ボルボ V60 B5 Rデザイン 新型試乗 MHEVに新味、これぞ今どきスポーツワゴンのお手本…南陽一浩
◆老舗のステーションワゴンは地を這うように低い
実車を前にした第一印象は声に出してしまったぐらい、「うわっ低っ」というものだった。配布資料によると全高1435mmという数値は、専用のスポーツサスペンションを装着するがゆえ、「B5インスクリプション」など先に型式認証された仕様のカタログ値より1mm低い。
SUV流行りの昨今、ラゲッジスペースの大きい車は珍しくないが、いかにも荷物を積めそうな車がここまで屋根を見せている、という風情がもはや珍しいのだ。ボルボが『V60』シリーズに新たに追加した、「V60 B5 Rデザイン(R-DESIGN)」のことである。
メルセデスベンツ『Cクラス』やBMW『3シリーズ』にアウディ『A4アバント』といった、ドイツ御三家以外でDセグメント・プレミアムのワゴンというと、ジャガーがスポーツブレイクを『XE』で出さなかった頃から、急に欧州大陸オリエンテッドなジャンルになってきた。
近頃ではプジョー『508SW』が気を吐くぐらいで、登場から時間の経った『マツダ6』やVW『パサート ヴァリアント』は実用車然としていて車高も高い。むしろ『アルテオン』のシューティングブレークが好事家の興味を引いているが、レクサス辺りは市場ボリュームが期待できないのかワゴンの“ワ”の字も漂わない。
そこへ過去にはBTCC(編集注:イギリスツーリングカー選手権)でも鳴らした、ステーションワゴンの老舗ボルボが、限定かつ高性能版のポールスターに続き、140mm少々の地を這うように低いV60のRデザインを登場させたのだから、インパクトと期待値は大きい。
左右の開口部を端に寄せてワイド感を強めたフロントバンパーに、グリルやサイドウィンドウ、ルーフレールはブラックで引き締められ、エッジの効きとカクカクしたボリューム感と伸びやかさが絶妙、そんな外観は素直にカッコいい。外観のみならず、48V MHEVの「B5」という最新のパワーユニットにスポーツシャシーという、これまた初出の組み合わせだ。
◆SUVにないワゴン・ライディングの冴えとは
ドアを開くと、メッシュファブリックとサポート部に本革が奢られるコンビのスポーツシートや、本革シフトレバーにスポーツステアリング、メッシュ仕上げのアルミパネルなど、内装トリムの各部は先行する『XC60』のRデザインに準じる。とはいえシートに身体を滑り込ませると着座位置がやはり低く、センターコンソールを高く感じつつ、いきおい足を前に伸ばす姿勢は、快適ながらも「コクピット」を感じさせる。SUVのアップライトな姿勢と視界も悪くないが、元より心地よさの種類が違うのだ。
箱根のワインディングで、B5パワーユニットの静かで力強く速いキャラクターは、Rデザイン専用のしなやかな足回りによくマッチしていた。ルーフなど上モノのマスはあるはずなのに、荒れた路面のワインディングでもそれを意識させない、雑味のない正確なハンドリングと俊敏なフラットライドが味わえるのだ。
それは、近頃はSUVも随分とスポーティになったとはいえ、物理的にねじ伏せる必要がないというか、SUVでは及ばない上質な動的質感を知らしめるに十分。単なるイージーライドではなく、乗り手に委ねられたコントロール幅の広さが、はっきりあるのだ。これならB5インスクリプションには設定された、オプションのドライブモード選択式可変シャシー、つまりエアサスは要らない。トドメにオプションの19インチホイールにも関わらず、乗り心地も跳ねることなく落ち着いていた。
◆FFのB5 Rデザインか、AWDのPHEVか
ひとつだけ難をいうなら、雨の中でこの日は『XC60 B6 Rデザイン』と同時試乗だったが、よりパワフルだがAWDのあちらでは感じられなかったトラクション抜けが、FFのこちらではコーナーでアクセルを開けた瞬間、たまに起きていた。
無論、48Vシステムのトルクの立ち上がりレスポンスゆえの現象で、滑り続けることはないし、この「コントロールされた危うさ」すら、このスポーティなステーションワゴンの魅力の一部だが、AWDが要るのならV60シリーズではPHEVかV60クロスカントリーへと、河岸を変えざるをえない。だからウィークポイントというよりこれぐらいが正解とも言える。
