【マツダ CX-8 新型試乗】スモールプラットフォーム群のSUVを残すべき理由…中村孝仁
前回試乗した時は「スマートエディション」のFWDなら300万円台前半で買えるコスパの良さの話をした。あれから3年経って厳しい世相を反映してか、流石に価格はだいぶ上昇し、今回試乗した「25S スポーツアピアランス」の価格は車両本体価格、ソウルレッドクリスタルメタリックの特別塗装色代金の7万7000円を含んで410万9600円となったから、3年間でほぼ100万円価格が上昇したことになる。
勿論グレードが違うから直接比較は出来ないと思うが、それでもこの3年、半導体不足やら物価上昇やら様々な要因があるとは思うけれど、要するにクルマが高くなったことだけは間違いない。
◆スモールプラットフォーム群のSUVを残すべき
そしてこの間にマツダはいわゆるラージプラットフォーム群と称して、縦置きエンジンでRWDという駆動方式を持つ『CX-60』を誕生させている。3年前はこのCX-8が言わばマツダSUVモデルのフラッグシップだったが、今ではその地位をCX-60に譲った形である。
しかも今後このラージプラットフォームにも3列シート仕様が追加される形になるはずだから、果たして今後スモールプラットフォーム群のFWDドライブを持つSUVはどうなるのか少々心配なところもある。今回3年ぶりに試乗してみた結論から言うと、マツダはこのスモールプラットフォーム群のSUVをしばらくは残すべきだと思った。
最大の理由はCX-60(日本のラージプラットフォームモデルは今のところこれだけだが)の完成度がまだ低いレベルにとどまっていることにある。既に3回のリコールが発生していることからも、その完成度に不安があることは顕著だと思うのだが、それに対してスモールプラットフォーム群の完成度の高さは比ぶべくもない。
◆CX-60の乗り味を足して2で割れば
昨年11月の改良は新たなエクステリアデザインの導入や乗り心地の改良などが含まれている。エクステリアで目を引くのがグリルの変更である。CX-8デビュー時に『CX-5』との差別化を図るためかあえて、グリルの意匠を変えていたが、気持ちはわかるが横バーのグリルデザインはどことなく高級感に欠けていた。そこへ行くとCX-5のグリルには高級感が備わっていた。
今回CX-5に近いブロックメッシュパターンのグリルを採用することでCX-5との差別化は希薄になったが、その分高級感の演出は出来ていると思う。このほかにもダイナミックスに貢献するサスペンションの改良やシートの改良などが含まれていて、商品価値は単なる高級感のアップだけでなく、費用対効果を上げる改良も施されている。
マツダにとって常に懸案事項として存在する問題が乗り心地。CX-60も突き上げ感の大きさが非常に気になったが、それから比べたらCX-8の乗り心地は間違いなく良い。もっとも、路面からのコンタクトに対してはソフトなリターンがあるのだけれど、一方で揺れの収束という点では一発でビシッと決めるCX-60に分がある。つまり、CX-60とCX-8の乗り味を足して2で割れば良いものができるのではないかと感じた次第である。
◆CX-5にするかCX-8にするかは悩みどころ
今回はおよそ700kmほど乗ってみた。多い時は食事時を除いてほぼ1日中乗った時もあったが、いわゆる骨盤を立たせて着座姿勢になるように改良が施されたシートのおかげか、疲れ知らずで走ることができたので、改良の効果を実感した。
まあ高速走行が多かったということもあるだろうが、燃費もガソリン車で車重1770kgの割にはなかなか好結果でWLTCの燃費には届かないものの、11.1km/リットルをマークした。燃料タンクも72リットル入りだから、700kmは無給油で走れる距離である(勿論給油はしたけれど)。
2.5リットルの4気筒エンジンは欲を言えばきりがないけれど、必要十分のパフォーマンスを有し、富に遅くなっている交通状況では性能上の不満を感じることはなかった。以前から6ATに対する不満は書いてきたが、それとてせっかく作ったトルコンレス8ATは今のところFWD車に採用される気配もなく、走りの上でもこちらの方がスムーズなのでまあ我慢のしどころだろう。
改めて試乗してみるとやはり全体的にバランスの取れた非常に良いクルマである。CX-5にするかCX-8にするかは悩みどころかもしれないが、どちらも自信をもってお勧めできるクルマである。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。
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