【試乗記】トヨタ・ヤリス クロス ハイブリッドZ/ヤリス クロス ハイブリッドG/ヤリス クロスG

  • トヨタ・ヤリス クロス ハイブリッドZ(FF/CVT)/ヤリス クロス ハイブリッドG(4WD/CVT)/ヤリス クロスG(FF/CVT)

    トヨタ・ヤリス クロス ハイブリッドZ(FF/CVT)/ヤリス クロス ハイブリッドG(4WD/CVT)/ヤリス クロスG(FF/CVT)

ウケない理由が見つからない

トヨタ・ヤリス」の派生モデルとなるコンパクトクロスオーバー「ヤリス クロス」に公道で初試乗。同門の「ライズ」と「C-HR」の間に位置するポジションは、国内外を問わず多くの競合車がしのぎを削る超激戦区だ。全世界が注目するその出来栄えは?

ウイークポイントはないのか?

トラック由来である「ハイラックス」はもちろんのこと、今や世界的なプレミアムオフローダーとして知られる「ランドクルーザー」もSUVとカテゴライズすることには個人的に抵抗を伴うのでこれも除外する。と、2013年の末に日本専用モデルとして再出発の後、すでにモデル末期に近づきつつあった先代の「ハリアー」と、こちらも発表から2年半が経過しライバルに対して苦戦も目立ってきたC-HRのみ……と、実は選択肢がこの2つに限られていたのが、2019年初頭のトヨタのSUVラインナップであった。

一方、同年に行われた5代目へのフルチェンジを機に再度発売してみれば、当のトヨタも驚くヒットを飛ばす結果となったのが、一度は故郷である日本を捨てた(?)「RAV4」である。そして、その成功を号砲としたかのように、ライズに新型ハリアーにと次々投入されたSUVが、いずれも発売後早々にバックオーダーを抱えるヒット作となったことは、まだ記憶に新しい。

かくして、ほんの1年半ほど前までの「SUVは様子見」という状況に対して、まるで“手のひら返し”のように次々と送り出されているのが、昨今のトヨタのSUV群。その中にあって、最新作であり最大のヒットが確実と目されるのが、ヤリス クロスである。

FF車では180万円切り、4WD車でも200万円そこそこということさらの廉価ぶりをアピールするグレードを除けば、クラスの常識を覆す内容を並べる予防安全パッケージを標準で装備し、ハイブリッドモデルにも後輪をモーター駆動する4WD仕様を設定。さらに、ディスプレイオーディオと通信モジュール(DCM)も標準装備することで、最新の“つながるクルマ”としての機能も怠りないことをアピールする。

日産が、久々の新型車である「キックス」で話題を集めた直後だが、ホイールベースや全長がひとまわり大きいとはいえ、比較されればバリエーションの豊富さや燃費のデータ、そして何よりも価格面から「ヤリス クロスの敵にはなり得ない」というのが、大方の見方であろう。

かくも盤石の構えで登場となったように思えるヤリス クロス。しかし、そこに果たしてウイークポイントはないのであろうか?

ヤリスと比べてしまうと

テストドライブを行ったのは、横浜みなとみらい地区を基点に開催された公道試乗会の場。“ダイナミックフォース”の愛称が与えられた1.5リッター3気筒エンジン搭載のFF車/4WD車、そして同エンジンにハイブリッドシステムを組み込んだFF車/4WD車……と、時間の長短などはありながらも、現在日本でラインナップされているすべてのパワートレインの持ち主をひと通りチェックすることができた。

最初に1時間のテストドライブへと出かけたのは、「Z」グレードの4WD車。純エンジンモデルでは最上級となるモデルで、ヤリスを30万円余り上回る車両価格は、244万1000円の設定だ。

会場を出発の後、5分ほどの市街地走行を経て最寄りの入り口から首都高へ。と、この段階でまず感じさせられた走りの第一印象は、実は「カタくてうるさいクルマだな……」というものであった。

ヤリス クロスに用いられたランニングコンポーネンツが、ヤリスをベースとしたものであることはもちろん承知している。そして、そんなヤリスに対する当方の評価は、「このクラスとしては、世界的にもトップランクの高い走りの質感の持ち主」というものだったのだ。なかでも、クルージングシーンでのフラット感の高さなどは、“圧巻”と評しても過言ではない秀逸さ。それをベースに開発されたヤリス クロスへの期待値が、相当に高いものとなったことは当然だろう。

ところが、「比べるとちょっと精彩を欠いてしまうナ」というのが、ヤリス クロスに対する率直な印象。そもそも、必要にして十分な力強さが感じられたヤリスに比べると、動力性能は劣勢と言わざるを得ないものだった。

