実はもの凄い技術だけど見た目は「地味」!?…VW最新のBEV『ID.4』のダイナミック性能をテストコースで試してみた
2022年11月に日本での販売を開始したフォルクスワーゲンのBEV『ID.4』。昨年の発売同時期に神奈川県のみなとみらい地区で公道試乗を行なっていたが、今回はクローズドコースで試乗する機会を得た。
走行したのはドライ路面での「ダイナミック評価コース」と、凍結路面(0.1μ)や新雪路面(0.3μ)と同程度の摩擦係数路面で構成された「トラクション評価コース」、そして「回生ブレーキ評価コース」の大きく3つのパートだ。
先の公道試乗で抱いていた筆者のID.4象は「地味派手」。BEVらしさを速さだけで表現しない走行性能は一見すると地味だけど、人に寄り添う乗り味を実現した高度な運転支援システムはどれも派手である、という話だ。
◆ID.4の回頭性能と加減速性能を体感
ところで、日本市場におけるフォルクスワーゲンのBEV導入はID.4が最初ではない。2014年にハッチバックモデルの『ゴルフ』をベースにした『e-Golf』、並びにコンパクトモデルの『up!』をベースにした『e-up!』をBEVとして発表、後に発売も行なっている。
両BEVには数回、日本やドイツの公道で試乗しているがフォルクスワーゲンは当時から、内燃機関に慣れ親しんだ走行性能をBEVでも意図的に踏襲してきた。それはID.4にしても同じ。だから端的に乗りやすい。
今回の試乗舞台はパワートレーンの開発と生産を行なう「GKNドライブラインジャパン」のプルービンググラウンド(栃木県)だ。最初にダイナミック評価コースを走る。右に左に大小さまざまなカーブが連続するコースでは、ID.4の回頭性能と加減速性能を中心に体感する。
試乗したID.4は2022年モデルの「Proローンチエディション」。77kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載し、車体後部に電動駆動モーター(204ps/310Nm)を備え後輪を駆動する。車両重量は2140kg。ちなみに2023年モデルは改良が加えられ、バッテリー容量や電動駆動モータースペックはそのままに「Pro」の場合、AER(充電一回当たりの走行距離)を561→618kmへと57km、「Lite」(170ps/310Nm)で388→435kmへと47km、それぞれ延長させた。
◆2140kgの重量級ボディを意識させないハンドリング
慣熟走行を終えてペースを上げる。前述したように速さを誇張しないとはいえ、そこはBEV。低速域からグッと力強い加速をみせる。試乗モデルのProローンチエディションは、最大トルクの発生回転数がLite ローンチエディションよりも770回転分広い。よって、アクセル全開時における加速度の実感時間が長目だ。なお、この最大トルクと発生回転数域の関係は2023年モデルでも同じ。
カーブ途中で曲率が変化するコースでは微妙なアクセルペダルのコントロールが求められるが、ID.4ではそのペダルストローク量がフォルクスワーゲンの内燃機関モデルよりも若干多い(長い)ことから、横Gに耐えながらの僅かな踏み増し/戻しがやりすい。見た目はこちらも地味ながら、身体を点ではなく面で支えてくれるシートも走りやすさを支えてくれる。
そして良く曲がる。大きくて重いバッテリー(グロス82kWh/走行時の容量77kWh)が床下にあるとはいえ、車両重量2140kgの重量級ボディを意識することなく、軽やかにID.4はカーブをクリアする。こうした特性は速度域を高めてわかるポイントで、先の公道試乗では感じられなかった部分だ。
優れたコーナリング特性を示すBEVは多いが、パワートレーン開発向けに意地悪く(失礼!)アンダーステアやオーバーステアが出やすくレイアウトされたコースでもID.4はあっさりこなす。外から見ればダイナミックさに欠け地味だが、ドライバーは痛快だ。ここは4輪への荷重を上手くコントロールしている現れであり、BEV専用の「MEBプラットフォーム」の真骨頂だ。
