【ヒョンデ ネッソ 新型試乗】12年ぶりの再上陸、300km走ってわかった燃料電池SUVの実力は…会田肇
韓国の現代(ヒョンデ)自動車が12年ぶりに日本に戻ってきた。その第一弾として投入するモデルは、BEV(バッテリー電気自動車)『アイオニック5』と、FCV(燃料電池車)『ネッソ』の2車種。今回は一般公道を300kmほど試乗することができたネッソについてレポートする。
一時はミライを上回る販売台数を記録
ネッソが登場したのは2018年1月、米国ラスベガスで開催された「CES 2018」でのことだ。当時、先行して発売していたトヨタ『ミライ』に続くFCVとして誕生したわけだが、ネッソは車体にグローバルで人気が高いSUVを初めて採用。SUVらしいスペースユーティリティの高さを武器に、環境への優しさ、クルマとしての使い勝手の両面で優位性を訴えた。
韓国ではその年の3月に発売を開始。それから海外にも販売を拡大し、一時はモデル末期となっていたミライを上回る販売台数を記録したこともある。
そのネッソに試乗できたのは、DeNA SOMPO Mobilityが運営するAnyca(エニカ)と呼ばれる個人間シェアリングを利用してのことだ。エニカは本来、個人が所有する車両を融通し合って貸し借りするカーシェアリングサービスだが、自動車会社が所有するディーラー車を有料でシェアするサービスも行っている。
今回、ヒョンデは日本市場へ再参入するにあたり、販売を自社サイト内でのオンラインでのみ扱うとしたが、その試乗を希望するユーザーのためにこのサービスを活用することにしたのだ。DeNA SOMPO Mobilityによれば、ネッソは東京都、神奈川県で、順次20台を配備予定としている。
ネッソは全体に丸味を帯びたデザインで、川の流れから角が取れた丸みのある石=「リバーストーン」から発想を得たという流麗なデザインが特徴。ボディサイズは全長4670mm×全幅1860mm×全高1640mmのミドルサイズSUVだ。空力性能向上のためのエアカーテンやオートフラッシュドアハンドルなどを採用。車体底面をフルアンダーカバーとすることで、SUV特有の大きな前面投影面積にも関わらずCd値0.32を達成している。ヒョンデによれば、これが結果として環境への負荷も低減にもつながっているとする。
航続距離はミライとほぼ同等の820km
今回発表されたネッソは、最高出力95kW(129ps)の燃料電池スタックに156リットル(52.2リットル×3本)の圧縮水素タンクを搭載し、これに最高出力120kW(163ps)と最大トルク395Nmのモーターを組み合わせる。駆動方式はFFだ。水素タンクへの充填は約5分で終了するとし、水素をフル充填した走行可能距離は820km(WLTC)。エアコンの利用などを考慮して少なく見積もって軽く500kmは超えるものと予想される。
運転席に座ると中央にビルトインされたコンソールと、正面の液晶ディスプレイに取り囲まれた造形が先進的な雰囲気を伝えてくる。クルマからのインフォメーションは正面とダッシュボード中央の2カ所に配置されたディスプレイが使われ、中央部の12.3インチディスプレイではエネルギーモニターやBGMとしてのイメージ映像、エアコンの作動状況などが映し出される。
車内はSUVとして十分な広さだ。車格と同等と思われるトヨタ『ハリアー』と比較しても明らかに広い印象で、後席のバックシートも十分な高さがある。SUVらしいゆったりとした乗車ができるはずだ。また、ラゲッジルームの容量はVDA計測で461リットル。ラゲッジルームの床下に3本の水素燃料タンクや駆動用バッテリーを搭載しながら、ここまでのスペースを確保しているのは評価に値する。
内装の質感も十分に高い。手で触れる部分は質感が高くしっとりした感触を伝えてくるし、グレー系でまとめられた内装もプレーンな上品さを感じさせる。シートなどの素材はレザーフリーで、バイオプラスティックなども採用して環境への配慮も忘れてはいない。加えて、ネッソは韓国では左ハンドルであるが、日本市場への導入にあたり、右ハンドル仕様とした上に、ウインカーレバーを右側にするなど、細かくローカライズされている。このあたりは好印象だ。
ただ、中央コンソロールにあるスイッチ類は多めで、それぞれの表示文字も小さく光の当たり具合ではその文字すら見えにくくなる。特にミッションの切り替えスイッチもこの中に一体化されてデザインされているのは違和感がある。機能として明らかに違うものなのだから、もっと区別された別デザインにしても良かったのではないかと思った。また、カーナビ機能も搭載されず、CarPlayやAndoroid Autoを使うことになるのは残念だ。
フラットなトルクとしなやかな足回りで走りは極めて快適
