【試乗記】フォルクスワーゲン・ゴルフGTI TCR(FF/7AT)
- フォルクスワーゲン・ゴルフGTI TCR(FF/7AT)
最終形にして頂点
ワールド・ツーリング・カー・カップ(WTCR)参戦マシンのロードゴーイングバージョンとして、台数限定600台が販売される「フォルクスワーゲン・ゴルフGTI TCR」。伝統のホットモデル「GTI」シリーズで最強となる290PSのパワーを山岳路で味わうべく、富士山麓に連れ出した。
レーシングモデルのストリートバージョン
- 「ゴルフGTI TCR」は、2018年5月にオーストリアで開催された「GTI」のファンミーティング「ヴェルターゼー」において世界初披露されたコンセプトカーの市販モデル。2019年10月25日に日本導入がアナウンスされた。
欧州では、すでに新世代モデル=“ゴルフ8”が発表済みというタイミング。けれども日本でそれとほぼ時を同じくして受注開始されたのが、7代目ゴルフGTIをベースにさらなるチューニングが施され、“史上最強のGTI”といえるスペックに仕上げられたゴルフGTI TCRだ。
車名に加わった“TCR”の文字は、2018年にシリーズが正式スタートし、昨2019年シーズンには10の国と地域で開催されたWTCRと呼ばれるツーリングカーレースに由来するもの。4連覇を達成しながら惜しまれつつワールド・ラリー・チャンピオンシップ(WRC)の舞台から撤退して以降、フォルクスワーゲンきっての“戦うクルマ”となった同名のレーシングモデルをモチーフに、ストリートバージョンとして仕立てられたのがこのモデルである。日本では509万8000円という価格で、台数限定600台が販売される。
「ゴルフR」用のユニットをベースに専用チューニングを施したと説明される搭載エンジンは、290PSの最高出力と380N・mの最大トルクを発生。これは、同じターボ付きの2リッター直列4気筒直噴でありつつも、“普通のGTI”の心臓に比べると60PSのパワーと30N・mのトルクが上乗せされている計算だ。
そんなエンジンのみならず、組み合わされるトランスミッションもベース車の6段DCTから7段DCTへと変更。その理由のひとつに、両ユニットのトルク許容量の違いがあると考えられる。
車名に加わった“TCR”の文字は、2018年にシリーズが正式スタートし、昨2019年シーズンには10の国と地域で開催されたWTCRと呼ばれるツーリングカーレースに由来するもの。4連覇を達成しながら惜しまれつつワールド・ラリー・チャンピオンシップ(WRC)の舞台から撤退して以降、フォルクスワーゲンきっての“戦うクルマ”となった同名のレーシングモデルをモチーフに、ストリートバージョンとして仕立てられたのがこのモデルである。日本では509万8000円という価格で、台数限定600台が販売される。
「ゴルフR」用のユニットをベースに専用チューニングを施したと説明される搭載エンジンは、290PSの最高出力と380N・mの最大トルクを発生。これは、同じターボ付きの2リッター直列4気筒直噴でありつつも、“普通のGTI”の心臓に比べると60PSのパワーと30N・mのトルクが上乗せされている計算だ。
そんなエンジンのみならず、組み合わされるトランスミッションもベース車の6段DCTから7段DCTへと変更。その理由のひとつに、両ユニットのトルク許容量の違いがあると考えられる。
魅力的な専用アイテム
レーシングバージョンのルックスは、派手なオーバーフェンダーや巨大なリアウイングなど、WTCR規定にのっとったボディーキットの採用でいかにも“戦うマシン”ならではの迫力に満ちている。しかし同じGTI TCRを名乗りつつも、一般市販向けとなるストリートバージョンのそれは、コンペティションマシンをベースとしたこの手のモデルでおなじみの「羊の皮をかぶった狼」という表現が思わず口をつくほどに、ことのほかジェントルな仕上がりだ。
とはいえその姿は見る人が見れば、ひと目で「これはただ者ではないナ」ということが分かるはずだ。ローターにドリルホール処理が施された大径の前輪ブレーキや専用デザインのマットブラック仕上げとなる19インチホイール、後端にガーニーフラップ調のリップが加えられたルーフスポイラー、いかにも効果の高そうなリア下部のディフューザー、さらにはその両サイドからエンド部分が姿をのぞかせるアクラポヴィッチ製排気システムの採用といったポイントなどが、見た目で分かるGTI標準モデルとの主な違いになる。
シリーズ中トップパフォーマンスの持ち主とはいえ、その仕立てが必ずしも“ハードコア一辺倒”でないことは、ドアを開きキャビン内を見てもすぐに理解できる。
