【試乗記】スバル・レヴォーグ プロトタイプ
スバルの全力投球
隅から隅まで新しい
場所は動的体感というテーマにふさわしく袖ヶ浦フォレストレースウェイなのだが、実際には一周およそ2.4kmのサーキットを一台につき4周のみ。新型レヴォーグの「STI Sport EX」と「GT-H EX」グレード、および比較車として現行型「1.6 STI Sport」の3台で計12周だから、私たちも歯がゆいことこの上なしという状態で悶々(もんもん)としている。
何しろ6年ぶりの新型レヴォーグは、2代目にしてまるっきり生まれ変わったというぐらいに、エンジンもボディーも先進安全機構も一新されている。展示物や資料を見れば見るほど、エンジニアの話を聞けば聞くほど、これで出来栄えが良くないほうがおかしいというほどの内容充実ぶりである。細かい部分、あるいは見た目はあまり派手ではないところにも入念に配慮されているところがスバルらしい実直さといえるかもしれないが、それらをじっくり確認するのはもう少しお預け。今回は舞台限定、ダイナミック性能に的を絞ってのリポートである。
それにしても、採用すれば良い結果になると分かっているとはいえ、これほどいっぺんに中身を新しくして(コストは)大丈夫なのか? と要らぬ心配をしてしまうほど、新機構は盛りだくさんだ。例えば電動パワーステアリングシステムは従来型の1ピニオンから2ピニオン式に変更されている。
デュアルピニオンなど呼び方はさまざまだが、要するにステアリングホイールからの入力軸とモーターによるアシスト軸を独立してラック上に設けたタイプで、正確で過不足のないアシストが可能になる。プレミアムクラスでは普通だが、スバルでは初採用だという。つまりコスト増につながるために、良いことは分かっていても採用には二の足を踏むというやつだ。
目立たぬ部分も手抜かりなし
従来は最高でも980MPaだったというから、ずいぶんと豪勢だ。ボディーの作り方を変更すると生産設備も一新しなければならないのだから、かなり思い切った決断といえるだろう。
前:ストラット/後ろ:ダブルウイッシュボーンのサスペンションの形式は踏襲しているが、前後ともにロングストローク化された上にマスオフセットの低減(前輪キングピン軸とホイールセンターの距離縮小)、ストラットトップマウントの改良など細部も抜かりなし。さらにSTI Sportには電子制御可変ダンパーを採用し、ドライブモードセレクト(コンフォートからインディビジュアルまで5種類)で3段階の設定を選択できるようになっている。
このような新機構は“飛ばした”場合にだけ光る限界性能の向上を目指したというより、実用上のクオリティーアップに効果が大きい部分を、漏れなく手当てしたものといえるだろう。
ソリッドだが滑らかに走る
レヴォーグ用の専用開発品だというこれは、ひとことで言えばアフターマーケット用よりもスポーティーだというが、それでも燃費にも配慮したいわゆるエコタイヤで、グリップ最優先ではない。
実際にコーナリングスピードはダンロップの「スポーツマックス」タイヤを履いた現行型1.6 STI Sportのほうが上回ると感じたほどだが、新型レヴォーグはコーナリング中にスロットルを緩めた際の挙動も穏やかで滑らかで、総じてバランスが取れている印象だった。ダイナミック性能と同時に快適性を重視していることがうかがえる。
燃費はさておき扱いやすい
低回転低負荷ではリーン燃焼で燃費向上を図るこのエンジンのカットモデルを見ると、カウンターウェイトやジャーナルが見るからに薄く実際に前後長はおよそ40mm短縮できたという。空いたスペースにはリングモーターを押し込むのではないか、などと妄想することもできる。
また、300PSのFA20型2リッター直噴ターボモデルに代わる車種は当面不在となるが、そのうちに登場するだろう。
変速機は従来通りのリニアトロニックCVTだが8割が新設計というだけあって、全開時の加速感にはあまり違いは感じられなかったが、スロットルの半分あたりで踏んだり放したりという肝心の過渡領域では確かによりリニアに反応してくれているようで、扱いやすさは向上している。自分のペースで走れるサーキットでは健康的でスムーズに回り、気になるところはなかった。現実の路上でも洗練度大幅アップという結果になる、はずである。
(文=高平高輝/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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