【試乗記】ジャガーIペース ファーストエディション(4WD)/IペースSE(4WD)
- ジャガーIペース ファーストエディション(4WD)/IペースSE(4WD)
オススメ! まであと一歩
いよいよ日本に導入された、ジャガーの100%電気自動車(EV)「Iペース」。エンジンを搭載しないEVならではのスタイリングをまとうニューモデルは、スポーツカーを出自とするジャガーの名に恥じないクルマに仕上がっていた。
自動車の電動化を推し進める背景
ふと気が付けば、このところ多くのニューモデルで共通して聞かれる「電動化」というキーワード。この勢いだと、“純エンジン車”が姿を消すのも時間の問題か……と、もはや冗談抜きでそう思えるようになってきたのが、今という時代の雰囲気だ。
かような空気感を盛り上げる大きな要因のひとつが、欧州で厳しさを増す乗用車のCO2排出量規制にあることは間違いない。2015年に走行1km当たり130g、2021年には95g。そして、昨2018年末には「2030年に60g以下にする」という衝撃的内容が欧州連合(EU)加盟国と欧州議会によって合意に至った。ちなみに、これは“企業平均目標値”というもので、そこに規制値を下回るモデルが含まれていれば、平均値を超えるモデルがあっても直ちにペナルティーとはならない。けれども、現実には世界きっての低燃費モデル「トヨタ・プリウス」の最新型でも「75g/kmから」というデータである。現状では燃費自慢のハイブリッドモデルすら、2030年規制はクリアできないということだ。
さらに、乗用車の電動化が「待ったナシ」であるもうひとつの理由が、中国政府が進める新エネルギー車(NEV)の推進である。この国では欧州とは異なり、主に都市圏での大気汚染を低減させる目的で、特にピュアEVやプラグインハイブリッド車に対して多額の補助金を給付するなどの優遇策をとってきた。それゆえに急増した電動車両に対する充電インフラ整備の遅れや、補助金に対する過度な依存などから、この先はそうした補助金給付額を減らしたり、航続距離や搭載バッテリーのエネルギー密度などに対する基準を厳格化したりするという声も聞こえてくる。が、それでも“電動化”を推進する基本方針には変わりない。今や圧倒的な世界最大の自動車マーケットとなっているこの国の意向は、当然無視できない。
かくして世界の自動車メーカーは、それが本来自らが求める方向であるか否かに関わりなく、「もはや電動化に突き進む以外に道がない」という状況にある。昨今の急進的な電動化への動きの背景には、こうした事情があるのだ。
かような空気感を盛り上げる大きな要因のひとつが、欧州で厳しさを増す乗用車のCO2排出量規制にあることは間違いない。2015年に走行1km当たり130g、2021年には95g。そして、昨2018年末には「2030年に60g以下にする」という衝撃的内容が欧州連合(EU)加盟国と欧州議会によって合意に至った。ちなみに、これは“企業平均目標値”というもので、そこに規制値を下回るモデルが含まれていれば、平均値を超えるモデルがあっても直ちにペナルティーとはならない。けれども、現実には世界きっての低燃費モデル「トヨタ・プリウス」の最新型でも「75g/kmから」というデータである。現状では燃費自慢のハイブリッドモデルすら、2030年規制はクリアできないということだ。
さらに、乗用車の電動化が「待ったナシ」であるもうひとつの理由が、中国政府が進める新エネルギー車(NEV)の推進である。この国では欧州とは異なり、主に都市圏での大気汚染を低減させる目的で、特にピュアEVやプラグインハイブリッド車に対して多額の補助金を給付するなどの優遇策をとってきた。それゆえに急増した電動車両に対する充電インフラ整備の遅れや、補助金に対する過度な依存などから、この先はそうした補助金給付額を減らしたり、航続距離や搭載バッテリーのエネルギー密度などに対する基準を厳格化したりするという声も聞こえてくる。が、それでも“電動化”を推進する基本方針には変わりない。今や圧倒的な世界最大の自動車マーケットとなっているこの国の意向は、当然無視できない。