すべての内装パネルが剝がされ、ロールケージが組み込まれたレーシングバージョンと比較するまでもなく、こちらストリートバージョンのキャビン内は、“ゴージャス”と表現してもあながち外れとはいえない仕上がりぶり。そうした中でも目を引くのが、専用表皮デザインのシートや12時の位置に赤いセンターマークが組み込まれたステアリングホイール、赤い差し色が加えられたシフトノブなど、いずれもこのモデル専用となるアイテム類。いずれにしても、そこに“スパルタン”という印象などは皆無である。
とはいえその姿は見る人が見れば、ひと目で「これはただ者ではないナ」ということが分かるはずだ。ローターにドリルホール処理が施された大径の前輪ブレーキや専用デザインのマットブラック仕上げとなる19インチホイール、後端にガーニーフラップ調のリップが加えられたルーフスポイラー、いかにも効果の高そうなリア下部のディフューザー、さらにはその両サイドからエンド部分が姿をのぞかせるアクラポヴィッチ製排気システムの採用といったポイントなどが、見た目で分かるGTI標準モデルとの主な違いになる。
シリーズ中トップパフォーマンスの持ち主とはいえ、その仕立てが必ずしも“ハードコア一辺倒”でないことは、ドアを開きキャビン内を見てもすぐに理解できる。
すべての内装パネルが剝がされ、ロールケージが組み込まれたレーシングバージョンと比較するまでもなく、こちらストリートバージョンのキャビン内は、“ゴージャス”と表現してもあながち外れとはいえない仕上がりぶり。そうした中でも目を引くのが、専用表皮デザインのシートや12時の位置に赤いセンターマークが組み込まれたステアリングホイール、赤い差し色が加えられたシフトノブなど、いずれもこのモデル専用となるアイテム類。いずれにしても、そこに“スパルタン”という印象などは皆無である。
普通に走れば普通のゴルフ
シフトレバー横に位置するスタートボタンを押して、前述の通り290PSまで最高出力が引き上げられたエンジンに火を入れると、まずはその段階で“普通のGTI”との違いが感じられる。耳に届くサウンドが、より金属的であるのだ。
選択するドライブモードによってサウンドが変化する電気的なギミックは、通常のGTI同様このモデルにも採用されているが、それとは別にアクラポヴィッチのチタン製エキゾーストシステム経由で伝えられる音色がやや異質でボリュームも大きく、より高いスポーツ性を演出している。
湿式クラッチ内蔵の7段化されたDCTは、微低速時でもマナーが上々。渋滞の中でも不快な振動やノイズを伴うことなく、“ほふく前進”もソツなくこなしてくれる。ピークパワーの高さが大きな魅力となるエンジンだが、街乗りシーンでの扱いやすさも文句ナシ。それどころかフリクションが取れて低回転域から抵抗なく滑らかに回る感触は、GTIシリーズの中にあっても随一と思えるものだった。
当然サーキット走行も視野に入れたセッティングが行われているであろうフットワークは、やはり標準GTIのそれよりも硬めのテイスト。しかし、電子制御式可変減衰力ダンパーを最も穏やかな「コンフォート」にすれば、「ノーマル」ポジションでもやや目立った突き上げ感がほとんどなくなり、文字通りより快適な走りを味わうことができるようになる。
一方で、そんな軽負荷走行時にはロードノイズの大きさや、前述ドリルドディスクからと思われるブレーキング時の軽いノイズがやや気になった。それでもベーシックなグレードと同様のパッケージングを筆頭に、実用面で「ゴルフならでは」という美点を全く欠くことがないのも事実である。
ホットハッチとして知られるGTIシリーズがそうであるように、“史上最速のGTI”をうたうTCRもまた、“普通に走れば普通のゴルフ”である。そんな印象は、重ねて言うがGTIシリーズのひとつのキャラクターなのだ。
選択するドライブモードによってサウンドが変化する電気的なギミックは、通常のGTI同様このモデルにも採用されているが、それとは別にアクラポヴィッチのチタン製エキゾーストシステム経由で伝えられる音色がやや異質でボリュームも大きく、より高いスポーツ性を演出している。
湿式クラッチ内蔵の7段化されたDCTは、微低速時でもマナーが上々。渋滞の中でも不快な振動やノイズを伴うことなく、“ほふく前進”もソツなくこなしてくれる。ピークパワーの高さが大きな魅力となるエンジンだが、街乗りシーンでの扱いやすさも文句ナシ。それどころかフリクションが取れて低回転域から抵抗なく滑らかに回る感触は、GTIシリーズの中にあっても随一と思えるものだった。
当然サーキット走行も視野に入れたセッティングが行われているであろうフットワークは、やはり標準GTIのそれよりも硬めのテイスト。しかし、電子制御式可変減衰力ダンパーを最も穏やかな「コンフォート」にすれば、「ノーマル」ポジションでもやや目立った突き上げ感がほとんどなくなり、文字通りより快適な走りを味わうことができるようになる。
一方で、そんな軽負荷走行時にはロードノイズの大きさや、前述ドリルドディスクからと思われるブレーキング時の軽いノイズがやや気になった。それでもベーシックなグレードと同様のパッケージングを筆頭に、実用面で「ゴルフならでは」という美点を全く欠くことがないのも事実である。
