ようやく現れたジャストサイズのボルボ『EX30』に先行試乗! 新世代BEVはゲームチェンジャーになりうるか?
「実質400万円台から買えるボルボ」として8月に日本でも発表され話題となった、新型電気自動車(BEV)の『EX30』。販売開始を前に、スペインで試乗が叶った。価格も含め「日本にちょうどいい」ことをアピールするボルボだが、果たしてその実態は。
◆最新のBEVという以前に、世代的パラダイムの違うコンパクトカー
今回試乗した「EX30 シングルモーター エクステンディッドレンジ」は、生産型の最終確認モデルで、インフォテインメントの表示の一部以外はまったく生産型と変わらない仕様だった。
まず純BEVモデルとして、サイズ感が群を抜いていい。具体的には欧州発表値で全長4233×全幅1837×1549mm、日本の認証値は同4235×1835×1550mmで、これまでに無かったちょうど良さではないだろうか。強いて挙げれば、ほんのひと回りだけ小さい『DS 3 クロスバックE-テンス』(現在はカタログ落ち)、あるいは最近ではBYD『ドルフィン』もあるが、前者はICE版と共通ボディでBEV専用設計ではなく、後者は純BEVとはいえ色々な意味で癖ある一台ではある。
いや待てよ、ひと回り小さくて少し背が高いBMW『i3』もあったが、いかんせん約10年前のバッテリー性能や温度管理システムや制御は、最新世代のそれらと比べるべくもない。つまりボルボEX30は、今日から2020年代中葉にかけて、実用的なコンパクトサイズのBEVとして、とてつもなくリアルな存在と映るはずだ。
しかしそれはサイズ感や制御の新しさだけの話ではない。EX30の新しさは、ボルボのような既存の自動車メーカーが、ウェル・トゥ・ウィールを視野に入れリサイクルを前提に、ライフサイクル中のカーボンフットプリントを最大限に減らすことをメインテーマに、プラットフォームからパワートレインに内外装までゼロから設計したら、どうなるかを示したことにある。最新のBEVという以前に、世代的パラダイムの違うコンパクトカーとして捉える必要がある。
◆外観デザイン、サイズ感、そしてインテリアの巧みさ
まず、グリルレスのフロントマスクは決定的にモダンながら、それでもボルボに見えるのは、シンプルで適度に引き締まった面構成でまとめられたエクステリアのおかげ。ライト・シグネイチャーとなるLEDヘッドランプの「T」型ハンマーも効いているが、ボンネット左右の両端とボディサイドが削り込まれることで、従来のボルボ的なショルダーの張り出しを抑えつつ、筋肉質に見せている。ちなみにEX30に用いられるアルミの約25%、スチールとプラスチックの約17%は、リサイクル素材から来ている。
Cd値は0.28と、まずまずだ。グリルレスとはいえバンパーレベルに開口部はあるし、ライト下にスリットも開けられている。EVだからラジエーターは無くていいというのは昔話で、最新のBEVこそバッテリーの冷却ジャケットや駆動モーター周りのオイルクーラーなど、冷媒となる水や油の温度管理を最適化して航続距離を稼ごうとしているものだ。ただ、BEVとして最適化された外観とサイズ感も好印象ながら、静的質感で何より衝撃的なのは、リサイクルを前提にデザインされたインテリアの巧みさだ。
ダッシュボードからシート、コンソールにドアパネルまで、とにかく構成パーツの点数を極端なまでに減らしている。目につく素材、つまり加飾パネルの約30%がリサイクル起源の素材で、残りの部分も再生可能な素材を用いたミニマルな仕上がりだ。にも関わらず、昔からの省エネ改めエコ・デザインにありがちだった貧乏臭さは、一切ない。ひと昔前にドイツ車が牽引した、クロームのインサートを合わせ目に挟んで質感を出す、みたいな手法に一切依存しないがゆえの潔さでもある。
それでもドアオープナーはアルミ製だ。リサイクル素材の見た目や触った時の質感といえば、いかにも安っぽいとか、ゾッとしないものを想像しがちだが、そこはスウェーデンという生活デザイン大国、プレミアムカーにふさわしい質感をEX30は実現している。後で知ったことだが、内装を担当したデザイナーは英国人で以前はベントレーに在籍していたと聞いて、二度びっくりした。
