【マツダ CX-60 3.3Lディーゼル 新型試乗】あとは走りの上質感が伴えば鬼に金棒…中村孝仁
これによってCX-5とCX-60が世代交代を果たすのかと思いきや、3月と4月の販売では再びCX-5に抜かれてしまった。CX-60の販売は昨年夏に始まって滑り出しの受注状況は極めて良好であり、当初は販売目標を遥かに上回る受注を獲得していた。しかし、各メディアの記事が出回るようになるとその勢いは鈍化した印象である。
筆者もすでに3.3リットルディーゼルのMHEVと、2.5リットルガソリンのPHEV仕様を試乗済み。最も気になったのがあまり褒められない乗り心地と、発進時のギクシャク感で、これらの問題はMHEVでもPHEVでもほぼ同様の印象であった。今回試乗したのは素の3.3リットルの直6ディーゼルエンジン搭載車である。電気の力を借りないモデルだから、少しは違いがあると思ったのだが…。
◆「横揺れ」を防ぐことに注力した
まず結論から言うと乗り心地に関してはやはり特にリアの突き上げ感が大きいことと、バウンスが始まるとなかなか収束しないという、ほぼ電動2車と変わらないモノであった。イメージとしては完全にスポーティー車のそれで、たとえ1cmの段差であろうときちんとインフォメーションとして伝えてくれる。だから常に揺すられている印象が強いのである。
CX-60の開発で、操安のエンジニアである虫谷泰典氏曰く、人間は上下動は吸収できるが横方向の揺れは吸収できない。だから横揺れを防ぐことに注力したそうである。昔からマツダは「Gべクタリング」のように横揺れ対策は熱心であった。でも肝心な縦揺れは虫谷氏のように人間側で吸収できるからということで優先順位を下げたようであるが、どっこいそれが残念ながら「乗り心地が悪い」という評価につながったようだ。
筆者個人の印象では歩いている時はともかく運転中の縦揺れは人間は吸収できないのだと思う。人間は順応性が高いから、許容範囲内であればモノの数時間乗れば最初に感じた乗り心地の悪さなど忘れてしまうものだ。
特に我々のように年がら年中クルマを変えて乗っていると、前に乗ったクルマの乗り心地が良いと、その後に乗るクルマがとても居心地が悪く感じたりするのだが、その差が基本的に小さいものだとものの1時間も乗れば気にならなくなる。しかしCX-60の場合は、日をまたいで乗ってもやはり印象が悪いのだからやはり本当に乗り心地はよくないのだと思う。
◆新トルコンレス8ATの採用は
次に発進時のギクシャク感であるが、これも残念ながら出る。電動車の場合は発進をモーターが司るから、出だしはスムーズだがその後のICEとのやり取りがダメでギクシャク感が出るのだと思っていたが、そうでないところを見るとどうやらトルコンレスの8速ATが悪さをしているようである。
2022年のマツダ技報No.39に新しいトルコンレス8ATの詳細が出ている。このマツダ技報は誰でもダウンロードして読むことができる技術解説書である。それによればやはりトルコンレスを採用した背景には、断続・同期・伝達効率といったトランスミッション機能の劇的な向上を追求して、機械式クラッチ機構を採用したとある。
確かにダイレクト感は増すのだろうが、機械式クラッチを使う限り、微速でのアクセルオンオフに対してはトルクの断続が大きくなってギクシャク感が出てしまうのは想像できたことだと思うのだが、機械がやることは間違いなく人間のそれよりも優秀で、それゆえ採用に踏み切ったのだろう。が、残念ながらどうしてもギクシャク感は残る。ただこれも初期モデルに在りがちな熟成不足に思えてならない。
◆走りの上質感が伴えば鬼に金棒
3.3リットルの直6ディーゼルはパーシャルから踏み込んだ時の気持ちの良さが4発のディーゼルより確実に良い。ただ、MHEVの時にも感じたのだが、エンジンの音は少し大きいように感じる。エンジンルームを除くとデコレーションカバーがサイドにまで回り込んでカプセル化されているのがわかるが、バルクヘッドを通して侵入する透過音は大きめである。ただ、そのスムーズさと力強さは文句なしで、高速のSAから本線への合流などというシーンでは存分にその力強さを発揮してくれる。
考えてみたら、これまで試乗したCX-60は全てAWD、即ち4輪駆動車である。というわけで次はFRの後輪駆動車を試してみようと思う。その伸びやかなスタイルや、内外装の上質さなどは国産ブランドの中では際立って良いと感じるだけに、走りの上質感が伴えば鬼に金棒なのだが…。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。
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