ID.4がなぜハンドリング性能に優れるのかを探るべく、ガレージでリフトアップし、空力対策パーツであるアンダーカバーを外してみた。そこでわかったのが、電動駆動モーターが後輪の車軸よりも前寄り、かつ横向きに配置されていること。RR方式と呼ばれることが多いID.4だが、厳密には横置きリヤミッドシップ方式だった。
なるほどバッテリー搭載位置を低くした低重心化に加えて、同じく重量物である電動駆動モーターや補機類を車体中央部に集中させたことで、この回頭性能が得られたわけだ。装着タイヤは前235/50 R20、後255/45 R20と前後で異なるサイズだが、Liteでは前後235/60 R18と同サイズに収まる。
◆トラクション性能を3つのステージでチェック
続くトラクション評価コースでは、3つのテストを行なった。一つ目が10%の登坂路面を使った発進加速テストだ。勾配途中で停止して、新雪路面(摩擦係数0.3μ)相当の滑りやすい路面で坂道発進を行なうのだが、じんわりアクセルを踏み込むとすぐさまトラクションコントロール機能が働き、「ESC」機能との連動で姿勢を乱さず難なく発進する。ちなみに、試乗車であるID.4は市販モデルと同じ夏タイヤを装着。
続いて、車体左側だけ凍結路面と同じ滑りやすさである0.1μ路面にのせて同じく坂道発進する。左後輪タイヤの空転率はすぐに高まるがブレーキLSD機能がそれを補助し、なんとか発進できた。とはいえ、さすがにタイヤの空転抑制機能である「ASR」をオフにすると発進できなかった……。
しかし、BEV(やシリーズ式ハイブリッドなど駆動力を電動駆動モーターが担うモデル)では、内燃機関モデルでは真似できない1万分の1という時間軸(人の眼が行なう瞬きの1000倍の速度)で駆動力制御が行なえるから、結果として滑りやすい路面でもタイヤの摩擦円を超えない限り、安心・安全な走りがアシストされる。そのことを改めて実感した。
トラクション評価コースの2つ目は0.3μ路面での定常円旋回だ。最初はESC機能など運転支援システムをオンにしてコースに入る。後輪駆動モデルの多くは車両挙動安定装置(フォルクスワーゲンではESC)をオンにしていても、タイヤの摩擦円を超過する速度で走行したり、素早くステアリングを切り込んだりすると、過度なオーバーステアやアンダーステアとなり安定して走らせることが難しくなる。
ID.4では、コースイン時の速度コントロールに気をつけていれば、あとはトラクションコントロール機能やブレーキLSD機能、ときに各車輪へのブレーキ制御などを融合させながら、ドライバーは一定のアクセル操作を行いながら、進みたい方向へと浅くステアリングを切っているだけで簡単に定常円旋回がこなせる。
丁寧な運転操作が求められるのは一般的な後輪駆動モデルと同じながら、黒子となる運転支援システムの数々が緻密で、そこにMEBプラットフォームがもつ素性の良さが加わるから、こうした滑りやすい路面でもドキドキしない。
せっかくのテストコース(今回は左回り指定)なので、ESCとASRの機能をともにオフにして走行してみた。すると、ステアリング位置を中立~20度ほど左に切った状態、つまり若干のドリフトアングルを保ったまま安定した定常円旋回が継続して行えた。
しかしESCとASRをオフにしていても、車体に一定の角度がついてくると、スピン抑制機能が介入して駆動力に制限が掛ってしまう。よって、アクセルを踏み込みタイヤを意図的に空転させながら、後輪駆動ならではの深いドリフトアングルを保った派手な走行は許容しない。ここにも徹底した安定志向を垣間見た。
◆後輪駆動でも徹底した安定志向
トラクション評価コースの3つ目は0.3μ路面でのパイロンスラローム。進入速度は25~30km/hだ。運転支援ステムオンのままでは何事も起きず、曲がりたい方向へと少しだけ深くステアリングを切り込めば、あっけないほど簡単にクリアする。