今回のシングルモーター版は「ブリーズ」と呼ばれるトリムを採用。素材の具体例としては、ペットボトルなどのリサイクル素材に北欧のパインツリーのオイルを混ぜ合わせたノルディコという人工皮革めいた素材と、同じくリサイクル素材ながら有機的なパターンを組み合わせ、ざっくりとした織り地を再現したピクセルニットのコンビが、シートに用いられている。またダッシュボード下段やドアサイドに貼られたツブ感のある花崗岩のようなパネルは、窓枠に使われていたPVCを砕いて固めて再利用したものだ。北欧の寒さゆえ、一般に窓枠は2重サッシどころか、3重なのだとか。そしてもうひとつ、北欧起源のリサイクル素材として、漁網からリサイクルされたフロアマットにも注目したい。
◆機能をセンターに集約させた室内レイアウト
EVならではのフラットかつ低床フロア設計で、Bセグ+αの車格から考えると相対的に室内が広々としていることに驚かされる。が、インテリアのキーはもうひとつ、ハーネスやコード類の長さを短くする=使用する素材量を減らすために、インフォテイメントや電動パワーウインドウといった電気を使う操作系が、すべて中央に集められているのだ。それでいてセンターコンソールの軸にはアイデア豊富な収納が多々、充実している。
前席の2名分のスマートフォンを充電できるトレイには、下端側で固定できる柔らかな押さえフックがある。また2分割の蓋カバーに守られたトレイには、USB端子×2に加え、ジーンズから再生されたパッドが敷かれている。ドリンクホルダーはアームレスト内にスライド収納されており、1人分・2人分と引き出し量を変えることも可能だ。
あと後席側のセンターコンソール後端からは、樹脂製のダストボックスが取り外しできるが、補強の成型モールにトナカイや針葉樹、野山があしらわれるなど、可愛らしいディティールもある。格子模様や直線にしなくてもこと足りる部分だ。もちろん後席にも電動パワーウィンドウスイッチやUSB端子が備わるし、シートポケット中央にステッチを切り替えただけで、スマートフォン固定用ミニポケットを設ける辺りも、ホント賢い。
ちなみに車載オーディオはハーマン・カードンで最大1040Wものアンプを備えるが、配線をドアや後席まで這わせることを避けるため、スピーカーはサウンドバーとしてダッシュボードの奥に配置されている。
しかし何よりも室内センターへの機能&操作中枢の集約を感じさせ、コクピットドリルが無かったら面食らっていたであろうもの、それは12.3インチの縦長ディスプレイが、メーターパネル表示もインフォテイメント関連のタッチスクリーン機能も、すべて兼ねていることだ。スクリーン最上部の5分の1が走行状態に関することで、ステアリングコラム右側のレバーを操って選択中のシフトポジションも、ここに示される。最下段は固定バーで、ホームやアプリ選択、ボリュームやエアコン、車両設定、ハザードランプが備わっている。
この車両設定アイコンは頻繁に押す箇所で、左右ドアミラーの調整やワンペダルドライブへの切替も、ここをクリックしてからツータッチとなる。その上はコンテクストによる機能で、例えばリアハッチ開閉などは、車速がごく微低速~停止時にしか現われないが、センターのグーグルの音声認識ボタンは固定だ。さらにその上が音楽や通話といったメディア関連で、中央上寄りでスクリーンの約50%、ほぼ正方形の部分はナビゲーション表示だ。
最上段の走行情報からプライオリティの高い順に並べられているものの、フレームイン強調などによるアクティブな際立たせ方や、各領域ごとに色分けパーソナライズが出来たらいいな、とは思った。とはいえそうしたインターフェイスこそ、OTAによるアップデート対象なのだろうが。
◆後輪駆動の恩恵か、すっきりイージーな走り
肝心の走りは、すこぶる期待にたがわぬものだった。SEA(Sustainable Experience Architectureの略)というBEV専用の新プラットフォームの恩恵は、ヴィークル・ダイナミクスのみならず、前述した部材・素材の少なさやレイアウトの合理性にも表れているが、シングルモーター エクステンディッドレンジは、やがて追加されるツインモーター仕様と同じ69kWhのバッテリー容量を備え、トルク・出力は343Nm・272hp(換算で275ps)となる。
