【試乗記】三菱エクリプス クロス<PHEV>プロトタイプ(4WD)

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    三菱エクリプス クロス<PHEV>プロトタイプ(4WD)

回天の力

三菱のコンパクトSUV「エクリプス クロス」が大規模なマイナーチェンジを受けた。ボディーサイズの拡大やデザイン変更などトピックは多いが、なんといってもメインはプラグインハイブリッドモデルの追加設定だ。発売前のプリプロダクションモデルでその仕上がりを確かめた。

体格と心臓を大改造

前代未聞である。マイナーチェンジだというのに、エクリプス クロスは全長が140mmも伸びているのだ。顔つきに手を加えたりリアコンビネーションランプの配置をいじったりといった小変更が普通なのだが、体格まで変えてきた。そして、新しい心臓も与えられている。プラグインハイブリッドが選べるようになったのだ。三菱としては「アウトランダーPHEV」に次ぐ第2弾となる。

大がかりな改良となったことには理由がある。プレス資料によると、背景には2020年7月27日に発表された三菱自動車の中期経営計画があるというのだ。スローガンは「Small but Beautiful」。プラグインハイブリッド車を軸とした環境車の販売強化でブランド力向上による収益力改善を目指すという。その先鋒(せんぽう)と位置づけられているのがエクリプス クロスである。「パジェロ」から始まるSUVの歴史と「ランサーエボリューション」に代表される4輪駆動の技術をアピールするという重責を担うモデルなのだ。

実際には、販売促進のためのテコ入れという側面もある。コンパクトSUVは売れ筋のジャンルなのだが、エクリプス クロスは苦戦を強いられている。「トヨタC-HR」や「ホンダ・ヴェゼル」といった強力なライバルを相手にしなければならないからだ。2018年3月の発売当初は好調だったものの、2020年に入ってからは月間販売台数が一度も4桁に達していない。不思議である。自動車メディアではこのクルマの評判がよかったのだ。試乗記では称賛の声があふれていたのに、それが販売に結びついてはいない。

エクリプス クロスは、三菱にとって新たなチャレンジだった。資料動画では「これまでの三菱自動車になかったスタイリッシュさを合わせ持つ」モデルと紹介されている。SUVとしての基本性能や4WDがもたらす走行性能には自信があったものの、見た目が武骨だと選択肢に入れてもらえない。そこで流行のクーペライクなSUVとして投入されたのがエクリプス クロスだったのである。デビュー当時、デザイン担当者は「スタイリングが一番の強みです」と胸を張っていた。しかし、まだ足りない部分があったと判断したのだろう。

リアウィンドウが1枚ガラスに

エクリプス クロスは「SUVの基本性能とスタイリッシュクーペの世界観の融合」というコンセプトを持っているが、今回のデザイン変更ではさらに流麗なプロポーションに進化させたとうたっている。全長を延ばすのは確実で手っ取り早い方法だ。より伸びやかなフォルムを実現することで、エレガントなイメージを持たせることができる。

140mmの延長の内訳は、フロント35mm、リア105mm。クルマのデザインにとって105mmというのは相当に大きな数字であり、リアのスタイルは大幅に変わった。ひと目でわかるのは、テールゲートのウィンドウだ。上下に2分割されていたのが1枚ガラスになった。デザイン上の大きな特徴だっただけに、印象はかなり変わる。2分割ウィンドウを維持することも考えたそうだが、物理的な困難があったようだ。ほんの少しウィンドウ面積が減少して下方視界がわずかに損なわれたが、横バーがなくなったことで実感としてはむしろ見やすさが増している。

リアクオーターの形状も一新された。シャープな弧を描く造形から滑らかな曲面になり、六角形をモチーフにした「スカルプテッド・ヘキサゴン」というテーマを採用。どっしりとした安定感を表現している。アーティスティックでエッジの効いたデザインに別れを告げ、SUVの王道を選んだ。普通になってしまったと悲しむ人もいるかもしれないが、好き嫌いが分かれるよりも万人に好かれる商品のほうが販売戦略としては正解なのだろう。

全長を延ばしたことによる荷室容量の拡大もメリットになる。もともと5人乗車時で341~448リッターを確保していたが、もっと広い荷室が欲しいという声はデビュー直後からあったという。ひと口にコンパクトSUVといっても、それぞれサイズが微妙に異なっている。各メーカーがジャストな大きさを模索しているのだ。マツダは全長4275mmの「CX-3」がファミリーには小さすぎるという声に応え、全長4395mmの「CX-30」を開発した。わずかな違いのようだが、ユーザーから好評を得た。エクリプス クロスはもともと全長が4405mmでCX-30よりも大きかったが、さらに大型化してアドバンテージを拡大する狙いなのだろう。全長4545mmは「トヨタRAV4」の4600mmに迫る数字である。