冷静に考えてみれば、大型化したボディーに加え4WD車であったことから、FF車で乗った同じパワーパックのヤリスとでは200kgもの重量差がある。さらに、かくも重くなったボディーと高まった重心高をカバーするサスペンションが与えられ、無理やりに(?)大径化されたシューズを履くとなれば、走りのフィーリングが“良いほう”に向かうはずがないのも納得である。

さらに、重くなったボディーに同等の加速感を求めようとアクセルペダルをより深く踏み込めば、CVTが高いエンジン回転数までを常用するようになり、ノイズ面で厳しくなることも自明。かくして、ヤリスに比べると「カタくてうるさい」と感じられるのも道理……なのは確かなのだが。

ライバルに対する圧倒的な競合力

次いでテストドライブへと持ち出したのは、恐らくシリーズ中での一番人気となるであろうハイブリッドのFF車。こちらもLEDヘッドランプや7インチのマルチインフォメーションディスプレイ、合成皮革とツイード調ファブリックのコンビ表皮を用いたシートやフロントシートヒーターなどを標準装備とする最上級のZグレードだったが、FF仕様であるために前出の4WD仕様・純エンジン車よりも40kgほど軽量。116PSというシステム出力は純エンジン車の120PSよりもわずかに見劣りするが、ゼロ発進時から最大トルクを発せられるモーターの持ち主ゆえ、日常シーンではより軽快感に富んだ走りが期待できる存在だ。

実際、このモデルの走りは、なかなかの好印象を抱くことができるものだった。

例によって“ほとんど無音”で始まる発進加速のシーンは、ヤリスほどではないもののそれなりに力強く、スムーズにして軽快。路面凹凸を拾った後のボディー振動の収まりに余韻が残り、少々ウエット感の強い乗り味ではあるものの、4WD仕様の純エンジン車に比べればフラット感も大幅向上。「クラスを超えた上質さ!」と驚嘆だったヤリスに比べるとそこまでではないが、この仕上がりならば十分称賛に値すると思えたのもまた事実であった。

ちなみに、50kmほどの走行距離のうち8割ほどを流れの良い首都高で過ごした後の平均燃費計のデータは、25km/リッターほど。同様のパターンであれば、恐らく30km/リッターはシレッとマークするであろう同パワーパック搭載のヤリスに比べれば、これもまた「劣化はそれなり」ということにはなるわけだが、ライバル勢と比較した際にはどうなのかと問われれば、「圧倒的な競争力を有している」と紹介できる。燃費のみならず運動性能も確実に上回るのだから、やはりこちらがオススメのパワーユニットなのである。

多くの人との親和性が高い

ハイブリッドの4WD車と純エンジンのFF車は、それぞれごく短時間のチェックにとどまった。そうした制約の範囲内で言えば、4WD車のみ独立懸架化されるというリアサスペンションの違いもあってか「シリーズ中で最もしなやかと思える乗り味を提供してくれる」と思えたのが前者で、「最低でもこの程度は欲しいと思える動力性能を実現してくれた」のが後者という印象だ。

今回、試乗会場内に特設されたモーグル路やキャンバー路において、ハイブリッドと純エンジンの2種類の4WD車で、スタック状態からの脱出体験もできた。ヤリス クロスに与えられた“脱出デバイス”は、コンソール部にあるスイッチ操作で起動。浮き上がって空転する車輪をブレーキ制御し、接地状態にある車輪に新たな駆動力を発生させ脱出を図るという考え方が基本となる。

試乗車に合わせてレイアウトされた路面だけに容易に脱出できたのは当然ながら、最低地上高は170mmと、実際にもそれなりのオフロード性能が確保されているはず。ちなみにFF車でも最低地上高は同様だから、わだち路面への対応能力はこちらも高いことになる。

ホイールベースはヤリスと同じ2560mm。ヤリス クロスも後席のニースペースはタイトだが、それでも居住性としてはグンと上を行くように感じられたのは、アップライトな着座姿勢で行儀よく座るゆえ。荷室は後席使用時でもゴルフバッグ2組が横置きで重ねて積め、大型のスーツケース2つが平積み可能。さらに、上級グレードではリアのシートバックに4:2:4の分割可倒機構が備わり、大人4人が乗車した上でスキー板のような細身の長尺物が室内に搭載できる……など、そのユーティリティー性がヤリスとは比較にならない高さであるというのもポイントである。この先ヨーロッパのマーケットでも大きな強みになっていくことは間違いナシだ。

確かに走りの質感という点ではヤリス クロス全般において、それが際立つ高さにあった“普通のヤリス”ほどの驚きはなかったというのが率直な印象だった。しかし、今の時代にどちらが「より多くの人の心に刺さるモデルなのか?」と問われれば、もはや答えは明確だろう。サイズに価格、そしてその内容……と、どこをとっても非の打ちようのない、ヒットしない理由が見当たらないヤリス クロスなのである。

(文=河村康彦/写真=花村英典/編集=櫻井健一)

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