かくして世界の自動車メーカーは、それが本来自らが求める方向であるか否かに関わりなく、「もはや電動化に突き進む以外に道がない」という状況にある。昨今の急進的な電動化への動きの背景には、こうした事情があるのだ。
プレミアムブランドがEVに積極的な理由
端的に言ってしまえば、ここに紹介するIペースも、「やむにやまれぬ事情に追い詰められてローンチされたピュアEVの1台」である。
このジャガーも含め、ここのところ“ジャーマン3”を筆頭としたプレミアムブランドからこぞってピュアEVが登場しているのは、たとえ火力発電で生み出した電力を用いようともCO2がゼロとカウントされるモデルをラインナップに加えることで、既存の“高燃費(=CO2の排出量が多い)モデル”のデータを相殺方向に持っていけることに加え、航続距離を伸ばすために大量の電池を搭載することによるコストアップの影響を、売価に乗せやすいという事情もあるに違いない。
実際、スターティングプライスが959万円と高価なIペースの場合も、多くの販売台数は見込めない一方で、これが時代の要請に応えたモデルであることを印象づけるイメージリーダー、広告塔であることを当のジャガー自身も認めている。
一方で、これまでは大排気量のV8ユニットを筆頭とした“エンジンの存在感”を大きな売りとしてきたのもこのブランドであり、そんなジャガーが手がけたピュアEVにどのような“ジャガーらしさ”が備わっているのか? 今回はそんな興味にも背中を押されつつ、「エレクトリック・パフォーマンスSUV」というフレーズがうたわれる、同ブランド初のピュアEVモデルとまみえることになった。
このジャガーも含め、ここのところ“ジャーマン3”を筆頭としたプレミアムブランドからこぞってピュアEVが登場しているのは、たとえ火力発電で生み出した電力を用いようともCO2がゼロとカウントされるモデルをラインナップに加えることで、既存の“高燃費(=CO2の排出量が多い)モデル”のデータを相殺方向に持っていけることに加え、航続距離を伸ばすために大量の電池を搭載することによるコストアップの影響を、売価に乗せやすいという事情もあるに違いない。
実際、スターティングプライスが959万円と高価なIペースの場合も、多くの販売台数は見込めない一方で、これが時代の要請に応えたモデルであることを印象づけるイメージリーダー、広告塔であることを当のジャガー自身も認めている。
一方で、これまでは大排気量のV8ユニットを筆頭とした“エンジンの存在感”を大きな売りとしてきたのもこのブランドであり、そんなジャガーが手がけたピュアEVにどのような“ジャガーらしさ”が備わっているのか? 今回はそんな興味にも背中を押されつつ、「エレクトリック・パフォーマンスSUV」というフレーズがうたわれる、同ブランド初のピュアEVモデルとまみえることになった。
電動パワートレインがかなえる新しいデザイン
もろもろの社会的背景を踏まえて生まれたIペースのユニークなところは、まず“エンジンルーム”が廃されたことで誕生した、これまで目にしたことのないスタイリングにある。
「自らのDNAはスポーツカーにあり」と自負するジャガーのモデルにこれまで共通していたのは、”長いノーズ”に始まる流麗なプロポーション。ところがIペースの造形はそんなジャガー車のこれまでの特徴を、半ば自己否定するかの仕上がりだ。
垂直に立ち上がった大きなグリルを中心としたフロントマスクは、明らかに従来から続くジャガーの顔を意識したものだ。ただし実際の開口部はごく一部分で、その上部はボンネットを貫通してフロントフードへと走行風を逃がす構造となっている。このユニークなデザインは、テスラ車同様の格納型ドア・アウターハンドルや、バッテリーの冷却が必要な場面でのみ開いて外気を導入する「アクティブベーン」などと相まって、0.29という低い空気抵抗係数の実現に貢献しているという。
