「400R」「Z」そして「GT-R」…日産のスペシャリティ・モデルは雪上でもインテリジェントか[後篇]
前回は日産の「インテリジェント スノー ドライブ」で、いわゆる「ブレッド&バター・カー(毎日のように接する車)」の雪上での印象をレポートした。後篇は日産が誇るスポーツ&スペシャリティ・モデルの『スカイライン』『フェアレディZ』『GT-R』について報告する。
◆制御レスポンスの速さを味わうスカイライン
この3モデルは駆動レイアウトや目指すドライバビリティ、得意とする方向性がまったく異なるため、乗った後に思い返してみても甲乙つけがたい、3すくみでもある。
まずFRレイアウトでグランドツアラー的なサルーン、「スカイライン GT タイプP」で定常円旋回を試す。全長4.8mと全幅1.8mをわずかに超えた体躯は欧州Dセグメントより少々大ぶりで、アメリカ市場を鑑みても堂々としたインターミディエイト・サイズといえるが、1440mmという低い全高はなるほど、スカイラインらしいと思わせる。非ハイブリッドの非アテーサE-TSという、300ps・400NmのV6ターボ+7速AT仕様だ。
VDCオンで旋回すると当初は安定しているが、アクセル開度と速度が増せばリアはそこそこ流れ出す。タイヤが流れ出しても、一定以上のアクセル開度でこれ見よがしに駆動力を抜く制御ではなく、ドライバーの踏み込み動作に対してあくまで後から介入してくるフィールで、その効きもあくまで滑らかだ。
ステアリングも舵角に対する応力が安定していて扱いやすい。開発エンジニアによれば、パワーフィールを司る制御プログラムはもちろんだが、制御レスポンスの速さにこだわったとか。ドライバーのミスを叱るかのような「懲罰フィール」ではなく、ある程度は鷹揚に遊ばせつつも質が高く、公道では限界域の前に救ってくれそうな制御は、スカイラインという伝統のドライバーズ・カーに確かにふさわしい。
それでも中心のポールを巻くようにスリップアングルを保ったまま旋回するには、VDCオフの方が、ある程度まではコントロールしやすい。前56:後44というバランスのいい重量配分と、1710kgという今やサルーンとしては軽快な車重もいい。定常円旋回のような低い速度域では、オーバーステアに陥ってもフロントを中心に回る感覚で、安心感は高い。いわば制御という躾も、元のシャシーがもつフィジカルも、ドライバーズ・カーとして最適化されているのだ。
◆「400R」をスラロームで試す
続いては同じくスカイラインだが、さらなるハイパフォーマンスGTである「400R」をスラロームで試した。エンジンはタイプPと同じくVR系の3リットル・V6ツインターボを積むが、405ps/475Nmと、スカイラインとして初めて400psの大台を超えた。だが単なるチューニング違いの安易なハイパワー版ではない。
シリンダースリーブ構造ではなく内壁を鏡面仕上げとしたボアや、水冷インタークーラーを採用するなど、アウトプットだけでなくレスポンスや切れ味をも重視した、中身ごと別物のパワーユニットだ。
実際、低回転域からトルクの立ち上がりが素早いので、静止状態から気持ち強めにアクセルを踏み込めば、トラクションコントロールのおかげで、過度でこそないが後輪が軽くスリップしながら前へ押し出される。これだけのパワーになると雪道では気づかいゼロ、という訳にはいかないようだ。
そしてスラロームに向かってステアリングを切ると、400Rは雑味のない俊敏さでもってノーズをインに向けてくれる。次のパイロンへの切り返し反転も素早く、ミズスマシ的にクイックなハンドリングだ。
操舵コマンドをバイ・ワイヤ、つまり従来式の油圧やステアリングギアボックスといった剛性の変化が必ずある機械的連結ではなく、電気信号に置き換えてアクチュエーターで前輪を操舵するシステムによって、このレスポンスは実現されている。タイヤの舵角と4輪サスペンションを緻密に制御して、クルマの姿勢を最適化することで、ドライバーとの一体感をインテリジェントに創り出しているのだ。
ただ、暖かい日中の気温上昇のため、足元の圧雪路面がグダグダに崩れていて、まるで切れ味鋭い日本刀でキュウリでも切っているような気分だった。それでもゲーム機のような感触にならないで、手元や腰まわりに、タイヤの食いつきと滑り具合を伝えてくるシャシーが、むしろ印象に残った。
◆綱渡り的な感覚を楽しめるフェアレディZ ニスモ
同じく切れ味の鋭さを、片鱗とはいえのぞかせたもう一台は、フェアレディZのニスモ、6速MT仕様だった。ノーマルよりレヴリミットを伸ばして355ps/374Nmにまで磨き上げたパワーユニットは、今やオールド・スクールとなった3.7リットルの自然吸気V6で、雪上で轟かせる低音エキゾーストは、禍々しくもエキサイティングだ。
パワー&トルクの伝達効率の高いクラッチほど、踏力も重くて繋がりも唐突になるのはMT車の常だが、2年前のマイナーチェンジで採用した高効率クラッチは、このセオリーを克服し、日常的な扱い易さを向上させているという。確かに半クラッチも掴みやすく、雪上での発進も神経質というほどではないが、先の400Rより格段にデリケートであることは間違いない。
