【試乗記】トヨタ・ヤリス ハイブリッドG(FF/CVT)

トヨタ・ヤリス ハイブリッドG(FF/CVT)【試乗記】
トヨタ・ヤリス ハイブリッドG(FF/CVT)

人が変わったように体育会系

トヨタのコンパクトカー「ヴィッツ」がフルモデルチェンジ。プラットフォームやパワートレイン、内外装デザインなどすべてが刷新され、車名まで従来のグローバル名たる「ヤリス」に改められて登場した。まずは最量販モデルと位置付けられる「ハイブリッドG」の出来栄えを確かめる。

名前も含めすべてが新しい

新型「ヤリス」は2019年10月16日に世界初公開された。「ヴィッツ」のフルモデルチェンジを機にグローバルネームのヤリスに改名。1999年に誕生した初代ヴィッツから数えて4代目にあたる。
新型「ヤリス」は2019年10月16日に世界初公開された。「ヴィッツ」のフルモデルチェンジを機にグローバルネームのヤリスに改名。1999年に誕生した初代ヴィッツから数えて4代目にあたる。
12モデル設定されたラインナップの中から今回試乗したのは、最量販モデルに位置付けられている「ハイブリッドG」。試乗車にはオプションの3灯式フルLEDヘッドランプが装着されていた。
12モデル設定されたラインナップの中から今回試乗したのは、最量販モデルに位置付けられている「ハイブリッドG」。試乗車にはオプションの3灯式フルLEDヘッドランプが装着されていた。
上下2段に分かれたデザインのインストゥルメントパネルにはソフトパッドが貼られる。メーターは双眼鏡をモチーフとした形状で、表示部には液晶パネルが用いられている。
上下2段に分かれたデザインのインストゥルメントパネルにはソフトパッドが貼られる。メーターは双眼鏡をモチーフとした形状で、表示部には液晶パネルが用いられている。
「ヤリス」のボディーサイズは全長×全幅×全高=3940×1695×1500mm、ホイールベース=2550mm。
「ヤリス」のボディーサイズは全長×全幅×全高=3940×1695×1500mm、ホイールベース=2550mm。
20年3代続いた車名を変えるなんて、たぶん前例のないことである。しかし4代目ヴィッツは、今回のモデルチェンジで欧州名と同じヤリスになった。

トヨタが2017年にWRC(世界ラリー選手権)に復帰して以来、ヤリスは早くもトップコンテンダーである。今年は10年ぶりに日本開催が実現し、シリーズ最終戦で愛知/岐阜県内をヤリスWRCが走る。そこで「日本名ヴィッツ」というただし書きは使いたくなかったというのも改名の理由のひとつだったようだ。

なによりも新型ヤリスはプラットフォーム(車台)からパワートレインや足まわりまでオールニューである。名前も含めて、どれだけ新しくなったのか。期待して試乗に臨んだのは、ハイブリッドの上級モデル、G(価格は213万円)である。

内装は黒とこげ茶のツートーン。色のせいもあって、けっこうプレミアム感がある。だが、キャビンはタイトだ。ボディー外寸は旧ヴィッツと変わらないが、中は狭くなった。強く寝たフロントピラーが迫る前席空間はクーペ的だ。前席ドア内側のたっぷり大きいドアグリップなどを見ても、いの一番に広さを狙ったコンパクトカーではないことがわかる。

しかし走りだすと、オオッ! と思った。サプライズだ。たしかにこれはヤリスである。こんなヴィッツはいままでなかったぞ。“オオッ!”を味わいながら約30km、高速道路には乗らずに帰った。ヤリス ハイブリッドは、下(一般道)を走りたくなるクルマである。

新型「ヤリス」は2019年10月16日に世界初公開された。「ヴィッツ」のフルモデルチェンジを機にグローバルネームのヤリスに改名。1999年に誕生した初代ヴィッツから数えて4代目にあたる。
新型「ヤリス」は2019年10月16日に世界初公開された。「ヴィッツ」のフルモデルチェンジを機にグローバルネームのヤリスに改名。1999年に誕生した初代ヴィッツから数えて4代目にあたる。
12モデル設定されたラインナップの中から今回試乗したのは、最量販モデルに位置付けられている「ハイブリッドG」。試乗車にはオプションの3灯式フルLEDヘッドランプが装着されていた。
12モデル設定されたラインナップの中から今回試乗したのは、最量販モデルに位置付けられている「ハイブリッドG」。試乗車にはオプションの3灯式フルLEDヘッドランプが装着されていた。
上下2段に分かれたデザインのインストゥルメントパネルにはソフトパッドが貼られる。メーターは双眼鏡をモチーフとした形状で、表示部には液晶パネルが用いられている。
上下2段に分かれたデザインのインストゥルメントパネルにはソフトパッドが貼られる。メーターは双眼鏡をモチーフとした形状で、表示部には液晶パネルが用いられている。
「ヤリス」のボディーサイズは全長×全幅×全高=3940×1695×1500mm、ホイールベース=2550mm。
「ヤリス」のボディーサイズは全長×全幅×全高=3940×1695×1500mm、ホイールベース=2550mm。

