったのだが、今は見栄えの良さを一生懸命に追求しており、レクサスかと思うようなキッチュデザインになっている。
ただし、スイッチ類の配置や操作系のロジカルな設計はドライブ中に運転以外のことに気を取られないようにするというBMWの安全哲学が濃密に反映されていて使いやすいことこのうえなく、また初めて使う機能も説明書を読まずともほとんど感覚的に使うことができた。人間中心主義のクルマ作りである。
◆インフォメーションは「傑出して賢いコンシェルジュ」
先進安全・運転支援システムは今どきの高級車にふさわしい機能を持つ。万が一の事故のさいに車両の状態や場所を自動で送信したり、急病人発生のさいに手動で救援を呼べるSOSコールをはじめとするテレマティクス、車線維持アシスト、先行車や対向車を検知して配光を変えるアクティブハイビーム、ステレオカメラと5基のレーダーによって歩行者を含め全周警戒する衝突防止装置、前車追従クルーズコントロール等々。
薄暮にアクティブハイビームの判定がちょっと甘くなる傾向があったことと未確認の衝突時の被害軽減以外、どの機能も基本的には安心してドライブできると感じさせるに十分な完成度であった。車線維持アシストはかなり強固であるし、クルーズコントロールの使用時に他車が前に割り込んできたときの判定も素早い。
が、機能面以上に感心させられたのは、注意のアラートを含めたインターフェース。フロントガラス上にヘッドアップディスプレイが備えられているのだが、そこを見ていればカーナビ、電話、オーディオ、エアコンその他の情報の確認や操作がすべて事足りてしまうというくらいであった。
インフォメーションエリア内には全部の情報が常時ギチギチに表示されているわけではない。たとえばステアリング上の電話のスイッチを押せば通話リストや電話帳のセレクションが、オーディオスイッチを操作すればソース選択、曲目リスト、ボリュームなどが、車両情報を触れば平均車速、エンジン回転、実速、燃費…と、ドライバーがこのスイッチを押したときに欲しい情報は何かということをドライバー目線で徹底的に考えて作られたふしがうかがえた。
この手の装備はどのメーカーも作り込みに熱を入れて久しく、そのパターンもある程度決まりきっているように思っていたが、そんな中で傑出して賢いコンシェルジュという印象を与えるとは、人間と機械の関係というものはまだまだいくらでも深堀りする余地があるのだなと、ちょっと感銘を覚えた次第だった。
◆まとめ
523d M SportはプレミアムEセグメントのセダンとしてはとても良くできている。運動性能は良く、室内は広く、運転支援システムも高機能。いつまで続くかはわからないが、今のところはまだ世界一の超高速道路交通国家であるドイツで安全・安心を考えるとこういうクルマになるのだなと思わされるだけのものは持っている。
明確な不満は本当に、乗り心地とステアフィールの悪さくらいのものなのだが、乗り心地と性能の両立をスポーツマインドの根幹としてきたBMWだけに、重大な欠点に見える。筆者は自動車の論評が本業というわけではないうえ、個人的に安グルマフェチということもあって、プレミアムセグメントのクルマにはたまにしか乗らない。が、ブランクがあるだけに旧型3シリーズ M Sportとの落差はことさら大きいものに感じられたのも事実である。固いのに快適、上質というBMWマジックを取り戻してほしい。
もちろんBMWがどんなクルマを作ろうがビジネスは彼らの自由であるし、中国が高級車の一大市場となっている以上、彼らの好みに合わせるのも当然のことかもしれない。だが、プレミアムセグメントにおいては、何台売れるかということ以上に、どんな客が買うかということが重要だ。見てくれさえよければいいという客や、ギューンと加速したり曲がったりすれば満足という客が主体になると、長年のうちにそういうブランドという目で見られるようになる。
ビジネスにとって利益はとてつもなく大事だが、何が利益を生むかというファクターは複雑。2015年に就任したハラルド・クリューガー社長は2020年に退任することが決まっている。次期社長に内定しているオリバー・ツィプセ氏は欧州における電動化への圧力に対応するのが主任務と言われているが、それだけではBMWはらしさを保てないだろう。BMWがどういう喜びを提供するのか、その経営手腕に注目したい。
