スモール&コンパクトSUVの最新解とは?VW Tロック と Tクロス に乗って考えた
◆SUVブームの最新モデルか最後発か
今回試乗したのは、フォルクスワーゲン最新のSUVクロスオーバーである2台。『Tロック(T-Roc)』が欧州Cセグ相当のコンパクト・クラスながらクーペ風デザインという艶ありキャラで、『Tクロス(T-Cross)』がBセグというスモール・クラス担当だ。
究めれば究めるほどSUVも良質のコンパクト&スモールカーに近づいてくるものの、そのメリットは視界が高いとか、トランク容量に余裕があるといった点に収斂される。ところが、それらと引き換えトレードオフにするほど、クロスオーバーSUVの永遠のアンチポッドであるハッチバックに今どき魅力がないのか? そう聞かれたら、まさか!と即答できる。いわば相変わらず世界的に売れているけどSUVブームもそろそろ極大期かな…そう思わせる2台でもあった。
まずTロックの外寸は、全長4270×1825×1590mmと、かなりコンパクト。兄弟モデルでMQBプラットフォームとその他コンポーネントを色々と共有する『ティグアン』が、CセグSUVの標準モデルとして全長4500mmとホイールベース2675mmであることを思えば、Tロックの全長4265mmの『ゴルフ7』に近い。ホイールベースも2590mmと、ゴルフ7の2635mmよりけっこうなショートホイールベースでさえある。
実際、Tロックは乗る前から、設計陣がキビキビ走らせたかったんだろうな、と感じさせる。するとVWのラインナップの中で数年前からディスコン中の、スポーティかつスペシャリティな「+2」のハッチバック・クーぺ『シロッコ』を思い返す。「T」で始まるVWのSUVシリーズは先行するティグアンとイニシャルを揃えたのも理由だろうが、3代目シロッコがデビューする以前のコンセプトカー「IROC」と同じ響きを、「Tロック」の中に認めないはずもない。「トールなIROC」だと思えば俄然、納得がいく。
するとTクロスにも、『クロスポロ』という祖先がいたことが思い出されるし、キャッチコピー通りの「ティーさいクロス」というより「トールなクロス(ポロ)」と捉え直す方がスッキリする。よくいえば2台とも、昔からの顧客を大事にして乗り替えモデルを丁寧に造ってきた。あるいは旧いレシピを焼き直している、そんなところだ。
◆VWらしいコンサバぶりで後席にも配慮
クーペ風を謳うTロックの外観デザインを、エッジが効いていて端正と感じるか、ロジック通りで退屈と感じるか、そこが第一印象での好き嫌い分岐点だろう。個人的には『パサート』に対する『アルテオン』ほどの大胆さを、ティグアンに対するTロックには感じない。VWのアイコンといえる太いCピラーに力点があることは確かだ。ぐっと前倒しになった太いCピラーはしかも、ルーフラインのアーチを縁どりつつ後端にかけて広がったクロームで、より一層強調される。
アウディ『Q3』並に傾斜したリアウインドウも大胆だ。だがリアに向かって絞り足りないリアウィンドウ形状と、ブラックアウトしているが存在感たっぷりのBピラーが、物足りない。VW初というツートンカラーも頑張ってはいるが、総花論的なデザインといえる。この辺りが、例えばシトロエン『C4カクタス』のような引き算式の思い切りとは対照的で、その分、Tロックはリアウィンドウがほぼ全開にまで下げられる。
一方のTクロスは、いつものVWテイストといえる質実剛健ルックだが、クロスポロの頃に比べると全体のプロポーションに対してフロントマスクが大き過ぎるようにも見える。ギアあるいは道具感より、ファニーで親しみある方向へのキャラ変としては、ポロ同様のボディサイドの凝ったプレスラインのキリっとした感じと、アンバランスにも思える。
とはいえデザインはあくまで好き嫌いなので、差し迫った問題ではない。ゴルフ7に近い取り回しでありながらTロックは445リットルにまで荷室容量を拡大しているし(ゴルフは380リットル)、クーペ風とはいえ5ドア・ボディかつ後席の居住性に腐心した造りといえる。Tクロスも後席の前後スライド幅を約140mmも確保するなど、リアの居住性を犠牲にしていない。両方とも試乗車はFFベースのグレードだったため、細部まで見れば見るほどハッチバックと遜色ない使い勝手よさと、パッケージングの巧みさが際立ち、生活車として模範的ですらある。