続いてオフにして再トライ。パイロンスラロームのセオリー通り、向き替えにアクセル操作を同調させて瞬間的な後輪の空転を利用すると、車体後部をスッと振りながら右、左とリズミカルに向きを変えて走り切った。ここでもスピンモード陥る予兆をシステムが検知すると、各車輪へブレーキ制御を介入させ、姿勢を安定方向へと引き戻す。
最後の回生ブレーキ評価コースでは、回生ブレーキと油圧ブレーキの連携度合いや、約10km/hを境に回生ブレーキがオフになる走行特性を再確認した。
◆走行シーンを問わない“地味”を実現する技術
ID.4に公道とクローズドコースで試乗したわけだが、フォルクスワーゲンが提唱す一環した安全思想にじっくりと向き合えた。冒頭、「公道試乗では地味派手な印象を抱いた」としたが、それは危険な状態を安全に体験できるクローズドコースでも変わらなかった。
BEVはどれも同クラスの内燃機関車両から30~40%程度、車両重量がかさむ傾向にあり(「ティグアン」1.5リットルモデルとの比較例)、ID.4も1950~2140kgと重め。また、後輪駆動はすっきりとしたハンドリング性能が持ち味ながら、一般的に滑りやすい路面では適切な運転操作を要求する。その点、ID.4は雪道から凍結路面相当の路面μの道であっても何事もなかったかのようにサラリとこなす。だから乗っていても、外から見ていても地味に映る。
けれど、走行シーンを問わない“地味”を実現する技術レベルは高く、MEBプラットフォームに合わせた運転支援システムとのマッチングも信頼性が高かった。
◆カーボンニュートラル社会への答えはひとつではない
このようにフォルクスワーゲンでは、内燃機関や電動機関というパワートレーンに関わらず、人が安心して移動できるのりものを作り続けているわけだが、そもそもIDシリーズから本格化させたBEV戦略はどこからスタートしたのだろうか。
2014年頃からフォルクスワーゲンが声高にするBEV戦略はユニークだ。その一つが車両を動かす際に必要な電力エネルギーの創出方法にある。御存知のように電力エネルギーは同時同量が基本で、大量に蓄えることができない。
よって、日本だけでなく電動車両先進国ではスマートホームを軸にしたスマートグリッド化を目指しているが、こうしたBEVによるV2Hや家庭用蓄電池の活用、さらにはCHP(熱電併給)システムだけでは電力エネルギーを十分に活かすことができないとフォルクスワーゲンは考えてきた。
その是正策としてフォルクスワーゲンでは、グリーン発電のひとつである風力発電で発生した余剰電力を使い、H2O(水)を電気分解しH2(水素)で貯蔵することで、必要なときにH2を発電所に送り電力を生み出すことを提唱している。
さらに、H2にCO2を付加しCH4(メタン)化することで貯蔵する方式も発表。CH4はそのまま天然ガスとしてスタンドで供給するほか、CH4のまま発電所へ送り、必要なときに電力を生み出すことも検討してきた。
こうしたフォルクスワーゲンの過去の取組みは、昨今のブルー/グリーン/グレー水素の考え方とも共通し、各国各社が進める水素社会の模索とも合致する。トヨタが示すマルチパスウェイのように、カーボンニュートラル社会への答えはひとつではない。
最後にフォルクスワーゲンが展開する今後のBEV販売戦略だ。日本市場ではID.4から本格化したが、世界市場ではさらなるBEV拡大路線を進めるとし2023~2026年までに10モデルを投入する。
すでに新型車としてセダンボディの『ID.7』、コンパクトボディの『ID.2 オール』(コンセプト)の存在が公表されたほか、初のMEBプラットフォーム搭載車『ID.3』のマイナーチェンジモデルや、ミニバンボディの『ID.Buzz』への追加モデルとしてロングホイールベース仕様の存在が明らかになった。全部で10モデルだから、このほかに6モデルがある。個人的には、高度運転支援~自動運転システムとして開発が進められている「ガーディアンエンジェル思想」の早期実装にも期待したい。
西村直人|交通コメンテーター
