【試乗記】ホンダS2000<20周年記念純正アクセサリー装着車>(FR/6MT)
- ホンダS2000<20周年記念純正アクセサリー装着車>(FR/6MT)
原点に触れる
ホンダのオープントップスポーツ「S2000」の純正アクセサリーが新たに発売される。ホンダアクセスが手がけたこれらアイテムの開発コンセプトは“20年目のマイナーモデルチェンジ”。ワインディングロードで試乗し、その仕上がりを確かめた。
S2000もすでに熟年期
2020年1月の東京オートサロンにホンダS2000が出展されていた。残念ながら、新型車ではない。「S2000 20thアニバーサリー プロトタイプ」と名付けたのは一種のシャレである。1999年に発売されたS2000が20年目にマイナーチェンジを受けたという想定で仕上げられたモデルなのだ。
本当のところは、程度のいい中古車にホンダアクセスが手がけた純正アクセサリーを装着したもの。S2000に乗り続けているオーナーにとってはありがたいサービスとなる。単なる補修用のアフターパーツではない。走行性能のさらなる向上が図られている。ホンダアクセスはコンプリートカーの「モデューロX」シリーズを手がけており、その開発で得られたノウハウを投入しているのだ。純正アクセサリーの復刻アイテムも合わせて販売される。
気に入ったクルマのコンディションを維持するには、パーツの確保が課題となる。社外品もあるが、できれば純正のパーツを手に入れたいのが人情だ。以前「ホンダS600」に乗っていた時、エンジンなどの部品が比較的容易に入手できたのは本当にありがたかった。小さなネジやスプリングひとつでも、なければ修理できずに動かなくなってしまう。まさに死活問題だったのだ。ホンダでは「ビート」の純正部品供給に力を入れていて、公式サイトの専用ページには100種類以上がラインナップされている。
ビートよりは新しいが、S2000もクルマとしては熟年期。節々に疲れがたまっていてもおかしくない。アンチエイジングのためにはリフレッシュが必要だ。累計販売台数はグローバルで11万台、国内で2万台。それほど多いわけではないが、大切に乗られているから生き残っている割合は高いはずだ。中古車市場にも潤沢に供給されている。映画『ワイルド・スピード』シリーズには第1作から登場していて、海外でも人気が高い。
本当のところは、程度のいい中古車にホンダアクセスが手がけた純正アクセサリーを装着したもの。S2000に乗り続けているオーナーにとってはありがたいサービスとなる。単なる補修用のアフターパーツではない。走行性能のさらなる向上が図られている。ホンダアクセスはコンプリートカーの「モデューロX」シリーズを手がけており、その開発で得られたノウハウを投入しているのだ。純正アクセサリーの復刻アイテムも合わせて販売される。
気に入ったクルマのコンディションを維持するには、パーツの確保が課題となる。社外品もあるが、できれば純正のパーツを手に入れたいのが人情だ。以前「ホンダS600」に乗っていた時、エンジンなどの部品が比較的容易に入手できたのは本当にありがたかった。小さなネジやスプリングひとつでも、なければ修理できずに動かなくなってしまう。まさに死活問題だったのだ。ホンダでは「ビート」の純正部品供給に力を入れていて、公式サイトの専用ページには100種類以上がラインナップされている。
ビートよりは新しいが、S2000もクルマとしては熟年期。節々に疲れがたまっていてもおかしくない。アンチエイジングのためにはリフレッシュが必要だ。累計販売台数はグローバルで11万台、国内で2万台。それほど多いわけではないが、大切に乗られているから生き残っている割合は高いはずだ。中古車市場にも潤沢に供給されている。映画『ワイルド・スピード』シリーズには第1作から登場していて、海外でも人気が高い。
至高の9000rpm
今回試乗したのは、初期型モデルだった。S2000は2005年にマイナーチェンジを受けた際、エンジンの排気量が2リッターから2.2リッターに拡大されている。トルクがアップして乗りやすくなったが、レブリミットが9000rpmから8000rpmへと下がってしまった。S2000の価値はエンジンをガンガン回すことにあると信じるファンにとっては、今も2リッター版こそが至高の存在である。
運転席に座ると、一瞬で過去に引き戻された。乗るのは約15年ぶりである。低い座面、タイトな空間。ダッシュボードの先には長いボンネットが見える。ダッシュボードの一番右にある赤いボタンはスタートスイッチ。ボタンでエンジンをかける方式は、このクルマで初めて体験したと記憶している。勇んで押してみたが、うんともすんとも言わない。そうだった。まずキーを回してイグニッションをオンにしなければならないのだ。室内にキーがあればクルマがそれを感知する現在のようなシステムは、まだ存在していなかった。
