【試乗記】レクサスLC500コンバーチブル(FR/10AT)
- レクサスLC500コンバーチブル(FR/10AT)
かつてない日本車
レクサスの新型オープンカー「LC500コンバーチブル」に一般道とサーキットで試乗。開放感たっぷりなのは当たり前、筆者はその官能性と磨き抜かれたスポーツカーとしての資質に、大いに感銘を受けたのだった。
待ちに待った“屋根なしバージョン”
コンセプトカーの発表は2019年1月のこと。そしてクーペ版「LC」の登場からは3年余り。やっとこさ登場したのがLCコンバーチブルだ。
多くの時を費やすことになった理由は、同じアーキテクチャーを用いる「LS」の登場、そして両車の進化に乗じてGA-Lプラットフォームの熟成に優先してリソースを費やしていたからだという。が、待ちくたびれて地蔵になっちゃったよとお客さんに愚痴られても仕方ないだろう。あるいはその間、最大のライバルであるBMWの「6シリーズ」は「8シリーズ」に更新され「カブリオレ」も投入――と、みすみす商機を失っていたかもしれない。
まずは既納客や上客への義理立てとして、初手から投入されたのが60台の限定車「ストラクチュラルブルー」だ。光線によって表情を目まぐるしく変える青いボディーカラーは顔料ではなく構造発色によるもの。それに合わせた青いほろ色や白青コンビの内装色など、カタログモデルには用意のないコーディネートでまとめられるそのモデルは、一般ユーザー向けにあてがわれた20台の枠も含めて、発売前のウェブ商談で既に完売している。
カタログモデルのLCコンバーチブルは、クーペに対して1色多い11色をラインナップ。内装は3色、ほろの色は2色から選べる。組み合わせは自在というわけではないが40以上の選択肢があるといえばお客さんも悩みがいはあるだろう。でもこういう、ひたすらなぜいたくさをウリとするクルマであれは、オーナーの希望を最大限にかなえるパーソナルプログラムが欲しくなるのも確かだ。
多くの時を費やすことになった理由は、同じアーキテクチャーを用いる「LS」の登場、そして両車の進化に乗じてGA-Lプラットフォームの熟成に優先してリソースを費やしていたからだという。が、待ちくたびれて地蔵になっちゃったよとお客さんに愚痴られても仕方ないだろう。あるいはその間、最大のライバルであるBMWの「6シリーズ」は「8シリーズ」に更新され「カブリオレ」も投入――と、みすみす商機を失っていたかもしれない。
まずは既納客や上客への義理立てとして、初手から投入されたのが60台の限定車「ストラクチュラルブルー」だ。光線によって表情を目まぐるしく変える青いボディーカラーは顔料ではなく構造発色によるもの。それに合わせた青いほろ色や白青コンビの内装色など、カタログモデルには用意のないコーディネートでまとめられるそのモデルは、一般ユーザー向けにあてがわれた20台の枠も含めて、発売前のウェブ商談で既に完売している。
カタログモデルのLCコンバーチブルは、クーペに対して1色多い11色をラインナップ。内装は3色、ほろの色は2色から選べる。組み合わせは自在というわけではないが40以上の選択肢があるといえばお客さんも悩みがいはあるだろう。でもこういう、ひたすらなぜいたくさをウリとするクルマであれは、オーナーの希望を最大限にかなえるパーソナルプログラムが欲しくなるのも確かだ。
入り交じる割り切りとこだわり
とはいえ、コンバーチブルの見せどころである内装は専用の加飾が与えられるなど、仕立てはそれなりに気遣われている。シートにはショルダーやボルスター部に刺し子のようなステッチを加え、ベルトガイドも見られることを前提に入念な仕上げとなっている。シート自体は縫い合わせ面を工夫して入力を柔らかく受け止める仕立てとしたほか、首まわりを温めるヒーターもおさめられた。また、屋根の開閉ボタンやサイドウィンドウの一括開閉ボタンはセンターコンソール部にふた付きで恭しく格納されている。
特徴的なドレープ状のアクセントが加えられたドアインナーパネルは、耐候性や色退けなどを嫌ってアルカンターラからPVC系の素材に変更されているが、それでもあえてアルカンターラが欲しいというユーザーに向けて選択肢を与えてもよかったかもしれない。
LCコンバーチブルはクーペと違い、パワートレインは5リッターV8の2UR-GSEに10段ATの組み合わせのみ。ハイブリッドを用意しなかった物理的理由として、クーペでは電池スペースとなる部分をほろの格納スペースとして活用していることが挙げられる。例えば2+2のパッケージを2シーターとすればバッテリースペースが確保でき、ハイブリッドでもコンバーチブルは成立するが、あえてそれはやらなかったという。
今やトヨタかアメ車か、はたまたランボルギーニくらいか……という勢いで絶滅しつつある自然吸気の大排気量マルチシリンダー。その存在感を、フルオープンの砂かぶりでしかと味わっていただきたい。そういう思いがあればこそとはいえ、結果的に2+2パッケージが残されたことで、LCにとって不可欠な要素である優雅さは守られた。
特徴的なドレープ状のアクセントが加えられたドアインナーパネルは、耐候性や色退けなどを嫌ってアルカンターラからPVC系の素材に変更されているが、それでもあえてアルカンターラが欲しいというユーザーに向けて選択肢を与えてもよかったかもしれない。
LCコンバーチブルはクーペと違い、パワートレインは5リッターV8の2UR-GSEに10段ATの組み合わせのみ。ハイブリッドを用意しなかった物理的理由として、クーペでは電池スペースとなる部分をほろの格納スペースとして活用していることが挙げられる。例えば2+2のパッケージを2シーターとすればバッテリースペースが確保でき、ハイブリッドでもコンバーチブルは成立するが、あえてそれはやらなかったという。
今やトヨタかアメ車か、はたまたランボルギーニくらいか……という勢いで絶滅しつつある自然吸気の大排気量マルチシリンダー。その存在感を、フルオープンの砂かぶりでしかと味わっていただきたい。そういう思いがあればこそとはいえ、結果的に2+2パッケージが残されたことで、LCにとって不可欠な要素である優雅さは守られた。
クーペよりもしっかり!?