意のままに速いハイブリッド

新開発された1.5リッター直3エンジン+モーターのハイブリッドパワーユニット。エンジンは最高出力91PS、最大トルク120N・mを発生。これに80PS、141N・mのモーターが組み合わされる。
新開発された1.5リッター直3エンジン+モーターのハイブリッドパワーユニット。エンジンは最高出力91PS、最大トルク120N・mを発生。これに80PS、141N・mのモーターが組み合わされる。
低重心・高剛性の「TNGA」プラットフォームが用いられた「ヤリス」のリアビュー。ボディー下部に行くにしたがってワイドになる、タイヤの踏ん張り感が強調されたデザインであることがわかる。
低重心・高剛性の「TNGA」プラットフォームが用いられた「ヤリス」のリアビュー。ボディー下部に行くにしたがってワイドになる、タイヤの踏ん張り感が強調されたデザインであることがわかる。
リアハッチを開けた様子。従来型の「ヴィッツ」に比べ荷室開口部の左右幅は狭い。荷室容量は先代ヴィッツと同等レベルが確保されているという。
リアハッチを開けた様子。従来型の「ヴィッツ」に比べ荷室開口部の左右幅は狭い。荷室容量は先代ヴィッツと同等レベルが確保されているという。
新しい1.5リッター3気筒ハイブリッドのサプライズは、まずパワフルなことである。旧ヴィッツの1.5リッター4気筒ハイブリッドと比べると、エンジンも駆動用モーターも3割ほどパワーアップした。一方、車重は40kg軽くなっている。快速ハイブリッドに生まれ変わるのも理の当然だ。

とくにスタートダッシュが力強い。ドライブモードの切り替えで、「ノーマル」のほかに「スポーツ」と「エコ」が選べるが、どのモードでも右足を深く踏み込めば、速い。パートスロットルでのレスポンスもいいから、意のままに速い。おかげで、緩急の差が激しい混んだ町なかでも楽しく走れる。

足まわりも想定外にスポーティーだ。サスペンションは硬めで、しかも“基礎”であるボディーにカプセルのような堅牢感がある。ただし、サスペンションがしなやかに動いて、ボディーは揺れないという、いわゆるフラットなアシではない。ワンインチアップしたオプションの185/60R15タイヤを履くせいもあってか、ロードノイズも大きめだ。しかし旧ヴィッツ ハイブリッドの退屈な動的キャラクターを思い出すと、よくここまでスポーティー方向に舵をきったものだと思う。ヤリス ハイブリッドは人が変わったように体育会系なのだ。

新開発された1.5リッター直3エンジン+モーターのハイブリッドパワーユニット。エンジンは最高出力91PS、最大トルク120N・mを発生。これに80PS、141N・mのモーターが組み合わされる。
新開発された1.5リッター直3エンジン+モーターのハイブリッドパワーユニット。エンジンは最高出力91PS、最大トルク120N・mを発生。これに80PS、141N・mのモーターが組み合わされる。
低重心・高剛性の「TNGA」プラットフォームが用いられた「ヤリス」のリアビュー。ボディー下部に行くにしたがってワイドになる、タイヤの踏ん張り感が強調されたデザインであることがわかる。
低重心・高剛性の「TNGA」プラットフォームが用いられた「ヤリス」のリアビュー。ボディー下部に行くにしたがってワイドになる、タイヤの踏ん張り感が強調されたデザインであることがわかる。
リアハッチを開けた様子。従来型の「ヴィッツ」に比べ荷室開口部の左右幅は狭い。荷室容量は先代ヴィッツと同等レベルが確保されているという。
リアハッチを開けた様子。従来型の「ヴィッツ」に比べ荷室開口部の左右幅は狭い。荷室容量は先代ヴィッツと同等レベルが確保されているという。