WLTCモードの国内値はストップ&ゴーが多い分、欧州値より伸びやすいため、航続可能距離は500kmオーバーが見込まれ、一方で車両重量は約1800kg強に収まるという。ちなみに日本導入未定のベースモデルのバッテリー容量は、51kWhにとどまり、単純計算で最大レンジは4分の3ほどに限られるだろう。参考までにツインモーターのトルク・出力はフロント側に200Nm・115psが加わり、前後車軸の合算で543Nm・428hp(換算で444ps)とある。最大レンジもエクステンディッド レンジの-5%相当となる。
しかし日常用途のBEVである以上、興味の焦点は極大値的なパフォ―マンスより普段使いの走らせ方での印象だろう。まず後輪駆動の2WDであることの恩恵だろう、加速やステアリングの手応えはクリアですっきりしている。徐行から微低速域でのイージードライブ感は申し分なく、アクセルペダル操作に対するトルクの立ち上がりは穏やかで、乱暴に後輪が蹴り出す唐突さはない。そういうところを含めた上でも、すっきりとイージーなのだ。
かといって、初期のアクセルペダル踏み込み量に対してトルクの出方が鈍い訳ではない。それどころか調整しやすく、渋滞中や市街地走行では、停止までもっていけるワンペダルモードを積極的に使いたくなる。前走車が進んだ際の数mも、アクセルペダルだけでとくに意識せずに詰められる、そういう自然さだ。
高速道路ほどアクセルを一定に踏み込まない、環状線バイパスや郊外路などでは、もう少しアクセルオフで素早く回生&減速Gが強く立ち上がってもいいかと感じる。おそらく0.3G弱だと思うが、ドライバーの方がアクセルを踏み込み過ぎないことを覚えれば、とくに問題はないはず。そもそもブレーキペダルを踏まないと停止できないワンペダルは、そもそもワンペダルと名乗れないはずだが、乗員の頭部や視線を不用意に前後に揺することなく、使いやすいワンペダルとして成立させている点を評価すべきだろう。
◆「ゲームチェンジャー」を謳った新興EVを過去のものに
それにしても、EX30を走らせて強く印象に残るのは、ステアリング操舵量は多めなのに、コンパクトなサイズに由来するキビキビ感があること。もうひとつは巡航クルーズ中のクラス感が飛び抜けているというか、静粛性や余裕といった点で車格以上のものを、確かに感じさせる点だ。足まわりがパタパタすることもなければ、フロアから振動が伝わってくることもなく、後方から駆動モーターの耳障りでない滑らかなノイズが、遠く聞こえるのみ。120km/hになると少し風切り音こそある。だが積極的に走らせた時の躍動感と、静けさや快適さといった受け身で感じられる快適性という、メリハリの点で、ボルボの他の従来モデルとも、『XC40』や『C40』の純BEVと比べても、新世代として際立っている。
余談だが、試乗車のホイール&タイヤは19インチ仕様で、日本導入仕様には20インチ採用が見込まれている。インチアップでサイドウォール剛性が上がってステアリング中立付近がよりシャキッとしたら、EX30はさらに優等生に近づくはずだ。またワンペダルや回生、コースティングの切替の賢さのみならず、充電ステーションに寄る前にナビゲーションであらかじめ認識しておけば、充電前にバッテリー温度を最適化して予熱・放熱を行うプリコンディショニング機能も備えている。北欧の寒冷な気候で練り込まれたこの機能が、日本の冬にどのように適応できるか、楽しみなところだ。
すでに限定300台のサブスクの登録申し込みは10月から始まっていたが、11月26日より日本でも販売が始まる。「EX30 シングルモーター エクステンディッドレンジ」の車両価格は559万円で、納車デリバリーは2024年の年明け1月からの予定だ。
EX30をひと言でいい表すなら、「グローバルにこんがらかった文脈を、果断によくまとめた北欧の優秀なレジュメ」と言える。この車を一度知ってしまうと、従来ゲームチェンジャーとされてきた新興メーカー製のEVが、俄然、頼りなく旧態然としたものに見えてしまうから、人の目線や感覚の慣れとは残酷なものだ。
