トヨタ スープラ 新型試乗 わずか1年で47psアップ、その完成度は圧倒的に高まった…大谷達也
発売からわずか1年で「RZ」に積まれる3.0リッター直6エンジンの最高出力が実に47psも引き上げられたことは、初期型『スープラ』をすでに手に入れたオーナーの胸をさぞかしざわつかせているはず。
そんな皆さんには残酷かもしれないが、改良型の印象をひとことで申し上げるならば「格段に熟成されてスポーツカーとしての完成度が圧倒的に高まった」となる。
◆初期型が340psに抑えざるを得なかった理由
まずはパワーアップの手法を紹介しよう。改良型の最大トルクは500Nmで初期型と同じ。ただし、その発生回転が従来の1600~4500rpmから1800~5000rpmへシフトしたことで最高出力の発生回転数も高まり、結果として47psの上乗せが可能になった。
実は、初期型では冷却の都合で最高出力を340psに抑えざるを得なかったという。そこで放熱性を高めるため、これまでヘッドと一体型にされていたエグゾーストマニフォールドを別体型に改めて熱的な余裕を持たせ、パワーアップを実現したのである。
そもそも、エグゾーストマニフォールドをヘッド内蔵型としたのはヨーロッパで施行されている最新の排ガス規制をクリアするのが目的。しかし、規制が比較的緩い日本(と北米)ではその必要がないため、熱的に余裕がある別体型排気系をわざわざBMWに依頼して開発したという。つまり、日本と北米のスープラ・ファンが「いまだけ」手に入れられる、実に贅沢なスペックが387ps版のストレート6なのである。
このパワーアップに対応する形でエンジンルーム内にブレースを追加してボディ剛性を向上させているが、実際に改良型に試乗してみると、フロントセクションだけでなくボディ全体がシャキッとして質感が高まったように感じられる。
この点をエンジニアに確認したところ、「(マグナ・シュタイヤー社のグラーツ工場で)生産を始めてから1年が経過したことで、現場スタッフの習熟度が向上してクォリティや剛性が高まったため」との回答を得た。改良型では、この新しいボディにあわせて前後バンプストップラバーやリアダンパーのチューニングもやり直されている。
◆ボディ、足回り、ステアリングの感触…すべてが生まれ変わった
では、その効果はどのようなものだったのか?
路面が微妙に湿ったワインディングロードを攻めると、コーナー出口のスロットルオンでリアがアウトに流れた。しかし、滑り出しもスムーズならグリップが回復する過程も漸進的で安心感が強く、扱い易い。RZに標準装備されるアクティブ・ディファレンシャルギアはその制御がやや荒く、滑り始めるのも唐突ならグリップを取り戻すのも急で姿勢がギクシャクしがちだったが、改良型ではそれがまったくなくなっていた。
聞けば、従来はわかりやすさを重視してオン/オフに近い制御としていたものを、新型ではアナログ的にロックされるようにプログラムを書き換えたそうだ。
しかし、それだけではない。ただアクティブ・ディファレンシャルギアの制御が緻密になっただけでなく、足回りの動きも、ステアリングの感触も、さらにいえばエンジンの反応でさえ、すべてが滑らかで思いのままに操作できる。おかげで強い一体感が味わえるスポーツカーに、スープラは生まれ変わっていたのだ。
そうした開発の成果として、ロードホールディングの向上が挙げられる。これは前述した前後バンプストップラバーやリアダンパーの設定を見直した恩恵だが、実際にはダンパーの減衰力がいくぶん高められているのに、むしろ乗り心地は快適に感じられるのだ。これも足回り全体の熟成度を重視したチューニングならではの効果といえる。
◆最新のスープラRZは“ビンテージもの”といっても過言ではない
私は今回の改良の陰に、ひとりのテストドライバーの存在を色濃く感じていた。そしてトヨタの技術者たちもその事実をすんなりと認めた。
「開発の方向性についてはトヨタが示します。その後、私たちとトヨタモーターヨーロッパ在籍のテストドライバーであるヘルヴィッヒ・ダーネンス、そしてBMWの技術者が一緒になって開発を行ない、設計に落とし込んでいきます」
こうした過程でダーネンスがドライバーの立場から各部の味付けを決めていくからこそ、コーナーへの進入からコーナリング、さらにコーナーの脱出という各プロセスがひと筆書きのように滑らかに連なったクルマが仕上がったのだと思う。
考えてみれば、スープラに近いサイズ感のフロントエンジン・スポーツカーは世界的に見ても類例がほとんどない。このコンパクトさに、熟成された懐の深いハンドリングとドライブトレインを備えた改良型スープラは実に魅力的な存在といえる。
個人的にはスタイリングがもっとシンプルになればより嬉しいが、日本と北米のエミッション規制がいつ改正されるかわからない現在、最新のスープラRZは“ビンテージもの”といっても過言ではない価値を備えたスポーツカーといえるだろう。
■5つ星評価
パッケージング:★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★
大谷達也|自動車ライター
元電気系エンジニアという経歴を持つせいか、最近は次世代エコカーとスーパースポーツカーという両極端なクルマを取材す ることが多い。いっぽうで「正確な知識に基づき、難しい話を平易な言葉で説明する」が執筆活動のテーマでもある。以前はCAR GRAPHIC編集部に20年間勤務し、副編集長を務めた。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本モータースポーツ記者会会長。