逆にいえばTロックとTクロスともハッチバック・モデル、つまりゴルフやポロに比べて物足りないのは、インテリアがSUVらしさに欠けるところだ。
◆良質だがエクスペリエンスとして冒険が足りない
センターコンソールごとドライバー側を向いたゴルフ7のコクピット意匠は、開放感狙いではなかった。そういうコンセプトごと異なることを鑑みても、Tロックは高級感・パーソナル感で大きな隔たりがある。Tクロスのダッシュボード周りはポロと全体的には似ていて、エアコン吹き出し口やタッチモニターを縁取るインサートや加飾パネルの形状こそ異なるが、ワイド感あるポロの室内に対してTクロスのダッシュボードの下半分は、どうしても縦方向に間延びして見えてしまう。いずれ両者とも、静的質感で同門のハッチバックに一歩届いていないところがある。
動的質感については、ダンピングが固過ぎるとか、ノーズの重さを意識させることはない。Tロックのハンドリングは弱アンダーは堅持しつつも、切り始めの反応はかなり素直で乗り心地もしなやか。あくまで近頃のVWらしく、ニュートラルに近い初期フィールと、ストローク量豊かな足まわり、そして低中速に優れる2リットルディーゼルのピックアップのよさで、ワインディングでもけっこう元気はいい。
ただTロックのTDIユニットは、アイドリング時からディーゼルであることを隠さない。よくいえば正直なパワーユニットだ。150ps・340Nmのスペックに対する7速DCTのシュンシュンという変速動作の速さ滑らかさも十分だが、エキゾースト音の大きさが旧さも感じさせる。非ドイツ車ブランドの2リットルディーゼルが、英仏そしてディスコンした瑞まで、今や軒並み静粛性や遮音でもハイレベルであるため、尚更だ。
対してTクロスの直3・1リットルターボは、スペックから想像するより軽快で思い切りよく走らせられる。高回転域でのパンチに欠けるところはあるが、中回転域でのフィールはなかなか緻密。Tロックと同じく前後ともよくストロークし、ステアリング舵角に対して適度なロールと追従性の高さで、素直に応じてくれる足まわりだった。
◆FF実用車を究めるとハッチバックで事足りてしまう?
双方とも車としての出来はすこぶるいい。でも吟味していくと、「スポーツ・ユーティリティ・ヴィークル」のユーティリティ部分が突出して、野外でのスポーツに興ずるための車という特別感がけっこう足りないと感じる。
むしろTロックとTクロスの最大のウリは、WE CONNECT およびWE CONNECT PLUSというeSIMによる接続サービスが、それぞれ10年および3年間無償であることだろう。近場のガソリンスタンドの最安値や、駐車場の空きをチェックできる、そんなエッセンシャルな機能が輸入車ながらも使える点は朗報だが、使用前に「同意」は求められる。
要はFFの実用車として究めれば究めるほど、ハッチバックでも事足りるか、効率や環境配慮の点でもベターでは?という自問自答が、頭をもたげてくる。ゴルフ8あるいはEVの『ID.3』や『ID.4』を控えている今だからこそ、なおさらそう感じてしまうのだ。
南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。
今回試乗したのは、フォルクスワーゲン最新のSUVクロスオーバーである2台。『Tロック(T-Roc)』が欧州Cセグ相当のコンパクト・クラスながらクーペ風デザインという艶ありキャラで、『Tクロス(T-Cross)』がBセグというスモール・クラス担当だ。
究めれば究めるほどSUVも良質のコンパクト&スモールカーに近づいてくるものの、そのメリットは視界が高いとか、トランク容量に余裕があるといった点に収斂される。ところが、それらと引き換えトレードオフにするほど、クロスオーバーSUVの永遠のアンチポッドであるハッチバックに今どき魅力がないのか? そう聞かれたら、まさか!と即答できる。いわば相変わらず世界的に売れているけどSUVブームもそろそろ極大期かな…そう思わせる2台でもあった。
