【トヨタ クラウンセダン 新型試乗】リアシートを快適にする驚きの「隠し球」と「課題」…西村直人

  • トヨタ クラウンセダン FCEV
2023年11月、新生『クラウン』4兄弟の3番目となる「クラウン」(トヨタは「新型クラウン」(セダン)と呼ぶ)が発売された。クラウンといえばセダンという向きが依然として多いなか、現行モデルは執筆時点、未発売の「エステート」(ステーションワゴン)を含めると4つのボディバリエーションを誇る。

ところで筆者は、このセダンに興味津々だった。シリーズ唯一のFRプラットフォームに、FCEV(燃料電池車)と新HV(ハイブリッド車)を用意したことも理由だが、なによりフォーマルなスタイルが好みだったからだ。GX71系『マークII』(1984年発売)のような、正統派セダンだけに許された凜々しさが心に刺さった。

逸る気持ちをおさえ、FCEVモデルから試乗する。ご存知の通り、トヨタのFCEVといえば『MIRAI(ミライ)』だが、クラウンFCEVはMIRAIからFCシステムをはじめ車体の多くを受け継いでいる。よって、MIRAIと同じく乗り心地がとても滑らかだ。これには3000mmのロングホイールベースも効いている。

◆筆者史上トップ3に入る滑らかな乗り心地
筆者はこの仕事を始めて30年近く経つが、この滑らかさはトップ3に位置する(1位はロールスロイス『ファントム』)。いわゆる乗り心地が良いとされる足回り形式の筆頭として、圧縮空気を使ったエアサスペンション(空気バネとも呼ばれ過去、クラウンV型8気筒モデルにも搭載)があるが、相手が空気だけに緻密な制御が難しく、速度域や運転の仕方によってはフワフワとした乗り味になる。

一方、電子制御の力をふんだんに借りているとはいえ、オイルダンパー+バネサスのクラウンFCEVは、コシがあるのに滑らかだ。それこそディーラーでの短時間試乗でもわかるほど。

たとえば段差を越えた際、それをなめるようにスッとタイヤが動き次の瞬間には地面をつかむ。クラウンFCEVが履く245/45ZR20サイズの大径タイヤはホイールを含めればかなりの重量だが、バネ下の重さを意識することなくわずかな反響音とともに瞬時にいなす。このスマートさは病みつきになる。

こうした乗り味は、高い剛性を誇るFCEV向けに開発されたプラットフォームによる効果が大きいが、クラウンFCEVでは微振動を低減させる高減衰接着剤を要所に使い、ガチッとしたなかにもしなやかさを両立させた。柔よく剛を制すがごとく、作り込みは丁寧だ。

走行性能もMIRAIに準ずる。内燃機関のエンジンに代わるFCスタックは128kW(174ps)で、電動駆動モーターは134kW(182ps)/300Nm(30.6kgf・m)。これに1.243kWhの二次バッテリーを組み合わせる。

2010kg(試乗モデルの値)の車両重量だから、大きくアクセルペダルを踏み込んでも速いという印象は抱かない。しかし、電動駆動モーター特有の力強いトルク+FCスタックに圧縮空気が送り込まれる際に発する微かなコンプレッサー音により、FCEVならではの加速フィールが味わえる。

◆後席を快適にする「隠し球」と課題
驚きはまだあった。後席での乗り味だ。開発陣は「セダンボディは多様なご期待にお応えする居住性」が必要であると考え、よって「隔壁感があり、包まれた空間」を大切にしたという。なんとも上手い表現だな、と感心したが、その後席の乗り味には隠し球があった。

「リヤコンフォート」モードの存在だ。これはドライブモードセレクトで任意に選択できるセットアップで、出力特性/電子制御サスの減衰力特性を後席の乗員向けに味付けした。具体的には、路面の大きな凹凸路を通過してもフラットな乗り味を保ち、曲率のきついカーブを走らせても横揺れを感じにくくするという。

試乗前、失礼ながら「あー、よくある電子制御モードのひとつですね」と思っていたら大間違い。「開発当初からリヤコンフォートモードを搭載する予定でした」と開発陣が豪語するくらい、ものすごく効果は大きかった。

具体的には、後席乗員の頭が振られにくくなり、凸凹路でも足(タイヤ)だけがササッと動いている印象。静かなキャビンに低振動とくれば、たしかにこれはリヤコンフォートだ。ちなみにリヤコンフォートモードは後述する2.5リットルマルチステージハイブリッドにも備わるが、より快適な後席空間だったのはFCEV。よってショーファードリブンにはFCEVモデルがおすすめ。

このように後席の乗り味はとても快適。しかし居住性という観点からは2点、気になるところがあった。

最初が頭上空間。ヘッドクリアランスは十分ながら、たとえば左後席に座ると、頭とボディ内装材との距離がとても近い。開発陣は「隔壁感」を目指したというが、リクライニング角度など可動式シートの各部を調整してみても、身長170cmの筆者には圧迫感があった。

次にフロア(床面)の傾斜角度。後席左右に正しく着座した場合、足がつま先方面に向けて若干、前下がりになる。シートはたっぷりサイズで、その上この静かなキャビンだから、余計に気になった……。

◆マルチステージハイブリッドの真骨頂は
ところでクラウンにはもうひとつ2.5リットルのハイブリッドモデルがある。エンジンこそ従来型を踏襲する直列4気筒2.5リットルで、やはりハイブリッドシステムはTHS-IIだが、これに4速の有段ATを組み合わせた。トヨタではこれを「マルチステージハイブリッド」と呼ぶ。

ご存知の通り、マルチステージハイブリッドは従来型クラウンにも存在したが、V型6気筒3.5リットル+THS-IIに4速ATの組み合わせだった。今回は2.5リットルとの初組み合わせである。4速ATにTHS-IIの疑似変速(たとえば加速時にエンジン回転数が下がる制御)を組み合わせると合計10速分に相当する変速が可能になる。

個人的にものすごく期待していた2.5リットルマルチステージハイブリッドだったが、今回の短時間試乗ではその効果を完全には引き出せなかった。師走の市街地で渋滞も激しく、走行距離が伸びなかったからだ。マルチステージハイブリッドの真骨頂は、2.5リットルエンジンながら息の長い気持ちの良い加速と、THS-II単体をしのぐ高い実用燃費の両立にあるはずだ。時期をみて、長距離テストを行ってみたい。

西村直人|交通コメンテーター
クルマとバイク、ふたつの社会の架け橋となることを目指す。専門分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためにWRカーやF1、さらには2輪界のF1と言われるMotoGPマシンでのサーキット走行をこなしつつ、4&2輪の草レースにも精力的に参戦中。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も積極的に行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席したほか、東京都交通局のバスモニター役も務めた。大型第二種免許/けん引免許/大型二輪免許、2級小型船舶免許所有。日本自動車ジャーナリスト協会(A.J.A.J)理事。2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会・東京二輪車安全運転推進委員会指導員。日本イラストレーション協会(JILLA)監事。

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