約4.7mの全長に対し、「あと10mmで3m」という長いホイールベースがもたらす前後オーバーハングの極端な小ささも、個性的なプロポーションの創造にひと役買っている。1.9mに迫る全幅は「日本では乗る場所を選ぶ」という印象が否めないもの。それでも、キャビンフォワードではありながら鈍重に見えることはなく、むしろ「流麗さに頼らない新たなスタイリッシュさ」を提案しているのは、見事な造形者の手腕であると感心させられる。
「自らのDNAはスポーツカーにあり」と自負するジャガーのモデルにこれまで共通していたのは、”長いノーズ”に始まる流麗なプロポーション。ところがIペースの造形はそんなジャガー車のこれまでの特徴を、半ば自己否定するかの仕上がりだ。
垂直に立ち上がった大きなグリルを中心としたフロントマスクは、明らかに従来から続くジャガーの顔を意識したものだ。ただし実際の開口部はごく一部分で、その上部はボンネットを貫通してフロントフードへと走行風を逃がす構造となっている。このユニークなデザインは、テスラ車同様の格納型ドア・アウターハンドルや、バッテリーの冷却が必要な場面でのみ開いて外気を導入する「アクティブベーン」などと相まって、0.29という低い空気抵抗係数の実現に貢献しているという。
約4.7mの全長に対し、「あと10mmで3m」という長いホイールベースがもたらす前後オーバーハングの極端な小ささも、個性的なプロポーションの創造にひと役買っている。1.9mに迫る全幅は「日本では乗る場所を選ぶ」という印象が否めないもの。それでも、キャビンフォワードではありながら鈍重に見えることはなく、むしろ「流麗さに頼らない新たなスタイリッシュさ」を提案しているのは、見事な造形者の手腕であると感心させられる。
強力な加速、秀逸なフットワーク
- タイヤサイズはベースグレードの「S」が235/65R18、その他のグレードが245/50R20。テスト車の「ファーストエディション」には、オプションで用意される22インチホイールと255/40R22サイズのタイヤが装着されていた。
そんなジャガーIペースの走りの実力は、端的に言ってしまえば「素晴らしい!」ものだった。
テストドライブを行ったのは、コイルスプリングに20インチのシューズを組み合わせた比較的ベーシックな仕様の「SE」と、本来はオプションとして用意されるエアサスペンションや電子制御式の可変減衰力ダンパー、パノラミックルーフやヘッドアップディスプレイなどを標準装備化した「ファーストエディション」に、22インチ(!)という大径シューズを装着した2台。前述の「素晴らしい!」という表現は、基本的にはそのいずれにも当てはまるものだった。
前輪用、後輪用ともに同一アイテムという、それぞれが最高出力147kW、すなわち約200psを発するモーターが生み出すパフォーマンスは、0-100km/h加速が4.8秒というデータも示すように、強力にして俊足。静粛性の高さも当然の一方で、期待していた“人工的な加速サウンド”は、単に既存のエンジン音を模したように聞こえ、個人的にちょっと興ざめだった。
さまざまなメーカーがフィーリングの良しあしを競った内燃機関に比べると、EVの加速感が「画一的で個性に薄い」というのは、今のところの実体験からすると、やはり事実と認めざるを得ない。それだけにIペースで提案されたこの「アクティブ・サウンド・デザイン」にはひそかに期待をしていたのだが……。
一方、フットワークのテイストはジャガーらしさがタップリ。こちらは、まさに留飲が下がる仕上がりだった。高いフラット感と軽やかな身のこなしを両立させたベーシックなコイルスプリング仕様もなかなかだが、より感心させられたのはエアサスペンション仕様。ロードノイズの遮断が見事で、速度が高まるに従って前者との静粛性の差は歴然となった。巨大なシューズが気にならない、ばね下の動きの軽やかさも出色の出来栄えである。
パワーユニットの存在感が薄いからこそ、シャシーやフットワークの優劣が際立つ。EVの走りには、いつもそんな印象がつきまとうのである。
