【試乗記】トヨタRAV4ハイブリッドG(4WD/CVT)

トヨタRAV4ハイブリッドG(4WD/CVT)【試乗記】
トヨタRAV4ハイブリッドG(4WD/CVT)

王の帰還

約3年のブランクを経て「トヨタRAV4」が日本市場に帰ってきた。とはいえその主戦場が、日本とは桁違いの台数が販売されているアメリカであることは明らか。新型は、日本にクロスオーバーSUVブームをもたらした初代のようなポジションに返り咲くことはできるのだろうか。

不遇からの復活

今回のテスト車は、モデルラインナップ中で最も高価な「ハイブリッドG」で、車両本体価格は381万7800円。
今回のテスト車は、モデルラインナップ中で最も高価な「ハイブリッドG」で、車両本体価格は381万7800円。
ボディーのスリーサイズは全長×全幅×全高=4600×1855×1685mm。海外専売モデルだった先代(4代目)とはほぼ同寸だが、日本で2016年まで売られていた3代目モデルからは30cm近く長くなっている。
ボディーのスリーサイズは全長×全幅×全高=4600×1855×1685mm。海外専売モデルだった先代(4代目)とはほぼ同寸だが、日本で2016年まで売られていた3代目モデルからは30cm近く長くなっている。
ハイブリッドモデルの最低地上高は190mmとなっている。
ハイブリッドモデルの最低地上高は190mmとなっている。
タイヤサイズは225/60R18。テスト車にはダンロップのSUV向けオンロードタイヤ「グラントレックPT30」が装着されていた。
タイヤサイズは225/60R18。テスト車にはダンロップのSUV向けオンロードタイヤ「グラントレックPT30」が装着されていた。
2019年4月10日に発売された新型RAV4は、1カ月で約2万4000台の受注があったそうだ。月販目標が3000台だから、8倍ということになる。好評とは聞いていたが、これほどまで人気が爆発するとは思わなかった。何しろ、日本国内での販売が3年も中断されていたモデルである。かつての不人気車が、華々しい復活を遂げたのだ。

「ホンダCR-V」も、2年の販売休止の後に戻ってきた。いずれも北米が販売の中心となり、国内の需要とはマッチしなくなったと考えられていたモデルである。急激なSUV人気の盛り上がりに押され、不遇から抜け出して中心的存在に返り咲いた。

SUV人気というが、そもそもSUVとは何か。Sport Utility Vehicleの略称なので、新聞などでは「スポーツ用多目的車」と注釈が付けられる。意味不明だ。どこがスポーツで、どこが多目的なのか。背が高くて重いクルマをスポーティーだとは言いたくない。どうやら誤訳が広まってしまったということらしく、Utility Vehicleとは商用車のことなのだ。そこに娯楽という意味のSportがくっついた形で、直訳すれば娯楽用商用車ということになる。

起源はともかくとして、アメリカではピックアップトラックの荷室部分にボディーをかぶせて乗用車化したクルマのことを指していた。転じて語義が広がり、4WD機構を持つクロスカントリー車がSUVと呼ばれるようになる。それだけならオフロード好きのためのマニアックなクルマにとどまったはずだが、セダンと変わらない居住性能と乗り心地を持つカジュアルなSUVが登場する。先駆けとなったモデルのひとつが、1994年にデビューしたRAV4だった。1997年には「トヨタ・ハリアー」が発売され、フレームを持たないモノコック構造のオフロード風車両がクロスオーバーSUVと呼ばれるようになっていく。

今回のテスト車は、モデルラインナップ中で最も高価な「ハイブリッドG」で、車両本体価格は381万7800円。
今回のテスト車は、モデルラインナップ中で最も高価な「ハイブリッドG」で、車両本体価格は381万7800円。
ボディーのスリーサイズは全長×全幅×全高=4600×1855×1685mm。海外専売モデルだった先代(4代目)とはほぼ同寸だが、日本で2016年まで売られていた3代目モデルからは30cm近く長くなっている。
ボディーのスリーサイズは全長×全幅×全高=4600×1855×1685mm。海外専売モデルだった先代(4代目)とはほぼ同寸だが、日本で2016年まで売られていた3代目モデルからは30cm近く長くなっている。
ハイブリッドモデルの最低地上高は190mmとなっている。
ハイブリッドモデルの最低地上高は190mmとなっている。
タイヤサイズは225/60R18。テスト車にはダンロップのSUV向けオンロードタイヤ「グラントレックPT30」が装着されていた。
タイヤサイズは225/60R18。テスト車にはダンロップのSUV向けオンロードタイヤ「グラントレックPT30」が装着されていた。