ドイツ御三家とは方向性の違うスポーツワゴンながら、直球の提案を受け容れられるオーナーが日本にどのぐらいいるか。先行きが楽しみなニューモデルだ。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★★
南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。
実車を前にした第一印象は声に出してしまったぐらい、「うわっ低っ」というものだった。配布資料によると全高1435mmという数値は、専用のスポーツサスペンションを装着するがゆえ、「B5インスクリプション」など先に型式認証された仕様のカタログ値より1mm低い。
SUV流行りの昨今、ラゲッジスペースの大きい車は珍しくないが、いかにも荷物を積めそうな車がここまで屋根を見せている、という風情がもはや珍しいのだ。ボルボが『V60』シリーズに新たに追加した、「V60 B5 Rデザイン(R-DESIGN)」のことである。
メルセデスベンツ『Cクラス』やBMW『3シリーズ』にアウディ『A4アバント』といった、ドイツ御三家以外でDセグメント・プレミアムのワゴンというと、ジャガーがスポーツブレイクを『XE』で出さなかった頃から、急に欧州大陸オリエンテッドなジャンルになってきた。
近頃ではプジョー『508SW』が気を吐くぐらいで、登場から時間の経った『マツダ6』やVW『パサート ヴァリアント』は実用車然としていて車高も高い。むしろ『アルテオン』のシューティングブレークが好事家の興味を引いているが、レクサス辺りは市場ボリュームが期待できないのかワゴンの“ワ”の字も漂わない。
そこへ過去にはBTCC(編集注:イギリスツーリングカー選手権)でも鳴らした、ステーションワゴンの老舗ボルボが、限定かつ高性能版のポールスターに続き、140mm少々の地を這うように低いV60のRデザインを登場させたのだから、インパクトと期待値は大きい。
左右の開口部を端に寄せてワイド感を強めたフロントバンパーに、グリルやサイドウィンドウ、ルーフレールはブラックで引き締められ、エッジの効きとカクカクしたボリューム感と伸びやかさが絶妙、そんな外観は素直にカッコいい。外観のみならず、48V MHEVの「B5」という最新のパワーユニットにスポーツシャシーという、これまた初出の組み合わせだ。
◆SUVにないワゴン・ライディングの冴えとは
ドアを開くと、メッシュファブリックとサポート部に本革が奢られるコンビのスポーツシートや、本革シフトレバーにスポーツステアリング、メッシュ仕上げのアルミパネルなど、内装トリムの各部は先行する『XC60』のRデザインに準じる。とはいえシートに身体を滑り込ませると着座位置がやはり低く、センターコンソールを高く感じつつ、いきおい足を前に伸ばす姿勢は、快適ながらも「コクピット」を感じさせる。SUVのアップライトな姿勢と視界も悪くないが、元より心地よさの種類が違うのだ。
箱根のワインディングで、B5パワーユニットの静かで力強く速いキャラクターは、Rデザイン専用のしなやかな足回りによくマッチしていた。ルーフなど上モノのマスはあるはずなのに、荒れた路面のワインディングでもそれを意識させない、雑味のない正確なハンドリングと俊敏なフラットライドが味わえるのだ。
それは、近頃はSUVも随分とスポーティになったとはいえ、物理的にねじ伏せる必要がないというか、SUVでは及ばない上質な動的質感を知らしめるに十分。単なるイージーライドではなく、乗り手に委ねられたコントロール幅の広さが、はっきりあるのだ。これならB5インスクリプションには設定された、オプションのドライブモード選択式可変シャシー、つまりエアサスは要らない。トドメにオプションの19インチホイールにも関わらず、乗り心地も跳ねることなく落ち着いていた。
◆FFのB5 Rデザインか、AWDのPHEVか
ひとつだけ難をいうなら、雨の中でこの日は『XC60 B6 Rデザイン』と同時試乗だったが、よりパワフルだがAWDのあちらでは感じられなかったトラクション抜けが、FFのこちらではコーナーでアクセルを開けた瞬間、たまに起きていた。
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ドイツ御三家とは方向性の違うスポーツワゴンながら、直球の提案を受け容れられるオーナーが日本にどのぐらいいるか。先行きが楽しみなニューモデルだ。
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