クラッチにはもうひとつ、「シンクロレブコントロール」という仕掛けがある。シフトダウンのためにクラッチペダルを踏んだ瞬間、3速-2速といった低いギアに合わせてエンジンがフォンと軽く唸りを上げ、トランスミッションの回転数に自動的に合わせてくれる機能だ。もちろん、雪や雨の道でシフトロックを効果的に防ぐ。
同じFRレイアウトでも、先の400Rに比べて1540kgとより軽いZの雪上コーナリングは、より狭い領域で狙ったラインの上をなぞるような旋回感となる。それでもコーナー進入時の挙動が安定し、ドライバーはステアリングとアクセルの操作に集中して、この綱渡り的な感覚をむしろ楽しめるのだ。古典的なFRスポーツカーのスリルの質を、より高めるためのインテリジェント制御といえる。
◆GT-Rの磨き込まれたインテリジェンス
同じコースを走ってみて、スポーツドライビングを志向しつつも、インテリジェンスの質が対照的なまでに異なるのが、「GT-R プレミアム・エディション」だ。
日産がプレミアム・ミッドシップと呼ぶトランスアクスル4WDは、元々理想的な前後重量配分に落ち着いていて、加えてアテーサE-TSが旋回性と駆動力を絶え間なく最適化し続けることは周知の通りだが、その絶大なる効果の前にはもはや降参、といった趣だ。
轍だらけで荒れた雪路面にもかかわらず、「走る・曲がる・止まる」のクオリティが一貫して安定している。喩え話になるが、ギリギリのところで制御してドタバタとかガサガサと遂行している雰囲気が皆無で、逆にむしろ余裕をもって捌いているがゆえ、微妙な閾の領域で、ヌルリとした滑らかさすら覚える。だからドライバーに怖いと思わせる挙動がない。
しかもラリーカーのようにサスペンションのストローク量が豊富で、乗り心地に一種の快適さすらある。よくハンドリングの自在感の高さはオン・ザ・レールなどと評されるが、即興で頭の中に思い描いて自分にしか見えていないレールを、クルマが自然と望んだペースでトレースしてくれる、そんな感覚すらある。
GT-Rは長寿モデルであるとはいえ、その磨き込まれたインテリジェンスは、雪上の限られた速度域であっても、スポーティなドライバーズ・カーとして現時点で望みうる究極体験なのだ。先進的な制御テクノロジーによって日常からスポーツまで、モビリティの質を高めようする日産のラインナップの、ひとつの頂点といえるだろう。
南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。
(レスポンス 南陽一浩)
◆制御レスポンスの速さを味わうスカイライン
この3モデルは駆動レイアウトや目指すドライバビリティ、得意とする方向性がまったく異なるため、乗った後に思い返してみても甲乙つけがたい、3すくみでもある。
まずFRレイアウトでグランドツアラー的なサルーン、「スカイライン GT タイプP」で定常円旋回を試す。全長4.8mと全幅1.8mをわずかに超えた体躯は欧州Dセグメントより少々大ぶりで、アメリカ市場を鑑みても堂々としたインターミディエイト・サイズといえるが、1440mmという低い全高はなるほど、スカイラインらしいと思わせる。非ハイブリッドの非アテーサE-TSという、300ps・400NmのV6ターボ+7速AT仕様だ。
VDCオンで旋回すると当初は安定しているが、アクセル開度と速度が増せばリアはそこそこ流れ出す。タイヤが流れ出しても、一定以上のアクセル開度でこれ見よがしに駆動力を抜く制御ではなく、ドライバーの踏み込み動作に対してあくまで後から介入してくるフィールで、その効きもあくまで滑らかだ。
ステアリングも舵角に対する応力が安定していて扱いやすい。開発エンジニアによれば、パワーフィールを司る制御プログラムはもちろんだが、制御レスポンスの速さにこだわったとか。ドライバーのミスを叱るかのような「懲罰フィール」ではなく、ある程度は鷹揚に遊ばせつつも質が高く、公道では限界域の前に救ってくれそうな制御は、スカイラインという伝統のドライバーズ・カーに確かにふさわしい。
それでも中心のポールを巻くようにスリップアングルを保ったまま旋回するには、VDCオフの方が、ある程度まではコントロールしやすい。前56:後44というバランスのいい重量配分と、1710kgという今やサルーンとしては軽快な車重もいい。定常円旋回のような低い速度域では、オーバーステアに陥ってもフロントを中心に回る感覚で、安心感は高い。いわば制御という躾も、元のシャシーがもつフィジカルも、ドライバーズ・カーとして最適化されているのだ。
◆「400R」をスラロームで試す
続いては同じくスカイラインだが、さらなるハイパフォーマンスGTである「400R」をスラロームで試した。エンジンはタイプPと同じくVR系の3リットル・V6ツインターボを積むが、405ps/475Nmと、スカイラインとして初めて400psの大台を超えた。だが単なるチューニング違いの安易なハイパワー版ではない。