ハイブリッド4WDは最上級グレード

ハイブリッド車には4WDシステムとして「E-Four」を採用。リアアクスルに最高出力54psのモーターが搭載されており、前後輪間のトルク配分は100:0から20:80の間で制御される。
ハイブリッド車には4WDシステムとして「E-Four」を採用。リアアクスルに最高出力54psのモーターが搭載されており、前後輪間のトルク配分は100:0から20:80の間で制御される。
ハイブリッドモデルのインテリアカラーはブラック(写真)が標準だが、ライトグレーも選択可能(無償)。ボンネットの見切りのよさをはじめ、運転視界は良好だ。
ハイブリッドモデルのインテリアカラーはブラック(写真)が標準だが、ライトグレーも選択可能(無償)。ボンネットの見切りのよさをはじめ、運転視界は良好だ。
「ハイブリッドG」では合成皮革のシートが標準装備。“合成”ながらしっとりとした風合いが心地いい。
「ハイブリッドG」では合成皮革のシートが標準装備。“合成”ながらしっとりとした風合いが心地いい。
後席空間はご覧の広さ。前席下にたっぷりと空間が設けられているため、ゆったりと足を伸ばせるのがありがたい。
後席空間はご覧の広さ。前席下にたっぷりと空間が設けられているため、ゆったりと足を伸ばせるのがありがたい。
RAV4という名前には意味があり、もともとは「Recreational Active Vehicle 4 Wheel Drive」の略称とされていた。しかし、新型は違う。「Robust Accurate Vehicle with 4 Wheel Drive」が開発コンセプトなのだというのだ。Robustは三菱が自社のブランドメッセージとしてよく使っている言葉で、堅牢(けんろう)で頑丈であることを示す。そこにAccurate(正確な)をプラスしたのが新型RAV4のイメージなのだ。レクリエーションだと軽いが、もう少し硬派な雰囲気を出したいのだろう。用途が変わったことでDVDが「Digital Video Disc」から「Digital Versatile Disc」になったのと同じである。

それはともかく、RAV4の場合は新旧どちらにも4 Wheel Driveというフレーズが含まれていて、4WDであることがアイデンティティーである。FF車もあるが、発売1カ月時点で受注した約9割が4WDモデル。それも当然で、RAV4には3種類もの4WDシステムが用意されている。そのうちガソリンエンジン車には2種類。前後駆動配分50:50の「ダイナミックコントロール4WD」と、走行状況に応じて後輪へのトルク伝達を左右独立で制御する世界初の4WDシステム「ダイナミックトルクベクタリングAWD」である。

ハイブリッド車には新型「E-Four」を採用。モーターで駆動する後輪のトルクを強化したもので、前後輪トルク配分を100:0から最大20:80まで変更可能にした。試乗したのは、「ハイブリッドG」というグレード。ハイブリッド4WDモデルの上級グレードで、シリーズの中で一番高い381万7800円。本気の人はダイナミックトルクベクタリングAWDを選ぶだろうから、どちらかというとダンナ仕様のグレードと言っていいだろう。

ガソリン車の4WDにはオフロードの走行支援を「MUD&SAND」「NORMAL」「ROCK&DIRT」の3つから選べるマルチテレインセレクトが装備されているが、ハイブリッド4WDにはスタックから脱出するための「TRAIL」ボタンがあるだけ。今回の試乗ではオフロードを走る機会はなかったが、雪道などの滑りやすい路面では自動的に最適な前後トルク配分を行ってくれるはずだ。

ハイブリッド車には4WDシステムとして「E-Four」を採用。リアアクスルに最高出力54psのモーターが搭載されており、前後輪間のトルク配分は100:0から20:80の間で制御される。
ハイブリッド車には4WDシステムとして「E-Four」を採用。リアアクスルに最高出力54psのモーターが搭載されており、前後輪間のトルク配分は100:0から20:80の間で制御される。
ハイブリッドモデルのインテリアカラーはブラック(写真)が標準だが、ライトグレーも選択可能(無償)。ボンネットの見切りのよさをはじめ、運転視界は良好だ。
ハイブリッドモデルのインテリアカラーはブラック(写真)が標準だが、ライトグレーも選択可能(無償)。ボンネットの見切りのよさをはじめ、運転視界は良好だ。
「ハイブリッドG」では合成皮革のシートが標準装備。“合成”ながらしっとりとした風合いが心地いい。
「ハイブリッドG」では合成皮革のシートが標準装備。“合成”ながらしっとりとした風合いが心地いい。
後席空間はご覧の広さ。前席下にたっぷりと空間が設けられているため、ゆったりと足を伸ばせるのがありがたい。
後席空間はご覧の広さ。前席下にたっぷりと空間が設けられているため、ゆったりと足を伸ばせるのがありがたい。

