【試乗記】トヨタ・ヤリスZ(FF/CVT)
- トヨタ・ヤリスZ(FF/CVT)
便利より楽しさ
全面刷新された「ヴィッツ」あらため「ヤリス」。「ハイブリッドG」に続き、ガソリンエンジン搭載のFFトップグレード「Z」に試乗。最高出力120PSの新開発1.5リッター直3エンジン+CVTはどんな走りを見せるのか。そしてハイブリッドモデルとの違いは?
助手席にヴィッツがいた!
新型コロナ禍でプレス試乗会が中止になり、そのかわり個別に2台のヤリスが貸し出されることになった。ハイブリッドG(既報)の次にステアリングを握ったのはZ(192万6000円)。ハイブリッドではない1.5リッターシリーズの最上級グレードだ。
WRCのホモロゲーションモデルである1.6リッターの「GRヤリス」を含めて、ヤリスはすべて3気筒である。ノーマルのヤリスにおいては、1.5リッターが今回初出の新エンジン。既存の1リッターには新たに6段MTモデルが用意されて、大いにソソられるところだが、まだ試乗車は用意されていない。早速ヤリスを導入したと宣伝するレンタカー会社も、調べたら1.5リッターの4WDだった。ヤリスの“押し”は、ダイナミックフォースエンジンという『スター・ウォーズ』みたいな名前の1.5リッター系である。
ハイブリッドから乗り換えても、室内の印象は変わらない。ダッシュボードの眺めも同じだ。オールデジタルの計器盤にタコメーターがあるのがハイブリッドとの違い。DとB、ふたつの前進ポジションを持つCVTのあっさりしたセレクターもハイブリッドと共通だ。
運転席シート右側には新趣向の“イージーリターン機能”を使うレバーがある。これを引いて足を突っ張れば、シートがいちばん後ろまで下がる。乗車時に再びレバーを引いてシートを前に出すと、前回のポジションで止まる。電動ではないのになぜ位置を記憶しているのか不思議だが、たしかに便利だ。ヤリスはフロントピラーがクーペのように寝ている。ポジションメモリーもさることながら、降車時に手近のレバーでシートを最後部位置まで下げられるのはありがたい。
おお、ここにヴィッツがいた! と思ったのは助手席の「買い物アシストシート」である。座面前端部に隠れたついたてを引き上げておけば、急制動時でもシートの上に載せていた物が転げ落ちない。ヴィッツ伝統の親切装備である。
WRCのホモロゲーションモデルである1.6リッターの「GRヤリス」を含めて、ヤリスはすべて3気筒である。ノーマルのヤリスにおいては、1.5リッターが今回初出の新エンジン。既存の1リッターには新たに6段MTモデルが用意されて、大いにソソられるところだが、まだ試乗車は用意されていない。早速ヤリスを導入したと宣伝するレンタカー会社も、調べたら1.5リッターの4WDだった。ヤリスの“押し”は、ダイナミックフォースエンジンという『スター・ウォーズ』みたいな名前の1.5リッター系である。
ハイブリッドから乗り換えても、室内の印象は変わらない。ダッシュボードの眺めも同じだ。オールデジタルの計器盤にタコメーターがあるのがハイブリッドとの違い。DとB、ふたつの前進ポジションを持つCVTのあっさりしたセレクターもハイブリッドと共通だ。
運転席シート右側には新趣向の“イージーリターン機能”を使うレバーがある。これを引いて足を突っ張れば、シートがいちばん後ろまで下がる。乗車時に再びレバーを引いてシートを前に出すと、前回のポジションで止まる。電動ではないのになぜ位置を記憶しているのか不思議だが、たしかに便利だ。ヤリスはフロントピラーがクーペのように寝ている。ポジションメモリーもさることながら、降車時に手近のレバーでシートを最後部位置まで下げられるのはありがたい。
おお、ここにヴィッツがいた! と思ったのは助手席の「買い物アシストシート」である。座面前端部に隠れたついたてを引き上げておけば、急制動時でもシートの上に載せていた物が転げ落ちない。ヴィッツ伝統の親切装備である。
フラットライドではない
- 「ダイナミックフォースエンジン」と呼ばれる新開発の1.5リッター直噴直3ユニットは最高出力120PS、最大トルク145N・mという実力。6段MTもラインナップするが、今回の試乗車は発進ギア付きの「ダイレクトシフトCVT」を組み合わせていた。
1.5リッターハイブリッドと、素の1.5リッター。走りの印象はどう違うのか。簡単に言うと、ハイブリッドがターボ付き、素はノンターボという感じである。
ヤリスのハイブリッドは、トヨタ製コンパクトハイブリッドのイメージを塗り替えるほどパワフルでレスポンシブだ。エンジンとモーターとの協調によるスタートダッシュはとくに“快速”といっていい。
それに比べると、120PSの1.5リッターはフツーである。1020kgの車重は同グレード比で70kg軽く、ワインディングロードへ行くと、たしかにノーズの軽い印象はあるが、パワートレインそのもののありがたみや楽しさはやはりハイブリッドが上である。CVTは低速時用のギアを備える最新型だが、追い越し時などに回して使うと、高回転にずっと張りついたままの感じがいかにもCVTっぽい。
1気筒あたり約500ccの3気筒エンジンも、もちろんパワーは十分にある。アイドリングストップ機構はなく、ずっと回っているエンジンだが、音やビートにとくべつな3気筒っぽさはない。そういう意味でもフツーだ。