クルマとバイク、ふたつの社会の架け橋となることを目指す。専門分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためにWRカーやF1、さらには2輪界のF1と言われるMotoGPマシンでのサーキット走行をこなしつつ、4&2輪の草レースにも精力的に参戦中。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も積極的に行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席したほか、東京都交通局のバスモニター役も務めた。大型第二種免許/けん引免許/大型二輪免許、2級小型船舶免許所有。日本自動車ジャーナリスト協会(A.J.A.J)理事。2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会・東京二輪車安全運転推進委員会指導員。日本イラストレーション協会(JILLA)監事。
走行したのはドライ路面での「ダイナミック評価コース」と、凍結路面(0.1μ)や新雪路面(0.3μ)と同程度の摩擦係数路面で構成された「トラクション評価コース」、そして「回生ブレーキ評価コース」の大きく3つのパートだ。
先の公道試乗で抱いていた筆者のID.4象は「地味派手」。BEVらしさを速さだけで表現しない走行性能は一見すると地味だけど、人に寄り添う乗り味を実現した高度な運転支援システムはどれも派手である、という話だ。
◆ID.4の回頭性能と加減速性能を体感
ところで、日本市場におけるフォルクスワーゲンのBEV導入はID.4が最初ではない。2014年にハッチバックモデルの『ゴルフ』をベースにした『e-Golf』、並びにコンパクトモデルの『up!』をベースにした『e-up!』をBEVとして発表、後に発売も行なっている。
両BEVには数回、日本やドイツの公道で試乗しているがフォルクスワーゲンは当時から、内燃機関に慣れ親しんだ走行性能をBEVでも意図的に踏襲してきた。それはID.4にしても同じ。だから端的に乗りやすい。
今回の試乗舞台はパワートレーンの開発と生産を行なう「GKNドライブラインジャパン」のプルービンググラウンド(栃木県)だ。最初にダイナミック評価コースを走る。右に左に大小さまざまなカーブが連続するコースでは、ID.4の回頭性能と加減速性能を中心に体感する。
試乗したID.4は2022年モデルの「Proローンチエディション」。77kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載し、車体後部に電動駆動モーター(204ps/310Nm)を備え後輪を駆動する。車両重量は2140kg。ちなみに2023年モデルは改良が加えられ、バッテリー容量や電動駆動モータースペックはそのままに「Pro」の場合、AER(充電一回当たりの走行距離)を561→618kmへと57km、「Lite」(170ps/310Nm)で388→435kmへと47km、それぞれ延長させた。
◆2140kgの重量級ボディを意識させないハンドリング
慣熟走行を終えてペースを上げる。前述したように速さを誇張しないとはいえ、そこはBEV。低速域からグッと力強い加速をみせる。試乗モデルのProローンチエディションは、最大トルクの発生回転数がLite ローンチエディションよりも770回転分広い。よって、アクセル全開時における加速度の実感時間が長目だ。なお、この最大トルクと発生回転数域の関係は2023年モデルでも同じ。
カーブ途中で曲率が変化するコースでは微妙なアクセルペダルのコントロールが求められるが、ID.4ではそのペダルストローク量がフォルクスワーゲンの内燃機関モデルよりも若干多い(長い)ことから、横Gに耐えながらの僅かな踏み増し/戻しがやりすい。見た目はこちらも地味ながら、身体を点ではなく面で支えてくれるシートも走りやすさを支えてくれる。