(レスポンス 大谷達也)
そんな皆さんには残酷かもしれないが、改良型の印象をひとことで申し上げるならば「格段に熟成されてスポーツカーとしての完成度が圧倒的に高まった」となる。
◆初期型が340psに抑えざるを得なかった理由
まずはパワーアップの手法を紹介しよう。改良型の最大トルクは500Nmで初期型と同じ。ただし、その発生回転が従来の1600~4500rpmから1800~5000rpmへシフトしたことで最高出力の発生回転数も高まり、結果として47psの上乗せが可能になった。
実は、初期型では冷却の都合で最高出力を340psに抑えざるを得なかったという。そこで放熱性を高めるため、これまでヘッドと一体型にされていたエグゾーストマニフォールドを別体型に改めて熱的な余裕を持たせ、パワーアップを実現したのである。
そもそも、エグゾーストマニフォールドをヘッド内蔵型としたのはヨーロッパで施行されている最新の排ガス規制をクリアするのが目的。しかし、規制が比較的緩い日本(と北米)ではその必要がないため、熱的に余裕がある別体型排気系をわざわざBMWに依頼して開発したという。つまり、日本と北米のスープラ・ファンが「いまだけ」手に入れられる、実に贅沢なスペックが387ps版のストレート6なのである。
このパワーアップに対応する形でエンジンルーム内にブレースを追加してボディ剛性を向上させているが、実際に改良型に試乗してみると、フロントセクションだけでなくボディ全体がシャキッとして質感が高まったように感じられる。
この点をエンジニアに確認したところ、「(マグナ・シュタイヤー社のグラーツ工場で)生産を始めてから1年が経過したことで、現場スタッフの習熟度が向上してクォリティや剛性が高まったため」との回答を得た。改良型では、この新しいボディにあわせて前後バンプストップラバーやリアダンパーのチューニングもやり直されている。
◆ボディ、足回り、ステアリングの感触…すべてが生まれ変わった
では、その効果はどのようなものだったのか?
路面が微妙に湿ったワインディングロードを攻めると、コーナー出口のスロットルオンでリアがアウトに流れた。しかし、滑り出しもスムーズならグリップが回復する過程も漸進的で安心感が強く、扱い易い。RZに標準装備されるアクティブ・ディファレンシャルギアはその制御がやや荒く、滑り始めるのも唐突ならグリップを取り戻すのも急で姿勢がギクシャクしがちだったが、改良型ではそれがまったくなくなっていた。
聞けば、従来はわかりやすさを重視してオン/オフに近い制御としていたものを、新型ではアナログ的にロックされるようにプログラムを書き換えたそうだ。
しかし、それだけではない。ただアクティブ・ディファレンシャルギアの制御が緻密になっただけでなく、足回りの動きも、ステアリングの感触も、さらにいえばエンジンの反応でさえ、すべてが滑らかで思いのままに操作できる。おかげで強い一体感が味わえるスポーツカーに、スープラは生まれ変わっていたのだ。
そうした開発の成果として、ロードホールディングの向上が挙げられる。これは前述した前後バンプストップラバーやリアダンパーの設定を見直した恩恵だが、実際にはダンパーの減衰力がいくぶん高められているのに、むしろ乗り心地は快適に感じられるのだ。これも足回り全体の熟成度を重視したチューニングならではの効果といえる。
◆最新のスープラRZは“ビンテージもの”といっても過言ではない
私は今回の改良の陰に、ひとりのテストドライバーの存在を色濃く感じていた。そしてトヨタの技術者たちもその事実をすんなりと認めた。
「開発の方向性についてはトヨタが示します。その後、私たちとトヨタモーターヨーロッパ在籍のテストドライバーであるヘルヴィッヒ・ダーネンス、そしてBMWの技術者が一緒になって開発を行ない、設計に落とし込んでいきます」
こうした過程でダーネンスがドライバーの立場から各部の味付けを決めていくからこそ、コーナーへの進入からコーナリング、さらにコーナーの脱出という各プロセスがひと筆書きのように滑らかに連なったクルマが仕上がったのだと思う。
考えてみれば、スープラに近いサイズ感のフロントエンジン・スポーツカーは世界的に見ても類例がほとんどない。このコンパクトさに、熟成された懐の深いハンドリングとドライブトレインを備えた改良型スープラは実に魅力的な存在といえる。
個人的にはスタイリングがもっとシンプルになればより嬉しいが、日本と北米のエミッション規制がいつ改正されるかわからない現在、最新のスープラRZは“ビンテージもの”といっても過言ではない価値を備えたスポーツカーといえるだろう。
■5つ星評価
パッケージング:★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★
大谷達也|自動車ライター
元電気系エンジニアという経歴を持つせいか、最近は次世代エコカーとスーパースポーツカーという両極端なクルマを取材す ることが多い。いっぽうで「正確な知識に基づき、難しい話を平易な言葉で説明する」が執筆活動のテーマでもある。以前はCAR GRAPHIC編集部に20年間勤務し、副編集長を務めた。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本モータースポーツ記者会会長。
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