おおらかでアメリカン

「RAV4」は「トヨタ・カムリ」や「レクサスES」と同じGA-Kプラットフォームを採用。走行時にはボディー剛性の高さが感じられた。
「RAV4」は「トヨタ・カムリ」や「レクサスES」と同じGA-Kプラットフォームを採用。走行時にはボディー剛性の高さが感じられた。
変速機はトヨタのハイブリッド車ではおなじみの電気式CVT。6段の疑似マニュアル変速機構が備わっている。
変速機はトヨタのハイブリッド車ではおなじみの電気式CVT。6段の疑似マニュアル変速機構が備わっている。
ドライブモードは「ノーマル」のほかに「エコ」と「スポーツ」が用意される。セレクターがダイヤル式となるのはハイブリッドの4WD車のみ(その他はボタン式。)
ドライブモードは「ノーマル」のほかに「エコ」と「スポーツ」が用意される。セレクターがダイヤル式となるのはハイブリッドの4WD車のみ(その他はボタン式。)
エアコンの温度調整ダイヤルには溝を切ったラバーが巻かれている。
エアコンの温度調整ダイヤルには溝を切ったラバーが巻かれている。
リアスタイルに少々武骨な印象が残るものの、見た目は都会派SUVである。オンロード走行は快適だ。街なかでゆっくり走っている分にはEVモードが持続し、恐ろしく静か。必要な時にはエンジンとモーターが協力して十分なパワーをもたらす。ボディーのしっかり感は高く、収まりがよくて段差の乗り越えでも腰に響くようなことはない。

ワインディングロードでもフラフラせずに走れるが、コーナリングではハンドルを切ってから少し遅れて曲がっていく感じがある。ロールは少なく、思いのほか活発に走る。前方の見晴らしはいいので、運転のしやすさは上々だ。ただ、同じトヨタのSUVである「C-HR」やハリアー、ホンダの「ヴェゼル」あたりのキビキビした走りと比べると、明確な違いを感じる。その3台がスポーティーさを前面に出しているのに対し、RAV4はどこかおおらかでアメリカンな感覚なのだ。同じSUVというジャンル名でくくるのはちょっと苦しい。

ホンダCR-Vや「スバル・フォレスター」はRAV4に似たポジションである。サイズも似通っていて、比較されるケースは多いだろう。いずれも4WD性能に重きをおいていて、カッコだけのシティー派SUVとは一線を画しているというアピールが強い。CR-Vのハイブリッド4WDモデルでは雪道を走ったことがあるが、条件の悪い圧雪路でも不安なく走ることができた。

RAV4ハイブリッドは2.5リッターエンジンとモーターの組み合わせなので、高速道路では強力な加速を楽しめる。巡航状態では風切り音も少なくて静かだ。ACCを用いてイージードライブ中に雨が降ってきたが、しばらくは問題なく走行。ただ、途中で激しい土砂降りになったらシステムが停止してしまった。夏のゲリラ豪雨の中では使えないかもしれない。

「RAV4」は「トヨタ・カムリ」や「レクサスES」と同じGA-Kプラットフォームを採用。走行時にはボディー剛性の高さが感じられた。
「RAV4」は「トヨタ・カムリ」や「レクサスES」と同じGA-Kプラットフォームを採用。走行時にはボディー剛性の高さが感じられた。
変速機はトヨタのハイブリッド車ではおなじみの電気式CVT。6段の疑似マニュアル変速機構が備わっている。
変速機はトヨタのハイブリッド車ではおなじみの電気式CVT。6段の疑似マニュアル変速機構が備わっている。
ドライブモードは「ノーマル」のほかに「エコ」と「スポーツ」が用意される。セレクターがダイヤル式となるのはハイブリッドの4WD車のみ(その他はボタン式。)
ドライブモードは「ノーマル」のほかに「エコ」と「スポーツ」が用意される。セレクターがダイヤル式となるのはハイブリッドの4WD車のみ(その他はボタン式。)
エアコンの温度調整ダイヤルには溝を切ったラバーが巻かれている。
エアコンの温度調整ダイヤルには溝を切ったラバーが巻かれている。

