【シトロエン C5 X 新型試乗】無類の快適さと、それを実現するための犠牲…中村孝仁
シトロエンにはかつて世の中を驚愕させた『DS』という名車があった。ところがそのDSはひとつのブランドに昇華して、生みの親のシトロエンがその名を使えなくなってしまった。
新たなシトロエンのフラッグシップを作り出すにあたり、シトロエンが持ち出した過去の栄光は『CX』であった。DSの後継モデルである。名前もかつてのフラッグシップ『C5』の後ろにXをつけて、何となく無理やりCXとの関係性を構築したようにも感じてしまったが、発表会の場で色々な話を聞くと、このクルマに込めたシトロエンの思いと拘りは尋常なものではなく、正直乗るのが待ち遠しかったクルマである。
そして発表からわずか2日後にその願いが叶った。
抜群の乗り心地と、スタイルへのこだわり
シトロエンには昔から二つのこだわりがあるように感じている。その一つが代名詞ともなっている抜群の乗り心地だ。ハイドロニューマチックに始まりハイドラクティブの時代は2015年で終焉を迎え、以後シトロエンの足から独自性が消える。しかし、その3年後には早くもハイドロに代わる新た仕組みを世に問うた。それが「プログレッシブ・ハイドローリック・クッション」(以後PHCと書く)である。
ただ、デビューしたてのPHCは、やはりスフィアを使ったハイドロ系の再来というにはほど遠い乗り味だった。だから、サスペンションだけでそれを解決するのではなくシートにも拘りのクッションを奢っていた。
もう一つのこだわりはスタイルである。DS、CXを見るまでもなく非常に個性的である。CXしかり。『SM』しかり。そして大衆車レベルの『GS』しかりであった。DSやSMは前後トレッドの差が異様に大きく、狭い路地などフロントさえ通れば後ろは目をつぶっても通れるほどの極端な差があった。
この二つのこだわりに新しい『C5 X』が応えているかというと、究極のシトロエンに対する評価の厳しい私的には前者は応えていても後者はやはり違うかな?というのが素直な印象である。もっとも当時と今とではデザイン・ランゲージとでも言おうか、まあ簡単にいえば言語が違う。人が使う言葉も時代とともに変化し(良し悪しは別に)、デザインの言語も変わる。だから、今を生きる人にとって新しいC5 Xのデザイン・ランゲージはしっくりくるのかもしれない。
そして『C5エアクロス』で使われたPHCについては、ハイドロの後継とは言い難いと書いた記憶がある。しかしあれから3年、徹底した煮詰めを行ったのだろうか、PHCは見事にハイドロ系の後継と呼ぶに相応しい得も言われぬ快適な乗り心地を伴って帰ってきた。
無類の快適さと、それを実現するための犠牲
今回試乗したのはガソリンモデルで、この仕様では単なるPHCだけの設定となるのだが、実はさらに上級のPHEVモデルにはこれに可変ダンパーを装備したアドバンスト・コンフォート・アクティブサスペンションというものを装備する。今回のPHCの出来からして、こいつはさらに期待が大きく今から乗るのが楽しみである。
このクルマの良さはまさにその無類の快適さであるのだが、それを実現するためにはそれなりの犠牲も払っている。一つは運動性能。普通に乗るには何ら支障はなく、ただひたすら快適だ。しかし、急な転舵を入れるとやはりそれなりのロールを伴う。何よりもDセグメントで全長4805×全幅1865×全長1490mmという堂々たるボディに1520kgの重量を持ちながら、履いているタイヤは何と205/55R19である。
19インチは理解できるとして205という太さは今どきこのクラスでは極細である。何と同じかというとBセグメントのルノー『トゥインゴ』のリアタイヤと同じ太さ。いかに細いかは理解できよう。これも太いタイヤによる路面の当たりを回避して路面からの入力を最小限に抑え込もうとしたエンジニアの拘りのように感じる。
そして、スタイルとは別にもう一つ拘っているのが静粛性。室内に入り込む音をまぁ見事なほどに抑え込んでいる。だからとても快適で心地よい。長距離を安楽に走りたいと思ったら、これほどうってつけのクルマはない。
デザイン言語を深く読み解いて理解すれば
一方で要改善点もある。それはトランスミッションの躾である。とりわけ発進と停止手前の行儀の悪さは他が良いだけに少し目に余った。
もう少しデザイン言語を深く読み解いて理解すれば、欲しいクルマの筆頭に躍り出ること間違いなし。過去に4台(現在進行形でもあるが)のシトロエンを乗り継いだ筆者の個人的思考からすれば、そうなるクルマである。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。
