【試乗記】レクサスISプロトタイプ
- レクサスIS300“Fスポーツ”プロトタイプ(FR/8AT)/IS300h“Fスポーツ”プロトタイプ(FR/CVT)/IS350“Fスポーツ”プロトタイプ(FR/8AT)
円熟のスポーツセダン
2020年秋の発売が予告されている、改良型の「レクサスIS」。登場から7年を経てのマイナーチェンジでその走りはどう変わったのか? クローズドコースで3モデルのプロトタイプに試乗し、実力を確かめた。
実質的に“一新”レベル
この新しいISは、レクサス的にはマイナーチェンジという扱いになるらしい。ちなみに30系となる現行ISが登場したのは2013年。メルセデスやBMWもモデルライフは7年が基本。すなわち、フルモデルチェンジにはおあつらえ向きのタイミングでもある。
とあらば、「LS」や「LC」が採用するGA-Lプラットフォームを採用しての完全刷新というのが通常の流れだ。が、新型ISはアーキテクチャーを継承したこともあってだろう、先述の通りマイナーチェンジという話になっている。
ADAS(先進運転支援システム)の進化も目まぐるしく、パワートレインの変革も待ったなしの状況下で、それらを包括した総合的進化のための投資が難しいのか。そう邪推したりもしてみたが、開発をまとめた主査が話す理由は実に単純明快だった。いわく、重量や価格を想定内におさめたかった、と。
確かにGA-Lプラットフォームを採用する「クラウン」はナロートレッドにもかかわらず、2リッターターボの最安グレードで1690kgある。レクサスに望まれる装備や加飾、遮音等を加えながら、現状と同等以下の車重(1630kg)を達成するには難儀しそうだ。加えて、海外市場ではISのユーザー層が若く、スポーティーであることやアフォーダブルであることに対するプライオリティーが高いという背景も、キャリーオーバーを後押ししたのだろう。
とはいえ、新型ISで改良されたポイントは多岐にわたり、かつ大がかりだ。例えるなら「ゴルフ7」が「8」になったくらいのインパクトは十分に感じられる。ずうずうしくフルモデルチェンジと言い切ってもよかったように思うが、そのつつましさもまた日本のブランドらしさということだろうか。
とあらば、「LS」や「LC」が採用するGA-Lプラットフォームを採用しての完全刷新というのが通常の流れだ。が、新型ISはアーキテクチャーを継承したこともあってだろう、先述の通りマイナーチェンジという話になっている。
ADAS(先進運転支援システム)の進化も目まぐるしく、パワートレインの変革も待ったなしの状況下で、それらを包括した総合的進化のための投資が難しいのか。そう邪推したりもしてみたが、開発をまとめた主査が話す理由は実に単純明快だった。いわく、重量や価格を想定内におさめたかった、と。
確かにGA-Lプラットフォームを採用する「クラウン」はナロートレッドにもかかわらず、2リッターターボの最安グレードで1690kgある。レクサスに望まれる装備や加飾、遮音等を加えながら、現状と同等以下の車重(1630kg)を達成するには難儀しそうだ。加えて、海外市場ではISのユーザー層が若く、スポーティーであることやアフォーダブルであることに対するプライオリティーが高いという背景も、キャリーオーバーを後押ししたのだろう。
とはいえ、新型ISで改良されたポイントは多岐にわたり、かつ大がかりだ。例えるなら「ゴルフ7」が「8」になったくらいのインパクトは十分に感じられる。ずうずうしくフルモデルチェンジと言い切ってもよかったように思うが、そのつつましさもまた日本のブランドらしさということだろうか。
コツコツとリファイン
- 構造接着剤やスポット溶接を見直すことで、重量を増加させることなく剛性を高めた「IS」の車体。ラジエーターサポートサイドやCピラーインナー(写真で青く塗られた部分)は、特に強化が図られたポイントに挙げられる。