重厚かつ上質な乗り味

リアに比べるとフロントの変化は少ないが、ランプの形状を変えるなどの小変更が施されている。エクステリアカラーは「ダイヤモンドレッド」に続くダイヤモンドシリーズ第2弾として「ダイヤモンドホワイト」を設定し、プラグインハイブリッドモデルのコミュニケーションカラーとした。一見すると普通の白に見えるが、薄日が斜めから当たるとシルバーっぽいニュアンスが出て陰影が深くなる。インテリアにはライトグレーを新たに採用して洗練を演出した。

発売前ということで、試乗はクローズドサーキットで行われた。公道を走れないから仕方なくということではなく、ハンドリングのよさを思い切り試してほしいという意図もあったようだ。エクリプス クロスの4WDモデルは以前から三菱の誇る車両運動統合制御システム「S-AWC」を搭載しているが、プラグインハイブリッドモデルにはもうひとつ大きな武器がある。ツインモーターによる前後輪間のトルク配分だ。これを左右輪間トルクベクタリング、4輪ブレーキ制御と組み合わせることにより、あらゆる路面状況でハンドリングと走行安定性を向上させたという。

プラグインハイブリッドモデルは日常では電気自動車(EV)として使うことを目的としているので、大量のバッテリーを必要とする。車両重量が増加して運動性能の面では不利になるわけだが、走る・曲がる・止まるという基本をおろそかにするわけにはいかない。タイトコーナーで構成されるショートサーキットで試乗させるということは、重量増のハンディをしっかり抑え込んでいるという自信の表れなのだ。

発進時はEV走行なので静かでスムーズだ。アクセルを踏み込むと、モーターのトルクを生かして力強く滑らかに加速していく。30-50km/hの追い越し加速はガソリンモデルよりも強力なのだ。ボディーの重さははっきり感じられるが、もっさりとした動きにはなっていない。たまたま試乗会場に居合わせた初期のガソリンモデルオーナーは、運転感覚はまるで違うと話していた。キビキビ感と軽快感が減じた代わりに、重厚で上質な乗り味を得ている。

安心感のある素直なハンドリング

200mほどのメインストレートでフル加速すると、第1コーナーでは100km/hを超える。ブレーキングして左、右と続くS字コーナーに入ると、狙いどおりのラインをきれいに描いて抜けていく。さらにタイトな左コーナーも難なくクリアした。高速コーナーでも安定した走りを見せる。重いバッテリーを下部に設置したおかげで重心が低くなっていることがメリットとなっているようだ。背の高いクルマに乗っていることを忘れてサーキット走行を楽しんだ。

ステアリングを切っただけ素直に曲がっていくから、少々オーバースピードでコーナーに入っても安心感がある。エンジニアによると、開発途中ではもっと曲がりやすい性格だったらしい。腕自慢にとっては楽しいクルマだったが、やはり安定性を重視すべきだということになった。ファミリーユースも想定したクルマなのだから、賢明な判断である。前後モーターの回生レベルを変えることで調整したという話で、電動車の特性が生かされている。

想定外だったのは、それほど攻め込んではいない状態でも簡単にタイヤが鳴いたことだ。危険を感じたわけではないが、少し気になった。既存のモデルとは違い、プラグインハイブリッドモデルにはエコタイヤが装着されている。重量が増加していることと相まって、タイヤが鳴きやすい状態になったのだろうか。燃費が大きなアピールポイントとなっていることを考慮すれば、エコタイヤを選択するのは理にかなっている。サーキットで試したような走りは公道では違法なので、日常使いで問題が生じることはないはずだ。

プラグインハイブリッドは、現時点ではエコカーの最良の形態のひとつだと考えられるが、それほど普及が進んでいない。ネックとなっているのが価格の高さだ。エクリプス クロスのプラグインハイブリッドモデルはアウトランダーPHEVに比べれば安価であり、二の足を踏んでいた人に決断を促す狙いがあるのだろう。日産、ルノーとのアライアンスで、三菱はプラグインハイブリッドシステムの開発を主導する役割を与えられている。どうしても大胆なデザイン変更に目が行ってしまうが、エクリプス クロスは3社連合の未来を占う重要な意義を持つモデルなのだ。

(文=鈴木真人/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)

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