一番活気のあるSUVのジャンル

山岳路を含めて500km以上を走行した今回のテストでは満タン法で16.2km/リッターの燃費を記録した。WLTCモードの燃費値は20.6km/リッター。
山岳路を含めて500km以上を走行した今回のテストでは満タン法で16.2km/リッターの燃費を記録した。WLTCモードの燃費値は20.6km/リッター。
ラゲッジルームの容量は580リッター。デッキボードは表面がカーペット(写真)、裏面が樹脂というつくりになっており、用途に応じた使い分けが可能。
ラゲッジルームの容量は580リッター。デッキボードは表面がカーペット(写真)、裏面が樹脂というつくりになっており、用途に応じた使い分けが可能。
デッキボードの下にはパンク修理キットが収納される。スペアタイヤは全車でオプション扱いとなる。
デッキボードの下にはパンク修理キットが収納される。スペアタイヤは全車でオプション扱いとなる。
「RAV4」は現行「クラウン」などと同様、“コネクティッドカー”となっており、通信モジュールを全車に標準装備。オペレーターサービスなどを無料で利用できる(新車購入から3年間)。
「RAV4」は現行「クラウン」などと同様、“コネクティッドカー”となっており、通信モジュールを全車に標準装備。オペレーターサービスなどを無料で利用できる(新車購入から3年間)。
燃費モニターは、高速道路巡航だとリッター20km近い値を示す。山道では10km程度に落ちるが、車両重量を考えれば優秀である。パワーと燃費が高いレベルで両立している。このハイブリッドシステムは「カムリ」と同じもので、プラットフォームもカムリのものをベースにしている。ただし、当然ながら乗っていて共通点を感じることはない。

カムリは低重心プラットフォームを利した、スポーティーな運転感覚のセダンである。そのチーフエンジニアである勝又正人氏は、「セダンは一番優秀なボディータイプ」であり「背の高いSUVでもしっかり走るのなら、同じ技術を使ってセダンを作れば、もっと操縦安定性のいい、もっと乗り心地のいいクルマが作れる」と話していた。その意気やよしだが、アメリカでは通用してもSUV人気が突出している日本ではこの言葉は説得力を持ちにくい。

コンパクトなSUVとして誕生したRAV4は次第にボディーが大型化し、日本には向かないクルマとしてフェイドアウト。それが今はもてはやされているのだから、クルマの流行というのはよくわからない。SUVというジャンルが主流になったことで多種多様なモデルが登場し、その中ではやりすたりがある。1990年代に猛威をふるった「三菱パジェロ」の生産終了が決まったように、諸行無常、盛者(じょうしゃ)必衰なのだ。

RAV4は、今一番活気のあるSUVのジャンルに属しているのだろう。FFしかない、なんちゃってSUVには飽き足らず、「スズキ・ジムニー」や「トヨタ・ランドクルーザー」のような本格派はムリという人にちょうどいい。CR-Vやフォレスターはそういった需要に応えていたが、元祖かつ本命のモデルが現れてしまった。王の帰還が熱狂的に迎えられているのは、出来栄えを見れば納得せざるを得ない。

(文=鈴木真人/写真=荒川正幸/編集=藤沢 勝)

山岳路を含めて500km以上を走行した今回のテストでは満タン法で16.2km/リッターの燃費を記録した。WLTCモードの燃費値は20.6km/リッター。
山岳路を含めて500km以上を走行した今回のテストでは満タン法で16.2km/リッターの燃費を記録した。WLTCモードの燃費値は20.6km/リッター。
ラゲッジルームの容量は580リッター。デッキボードは表面がカーペット(写真)、裏面が樹脂というつくりになっており、用途に応じた使い分けが可能。
ラゲッジルームの容量は580リッター。デッキボードは表面がカーペット(写真)、裏面が樹脂というつくりになっており、用途に応じた使い分けが可能。
デッキボードの下にはパンク修理キットが収納される。スペアタイヤは全車でオプション扱いとなる。
デッキボードの下にはパンク修理キットが収納される。スペアタイヤは全車でオプション扱いとなる。
「RAV4」は現行「クラウン」などと同様、“コネクティッドカー”となっており、通信モジュールを全車に標準装備。オペレーターサービスなどを無料で利用できる(新車購入から3年間)。
「RAV4」は現行「クラウン」などと同様、“コネクティッドカー”となっており、通信モジュールを全車に標準装備。オペレーターサービスなどを無料で利用できる(新車購入から3年間)。

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