スポーティーなシャシー

「ヤリス ハイブリッドG」の標準タイヤサイズは175/70R14だが、試乗車にはオプションの185/60R15タイヤ&15×6Jアルミホイールが装着されていた。ホイールベースは先代「ヴィッツ」比で40mm延長されている。FF車のサスペンションはフロントがマクファーソン式、リアがトーションビーム式となる。
「ヤリス ハイブリッドG」の標準タイヤサイズは175/70R14だが、試乗車にはオプションの185/60R15タイヤ&15×6Jアルミホイールが装着されていた。ホイールベースは先代「ヴィッツ」比で40mm延長されている。FF車のサスペンションはフロントがマクファーソン式、リアがトーションビーム式となる。
前席の着座位置は従来型の「ヴィッツ」比で21mm下げられた。運転席には「コンフォートシートセット」として、シートヒーターなどとセットとなるオプションの「運転席イージーリターン機能」が備わっていた。ワンアクションで記憶させた位置にシートをスライドさせる、乗り降りの際に便利な機能だ。
前席の着座位置は従来型の「ヴィッツ」比で21mm下げられた。運転席には「コンフォートシートセット」として、シートヒーターなどとセットとなるオプションの「運転席イージーリターン機能」が備わっていた。ワンアクションで記憶させた位置にシートをスライドさせる、乗り降りの際に便利な機能だ。
後席も着座位置が先代比で32mm下げられ、乗り降りがしやすくなっている。背もたれには、60:40の分割可倒機構が備わっている。
後席も着座位置が先代比で32mm下げられ、乗り降りがしやすくなっている。背もたれには、60:40の分割可倒機構が備わっている。
夕方5時に借り出した試乗車に乗れるのは翌朝11時までだった。早起きしてロケ地へ向かう。

ゆうべアクセルを踏み過ぎたせいなのか、朝、始動すると数秒でエンジンがかかり、充電を始めた。ぼくの場合、朝は試乗のマジックアワーで、どんなクルマもいちばんの好印象を受ける時間帯なのだが、やはり足まわりは硬いなあと思った。

高速道路で運転支援システムを試す。ハンドル右スポーク上で操作できるACC(アダプティブクルーズコントロール)は使いやすい。ツータッチで自動巡航に入る。センタートレースするレーンキープ機能もよくできている。ときどきグイッとハンドルに介入してくるが、やってる感があっていいと思う。

ステアリングホイールは37cm弱と小径だ。操舵力は軽いが、ステアリング系の剛性感はすごく高い。期待して行きつけのワインディングロードを走った。平滑な路面ではいいのだが、補修跡やうねりのある荒れた路面だと揺すられるし、突き上げも大きい。乗り心地の荒さがハンドリングの楽しさをスポイルしてしまう。硬くてもいいが、もっとしなやかさとフラットさがほしい。

いずれにしても、「とにかく燃費」というモチベーションでハイブリッドを選ぶ人にとって、このシャシーはスポーティーに過ぎると思う。というか、これで行くなら“ハイブリッドスポーツ”のような看板を掲げたほうがよかったのではないか。

「ヤリス ハイブリッドG」の標準タイヤサイズは175/70R14だが、試乗車にはオプションの185/60R15タイヤ&15×6Jアルミホイールが装着されていた。ホイールベースは先代「ヴィッツ」比で40mm延長されている。FF車のサスペンションはフロントがマクファーソン式、リアがトーションビーム式となる。
「ヤリス ハイブリッドG」の標準タイヤサイズは175/70R14だが、試乗車にはオプションの185/60R15タイヤ&15×6Jアルミホイールが装着されていた。ホイールベースは先代「ヴィッツ」比で40mm延長されている。FF車のサスペンションはフロントがマクファーソン式、リアがトーションビーム式となる。
前席の着座位置は従来型の「ヴィッツ」比で21mm下げられた。運転席には「コンフォートシートセット」として、シートヒーターなどとセットとなるオプションの「運転席イージーリターン機能」が備わっていた。ワンアクションで記憶させた位置にシートをスライドさせる、乗り降りの際に便利な機能だ。
前席の着座位置は従来型の「ヴィッツ」比で21mm下げられた。運転席には「コンフォートシートセット」として、シートヒーターなどとセットとなるオプションの「運転席イージーリターン機能」が備わっていた。ワンアクションで記憶させた位置にシートをスライドさせる、乗り降りの際に便利な機能だ。
後席も着座位置が先代比で32mm下げられ、乗り降りがしやすくなっている。背もたれには、60:40の分割可倒機構が備わっている。
後席も着座位置が先代比で32mm下げられ、乗り降りがしやすくなっている。背もたれには、60:40の分割可倒機構が備わっている。