ほんの少しエンジンの回転を上げて慎重にクラッチをつなぐと、スルスルと走りだした。低回転域でトルクが細いのは確かだが、発進に手こずるほどではない。簡単にストールはしないし、2500rpmほどを保っていれば、それなりに加速もできる。懐かしさを感じるのは、クラッチペダルとアクセルペダルの重さだ。高性能な機械を操っているという実感がある。そして、カチッとしたシフトフィール。街なかを流していても、シフトレバーを動かすだけで気分が上がる。
ただし、微低速のコントロールは非常にやりづらい。足先の力をごくわずか強めるだけで唐突に回転が上がってしまい、スムーズに動かすのが難しいのだ。1速と2速を切り替えながら走る渋滞では、足がつりそうになった。乗り心地もほめられたものではない。路面の荒れがガツンと伝わってくるだけでなく、横にも揺さぶられる。15年前に乗ったときも、ダイレクトな突き上げには閉口した。
しかし、スポーツカーには乗り心地よりも大切なものがある。試乗車の足まわりはバネレートや減衰力を最適化したスポーツサスペンションに換えられていて、車高が約10mm低くなっている。コーナリング性能はアップデートされているはずだ。フロントにはリアスポイラーなどと協調して空力性能を向上させるエアロバンパーが装着されている。高速道路で直進性が高いと感じたのは、空気の流れを整えたことが効いているからかもしれない。
運転席に座ると、一瞬で過去に引き戻された。乗るのは約15年ぶりである。低い座面、タイトな空間。ダッシュボードの先には長いボンネットが見える。ダッシュボードの一番右にある赤いボタンはスタートスイッチ。ボタンでエンジンをかける方式は、このクルマで初めて体験したと記憶している。勇んで押してみたが、うんともすんとも言わない。そうだった。まずキーを回してイグニッションをオンにしなければならないのだ。室内にキーがあればクルマがそれを感知する現在のようなシステムは、まだ存在していなかった。
ほんの少しエンジンの回転を上げて慎重にクラッチをつなぐと、スルスルと走りだした。低回転域でトルクが細いのは確かだが、発進に手こずるほどではない。簡単にストールはしないし、2500rpmほどを保っていれば、それなりに加速もできる。懐かしさを感じるのは、クラッチペダルとアクセルペダルの重さだ。高性能な機械を操っているという実感がある。そして、カチッとしたシフトフィール。街なかを流していても、シフトレバーを動かすだけで気分が上がる。
ただし、微低速のコントロールは非常にやりづらい。足先の力をごくわずか強めるだけで唐突に回転が上がってしまい、スムーズに動かすのが難しいのだ。1速と2速を切り替えながら走る渋滞では、足がつりそうになった。乗り心地もほめられたものではない。路面の荒れがガツンと伝わってくるだけでなく、横にも揺さぶられる。15年前に乗ったときも、ダイレクトな突き上げには閉口した。
しかし、スポーツカーには乗り心地よりも大切なものがある。試乗車の足まわりはバネレートや減衰力を最適化したスポーツサスペンションに換えられていて、車高が約10mm低くなっている。コーナリング性能はアップデートされているはずだ。フロントにはリアスポイラーなどと協調して空力性能を向上させるエアロバンパーが装着されている。高速道路で直進性が高いと感じたのは、空気の流れを整えたことが効いているからかもしれない。
シンプルな構成のダッシュボード
ホロを下ろすには、まず左右のフックを外す必要がある。ちょっと力が要るが、後はボタンを押せば短時間でフルオープンに。風の巻き込みは多めだが、それがオープンカー気分を盛り上げるのだ。サイドウィンドウを上げれば高速道路でもなんとか快適に走れる。リアに設置されている整流板には20周年記念ロゴが刻まれていて、ルームミラーを見るたびに目に入った。オーディオリッドにも「20th Anniversary」の文字がある。開けるとカセットデッキが現れるところに、20年という時の流れが感じられた。
ダッシュボードのレイアウトは、今のクルマとは大きく異なる。ステアリングホイールの左側にあるのは、エアコン調節用のダイヤルとボタンのみ。右側にはオーディオ操作のスイッチがある。さまざまな機能を詰め込まなければならない今のクルマに比べると、驚くほどシンプルな構成だ。ステアリングホイールは純粋な操舵装置であり、スポーク上にスイッチ類は設置されていない。
S2000にスイッチ類が少ないのは、そもそも現在のクルマで常識となっている装備が付いていないからだ。先進安全装備やACCはもちろんないし、バックモニターもない。USBソケットなどあるはずもない。メーターがデジタル表示なのが、古めかしいインテリアの中で異彩を放っている。ドリンクホルダーは1つだけあるが、灰皿が装着されていて使えなくなっていた。車内でタバコを吸うことが普通だった時代のクルマである。