ハイブリッドの弱点は乗り心地だった。平滑な路面では問題ないが、荒れた舗装路ではけっこう突き上げがくるし、高速道路の継ぎ目などでは剛性感の高いボディーをブワンと揺する。サスペンションは動いてもボディーは揺れない、欧州コンパクトカーに多いフラットライドではない。
そんな印象が1.5リッターのZではどう違うかなと思ったら、基本、同じだった。ハイブリッドはパワートレインがスポーティーなので、この乗り心地にもなんとか納得がいったが、素の1.5リッターではそういう折り合いがつけにくい。新規プラットフォームの採用で全体にプレミアム感は増したのだから、乗り心地の品質感ももう少し高いとよかった。
ヤリスのハイブリッドは、トヨタ製コンパクトハイブリッドのイメージを塗り替えるほどパワフルでレスポンシブだ。エンジンとモーターとの協調によるスタートダッシュはとくに“快速”といっていい。
それに比べると、120PSの1.5リッターはフツーである。1020kgの車重は同グレード比で70kg軽く、ワインディングロードへ行くと、たしかにノーズの軽い印象はあるが、パワートレインそのもののありがたみや楽しさはやはりハイブリッドが上である。CVTは低速時用のギアを備える最新型だが、追い越し時などに回して使うと、高回転にずっと張りついたままの感じがいかにもCVTっぽい。
1気筒あたり約500ccの3気筒エンジンも、もちろんパワーは十分にある。アイドリングストップ機構はなく、ずっと回っているエンジンだが、音やビートにとくべつな3気筒っぽさはない。そういう意味でもフツーだ。
ハイブリッドの弱点は乗り心地だった。平滑な路面では問題ないが、荒れた舗装路ではけっこう突き上げがくるし、高速道路の継ぎ目などでは剛性感の高いボディーをブワンと揺する。サスペンションは動いてもボディーは揺れない、欧州コンパクトカーに多いフラットライドではない。
そんな印象が1.5リッターのZではどう違うかなと思ったら、基本、同じだった。ハイブリッドはパワートレインがスポーティーなので、この乗り心地にもなんとか納得がいったが、素の1.5リッターではそういう折り合いがつけにくい。新規プラットフォームの採用で全体にプレミアム感は増したのだから、乗り心地の品質感ももう少し高いとよかった。
ベストヤリスは?
約280kmを走り、満タン法で測った燃費は16.3km/リッター。このとき車載燃費計も16.3km/リッターだった。ロケ地までほぼ同行したハイブリッドは18km/リッター台だったから、大健闘である。というか、JC08モードより現実的といわれるWLTCモードで35km/リッター台をうたうハイブリッドが“話半分”だった。ただ、8割が高速道路という今回のパターンだと、ハイブリッドには不利だったかもしれない。であるにしても、いまのところベストヤリスはハイブリッドである。これまでの受注でもハイブリッドが40~45%を占めているという。
旧ヴィッツのユーザーがヤリスに触れていちばん驚くのは、テールゲートを開けたときだと思う。1695mmのボディー全幅は同寸だが、開口部が狭くなった。嵩(かさ)モノの積み降ろしはしにくくなったが、開口面積を小さくすることでボディー剛性は上がるだろう。
横から見るとフロントピラーとテールゲートの傾きが強くなり、旧ヴィッツより上屋が小さくなった。それは運転していても実感できる重心の低さにつながっている。ラリーやワンメイクレースの素材としてのポテンシャルを上げようとしたことが、ヴィッツあらためヤリスの大きなテーマだったのではないか。結果として最大公約数的コンパクトカーとしての円満な実用性能にはちょっと御遠慮願った。便利より楽しさ。1.5リッターシリーズにCVTと同じ3グレードのMTモデルを用意したことがそれを象徴している。フツーのヤリスの6段MTに早く乗ってみたい。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=花村英典/編集=櫻井健一/撮影協力=河口湖ステラシアター)
旧ヴィッツのユーザーがヤリスに触れていちばん驚くのは、テールゲートを開けたときだと思う。1695mmのボディー全幅は同寸だが、開口部が狭くなった。嵩(かさ)モノの積み降ろしはしにくくなったが、開口面積を小さくすることでボディー剛性は上がるだろう。
横から見るとフロントピラーとテールゲートの傾きが強くなり、旧ヴィッツより上屋が小さくなった。それは運転していても実感できる重心の低さにつながっている。ラリーやワンメイクレースの素材としてのポテンシャルを上げようとしたことが、ヴィッツあらためヤリスの大きなテーマだったのではないか。結果として最大公約数的コンパクトカーとしての円満な実用性能にはちょっと御遠慮願った。便利より楽しさ。1.5リッターシリーズにCVTと同じ3グレードのMTモデルを用意したことがそれを象徴している。フツーのヤリスの6段MTに早く乗ってみたい。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=花村英典/編集=櫻井健一/撮影協力=河口湖ステラシアター)
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