シリンダースリーブ構造ではなく内壁を鏡面仕上げとしたボアや、水冷インタークーラーを採用するなど、アウトプットだけでなくレスポンスや切れ味をも重視した、中身ごと別物のパワーユニットだ。
実際、低回転域からトルクの立ち上がりが素早いので、静止状態から気持ち強めにアクセルを踏み込めば、トラクションコントロールのおかげで、過度でこそないが後輪が軽くスリップしながら前へ押し出される。これだけのパワーになると雪道では気づかいゼロ、という訳にはいかないようだ。
そしてスラロームに向かってステアリングを切ると、400Rは雑味のない俊敏さでもってノーズをインに向けてくれる。次のパイロンへの切り返し反転も素早く、ミズスマシ的にクイックなハンドリングだ。
操舵コマンドをバイ・ワイヤ、つまり従来式の油圧やステアリングギアボックスといった剛性の変化が必ずある機械的連結ではなく、電気信号に置き換えてアクチュエーターで前輪を操舵するシステムによって、このレスポンスは実現されている。タイヤの舵角と4輪サスペンションを緻密に制御して、クルマの姿勢を最適化することで、ドライバーとの一体感をインテリジェントに創り出しているのだ。
ただ、暖かい日中の気温上昇のため、足元の圧雪路面がグダグダに崩れていて、まるで切れ味鋭い日本刀でキュウリでも切っているような気分だった。それでもゲーム機のような感触にならないで、手元や腰まわりに、タイヤの食いつきと滑り具合を伝えてくるシャシーが、むしろ印象に残った。
◆綱渡り的な感覚を楽しめるフェアレディZ ニスモ
同じく切れ味の鋭さを、片鱗とはいえのぞかせたもう一台は、フェアレディZのニスモ、6速MT仕様だった。ノーマルよりレヴリミットを伸ばして355ps/374Nmにまで磨き上げたパワーユニットは、今やオールド・スクールとなった3.7リットルの自然吸気V6で、雪上で轟かせる低音エキゾーストは、禍々しくもエキサイティングだ。
パワー&トルクの伝達効率の高いクラッチほど、踏力も重くて繋がりも唐突になるのはMT車の常だが、2年前のマイナーチェンジで採用した高効率クラッチは、このセオリーを克服し、日常的な扱い易さを向上させているという。確かに半クラッチも掴みやすく、雪上での発進も神経質というほどではないが、先の400Rより格段にデリケートであることは間違いない。
クラッチにはもうひとつ、「シンクロレブコントロール」という仕掛けがある。シフトダウンのためにクラッチペダルを踏んだ瞬間、3速-2速といった低いギアに合わせてエンジンがフォンと軽く唸りを上げ、トランスミッションの回転数に自動的に合わせてくれる機能だ。もちろん、雪や雨の道でシフトロックを効果的に防ぐ。
同じFRレイアウトでも、先の400Rに比べて1540kgとより軽いZの雪上コーナリングは、より狭い領域で狙ったラインの上をなぞるような旋回感となる。それでもコーナー進入時の挙動が安定し、ドライバーはステアリングとアクセルの操作に集中して、この綱渡り的な感覚をむしろ楽しめるのだ。古典的なFRスポーツカーのスリルの質を、より高めるためのインテリジェント制御といえる。
◆GT-Rの磨き込まれたインテリジェンス
同じコースを走ってみて、スポーツドライビングを志向しつつも、インテリジェンスの質が対照的なまでに異なるのが、「GT-R プレミアム・エディション」だ。
日産がプレミアム・ミッドシップと呼ぶトランスアクスル4WDは、元々理想的な前後重量配分に落ち着いていて、加えてアテーサE-TSが旋回性と駆動力を絶え間なく最適化し続けることは周知の通りだが、その絶大なる効果の前にはもはや降参、といった趣だ。
轍だらけで荒れた雪路面にもかかわらず、「走る・曲がる・止まる」のクオリティが一貫して安定している。喩え話になるが、ギリギリのところで制御してドタバタとかガサガサと遂行している雰囲気が皆無で、逆にむしろ余裕をもって捌いているがゆえ、微妙な閾の領域で、ヌルリとした滑らかさすら覚える。だからドライバーに怖いと思わせる挙動がない。
しかもラリーカーのようにサスペンションのストローク量が豊富で、乗り心地に一種の快適さすらある。よくハンドリングの自在感の高さはオン・ザ・レールなどと評されるが、即興で頭の中に思い描いて自分にしか見えていないレールを、クルマが自然と望んだペースでトレースしてくれる、そんな感覚すらある。
GT-Rは長寿モデルであるとはいえ、その磨き込まれたインテリジェンスは、雪上の限られた速度域であっても、スポーティなドライバーズ・カーとして現時点で望みうる究極体験なのだ。先進的な制御テクノロジーによって日常からスポーツまで、モビリティの質を高めようする日産のラインナップの、ひとつの頂点といえるだろう。
南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。
(レスポンス 南陽一浩)
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