南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。
◆最新のBEVという以前に、世代的パラダイムの違うコンパクトカー
今回試乗した「EX30 シングルモーター エクステンディッドレンジ」は、生産型の最終確認モデルで、インフォテインメントの表示の一部以外はまったく生産型と変わらない仕様だった。
まず純BEVモデルとして、サイズ感が群を抜いていい。具体的には欧州発表値で全長4233×全幅1837×1549mm、日本の認証値は同4235×1835×1550mmで、これまでに無かったちょうど良さではないだろうか。強いて挙げれば、ほんのひと回りだけ小さい『DS 3 クロスバックE-テンス』(現在はカタログ落ち)、あるいは最近ではBYD『ドルフィン』もあるが、前者はICE版と共通ボディでBEV専用設計ではなく、後者は純BEVとはいえ色々な意味で癖ある一台ではある。
いや待てよ、ひと回り小さくて少し背が高いBMW『i3』もあったが、いかんせん約10年前のバッテリー性能や温度管理システムや制御は、最新世代のそれらと比べるべくもない。つまりボルボEX30は、今日から2020年代中葉にかけて、実用的なコンパクトサイズのBEVとして、とてつもなくリアルな存在と映るはずだ。
しかしそれはサイズ感や制御の新しさだけの話ではない。EX30の新しさは、ボルボのような既存の自動車メーカーが、ウェル・トゥ・ウィールを視野に入れリサイクルを前提に、ライフサイクル中のカーボンフットプリントを最大限に減らすことをメインテーマに、プラットフォームからパワートレインに内外装までゼロから設計したら、どうなるかを示したことにある。最新のBEVという以前に、世代的パラダイムの違うコンパクトカーとして捉える必要がある。
◆外観デザイン、サイズ感、そしてインテリアの巧みさ
まず、グリルレスのフロントマスクは決定的にモダンながら、それでもボルボに見えるのは、シンプルで適度に引き締まった面構成でまとめられたエクステリアのおかげ。ライト・シグネイチャーとなるLEDヘッドランプの「T」型ハンマーも効いているが、ボンネット左右の両端とボディサイドが削り込まれることで、従来のボルボ的なショルダーの張り出しを抑えつつ、筋肉質に見せている。ちなみにEX30に用いられるアルミの約25%、スチールとプラスチックの約17%は、リサイクル素材から来ている。
Cd値は0.28と、まずまずだ。グリルレスとはいえバンパーレベルに開口部はあるし、ライト下にスリットも開けられている。EVだからラジエーターは無くていいというのは昔話で、最新のBEVこそバッテリーの冷却ジャケットや駆動モーター周りのオイルクーラーなど、冷媒となる水や油の温度管理を最適化して航続距離を稼ごうとしているものだ。ただ、BEVとして最適化された外観とサイズ感も好印象ながら、静的質感で何より衝撃的なのは、リサイクルを前提にデザインされたインテリアの巧みさだ。
ダッシュボードからシート、コンソールにドアパネルまで、とにかく構成パーツの点数を極端なまでに減らしている。目につく素材、つまり加飾パネルの約30%がリサイクル起源の素材で、残りの部分も再生可能な素材を用いたミニマルな仕上がりだ。にも関わらず、昔からの省エネ改めエコ・デザインにありがちだった貧乏臭さは、一切ない。ひと昔前にドイツ車が牽引した、クロームのインサートを合わせ目に挟んで質感を出す、みたいな手法に一切依存しないがゆえの潔さでもある。
それでもドアオープナーはアルミ製だ。リサイクル素材の見た目や触った時の質感といえば、いかにも安っぽいとか、ゾッとしないものを想像しがちだが、そこはスウェーデンという生活デザイン大国、プレミアムカーにふさわしい質感をEX30は実現している。後で知ったことだが、内装を担当したデザイナーは英国人で以前はベントレーに在籍していたと聞いて、二度びっくりした。