…と、何だか厳しいことばかりを書いたが、現行5シリーズは技術的な仕立てそのものは本当にハイレベルで、グローバルのみならず日本でもEセグメントの主役級であることに変わりはない。日本におけるライバルはメルセデスベンツ『Eクラス』、アウディ『A6』くらい。日本勢はトヨタの『レクサスGS』、ホンダ『レジェンド』などがこのクラスに相当するが、いずれも登場時期が古く、実際には競合相手たり得ないだろう。
キャラクターを無視し、高級車枠ということで考えれば全長5m近くと、プレミアムラージに区分けできる『レクサスES』もライバルと言えるか。これらのライバルの中で5シリーズは、ドライビングコンシャスな高速サルーンが欲しいユーザーにとっては、何だかんだ言ってもやっぱり一番の候補になるか。
(レスポンス 井元康一郎)
◆まだまだ一級品のパワートレイン
パワートレインは2リットル直4DOHCターボディーゼル+8速ATの組み合わせ。エンジン性能は最高出力140kW(190ps)/4000rpm、最大トルク400Nm(40.8kgm)/1750-2500rpm。ATは独ZF社製で、全段ロックアップ、ギア飛ばしシフト可能という高性能タイプ。本国では「520d」に相当するスペックだが、日本では3シリーズとの差別化のためか、5シリーズに20という末尾が付くのを嫌ってか、523dとされている。
さて、そのパフォーマンスだが、絶対性能面はもちろん140kW級の域を出るものではない。が、先進国の中で速度域がブッチギリに低い日本ではこれ以上何の必要があろうかというくらいの速力はちゃんと発揮してくれる。
フィールは素晴らしい。メルセデスベンツやプジョーなどと同様、スピーカーから倍音成分の音を出し、エンジンのメカニカルノイズと共鳴させて中和するシステムを持っているが、まずその中和のセンスが良く、不自然さが全然ない。ガララララという音ではなく、ルロロロロ…というサウンドを奏でる。この2リットルエンジンは「B47D20」という形式で、エンジンのモデルライフとしては後半に入ってきているユニットだが、持ち前の伸びきり感の良さ、回転のスムーズネスは健在で、まだまだ一級品として通用する。
8速ATのパフォーマンスも良好。通常運転時のシフトチェンジの切れ味とロックアップ締結の強固さの相乗効果で、スロットルへの反応はダイレクト感豊かだった。また、パドルシフトによるマニュアル変速のレスポンスが素早いのも特徴で、山道を気分良く走るのにはうってつけだった。
燃費は今どきの2リットルターボディーゼルとしては標準的。実測値は東京を出発し、奈良、和歌山、大阪市街などを周遊し、奈良・天理に達した1014.4kmが17.8km/リットル(給油量57.06リットル)。そこから神奈川・厚木までの449.0kmが19.5km/リットル(給油量23.02リットル)。高速道路、郊外路とも基本的に優速な流れに乗って走っての数値なうえ、第1区間は高野山や大阪の渋滞路、大阪~奈良間の暗峠などを通行して数値なので、十分にアクセプタブルな燃料消費率であろう。が、内燃のBMWなのだから、堂々のトップランナーというくらい伸びてほしいとも思うところである。
◆メリハリある前後席、人間中心の操作系
居住性は基本的にとても良い。前席、後席ともスペースはたっぷり目だが、前席はコクピット感重視、後席はゆったり感重視と、メリハリがついている。BMWといえば、昔は走りのためには居住区はタイトになってもやむなしという割り切ったパッケージングを持っていたが、高級車市場においてメルセデスベンツ、レクサス、アウディ、ボルボなどと同じレイヤーで、しかも数を出していく必要に駆られている以上、自社の理想ばかりを追っているわけにもいかないのであろう。そのぶん独自性は希薄になったが、高級車としての仕立ては間違いなく向上している。
コモディティ化の波はインテリアデザインにも及んでいる。かつては「てやんでえ、クルマにとって大事なのは質なんだよ。見栄えを飾るのなんざあ日本車やアメ車にやらせておきな」といわんばかりの江戸っ子気質なところがあったのだが、今は見栄えの良さを一生懸命に追求しており、レクサスかと思うようなキッチュデザインになっている。
ただし、スイッチ類の配置や操作系のロジカルな設計はドライブ中に運転以外のことに気を取られないようにするというBMWの安全哲学が濃密に反映されていて使いやすいことこのうえなく、また初めて使う機能も説明書を読まずともほとんど感覚的に使うことができた。人間中心主義のクルマ作りである。