新型ISで最も重点的に手を加えられたのはシャシーまわりだ。タイヤ&ホイールの締結を、ハブから出たボルトで固定するハブナット型ではなく、ハブに直接ボルトで固定するハブボルト型へと変更。締結トルクの向上も相まっての剛結化と、4輪で1kgのバネ下重量軽減を両立した。反面、脱着時には位置決めなどで手間を要するため今まで採用が見送られてきたが、効果が認められれば他のレクサスのモデルでも展開したいと主査は期待を寄せる。
バネ下まわりはジオメトリーをそのままに、アーム類を鍛造アルミ化したりコイルやスタビライザーに高応力材を使ったりと、軽量・高剛性化がくまなく尽くされた。また、バンプラバーを低反発の特性とし、微小入力の応答性が高いスイングバルブダンパーを設定するなど、乗り心地に関してもきめ細かなリファインが施されている。これらの施策を受けてタイヤサイズは幅側がひと回り大きくなり、全幅は30mm拡大の1840mmとなった。
ボディーまわりではサイドメンバーの“日の字断面”化、ラジエーターサポートの強化、ピラー構造の見直し、開口部のスポット増しなどで剛性強化を図った。また、ドアパネルやトランクリッドなどを軽量化し慣性モーメントの低減に努めている。
パワー&ドライブトレイン関係は前回のマイナーチェンジでアップデートされたものをキャリーオーバーしているが、2リッターターボはドライバーの意思をアクセル操作などから推測し、8段ATとの連携効率を最適化するアダプティブ制御をより進化させている。また、2.5リッターハイブリッドはバッテリーのマージンをより積極的に持ち出してモーターの使用領域を拡大する新たな駆動制御を採り入れた。
バネ下まわりはジオメトリーをそのままに、アーム類を鍛造アルミ化したりコイルやスタビライザーに高応力材を使ったりと、軽量・高剛性化がくまなく尽くされた。また、バンプラバーを低反発の特性とし、微小入力の応答性が高いスイングバルブダンパーを設定するなど、乗り心地に関してもきめ細かなリファインが施されている。これらの施策を受けてタイヤサイズは幅側がひと回り大きくなり、全幅は30mm拡大の1840mmとなった。
ボディーまわりではサイドメンバーの“日の字断面”化、ラジエーターサポートの強化、ピラー構造の見直し、開口部のスポット増しなどで剛性強化を図った。また、ドアパネルやトランクリッドなどを軽量化し慣性モーメントの低減に努めている。
パワー&ドライブトレイン関係は前回のマイナーチェンジでアップデートされたものをキャリーオーバーしているが、2リッターターボはドライバーの意思をアクセル操作などから推測し、8段ATとの連携効率を最適化するアダプティブ制御をより進化させている。また、2.5リッターハイブリッドはバッテリーのマージンをより積極的に持ち出してモーターの使用領域を拡大する新たな駆動制御を採り入れた。
これまでのネガにサヨナラ
こういった刷新項目を総合的にまとめ上げるべく走り込んだのが、新設された愛知の下山テストコースだ。
従来のテストコースとは一線を画する、性悪な入力が連続するその場所で、ドライバーの意思を正確に反映し、余裕や安心感をもって意のままに走ることができるか。単に限界性能を向上させるのではなく、そういった点にフォーカスして熟成が重ねられたという。
発売前のプロトタイプということもあって、試乗はクローズドコース(千葉)で行われた。グレードはすべて“Fスポーツ”ということで、新たに設定された19インチタイヤを履いている。
同じコースは前型のISでも走ったことがあるが、違いは転がり始めからはっきりと伝わってくる。摺動(しゅうどう)部の精度や剛性がひと回り高まったことによる滑らかな滑走感は、前型はもとより、レクサスの他の銘柄とも一線を画するものかもしれない。細かな入力に対するバネ下の動きも軽快で、タイヤまわりから伝わる情報は濁りなくクリアだ。
新型ISの進化がはっきりと伝わるのは、一気に高負荷がドサッと動く低速コーナーよりも、じわじわとタイヤやサスに負荷が加わる中高速域のコーナーかもしれない。そこでの上手に抑えられたロールスピードや、ロール量の定常的な推移は今までのISとは大きく異なるところで、ドライバーに操る自信や信頼感をより強く抱かせてくれる。コーナーの安定性も確実に向上しており、限界を超えてリアブレークする際の唐突さもうまく丸められるなど、これまでのシャシーが抱えていたネガはほぼきれいに取り去られているという印象だった。