しかし、そのネッソを走らせてみると印象は一転。そうしたマイナスの印象は一瞬にして吹き飛んでしまった。アクセルを軽く踏んだだけでモーター駆動らしい太いトルクで、車重1870kgのボディを軽々と運んでくれたのだ。モーターらしいフラットなトルクにより、どの速度域でも俊敏に反応し、市街地はもちろん、高速道路の流入でも力不足は微塵も感じさせない。この感覚を味わってしまうと電動車から後戻りできなくなってしまう。
乗り心地もすこぶる快適だ。足回りの動きがしなやかで、245/45R19というサイズのタイヤながら路面の凹凸を上手に吸収してしまう。若干、サスペンションがフワついた印象も受けたが、それは軽めのステアリングがそう感じさせるのかも知れない。それでも路面との接地感は十分伝わり、首都高などに多い中速コーナーでも安心して走り切ることができた。
先進安全運転支援(ADAS)の機能も十分なものだった。センシングは単眼カメラとミリ波レーダーの組み合わせで行う一般的なものだが、レーンキーピングではフラつくこともなく自然にアシストし、アダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)での先行車追従では安定した車間制御で走行していた。
運転中のアシストとして感心したのが「ブラインドスポットモニター」だ。一般的にこの機能はミラーにオレンジ色の警告表示が出るのみだが、ネッソではウインカーを出すと同時に、出した側の様子を映像でウインドウ風に表示するのだ。この映像を通して死角をなくそうというわけだ。
そして、自動で駐車できる「リモートスマートパーキングシステム」も試してみた。これは駐車可能なスペースを自動的に検出した後、クルマから降りてスマートキーの作動ボタンで押しながら駐車枠内に自動で収める機能。作動中はリモコン操作で外部からコントロールするので車内はまったくの無人。これで切り返しをしながら自動的に駐車するのだから驚きだ。ただ、何度か試してみたが、周囲の車と接触しないか不安でどうしても操作が遠慮がちになる。このあたりはもっと使いこなす必要があると感じた次第だ。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★
会田 肇|AJAJ会員
1956年・茨城県生まれ。明治大学政経学部卒。大学卒業後、自動車専門誌の編集部に所属し、1986年よりフリーランスとして独立。主としてカーナビゲーションやITS分野で執筆活動を展開し、それに伴い新型車の試乗もこなす。自身の体験を含め、高齢者の視点に立った車両のアドバイスを心掛けていく
一時はミライを上回る販売台数を記録
ネッソが登場したのは2018年1月、米国ラスベガスで開催された「CES 2018」でのことだ。当時、先行して発売していたトヨタ『ミライ』に続くFCVとして誕生したわけだが、ネッソは車体にグローバルで人気が高いSUVを初めて採用。SUVらしいスペースユーティリティの高さを武器に、環境への優しさ、クルマとしての使い勝手の両面で優位性を訴えた。
韓国ではその年の3月に発売を開始。それから海外にも販売を拡大し、一時はモデル末期となっていたミライを上回る販売台数を記録したこともある。
そのネッソに試乗できたのは、DeNA SOMPO Mobilityが運営するAnyca(エニカ)と呼ばれる個人間シェアリングを利用してのことだ。エニカは本来、個人が所有する車両を融通し合って貸し借りするカーシェアリングサービスだが、自動車会社が所有するディーラー車を有料でシェアするサービスも行っている。
今回、ヒョンデは日本市場へ再参入するにあたり、販売を自社サイト内でのオンラインでのみ扱うとしたが、その試乗を希望するユーザーのためにこのサービスを活用することにしたのだ。DeNA SOMPO Mobilityによれば、ネッソは東京都、神奈川県で、順次20台を配備予定としている。
ネッソは全体に丸味を帯びたデザインで、川の流れから角が取れた丸みのある石=「リバーストーン」から発想を得たという流麗なデザインが特徴。ボディサイズは全長4670mm×全幅1860mm×全高1640mmのミドルサイズSUVだ。空力性能向上のためのエアカーテンやオートフラッシュドアハンドルなどを採用。車体底面をフルアンダーカバーとすることで、SUV特有の大きな前面投影面積にも関わらずCd値0.32を達成している。ヒョンデによれば、これが結果として環境への負荷も低減にもつながっているとする。
航続距離はミライとほぼ同等の820km
今回発表されたネッソは、最高出力95kW(129ps)の燃料電池スタックに156リットル(52.2リットル×3本)の圧縮水素タンクを搭載し、これに最高出力120kW(163ps)と最大トルク395Nmのモーターを組み合わせる。駆動方式はFFだ。水素タンクへの充填は約5分で終了するとし、水素をフル充填した走行可能距離は820km(WLTC)。エアコンの利用などを考慮して少なく見積もって軽く500kmは超えるものと予想される。