そして良く曲がる。大きくて重いバッテリー(グロス82kWh/走行時の容量77kWh)が床下にあるとはいえ、車両重量2140kgの重量級ボディを意識することなく、軽やかにID.4はカーブをクリアする。こうした特性は速度域を高めてわかるポイントで、先の公道試乗では感じられなかった部分だ。
優れたコーナリング特性を示すBEVは多いが、パワートレーン開発向けに意地悪く(失礼!)アンダーステアやオーバーステアが出やすくレイアウトされたコースでもID.4はあっさりこなす。外から見ればダイナミックさに欠け地味だが、ドライバーは痛快だ。ここは4輪への荷重を上手くコントロールしている現れであり、BEV専用の「MEBプラットフォーム」の真骨頂だ。
ID.4がなぜハンドリング性能に優れるのかを探るべく、ガレージでリフトアップし、空力対策パーツであるアンダーカバーを外してみた。そこでわかったのが、電動駆動モーターが後輪の車軸よりも前寄り、かつ横向きに配置されていること。RR方式と呼ばれることが多いID.4だが、厳密には横置きリヤミッドシップ方式だった。
なるほどバッテリー搭載位置を低くした低重心化に加えて、同じく重量物である電動駆動モーターや補機類を車体中央部に集中させたことで、この回頭性能が得られたわけだ。装着タイヤは前235/50 R20、後255/45 R20と前後で異なるサイズだが、Liteでは前後235/60 R18と同サイズに収まる。
◆トラクション性能を3つのステージでチェック
続くトラクション評価コースでは、3つのテストを行なった。一つ目が10%の登坂路面を使った発進加速テストだ。勾配途中で停止して、新雪路面(摩擦係数0.3μ)相当の滑りやすい路面で坂道発進を行なうのだが、じんわりアクセルを踏み込むとすぐさまトラクションコントロール機能が働き、「ESC」機能との連動で姿勢を乱さず難なく発進する。ちなみに、試乗車であるID.4は市販モデルと同じ夏タイヤを装着。
続いて、車体左側だけ凍結路面と同じ滑りやすさである0.1μ路面にのせて同じく坂道発進する。左後輪タイヤの空転率はすぐに高まるがブレーキLSD機能がそれを補助し、なんとか発進できた。とはいえ、さすがにタイヤの空転抑制機能である「ASR」をオフにすると発進できなかった……。
しかし、BEV(やシリーズ式ハイブリッドなど駆動力を電動駆動モーターが担うモデル)では、内燃機関モデルでは真似できない1万分の1という時間軸(人の眼が行なう瞬きの1000倍の速度)で駆動力制御が行なえるから、結果として滑りやすい路面でもタイヤの摩擦円を超えない限り、安心・安全な走りがアシストされる。そのことを改めて実感した。
トラクション評価コースの2つ目は0.3μ路面での定常円旋回だ。最初はESC機能など運転支援システムをオンにしてコースに入る。後輪駆動モデルの多くは車両挙動安定装置(フォルクスワーゲンではESC)をオンにしていても、タイヤの摩擦円を超過する速度で走行したり、素早くステアリングを切り込んだりすると、過度なオーバーステアやアンダーステアとなり安定して走らせることが難しくなる。
ID.4では、コースイン時の速度コントロールに気をつけていれば、あとはトラクションコントロール機能やブレーキLSD機能、ときに各車輪へのブレーキ制御などを融合させながら、ドライバーは一定のアクセル操作を行いながら、進みたい方向へと浅くステアリングを切っているだけで簡単に定常円旋回がこなせる。
丁寧な運転操作が求められるのは一般的な後輪駆動モデルと同じながら、黒子となる運転支援システムの数々が緻密で、そこにMEBプラットフォームがもつ素性の良さが加わるから、こうした滑りやすい路面でもドキドキしない。
せっかくのテストコース(今回は左回り指定)なので、ESCとASRの機能をともにオフにして走行してみた。すると、ステアリング位置を中立~20度ほど左に切った状態、つまり若干のドリフトアングルを保ったまま安定した定常円旋回が継続して行えた。