従来のテストコースとは一線を画する、性悪な入力が連続するその場所で、ドライバーの意思を正確に反映し、余裕や安心感をもって意のままに走ることができるか。単に限界性能を向上させるのではなく、そういった点にフォーカスして熟成が重ねられたという。
発売前のプロトタイプということもあって、試乗はクローズドコース(千葉)で行われた。グレードはすべて“Fスポーツ”ということで、新たに設定された19インチタイヤを履いている。
同じコースは前型のISでも走ったことがあるが、違いは転がり始めからはっきりと伝わってくる。摺動(しゅうどう)部の精度や剛性がひと回り高まったことによる滑らかな滑走感は、前型はもとより、レクサスの他の銘柄とも一線を画するものかもしれない。細かな入力に対するバネ下の動きも軽快で、タイヤまわりから伝わる情報は濁りなくクリアだ。
新型ISの進化がはっきりと伝わるのは、一気に高負荷がドサッと動く低速コーナーよりも、じわじわとタイヤやサスに負荷が加わる中高速域のコーナーかもしれない。そこでの上手に抑えられたロールスピードや、ロール量の定常的な推移は今までのISとは大きく異なるところで、ドライバーに操る自信や信頼感をより強く抱かせてくれる。コーナーの安定性も確実に向上しており、限界を超えてリアブレークする際の唐突さもうまく丸められるなど、これまでのシャシーが抱えていたネガはほぼきれいに取り去られているという印象だった。
他に影響を与える一台
パワートレインにおいては、額面には表れずとも実効的なパワフルさが確実に加わったハイブリッドの進化はさておき、回転フィールやサウンドがリファインされ、気持ちよさの面でもがっかりさせることのなくなったターボの変貌ぶりが印象深い。
これであと300rpmほど余計に回ってくれれば……というのは無理筋かもしれないが、トップエンドのパワーのドロップ感などにもう少し色味がのれば、気持ちよさはさらに増すと思う。
もちろん、今や世界的に見ればこの車格にはトゥーマッチとなった3.5リッターのV6に、ある種のノスタルジーを託しながら乗るのも楽しいだろう。そんなパワーをまったく持て余さない強靱(きょうじん)さも、トルクに任せてゆったり走るにふさわしい柔らかさも、濃密なフィーリングに見合う上質感も、このこなれたシャシーは備えている。
このマイナーチェンジで30系のISは、再び世界のライバルと相まみえるというよりも、レクサスが掲げる「すっきりと奥深い走り」という目標に忠実に進化を遂げた。結果、自分の世界が生まれ始めているのではないかという気がする。確かに薹(とう)が立ってはいるが、クルマとは何が何でも新しければいいというものでもない。新しいISはレクサス内部においても、いい刺激を与える存在になるのではないだろうか。
(文=渡辺敏史/写真=荒川正幸/編集=関 顕也)
これであと300rpmほど余計に回ってくれれば……というのは無理筋かもしれないが、トップエンドのパワーのドロップ感などにもう少し色味がのれば、気持ちよさはさらに増すと思う。
もちろん、今や世界的に見ればこの車格にはトゥーマッチとなった3.5リッターのV6に、ある種のノスタルジーを託しながら乗るのも楽しいだろう。そんなパワーをまったく持て余さない強靱(きょうじん)さも、トルクに任せてゆったり走るにふさわしい柔らかさも、濃密なフィーリングに見合う上質感も、このこなれたシャシーは備えている。
このマイナーチェンジで30系のISは、再び世界のライバルと相まみえるというよりも、レクサスが掲げる「すっきりと奥深い走り」という目標に忠実に進化を遂げた。結果、自分の世界が生まれ始めているのではないかという気がする。確かに薹(とう)が立ってはいるが、クルマとは何が何でも新しければいいというものでもない。新しいISはレクサス内部においても、いい刺激を与える存在になるのではないだろうか。
(文=渡辺敏史/写真=荒川正幸/編集=関 顕也)
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