ホットハッチとして知られるGTIシリーズがそうであるように、“史上最速のGTI”をうたうTCRもまた、“普通に走れば普通のゴルフ”である。そんな印象は、重ねて言うがGTIシリーズのひとつのキャラクターなのだ。
純エンジン搭載ゴルフGTIの最終形
- 「GTI TCR」には、デジタルメータークラスター“Active Info Display”(写真)やダイナミックライトアシスト、ダイナミックコーナリングライト、ダークテールランプ/LEDテールランプがセットとなる「テクノロジーパッケージ」が標準装備される。
さらに、ワインディングロードへと連れ出して、アクセルペダルを深く踏み込んでみると、走りの本領がより分かりやすく味わえた。
加速時に駆動輪の荷重が抜けやすいFF車というハンディキャップを跳ねのけ、5.6秒という優れた0-100km/h加速タイムを実現させているように、まずはその動力性能が大きな見どころであるのは間違いない。
同時に、エンジンの回転フィールも滑らかだ。これならば現状6500rpmのレッドラインをあと500rpmは上方にずらしてもいいのではないかと思えるほどにシャープで軽やかな、特筆に値する吹け上がりである。
そんなエンジンが低回転域からも扱いやすいことは前述の通りだが、そのパワフルさが本格的に享受できるようになってくるのは2500rpm付近から。さらに4500rpmあたりに達すると、パワーのさく裂感がもう一段増しになる。まるで「もっと回せ!」と言っているようなフィーリングもこのモデルならではで、なるほどこれならば誰もがサーキットを走ってみたくなるに違いない。
同時に感心させられたのは路面を問わないトラクション能力の高さで、そこでは電子制御式の油圧デフロックの機能が効果的に働いている感覚が強かった。きつい上りのヘアピンコーナーの立ち上がりで、FFレイアウトとは思えない駆動力が得られたのは、まさにその恩恵である。走りのペースがどんどん高まってもゴルフらしい正確な舵の感覚が失われないのは、こうしたトラクション能力の高さにも要因があるはずだ。
冒頭で述べたように、すでにベースとなるゴルフの次期モデルが発表された段階になっての日本上陸には、いささかの戸惑いが感じられるのも事実。だが、それでもこれを“最終熟成形”と受け取るのであれば、内容的には十分納得のできる仕上がりであることもまた確かだ。
ある意味、7代目ゴルフの頂点に立つという位置づけのモデルであることを思えば、むしろ「今だからこそ買い」と言えるかもしれない。何となれば“純エンジンを搭載したゴルフ”のスポーツモデルとしても、これが最終形になるかもしれないからだ。
(文=河村康彦/写真=荒川正幸/編集=櫻井健一)
加速時に駆動輪の荷重が抜けやすいFF車というハンディキャップを跳ねのけ、5.6秒という優れた0-100km/h加速タイムを実現させているように、まずはその動力性能が大きな見どころであるのは間違いない。
同時に、エンジンの回転フィールも滑らかだ。これならば現状6500rpmのレッドラインをあと500rpmは上方にずらしてもいいのではないかと思えるほどにシャープで軽やかな、特筆に値する吹け上がりである。
そんなエンジンが低回転域からも扱いやすいことは前述の通りだが、そのパワフルさが本格的に享受できるようになってくるのは2500rpm付近から。さらに4500rpmあたりに達すると、パワーのさく裂感がもう一段増しになる。まるで「もっと回せ!」と言っているようなフィーリングもこのモデルならではで、なるほどこれならば誰もがサーキットを走ってみたくなるに違いない。
同時に感心させられたのは路面を問わないトラクション能力の高さで、そこでは電子制御式の油圧デフロックの機能が効果的に働いている感覚が強かった。きつい上りのヘアピンコーナーの立ち上がりで、FFレイアウトとは思えない駆動力が得られたのは、まさにその恩恵である。走りのペースがどんどん高まってもゴルフらしい正確な舵の感覚が失われないのは、こうしたトラクション能力の高さにも要因があるはずだ。
冒頭で述べたように、すでにベースとなるゴルフの次期モデルが発表された段階になっての日本上陸には、いささかの戸惑いが感じられるのも事実。だが、それでもこれを“最終熟成形”と受け取るのであれば、内容的には十分納得のできる仕上がりであることもまた確かだ。
ある意味、7代目ゴルフの頂点に立つという位置づけのモデルであることを思えば、むしろ「今だからこそ買い」と言えるかもしれない。何となれば“純エンジンを搭載したゴルフ”のスポーツモデルとしても、これが最終形になるかもしれないからだ。
(文=河村康彦/写真=荒川正幸/編集=櫻井健一)
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