◆インフォメーションは「傑出して賢いコンシェルジュ」
先進安全・運転支援システムは今どきの高級車にふさわしい機能を持つ。万が一の事故のさいに車両の状態や場所を自動で送信したり、急病人発生のさいに手動で救援を呼べるSOSコールをはじめとするテレマティクス、車線維持アシスト、先行車や対向車を検知して配光を変えるアクティブハイビーム、ステレオカメラと5基のレーダーによって歩行者を含め全周警戒する衝突防止装置、前車追従クルーズコントロール等々。
薄暮にアクティブハイビームの判定がちょっと甘くなる傾向があったことと未確認の衝突時の被害軽減以外、どの機能も基本的には安心してドライブできると感じさせるに十分な完成度であった。車線維持アシストはかなり強固であるし、クルーズコントロールの使用時に他車が前に割り込んできたときの判定も素早い。
が、機能面以上に感心させられたのは、注意のアラートを含めたインターフェース。フロントガラス上にヘッドアップディスプレイが備えられているのだが、そこを見ていればカーナビ、電話、オーディオ、エアコンその他の情報の確認や操作がすべて事足りてしまうというくらいであった。
インフォメーションエリア内には全部の情報が常時ギチギチに表示されているわけではない。たとえばステアリング上の電話のスイッチを押せば通話リストや電話帳のセレクションが、オーディオスイッチを操作すればソース選択、曲目リスト、ボリュームなどが、車両情報を触れば平均車速、エンジン回転、実速、燃費…と、ドライバーがこのスイッチを押したときに欲しい情報は何かということをドライバー目線で徹底的に考えて作られたふしがうかがえた。
この手の装備はどのメーカーも作り込みに熱を入れて久しく、そのパターンもある程度決まりきっているように思っていたが、そんな中で傑出して賢いコンシェルジュという印象を与えるとは、人間と機械の関係というものはまだまだいくらでも深堀りする余地があるのだなと、ちょっと感銘を覚えた次第だった。
◆まとめ
523d M SportはプレミアムEセグメントのセダンとしてはとても良くできている。運動性能は良く、室内は広く、運転支援システムも高機能。いつまで続くかはわからないが、今のところはまだ世界一の超高速道路交通国家であるドイツで安全・安心を考えるとこういうクルマになるのだなと思わされるだけのものは持っている。
明確な不満は本当に、乗り心地とステアフィールの悪さくらいのものなのだが、乗り心地と性能の両立をスポーツマインドの根幹としてきたBMWだけに、重大な欠点に見える。筆者は自動車の論評が本業というわけではないうえ、個人的に安グルマフェチということもあって、プレミアムセグメントのクルマにはたまにしか乗らない。が、ブランクがあるだけに旧型3シリーズ M Sportとの落差はことさら大きいものに感じられたのも事実である。固いのに快適、上質というBMWマジックを取り戻してほしい。
もちろんBMWがどんなクルマを作ろうがビジネスは彼らの自由であるし、中国が高級車の一大市場となっている以上、彼らの好みに合わせるのも当然のことかもしれない。だが、プレミアムセグメントにおいては、何台売れるかということ以上に、どんな客が買うかということが重要だ。見てくれさえよければいいという客や、ギューンと加速したり曲がったりすれば満足という客が主体になると、長年のうちにそういうブランドという目で見られるようになる。
ビジネスにとって利益はとてつもなく大事だが、何が利益を生むかというファクターは複雑。2015年に就任したハラルド・クリューガー社長は2020年に退任することが決まっている。次期社長に内定しているオリバー・ツィプセ氏は欧州における電動化への圧力に対応するのが主任務と言われているが、それだけではBMWはらしさを保てないだろう。BMWがどういう喜びを提供するのか、その経営手腕に注目したい。
…と、何だか厳しいことばかりを書いたが、現行5シリーズは技術的な仕立てそのものは本当にハイレベルで、グローバルのみならず日本でもEセグメントの主役級であることに変わりはない。日本におけるライバルはメルセデスベンツ『Eクラス』、アウディ『A6』くらい。日本勢はトヨタの『レクサスGS』、ホンダ『レジェンド』などがこのクラスに相当するが、いずれも登場時期が古く、実際には競合相手たり得ないだろう。
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