今回のシングルモーター版は「ブリーズ」と呼ばれるトリムを採用。素材の具体例としては、ペットボトルなどのリサイクル素材に北欧のパインツリーのオイルを混ぜ合わせたノルディコという人工皮革めいた素材と、同じくリサイクル素材ながら有機的なパターンを組み合わせ、ざっくりとした織り地を再現したピクセルニットのコンビが、シートに用いられている。またダッシュボード下段やドアサイドに貼られたツブ感のある花崗岩のようなパネルは、窓枠に使われていたPVCを砕いて固めて再利用したものだ。北欧の寒さゆえ、一般に窓枠は2重サッシどころか、3重なのだとか。そしてもうひとつ、北欧起源のリサイクル素材として、漁網からリサイクルされたフロアマットにも注目したい。
◆機能をセンターに集約させた室内レイアウト
EVならではのフラットかつ低床フロア設計で、Bセグ+αの車格から考えると相対的に室内が広々としていることに驚かされる。が、インテリアのキーはもうひとつ、ハーネスやコード類の長さを短くする=使用する素材量を減らすために、インフォテイメントや電動パワーウインドウといった電気を使う操作系が、すべて中央に集められているのだ。それでいてセンターコンソールの軸にはアイデア豊富な収納が多々、充実している。
前席の2名分のスマートフォンを充電できるトレイには、下端側で固定できる柔らかな押さえフックがある。また2分割の蓋カバーに守られたトレイには、USB端子×2に加え、ジーンズから再生されたパッドが敷かれている。ドリンクホルダーはアームレスト内にスライド収納されており、1人分・2人分と引き出し量を変えることも可能だ。
あと後席側のセンターコンソール後端からは、樹脂製のダストボックスが取り外しできるが、補強の成型モールにトナカイや針葉樹、野山があしらわれるなど、可愛らしいディティールもある。格子模様や直線にしなくてもこと足りる部分だ。もちろん後席にも電動パワーウィンドウスイッチやUSB端子が備わるし、シートポケット中央にステッチを切り替えただけで、スマートフォン固定用ミニポケットを設ける辺りも、ホント賢い。
ちなみに車載オーディオはハーマン・カードンで最大1040Wものアンプを備えるが、配線をドアや後席まで這わせることを避けるため、スピーカーはサウンドバーとしてダッシュボードの奥に配置されている。
しかし何よりも室内センターへの機能&操作中枢の集約を感じさせ、コクピットドリルが無かったら面食らっていたであろうもの、それは12.3インチの縦長ディスプレイが、メーターパネル表示もインフォテイメント関連のタッチスクリーン機能も、すべて兼ねていることだ。スクリーン最上部の5分の1が走行状態に関することで、ステアリングコラム右側のレバーを操って選択中のシフトポジションも、ここに示される。最下段は固定バーで、ホームやアプリ選択、ボリュームやエアコン、車両設定、ハザードランプが備わっている。
この車両設定アイコンは頻繁に押す箇所で、左右ドアミラーの調整やワンペダルドライブへの切替も、ここをクリックしてからツータッチとなる。その上はコンテクストによる機能で、例えばリアハッチ開閉などは、車速がごく微低速~停止時にしか現われないが、センターのグーグルの音声認識ボタンは固定だ。さらにその上が音楽や通話といったメディア関連で、中央上寄りでスクリーンの約50%、ほぼ正方形の部分はナビゲーション表示だ。
最上段の走行情報からプライオリティの高い順に並べられているものの、フレームイン強調などによるアクティブな際立たせ方や、各領域ごとに色分けパーソナライズが出来たらいいな、とは思った。とはいえそうしたインターフェイスこそ、OTAによるアップデート対象なのだろうが。
◆後輪駆動の恩恵か、すっきりイージーな走り
肝心の走りは、すこぶる期待にたがわぬものだった。SEA(Sustainable Experience Architectureの略)というBEV専用の新プラットフォームの恩恵は、ヴィークル・ダイナミクスのみならず、前述した部材・素材の少なさやレイアウトの合理性にも表れているが、シングルモーター エクステンディッドレンジは、やがて追加されるツインモーター仕様と同じ69kWhのバッテリー容量を備え、トルク・出力は343Nm・272hp(換算で275ps)となる。