まずTロックの外寸は、全長4270×1825×1590mmと、かなりコンパクト。兄弟モデルでMQBプラットフォームとその他コンポーネントを色々と共有する『ティグアン』が、CセグSUVの標準モデルとして全長4500mmとホイールベース2675mmであることを思えば、Tロックの全長4265mmの『ゴルフ7』に近い。ホイールベースも2590mmと、ゴルフ7の2635mmよりけっこうなショートホイールベースでさえある。
実際、Tロックは乗る前から、設計陣がキビキビ走らせたかったんだろうな、と感じさせる。するとVWのラインナップの中で数年前からディスコン中の、スポーティかつスペシャリティな「+2」のハッチバック・クーぺ『シロッコ』を思い返す。「T」で始まるVWのSUVシリーズは先行するティグアンとイニシャルを揃えたのも理由だろうが、3代目シロッコがデビューする以前のコンセプトカー「IROC」と同じ響きを、「Tロック」の中に認めないはずもない。「トールなIROC」だと思えば俄然、納得がいく。
するとTクロスにも、『クロスポロ』という祖先がいたことが思い出されるし、キャッチコピー通りの「ティーさいクロス」というより「トールなクロス(ポロ)」と捉え直す方がスッキリする。よくいえば2台とも、昔からの顧客を大事にして乗り替えモデルを丁寧に造ってきた。あるいは旧いレシピを焼き直している、そんなところだ。
◆VWらしいコンサバぶりで後席にも配慮
クーペ風を謳うTロックの外観デザインを、エッジが効いていて端正と感じるか、ロジック通りで退屈と感じるか、そこが第一印象での好き嫌い分岐点だろう。個人的には『パサート』に対する『アルテオン』ほどの大胆さを、ティグアンに対するTロックには感じない。VWのアイコンといえる太いCピラーに力点があることは確かだ。ぐっと前倒しになった太いCピラーはしかも、ルーフラインのアーチを縁どりつつ後端にかけて広がったクロームで、より一層強調される。
アウディ『Q3』並に傾斜したリアウインドウも大胆だ。だがリアに向かって絞り足りないリアウィンドウ形状と、ブラックアウトしているが存在感たっぷりのBピラーが、物足りない。VW初というツートンカラーも頑張ってはいるが、総花論的なデザインといえる。この辺りが、例えばシトロエン『C4カクタス』のような引き算式の思い切りとは対照的で、その分、Tロックはリアウィンドウがほぼ全開にまで下げられる。
一方のTクロスは、いつものVWテイストといえる質実剛健ルックだが、クロスポロの頃に比べると全体のプロポーションに対してフロントマスクが大き過ぎるようにも見える。ギアあるいは道具感より、ファニーで親しみある方向へのキャラ変としては、ポロ同様のボディサイドの凝ったプレスラインのキリっとした感じと、アンバランスにも思える。
とはいえデザインはあくまで好き嫌いなので、差し迫った問題ではない。ゴルフ7に近い取り回しでありながらTロックは445リットルにまで荷室容量を拡大しているし(ゴルフは380リットル)、クーペ風とはいえ5ドア・ボディかつ後席の居住性に腐心した造りといえる。Tクロスも後席の前後スライド幅を約140mmも確保するなど、リアの居住性を犠牲にしていない。両方とも試乗車はFFベースのグレードだったため、細部まで見れば見るほどハッチバックと遜色ない使い勝手よさと、パッケージングの巧みさが際立ち、生活車として模範的ですらある。
逆にいえばTロックとTクロスともハッチバック・モデル、つまりゴルフやポロに比べて物足りないのは、インテリアがSUVらしさに欠けるところだ。
◆良質だがエクスペリエンスとして冒険が足りない
センターコンソールごとドライバー側を向いたゴルフ7のコクピット意匠は、開放感狙いではなかった。そういうコンセプトごと異なることを鑑みても、Tロックは高級感・パーソナル感で大きな隔たりがある。Tクロスのダッシュボード周りはポロと全体的には似ていて、エアコン吹き出し口やタッチモニターを縁取るインサートや加飾パネルの形状こそ異なるが、ワイド感あるポロの室内に対してTクロスのダッシュボードの下半分は、どうしても縦方向に間延びして見えてしまう。いずれ両者とも、静的質感で同門のハッチバックに一歩届いていないところがある。