テストドライブを行ったのは、コイルスプリングに20インチのシューズを組み合わせた比較的ベーシックな仕様の「SE」と、本来はオプションとして用意されるエアサスペンションや電子制御式の可変減衰力ダンパー、パノラミックルーフやヘッドアップディスプレイなどを標準装備化した「ファーストエディション」に、22インチ(!)という大径シューズを装着した2台。前述の「素晴らしい!」という表現は、基本的にはそのいずれにも当てはまるものだった。
前輪用、後輪用ともに同一アイテムという、それぞれが最高出力147kW、すなわち約200psを発するモーターが生み出すパフォーマンスは、0-100km/h加速が4.8秒というデータも示すように、強力にして俊足。静粛性の高さも当然の一方で、期待していた“人工的な加速サウンド”は、単に既存のエンジン音を模したように聞こえ、個人的にちょっと興ざめだった。
さまざまなメーカーがフィーリングの良しあしを競った内燃機関に比べると、EVの加速感が「画一的で個性に薄い」というのは、今のところの実体験からすると、やはり事実と認めざるを得ない。それだけにIペースで提案されたこの「アクティブ・サウンド・デザイン」にはひそかに期待をしていたのだが……。
一方、フットワークのテイストはジャガーらしさがタップリ。こちらは、まさに留飲が下がる仕上がりだった。高いフラット感と軽やかな身のこなしを両立させたベーシックなコイルスプリング仕様もなかなかだが、より感心させられたのはエアサスペンション仕様。ロードノイズの遮断が見事で、速度が高まるに従って前者との静粛性の差は歴然となった。巨大なシューズが気にならない、ばね下の動きの軽やかさも出色の出来栄えである。
パワーユニットの存在感が薄いからこそ、シャシーやフットワークの優劣が際立つ。EVの走りには、いつもそんな印象がつきまとうのである。
誰にでも薦められるクルマではないものの
ところで、条件が厳しいWLTC測定法にして438kmという航続距離のデータは、もはや必要にして十二分で、「バッテリー残量を気にせず走れる」という感覚が強いもの。今のところ、まだ「コストや重量を気にせずに大量のバッテリーを搭載できれば」という条件付きではあるものの、「EVが長距離を走れない」という問題は徐々に解決されつつあるのだ。
一方で、そんな長い航続距離を実現するために大容量のバッテリーを搭載したモデルが多数走り始めれば、今後急速に課題となってきそうなのが、短時間で充電するためのインフラである。
そうした問題や、日本では幅が気になるボディーのサイズ、そしてもちろん価格なども勘案すれば、Iペースというモデルがまだ「誰にでも薦められるクルマ」という評価に達していないことは認めるしかないだろう。
けれども、そうしたさまざまなハードルがひとつずつクリアされながら、今、ピュアEVが着実に世の中に浸透し始めているのもまた事実。登場第1弾にして「乗れば感動!」のIペースももちろん、そうした流れの中の一台なのだ。
(文=河村康彦/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
一方で、そんな長い航続距離を実現するために大容量のバッテリーを搭載したモデルが多数走り始めれば、今後急速に課題となってきそうなのが、短時間で充電するためのインフラである。
そうした問題や、日本では幅が気になるボディーのサイズ、そしてもちろん価格なども勘案すれば、Iペースというモデルがまだ「誰にでも薦められるクルマ」という評価に達していないことは認めるしかないだろう。
けれども、そうしたさまざまなハードルがひとつずつクリアされながら、今、ピュアEVが着実に世の中に浸透し始めているのもまた事実。登場第1弾にして「乗れば感動!」のIペースももちろん、そうした流れの中の一台なのだ。
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