【ホンダ フリードクロスター 新型試乗】まさしく「無事之名馬」と呼ぶに相応しい…中村孝仁
本来は「無事之貴人」という格言で、こちらも心配事や問題がない状態で、求めることが無くなった状態の人が貴人=悟りを開いた人、というような意味を持つそうだ。新しいホンダ『フリード』に乗って、何となくそんな思いをめぐらした。
新たに登場したフリードはこれが3世代目のモデル。前2代と比べて、そのスタイルは直線基調となって、イメージとしては小型化した『ステップワゴン』という印象が個人的には強い。
◆個性を強め、マルチに使えるクロスター
それにしてもこのモデル、3世代にわたってよく売れる。初めはコンパクトな7人乗り3列シートが売りだったように思うが、2代目に入るとそれだけではなく、今度は差別化された2列5人乗車のモデルが『スパイク』として登場(初代にも5人乗りは存在したが)。その性格分けが明確になった。
そして今回は3列7人乗車を「エア」というグレード名で呼び、2列5人乗りは「クロスター」というグレードに振り分けた。今回お借りしたのは、後者、即ちクロスターと呼ばれるモデル。3列7人乗りのエアとはフロント周りのデザインが明確に異なり、ホールアーチにも無塗装樹脂製フレアが装着され、イメージ的にもミニバンというよりもSUV的イメージをプンプンさせるモデルに仕上がっている。
そしてそのフェンダーフレアのせいなのか、元々5ナンバーを売りにしていたはずのフリードが、このクロスターでは3ナンバー車となっている。もっとも昔のように3ナンバーだから税金が高いということはなく、クロスターの場合は排気量が1.5リットル以下なので5ナンバーのエアと変わらない。
内装は、ダブルフォールディングタイプの2列目を倒してラゲッジスペースのフロアとほぼ一体化して、言わばベッド仕様に出来るほか、2重底となったラゲッジスペースは超低床仕様で、福祉車両として車いすを載せられるスペースに転換できる。しかもこの福祉車両は単に介護用にとどまらず、「スロープ」という別名を持ち、アウトドア車両としても応用が利く設計になっている。
とまあ、単に2列5人乗りにとどまらず、マルチな可能性を秘めたユーティリティーの高いモデルである。今回試乗したモデルはホンダお得意のハイブリッド「e:HEV」ではなく、ガソリン仕様のFWDモデルである。街中に乗り出してすぐにそのスムーズな乗り味と、しっかりとしたボディ剛性を感じさせてくれる強固なボディに感銘を受けた。
◆まさしく「無事之名馬」と呼ぶに相応しい
とはいえ、こりゃ凄い!というレベルではなく、あくまでもこのクラスのライバルと比較してもそん色ない…というレベルである。精々50km/h程度までしか出せない都内の一般道では、十分に静粛性も高く快適である。正直言うとこの状況での走りについてどう重箱の隅をつついたところで、不満などはない。
ただ、本来の制限速度60km/h、場所によって80km/hという郊外の幹線道路に行くと、どうしてもアクセルの踏み込み量が多くなって、街中で感じられた高い静粛性が感じられず、エンジンにかなりの負担がかかる印象が強くなる。それにハイブリッドと決定的に違ったのが燃費の差である。今回は距離にして150km程度しか走れなかったが、平均は10.9km/リットルと、決して芳しい数値ではなかった。
まあ、この2点に目をつぶれば、とにかく優秀な出来で、まさしく冒頭に話した「無事之名馬」と呼ぶに相応しい。つまり、安全に快適に目的地に届けてくれて、決して速くもないし、良い加速を持つわけでもないが、いわゆる移動のための自動車としては秀でているのである。
読後感想文ではないがこのクルマのどこに感動したか?と問われた時の答えはない。因みにお借りした広報車の価格はオプション込みで320万3200円であった。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。
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