【マツダ CX-60 新型試乗】「XD」は廉価モデルなのか? 素のディーゼル×FRの乗り心地は…片岡英明

  • マツダ CX-60 XD L Package
マツダが総力を上げて開発したラグジュアリーSUVの『CX-60』には4つのパワーユニットが用意されている。もっともバリエーションが多く、後輪駆動の2WDモデルも設定しているのが直列6気筒DOHCの直噴ディーゼルターボを搭載するXDだ。

◆あえて純粋なディーゼルエンジンで勝負
先陣を切ってデビューしたマイルドハイブリッドからモーターを取り除き、リーズナブルな価格設定としたから魅力は大きい。ステアリングを握ったXDのLパッケージは400万円ちょっとの販売価格だが、インテリアの見栄えはいいし、快適装備も充実している。運転席は10ウェイパワーシートで、シートも大ぶりだから体格にかかわらず最適なドライビングポジションを取ることが可能だ。

前席だけでなく後席にもシートヒーターが装備され、冬でも快適なドライブを楽しめる。AC電源があるのも親切だ。後席とラゲッジルームも実用になる広さだから、ファミリーカーとしても最適なチョイスだろう。

排気量3283ccのT3-VPTS型直列6気筒DOHCディーゼルエンジンは、ターボ装着によって実力を高めている。最高出力は170kW(231ps)/4000~4200rpm、最大トルクも5リットルクラスのガソリンエンジンと互角の500Nm(51.0kg-m)/1500~3000rpmだ。トランスミッションは電子制御式トルコンレス8速ATを組み合わせた。

◆SUVの重さを感じさせないパワーとハンドリング
この直列6気筒エンジンは、ガソリンエンジンのように滑らかなパワーフィーリングだ。ターボが黒子に徹しているから、発進時のパンチ力は今一歩と感じてしまう。アクセルを強めに踏み込んでも強烈な加速Gと分厚いトルクを感じさせない。だが、高回転まで気持ちよく回るし、回転を上げるほどにパワーとトルクが湧き出してくる。自然体に見せながら、ドラマチックな演出も忘れていない。ただし、高級感を損なっているのは停止時にアイドリングストップになる「i-Stop」が今一歩の洗練度だったこと。これが惜しい。

ステアリングを握ったのは、後輪駆動の2WDモデルである。鍛えられたプラットフォームと剛性感たっぷりのボディを活かした、スポーティな味わいの走りがCX-60の自慢だ。他のモデルとサスペンションは基本的に同じだが、リアに採用しているマルチリンクに手を加えた。具体的には、リアのスタビライザーを取り去り、アーム部のピロボールをゴムブッシュに変更している。この手直しによって初期モデルで指摘された乗り心地の悪さが影を潜めた。

2WDモデルは、リアから押し出される後輪駆動のよさが分かりやすい。切り込んでいったときの操舵フィールは少し重めだ。が、奥の深いコーナーでも狙ったラインに難なく乗せることができる。Lパッケージなどはタイヤを20インチにサイズアップしているから、連続するコーナーでも優れたグリップ感と安定した走りを披露した。長い6気筒エンジンを積んでいると思わせないほど回頭性がよく、コントローラブルだ。

◆快適性は向上したが、マルチリンク式の欠点も
高速道路では優れた直進安定性を見せている。海沿いの道は強い風が吹き荒れていたが、流されたときの修正もラクだ。突起や目地などを通過したときのガツンとくる不快な突き上げは軽減され、後席に座ったときでも快適性は向上した。

だが、荒れた路面を駆け抜けたときには、やはりリアのマルチリンクの突っ張りを感じる場面がある。路面によっては抑えが甘く、揺れが収まりにくいのだ。もう一歩の精進が必要だが、2WDモデルからはエンジニアの頑張りが伝わってくる。止まる性能も好印象だ。ブレーキはリニアな利き味で、コントロールしやすかった。

◆希少なストレート6の味を確かめてほしい
WLTCモード燃費は19.8km/リットルだ。アップダウンのあるワインディングロードなども走ったが、トータルで18km/リットル台に乗る好燃費をマークしている。1クラス下のSUVの上級グレードと同等の価格ゾーンで、6気筒の上質な走りを楽しめ、上質なインテリアも味わえるのだから魅力は大きいと言えるだろう。

ジャーナリストなどから指摘された粗い乗り心地とラフな挙動は、ご自分が試乗して確かめてほしいが、それとともに今では少数になったストレート6の味も確かめてほしい。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★

片岡英明│モータージャーナリスト
自動車専門誌の編集者を経てフリーのモータージャーナリストに。新車からクラシックカーまで、年代、ジャンルを問わず幅広く執筆を手掛け、EVや燃料電池自動車など、次世代の乗り物に関する造詣も深い。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。

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