【三菱 デリカミニ 新型試乗】並居る軽スーパーハイトと差別化できているか?…中村孝仁
「デリ丸」というキャラクター人形が妙に人気らしい。それはともかくとして新しい三菱『デリカミニ』は、本来市場でも特異な存在のモデルになるべく生み出されたものと考える。
それがどういう意味かというと、兄貴分ともいえる『デリカD:5』はミニバンの形をしたSUVであり、市場ではワン&オンリーの存在。だからこそコアなユーザーに支えられて今日まで生きながらえてきたわけである。デリカの名は前身のトラックを含めるともう55年の長い歴史を誇り、現在のような車高の高い本格的4WD機構を持ったSUV風ミニバンとなってからすでに30年近くが経過している。つまりそれだけ確かな商品力があるクルマということができる。
そのデリカの名を継承して登場したのがデリカミニである。だから単にスーパーハイトワゴンのライバルと同列に語ってはいけないクルマのはず。それだけ三菱も腰を据えてこのクルマを育てなくてはいけない。
ただ、本家のデリカD:5と比べた時に明確に不都合な部分もある。それはデリカD:5が三菱独自の開発によるモデルで、俗にいう兄弟車の存在がないこと。一方のデリカミニの場合、元々のベースとなるモデル(eKスペース)が存在することで、しかもそれは三菱のみならず、日産からも『ルークス』として投入されている点である。つまり、どうしても開発にはそれなりの制限を受けるということだ。だから、これらのスーパーハイトワゴンとは明確に差別化が図られない限り、存在意義そのものが希薄になる。今回、それをどのようにしたかというと、残念ながら個人的には「本格派とは言えない」レベルにとどまっている気がした。
◆唯一無二の15インチタイヤ装着、キャラ付けは成功
大きな違いとしてはこのクラスとしては唯一無二の15インチタイヤを装着して地上高を引き上げている点。と言っても引き上げた量はわずか10mm。それでも全体の腰高イメージはデザインの為せる業として好感が持てる。そして悪路走破性向上を念頭において、サスペンションの見直しを図り専用のチューニングが施されている点だろう。4WDシステムはいわゆるオンデマンドではないフルタイム式。それにしても軽自動車に15インチタイヤが装備されるとは隔世の感がある。(スズキ・ジムニーは別)
とまあ、メカニズムの面から見るとSUV風ミニバン的なイメージは希薄なのだが、近年クルマ選びの方法も変わってきていて、一番上に来るのはカラーであったりスタイルであったりするわけだから、その二つが機能すればデリカミニの存在意義は保証されるのかもしれない。
デリ丸に代表されるキャラクター付けは成功していると思う。フロントエンドの睨みの効いたデザインは軽らしからぬ力強さが漲り、個人的には好ましかった。サイドに関してもホイールアーチ周りをブラック仕上げとしてそれらしさを演出。リアはごつい(ホントは全然ごつくないのだが)スキッドプレート風デザインが効いている。
外装色については「アッシュグリーンメタリック」と呼ばれる新色が訴求色となっていて、これも現状一番人気となっているからまあ成功している。
インテリアは既存モデルとの差別化がほとんど出来ていない。ダッシュ上のトレイ部分にちょっとしたアクセントが加えられている程度で、特別感はなし。この辺りに「デリカミニらしさ」が出てくれば、尚良しという印象であった。
◆軽自動車のプレミアムセグメント
今回、用意された試乗車は4WDの最上級モデルのみ。本来ならば2WDを用意して14インチ仕様と走りの違いを体感したかったのだがそれは無しであった。それにヒルディセントコントロールやグリップコントロールの出番もなかったから、4WDであってもいわゆる「らしさ」を体感することはできなかったが、ダンパーの特性を初期入力に対して柔らかく仕上げ、悪路に入っても快適さを保つようにしたという足回りのセッティングは敢えて走行してみたラフな道路ではきちっと機能していたように感じられ、全体的な乗り心地も路面からのあたりがソフトで快適であった。
まあ、今のところ差別化できているのは15インチタイヤとそれに伴うダンパーのチューニング変更。それに新色とスタイルということになるが、スーパーハイト系のライバルに対して明確な差別化が図れるかが成功のカギになると思う。とはいうものの試乗車はメーカーおよびディーラーのオプションを含んだ車両価格が294万7560円!車両のみでも223万8500円となるから、こりゃ軽の値段じゃないな…と思ったのも事実。
それでも軽自動車のプレミアムセグメントと考えればそれも致し方なしなのだろうか。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。
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