ちなみに電動油圧式のほろ屋根は開閉時間が約15秒前後。50km/hまでなら走行中でも開閉が可能となっている。その開閉時の動きは、書家の筆さばきのように緩急をつけたもので、稼働音も至って静かだ。
オープン化に伴うボディーの補強は広範かつ入念に施されている。Aピラー部にはガセットをかぶせ、リアサスタワー部の立体ブレースや床下に張り巡らされたブレース、接着剤やスポット溶接の追加など、その固められたボディーとアコースティック特性をバランスさせるため、車体後部にはヤマハ製の「パフォーマンスダンパー」を取り付けた。これら補強やオープンシステムの追加による車重増は、クーペ比で約100kg。内容を知るにつけ、よくそれでおさまったものだと思う。
実際、ストリートで乗るぶんにはLCコンバーチブルはクーペに対して骨格由来の不快感は一切ない。フロア共振やスカットルシェイクの類いもまるで感じられず、コラムの支持感などはクーペよりもむしろしっかりしているのではないかと思うほどだ。
これはクーペとともに施されたバネ下の軽量・高剛性化が反映されてのことでもあるのだろう。あわせて電動パワステの応答感をより精細化、リニア化したこともこの印象につながっていると思われる。
オープン化に伴うボディーの補強は広範かつ入念に施されている。Aピラー部にはガセットをかぶせ、リアサスタワー部の立体ブレースや床下に張り巡らされたブレース、接着剤やスポット溶接の追加など、その固められたボディーとアコースティック特性をバランスさせるため、車体後部にはヤマハ製の「パフォーマンスダンパー」を取り付けた。これら補強やオープンシステムの追加による車重増は、クーペ比で約100kg。内容を知るにつけ、よくそれでおさまったものだと思う。
実際、ストリートで乗るぶんにはLCコンバーチブルはクーペに対して骨格由来の不快感は一切ない。フロア共振やスカットルシェイクの類いもまるで感じられず、コラムの支持感などはクーペよりもむしろしっかりしているのではないかと思うほどだ。
これはクーペとともに施されたバネ下の軽量・高剛性化が反映されてのことでもあるのだろう。あわせて電動パワステの応答感をより精細化、リニア化したこともこの印象につながっていると思われる。
重量増にはメリットも
風については、2+2のキャビン長の影響もあって、前席にはそれなりに巻き込みがある。後席に配される透明の小さな「ウインドディフレクター」も一定の効果はあるとはいうが、効果的に遮断しようと思えばシートバック直下に立てるメッシュタイプの「ウインドスクリーン」を用意するに越したことはない。ディーラーオプション扱いゆえ、基本的には風を楽しむクルマと捉えて、もし我慢できないようであれば買い足すのもいいだろう。
高負荷域での走りはクローズドコースで試すことができたが、ここでもクーペに対する剛性的な見劣りはほぼ無視できるレベルに達していると感じられた。むしろ気になるのは重量の側で、さすがにタイトなコーナーの切り返しなどではクーペに対しては動きが緩慢に感じられるところもある。一方で操縦性という点においては、補強が底面に集中していることもあってか、クーペより重心は低い。据わりの良さや安定感の高さが、結果的にクルマの動きの大物感にもつながっている。
ハンドリングの正確性そのものはクーペにも劣らないから、クローズドコースで全力を出し切るような走りもいとわない。そしてその域でさえ、剛性に不足は感じない。とはいえ、LCコンバーチブルでそこまでの走りを所望するユーザーも少ないだろう。音もパワーも回すほどにぐんぐん伸びる自然吸気V8のサウンドやビートを、心ゆくままに最高の環境で楽しむ。その主目的のための余剰や余技はしっかりと備わっているということだ。そういう酔狂をここまで本気でかたちにした日本車というのも今までなかっただろう。そう考えるとなんとも感慨深い存在に思えてくる。
(文=渡辺敏史/写真=荒川正幸/編集=関 顕也)
高負荷域での走りはクローズドコースで試すことができたが、ここでもクーペに対する剛性的な見劣りはほぼ無視できるレベルに達していると感じられた。むしろ気になるのは重量の側で、さすがにタイトなコーナーの切り返しなどではクーペに対しては動きが緩慢に感じられるところもある。一方で操縦性という点においては、補強が底面に集中していることもあってか、クーペより重心は低い。据わりの良さや安定感の高さが、結果的にクルマの動きの大物感にもつながっている。
ハンドリングの正確性そのものはクーペにも劣らないから、クローズドコースで全力を出し切るような走りもいとわない。そしてその域でさえ、剛性に不足は感じない。とはいえ、LCコンバーチブルでそこまでの走りを所望するユーザーも少ないだろう。音もパワーも回すほどにぐんぐん伸びる自然吸気V8のサウンドやビートを、心ゆくままに最高の環境で楽しむ。その主目的のための余剰や余技はしっかりと備わっているということだ。そういう酔狂をここまで本気でかたちにした日本車というのも今までなかっただろう。そう考えるとなんとも感慨深い存在に思えてくる。
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