動的質感については、ダンピングが固過ぎるとか、ノーズの重さを意識させることはない。Tロックのハンドリングは弱アンダーは堅持しつつも、切り始めの反応はかなり素直で乗り心地もしなやか。あくまで近頃のVWらしく、ニュートラルに近い初期フィールと、ストローク量豊かな足まわり、そして低中速に優れる2リットルディーゼルのピックアップのよさで、ワインディングでもけっこう元気はいい。
ただTロックのTDIユニットは、アイドリング時からディーゼルであることを隠さない。よくいえば正直なパワーユニットだ。150ps・340Nmのスペックに対する7速DCTのシュンシュンという変速動作の速さ滑らかさも十分だが、エキゾースト音の大きさが旧さも感じさせる。非ドイツ車ブランドの2リットルディーゼルが、英仏そしてディスコンした瑞まで、今や軒並み静粛性や遮音でもハイレベルであるため、尚更だ。
対してTクロスの直3・1リットルターボは、スペックから想像するより軽快で思い切りよく走らせられる。高回転域でのパンチに欠けるところはあるが、中回転域でのフィールはなかなか緻密。Tロックと同じく前後ともよくストロークし、ステアリング舵角に対して適度なロールと追従性の高さで、素直に応じてくれる足まわりだった。
◆FF実用車を究めるとハッチバックで事足りてしまう?
双方とも車としての出来はすこぶるいい。でも吟味していくと、「スポーツ・ユーティリティ・ヴィークル」のユーティリティ部分が突出して、野外でのスポーツに興ずるための車という特別感がけっこう足りないと感じる。
むしろTロックとTクロスの最大のウリは、WE CONNECT およびWE CONNECT PLUSというeSIMによる接続サービスが、それぞれ10年および3年間無償であることだろう。近場のガソリンスタンドの最安値や、駐車場の空きをチェックできる、そんなエッセンシャルな機能が輸入車ながらも使える点は朗報だが、使用前に「同意」は求められる。
要はFFの実用車として究めれば究めるほど、ハッチバックでも事足りるか、効率や環境配慮の点でもベターでは?という自問自答が、頭をもたげてくる。ゴルフ8あるいはEVの『ID.3』や『ID.4』を控えている今だからこそ、なおさらそう感じてしまうのだ。
南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。
最新ニュース
-
-
日産のフルサイズSUV『アルマーダ』新型、ベース価格は5.6万ドルに据え置き…12月米国発売へ
2024.11.21
-
-
-
軍用ジープが最新モデルで蘇る…ドアなし&オリーブドラブが渋い「ラングラー ウィリス'41」発表
2024.11.21
-
-
-
EV好調のシトロエン『C3』新型、欧州カーオブザイヤー2025最終選考に
2024.11.21
-
-
-
「めっちゃカッコいい」新型レクサス『ES』のデザインにSNSで反響
2024.11.21
-
-
-
光岡、話題の55周年記念車『M55』を市販化、100台限定で808万5000円
2024.11.21
-
-
-
日本発の「ペダル踏み間違い防止装置」、世界標準へ…国連が基準化
2024.11.21
-
-
-
楽しく学べる「防災ファミリーフェス」を茨城県の全トヨタディーラーが運営する「茨城ワクドキクラブ」が開催
2024.11.21
-
最新ニュース
-
-
日産のフルサイズSUV『アルマーダ』新型、ベース価格は5.6万ドルに据え置き…12月米国発売へ
2024.11.21
-
-
-
軍用ジープが最新モデルで蘇る…ドアなし&オリーブドラブが渋い「ラングラー ウィリス'41」発表
2024.11.21
-
-
-
EV好調のシトロエン『C3』新型、欧州カーオブザイヤー2025最終選考に
2024.11.21
-
-
-
「めっちゃカッコいい」新型レクサス『ES』のデザインにSNSで反響
2024.11.21
-
-
-
光岡、話題の55周年記念車『M55』を市販化、100台限定で808万5000円
2024.11.21
-
-
-
日本発の「ペダル踏み間違い防止装置」、世界標準へ…国連が基準化
2024.11.21
-
MORIZO on the Road