しかしESCとASRをオフにしていても、車体に一定の角度がついてくると、スピン抑制機能が介入して駆動力に制限が掛ってしまう。よって、アクセルを踏み込みタイヤを意図的に空転させながら、後輪駆動ならではの深いドリフトアングルを保った派手な走行は許容しない。ここにも徹底した安定志向を垣間見た。
◆後輪駆動でも徹底した安定志向
トラクション評価コースの3つ目は0.3μ路面でのパイロンスラローム。進入速度は25~30km/hだ。運転支援ステムオンのままでは何事も起きず、曲がりたい方向へと少しだけ深くステアリングを切り込めば、あっけないほど簡単にクリアする。
続いてオフにして再トライ。パイロンスラロームのセオリー通り、向き替えにアクセル操作を同調させて瞬間的な後輪の空転を利用すると、車体後部をスッと振りながら右、左とリズミカルに向きを変えて走り切った。ここでもスピンモード陥る予兆をシステムが検知すると、各車輪へブレーキ制御を介入させ、姿勢を安定方向へと引き戻す。
最後の回生ブレーキ評価コースでは、回生ブレーキと油圧ブレーキの連携度合いや、約10km/hを境に回生ブレーキがオフになる走行特性を再確認した。
◆走行シーンを問わない“地味”を実現する技術
ID.4に公道とクローズドコースで試乗したわけだが、フォルクスワーゲンが提唱す一環した安全思想にじっくりと向き合えた。冒頭、「公道試乗では地味派手な印象を抱いた」としたが、それは危険な状態を安全に体験できるクローズドコースでも変わらなかった。
BEVはどれも同クラスの内燃機関車両から30~40%程度、車両重量がかさむ傾向にあり(「ティグアン」1.5リットルモデルとの比較例)、ID.4も1950~2140kgと重め。また、後輪駆動はすっきりとしたハンドリング性能が持ち味ながら、一般的に滑りやすい路面では適切な運転操作を要求する。その点、ID.4は雪道から凍結路面相当の路面μの道であっても何事もなかったかのようにサラリとこなす。だから乗っていても、外から見ていても地味に映る。
けれど、走行シーンを問わない“地味”を実現する技術レベルは高く、MEBプラットフォームに合わせた運転支援システムとのマッチングも信頼性が高かった。
◆カーボンニュートラル社会への答えはひとつではない
このようにフォルクスワーゲンでは、内燃機関や電動機関というパワートレーンに関わらず、人が安心して移動できるのりものを作り続けているわけだが、そもそもIDシリーズから本格化させたBEV戦略はどこからスタートしたのだろうか。
2014年頃からフォルクスワーゲンが声高にするBEV戦略はユニークだ。その一つが車両を動かす際に必要な電力エネルギーの創出方法にある。御存知のように電力エネルギーは同時同量が基本で、大量に蓄えることができない。
よって、日本だけでなく電動車両先進国ではスマートホームを軸にしたスマートグリッド化を目指しているが、こうしたBEVによるV2Hや家庭用蓄電池の活用、さらにはCHP(熱電併給)システムだけでは電力エネルギーを十分に活かすことができないとフォルクスワーゲンは考えてきた。
その是正策としてフォルクスワーゲンでは、グリーン発電のひとつである風力発電で発生した余剰電力を使い、H2O(水)を電気分解しH2(水素)で貯蔵することで、必要なときにH2を発電所に送り電力を生み出すことを提唱している。
さらに、H2にCO2を付加しCH4(メタン)化することで貯蔵する方式も発表。CH4はそのまま天然ガスとしてスタンドで供給するほか、CH4のまま発電所へ送り、必要なときに電力を生み出すことも検討してきた。
こうしたフォルクスワーゲンの過去の取組みは、昨今のブルー/グリーン/グレー水素の考え方とも共通し、各国各社が進める水素社会の模索とも合致する。トヨタが示すマルチパスウェイのように、カーボンニュートラル社会への答えはひとつではない。
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