新たなシトロエンのフラッグシップを作り出すにあたり、シトロエンが持ち出した過去の栄光は『CX』であった。DSの後継モデルである。名前もかつてのフラッグシップ『C5』の後ろにXをつけて、何となく無理やりCXとの関係性を構築したようにも感じてしまったが、発表会の場で色々な話を聞くと、このクルマに込めたシトロエンの思いと拘りは尋常なものではなく、正直乗るのが待ち遠しかったクルマである。
そして発表からわずか2日後にその願いが叶った。
抜群の乗り心地と、スタイルへのこだわり
シトロエンには昔から二つのこだわりがあるように感じている。その一つが代名詞ともなっている抜群の乗り心地だ。ハイドロニューマチックに始まりハイドラクティブの時代は2015年で終焉を迎え、以後シトロエンの足から独自性が消える。しかし、その3年後には早くもハイドロに代わる新た仕組みを世に問うた。それが「プログレッシブ・ハイドローリック・クッション」(以後PHCと書く)である。
ただ、デビューしたてのPHCは、やはりスフィアを使ったハイドロ系の再来というにはほど遠い乗り味だった。だから、サスペンションだけでそれを解決するのではなくシートにも拘りのクッションを奢っていた。
もう一つのこだわりはスタイルである。DS、CXを見るまでもなく非常に個性的である。CXしかり。『SM』しかり。そして大衆車レベルの『GS』しかりであった。DSやSMは前後トレッドの差が異様に大きく、狭い路地などフロントさえ通れば後ろは目をつぶっても通れるほどの極端な差があった。
この二つのこだわりに新しい『C5 X』が応えているかというと、究極のシトロエンに対する評価の厳しい私的には前者は応えていても後者はやはり違うかな?というのが素直な印象である。もっとも当時と今とではデザイン・ランゲージとでも言おうか、まあ簡単にいえば言語が違う。人が使う言葉も時代とともに変化し(良し悪しは別に)、デザインの言語も変わる。だから、今を生きる人にとって新しいC5 Xのデザイン・ランゲージはしっくりくるのかもしれない。
そして『C5エアクロス』で使われたPHCについては、ハイドロの後継とは言い難いと書いた記憶がある。しかしあれから3年、徹底した煮詰めを行ったのだろうか、PHCは見事にハイドロ系の後継と呼ぶに相応しい得も言われぬ快適な乗り心地を伴って帰ってきた。
無類の快適さと、それを実現するための犠牲
今回試乗したのはガソリンモデルで、この仕様では単なるPHCだけの設定となるのだが、実はさらに上級のPHEVモデルにはこれに可変ダンパーを装備したアドバンスト・コンフォート・アクティブサスペンションというものを装備する。今回のPHCの出来からして、こいつはさらに期待が大きく今から乗るのが楽しみである。
このクルマの良さはまさにその無類の快適さであるのだが、それを実現するためにはそれなりの犠牲も払っている。一つは運動性能。普通に乗るには何ら支障はなく、ただひたすら快適だ。しかし、急な転舵を入れるとやはりそれなりのロールを伴う。何よりもDセグメントで全長4805×全幅1865×全長1490mmという堂々たるボディに1520kgの重量を持ちながら、履いているタイヤは何と205/55R19である。
19インチは理解できるとして205という太さは今どきこのクラスでは極細である。何と同じかというとBセグメントのルノー『トゥインゴ』のリアタイヤと同じ太さ。いかに細いかは理解できよう。これも太いタイヤによる路面の当たりを回避して路面からの入力を最小限に抑え込もうとしたエンジニアの拘りのように感じる。
そして、スタイルとは別にもう一つ拘っているのが静粛性。室内に入り込む音をまぁ見事なほどに抑え込んでいる。だからとても快適で心地よい。長距離を安楽に走りたいと思ったら、これほどうってつけのクルマはない。
デザイン言語を深く読み解いて理解すれば
一方で要改善点もある。それはトランスミッションの躾である。とりわけ発進と停止手前の行儀の悪さは他が良いだけに少し目に余った。
もう少しデザイン言語を深く読み解いて理解すれば、欲しいクルマの筆頭に躍り出ること間違いなし。過去に4台(現在進行形でもあるが)のシトロエンを乗り継いだ筆者の個人的思考からすれば、そうなるクルマである。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。
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