運転席に座ると中央にビルトインされたコンソールと、正面の液晶ディスプレイに取り囲まれた造形が先進的な雰囲気を伝えてくる。クルマからのインフォメーションは正面とダッシュボード中央の2カ所に配置されたディスプレイが使われ、中央部の12.3インチディスプレイではエネルギーモニターやBGMとしてのイメージ映像、エアコンの作動状況などが映し出される。
車内はSUVとして十分な広さだ。車格と同等と思われるトヨタ『ハリアー』と比較しても明らかに広い印象で、後席のバックシートも十分な高さがある。SUVらしいゆったりとした乗車ができるはずだ。また、ラゲッジルームの容量はVDA計測で461リットル。ラゲッジルームの床下に3本の水素燃料タンクや駆動用バッテリーを搭載しながら、ここまでのスペースを確保しているのは評価に値する。
内装の質感も十分に高い。手で触れる部分は質感が高くしっとりした感触を伝えてくるし、グレー系でまとめられた内装もプレーンな上品さを感じさせる。シートなどの素材はレザーフリーで、バイオプラスティックなども採用して環境への配慮も忘れてはいない。加えて、ネッソは韓国では左ハンドルであるが、日本市場への導入にあたり、右ハンドル仕様とした上に、ウインカーレバーを右側にするなど、細かくローカライズされている。このあたりは好印象だ。
ただ、中央コンソロールにあるスイッチ類は多めで、それぞれの表示文字も小さく光の当たり具合ではその文字すら見えにくくなる。特にミッションの切り替えスイッチもこの中に一体化されてデザインされているのは違和感がある。機能として明らかに違うものなのだから、もっと区別された別デザインにしても良かったのではないかと思った。また、カーナビ機能も搭載されず、CarPlayやAndoroid Autoを使うことになるのは残念だ。
フラットなトルクとしなやかな足回りで走りは極めて快適
しかし、そのネッソを走らせてみると印象は一転。そうしたマイナスの印象は一瞬にして吹き飛んでしまった。アクセルを軽く踏んだだけでモーター駆動らしい太いトルクで、車重1870kgのボディを軽々と運んでくれたのだ。モーターらしいフラットなトルクにより、どの速度域でも俊敏に反応し、市街地はもちろん、高速道路の流入でも力不足は微塵も感じさせない。この感覚を味わってしまうと電動車から後戻りできなくなってしまう。
乗り心地もすこぶる快適だ。足回りの動きがしなやかで、245/45R19というサイズのタイヤながら路面の凹凸を上手に吸収してしまう。若干、サスペンションがフワついた印象も受けたが、それは軽めのステアリングがそう感じさせるのかも知れない。それでも路面との接地感は十分伝わり、首都高などに多い中速コーナーでも安心して走り切ることができた。
先進安全運転支援(ADAS)の機能も十分なものだった。センシングは単眼カメラとミリ波レーダーの組み合わせで行う一般的なものだが、レーンキーピングではフラつくこともなく自然にアシストし、アダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)での先行車追従では安定した車間制御で走行していた。
運転中のアシストとして感心したのが「ブラインドスポットモニター」だ。一般的にこの機能はミラーにオレンジ色の警告表示が出るのみだが、ネッソではウインカーを出すと同時に、出した側の様子を映像でウインドウ風に表示するのだ。この映像を通して死角をなくそうというわけだ。
そして、自動で駐車できる「リモートスマートパーキングシステム」も試してみた。これは駐車可能なスペースを自動的に検出した後、クルマから降りてスマートキーの作動ボタンで押しながら駐車枠内に自動で収める機能。作動中はリモコン操作で外部からコントロールするので車内はまったくの無人。これで切り返しをしながら自動的に駐車するのだから驚きだ。ただ、何度か試してみたが、周囲の車と接触しないか不安でどうしても操作が遠慮がちになる。このあたりはもっと使いこなす必要があると感じた次第だ。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★
会田 肇|AJAJ会員
1956年・茨城県生まれ。明治大学政経学部卒。大学卒業後、自動車専門誌の編集部に所属し、1986年よりフリーランスとして独立。主としてカーナビゲーションやITS分野で執筆活動を展開し、それに伴い新型車の試乗もこなす。自身の体験を含め、高齢者の視点に立った車両のアドバイスを心掛けていく
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