まさかの快速ゆえに楽しい

試乗車にオプション装備されていた駐車支援システム「トヨタチームメイト アドバンストパーク」を操作する様子。駐車場所の位置決めはタッチパネルを介して簡単に行える。
試乗車にオプション装備されていた駐車支援システム「トヨタチームメイト アドバンストパーク」を操作する様子。駐車場所の位置決めはタッチパネルを介して簡単に行える。
「トヨタチームメイト アドバンストパーク」で並列駐車を試す。車両の指示通りにブレーキやシフトレバーを操作する必要はあるが、ハンドルをきる作業はすべて車両が自動で行ってくれる。駐車完了後はセンターディスプレイに、車両の全周が映し出される。
「トヨタチームメイト アドバンストパーク」で並列駐車を試す。車両の指示通りにブレーキやシフトレバーを操作する必要はあるが、ハンドルをきる作業はすべて車両が自動で行ってくれる。駐車完了後はセンターディスプレイに、車両の全周が映し出される。
「ヤリス」の外装は単色が12タイプ、ルーフとピラー部分がボディーと別色になるツートンカラーが6タイプ設定されている。試乗車のボディーカラーは「アイスピンクメタリック」と呼ばれるもの。WLTCモードの燃費値は35.8km/リッター。
「ヤリス」の外装は単色が12タイプ、ルーフとピラー部分がボディーと別色になるツートンカラーが6タイプ設定されている。試乗車のボディーカラーは「アイスピンクメタリック」と呼ばれるもの。WLTCモードの燃費値は35.8km/リッター。
オプション(7万7000円)の駐車支援システムが付いていたので、白線の区画がある公共駐車場で並列駐車を試した。ドライバーがやるべき操作は、クルマが教えてくれる。車庫入れバックが始まったら、基本、ハンドルにもペダルにも触れなくていい。複数の駐車場で10回くらいやってみた。区画に対してちょっとナナメってるぞと思ったら、もういちど前進して、まっすぐにしたことが2回あった。駐車が完了すると、アラウンドビューモニターを駆使した合成映像がディスプレイで踊り、最後、そこに止まっているドヤ顔のヤリスが映る。まだ自分がやったほうが少し早いから、クルマの往来の激しいところでお世話になろうとは思わないが、すでに十分、使える装置である。

急ぎ足の初試乗で約260kmを走り、燃費は18.3km/リッター(満タン法)だった。カタログ値(35.8km/リッター)の半分。もうちょっと走ってくれるかと思った。試乗車のオドメーターは1400kmあまりで、過去最高燃費は23km/リッター台と出ていた。

でも、まさかの快速ハイブリッドスポーツハッチは、それゆえ楽しいクルマだった。ヤリスに興味のある人は、ぜひディーラーに足を運んで実車を確認し、試乗させてもらうことをおすすめしたい。これはヴィッツではない、ヤリスという新種なのだから。

(文=下野康史<かばたやすし>/写真=花村英典/編集=櫻井健一/撮影協力=河口湖ステラシアター)

試乗車にオプション装備されていた駐車支援システム「トヨタチームメイト アドバンストパーク」を操作する様子。駐車場所の位置決めはタッチパネルを介して簡単に行える。
試乗車にオプション装備されていた駐車支援システム「トヨタチームメイト アドバンストパーク」を操作する様子。駐車場所の位置決めはタッチパネルを介して簡単に行える。
「トヨタチームメイト アドバンストパーク」で並列駐車を試す。車両の指示通りにブレーキやシフトレバーを操作する必要はあるが、ハンドルをきる作業はすべて車両が自動で行ってくれる。駐車完了後はセンターディスプレイに、車両の全周が映し出される。
「トヨタチームメイト アドバンストパーク」で並列駐車を試す。車両の指示通りにブレーキやシフトレバーを操作する必要はあるが、ハンドルをきる作業はすべて車両が自動で行ってくれる。駐車完了後はセンターディスプレイに、車両の全周が映し出される。
「ヤリス」の外装は単色が12タイプ、ルーフとピラー部分がボディーと別色になるツートンカラーが6タイプ設定されている。試乗車のボディーカラーは「アイスピンクメタリック」と呼ばれるもの。WLTCモードの燃費値は35.8km/リッター。
「ヤリス」の外装は単色が12タイプ、ルーフとピラー部分がボディーと別色になるツートンカラーが6タイプ設定されている。試乗車のボディーカラーは「アイスピンクメタリック」と呼ばれるもの。WLTCモードの燃費値は35.8km/リッター。

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