20年の間に失われたものがあり、新たに獲得されたものがある。差し引きすればトータルではもちろんプラスになっているわけで、それが自動車の進化なのだ。S2000は刺激的でスポーツカーの魅力に満ちあふれているが、ノスタルジーで良しあしを判断してはいけない。ただ、時代が変わって何が失われたのかを思い出すことには意義がある。学びて時にこれを習う、またよろこばしからずや。原点に触れることで、あらためて発見することがあるはずだ。
ダッシュボードのレイアウトは、今のクルマとは大きく異なる。ステアリングホイールの左側にあるのは、エアコン調節用のダイヤルとボタンのみ。右側にはオーディオ操作のスイッチがある。さまざまな機能を詰め込まなければならない今のクルマに比べると、驚くほどシンプルな構成だ。ステアリングホイールは純粋な操舵装置であり、スポーク上にスイッチ類は設置されていない。
S2000にスイッチ類が少ないのは、そもそも現在のクルマで常識となっている装備が付いていないからだ。先進安全装備やACCはもちろんないし、バックモニターもない。USBソケットなどあるはずもない。メーターがデジタル表示なのが、古めかしいインテリアの中で異彩を放っている。ドリンクホルダーは1つだけあるが、灰皿が装着されていて使えなくなっていた。車内でタバコを吸うことが普通だった時代のクルマである。
20年の間に失われたものがあり、新たに獲得されたものがある。差し引きすればトータルではもちろんプラスになっているわけで、それが自動車の進化なのだ。S2000は刺激的でスポーツカーの魅力に満ちあふれているが、ノスタルジーで良しあしを判断してはいけない。ただ、時代が変わって何が失われたのかを思い出すことには意義がある。学びて時にこれを習う、またよろこばしからずや。原点に触れることで、あらためて発見することがあるはずだ。
これぞスポーツカー
特に飛ばしていたわけではないのに、なぜか前を走るクルマに何度も道を譲られた。不思議だったが、後で別のクルマに乗り換えてルームミラーでS2000を見たら理由がわかった。妙に速そうなルックスなのだ。バカッ速いスポーツカーに追いかけられていると勘違いしてしまうのだろう。実際には加速だって大して鋭くはない。レブリミットまでストレスなくエンジンは回るが、軽やかという感じとは違う。精密に組み立てられた機械が律義に仕事をこなしているイメージである。超高回転型自然吸気エンジンの重厚なフィールは古典的で、久しぶりに味わう感覚だった。
VTECのドラマチックな特質を存分に引き出すことができるステージは、もちろんワインディングロード。絶対的なスピードはなくても、2段ロケットのような加速は無上の快楽を与えてくれるのだ。素直でシャープなハンドリングと短いストロークで決まるマニュアルシフトが、さらに気持ちよさを倍加させる。これぞスポーツカー。しばし仕事を忘れて夢中で走り回った。
1999年の発売当初も、S2000は特異な存在だった。ホンダはピープルムーバー路線の全盛期で、「オデッセイ」や「ステップワゴン」が売れに売れていた頃である。FR車は「S800」以来29年ぶりの登場だったのだ。それなのに、これこそが“ホンダらしさ”だと受け止められるのだから、ホンダは幸福な自動車メーカーに違いない。
S2000のようなクルマをそのまま新車として復活させることにはあまり意味がない。自動車に求められるものは変化しているし、技術の進歩がモビリティーの新たな可能性を開いている。大切なのは、スピリットを継承することなのだ。旧モデルのパーツをつくっても大してもうかるとは思えないが、ホンダにとっては未来に向けての投資なのである。
(文=鈴木真人/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
VTECのドラマチックな特質を存分に引き出すことができるステージは、もちろんワインディングロード。絶対的なスピードはなくても、2段ロケットのような加速は無上の快楽を与えてくれるのだ。素直でシャープなハンドリングと短いストロークで決まるマニュアルシフトが、さらに気持ちよさを倍加させる。これぞスポーツカー。しばし仕事を忘れて夢中で走り回った。
1999年の発売当初も、S2000は特異な存在だった。ホンダはピープルムーバー路線の全盛期で、「オデッセイ」や「ステップワゴン」が売れに売れていた頃である。FR車は「S800」以来29年ぶりの登場だったのだ。それなのに、これこそが“ホンダらしさ”だと受け止められるのだから、ホンダは幸福な自動車メーカーに違いない。
S2000のようなクルマをそのまま新車として復活させることにはあまり意味がない。自動車に求められるものは変化しているし、技術の進歩がモビリティーの新たな可能性を開いている。大切なのは、スピリットを継承することなのだ。旧モデルのパーツをつくっても大してもうかるとは思えないが、ホンダにとっては未来に向けての投資なのである。
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