WLTCモードの国内値はストップ&ゴーが多い分、欧州値より伸びやすいため、航続可能距離は500kmオーバーが見込まれ、一方で車両重量は約1800kg強に収まるという。ちなみに日本導入未定のベースモデルのバッテリー容量は、51kWhにとどまり、単純計算で最大レンジは4分の3ほどに限られるだろう。参考までにツインモーターのトルク・出力はフロント側に200Nm・115psが加わり、前後車軸の合算で543Nm・428hp(換算で444ps)とある。最大レンジもエクステンディッド レンジの-5%相当となる。
しかし日常用途のBEVである以上、興味の焦点は極大値的なパフォ―マンスより普段使いの走らせ方での印象だろう。まず後輪駆動の2WDであることの恩恵だろう、加速やステアリングの手応えはクリアですっきりしている。徐行から微低速域でのイージードライブ感は申し分なく、アクセルペダル操作に対するトルクの立ち上がりは穏やかで、乱暴に後輪が蹴り出す唐突さはない。そういうところを含めた上でも、すっきりとイージーなのだ。
かといって、初期のアクセルペダル踏み込み量に対してトルクの出方が鈍い訳ではない。それどころか調整しやすく、渋滞中や市街地走行では、停止までもっていけるワンペダルモードを積極的に使いたくなる。前走車が進んだ際の数mも、アクセルペダルだけでとくに意識せずに詰められる、そういう自然さだ。
高速道路ほどアクセルを一定に踏み込まない、環状線バイパスや郊外路などでは、もう少しアクセルオフで素早く回生&減速Gが強く立ち上がってもいいかと感じる。おそらく0.3G弱だと思うが、ドライバーの方がアクセルを踏み込み過ぎないことを覚えれば、とくに問題はないはず。そもそもブレーキペダルを踏まないと停止できないワンペダルは、そもそもワンペダルと名乗れないはずだが、乗員の頭部や視線を不用意に前後に揺することなく、使いやすいワンペダルとして成立させている点を評価すべきだろう。
◆「ゲームチェンジャー」を謳った新興EVを過去のものに
それにしても、EX30を走らせて強く印象に残るのは、ステアリング操舵量は多めなのに、コンパクトなサイズに由来するキビキビ感があること。もうひとつは巡航クルーズ中のクラス感が飛び抜けているというか、静粛性や余裕といった点で車格以上のものを、確かに感じさせる点だ。足まわりがパタパタすることもなければ、フロアから振動が伝わってくることもなく、後方から駆動モーターの耳障りでない滑らかなノイズが、遠く聞こえるのみ。120km/hになると少し風切り音こそある。だが積極的に走らせた時の躍動感と、静けさや快適さといった受け身で感じられる快適性という、メリハリの点で、ボルボの他の従来モデルとも、『XC40』や『C40』の純BEVと比べても、新世代として際立っている。
余談だが、試乗車のホイール&タイヤは19インチ仕様で、日本導入仕様には20インチ採用が見込まれている。インチアップでサイドウォール剛性が上がってステアリング中立付近がよりシャキッとしたら、EX30はさらに優等生に近づくはずだ。またワンペダルや回生、コースティングの切替の賢さのみならず、充電ステーションに寄る前にナビゲーションであらかじめ認識しておけば、充電前にバッテリー温度を最適化して予熱・放熱を行うプリコンディショニング機能も備えている。北欧の寒冷な気候で練り込まれたこの機能が、日本の冬にどのように適応できるか、楽しみなところだ。
すでに限定300台のサブスクの登録申し込みは10月から始まっていたが、11月26日より日本でも販売が始まる。「EX30 シングルモーター エクステンディッドレンジ」の車両価格は559万円で、納車デリバリーは2024年の年明け1月からの予定だ。
EX30をひと言でいい表すなら、「グローバルにこんがらかった文脈を、果断によくまとめた北欧の優秀なレジュメ」と言える。この車を一度知ってしまうと、従来ゲームチェンジャーとされてきた新興メーカー製のEVが、俄然、頼りなく旧態然としたものに見えてしまうから、人の目線や感覚の慣れとは残酷なものだ。
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