【試乗記】ルノー・ルーテシア インテンス テックパック(FF/7AT)

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    ルノー・ルーテシア インテンス テックパック(FF/7AT)

勝者の戦略

ルノーのコンパクトハッチバック「ルーテシア」の新型がいよいよ日本に上陸。新型のポイントはズバリ「すべてが新しい」ところだ。新登場のプラットフォームやエンジン、さらにルノーらしからぬ(?)充実の先進安全装備の仕上がりをリポートする。

ハズれた予想

日本での最大の宿敵になるであろう「プジョー208」の日本発売に合わせる形で、2020年7月にわざわざ「10月導入」が予告されていた新型ルーテシアが、予定どおりに国内上陸した。予告当時に書かせていただいたコラムでは、2019年の東京モーターショーに持ち込まれた「R.S.ライン」から上陸……と予想してしまったが、はたしてそれは大ハズレだった(汗)。新型ルーテシアの日本仕様は、従来どおりの「インテンス」と「ゼン」という2つの基本グレード構成でスタートして、エンジンはひとまず全車が1.3リッター4気筒直噴ターボで統一される。

また、前記のコラムでは「自慢の先進安全運転支援システム(ADAS)が日本仕様でもすべて設定されるかは不明」とも書かせていただいたが、その懸念もハズれた。ただし、いい意味で(?)。インテンスのさらに上級グレードとして用意された「インテンス テックパック(以下テックパック)」では、新型ルーテシア本来のADAS機能がほぼフルで手に入る。

もっとも、テックパックでなくても、現在求められるようなADAS機能は不足なく標準装備される。具体的にいうと、電動パーキングブレーキによる全車速対応アダプティブクルーズコントロール(ACC)や自動ブレーキ(歩行者・自転車対応)、車線逸脱警告、制限速度や追い越し禁止の道路標識認識機能、後側方車両検知機能(いわゆるブラインドスポットモニター)、そしてオートマチックハイビーム(これだけはゼンには非装備)などだ。

最上級であるテックパック専用となるのは、ACC走行時に車線中央を積極的に維持する半自動運転機能「レーンセンタリングアシスト」と、日産ゆずりの「360°カメラ」である。とくに360°カメラは日本ではもはや軽自動車でもフツーの装備だが、欧州Bセグメントではまだ希少で、かの地では新型ルーテシア最大のキラーアイテムとして宣伝されているようだ。

大変身した内装

それにしても、先代とはなにひとつ共通部品がないのに、屋外の太陽の下で見る新型ルーテシアが、先代の元オーナーの筆者でも新旧の区別がつけづらいほど先代にソックリなのは、先代が大成功作だったからだ。先代はモデル最末期まで欧州Bセグメントで不動の1位、タイミングによっては全セグを通じた欧州1位となるほどにギリギリまで売れ続けたが、人気の最大理由がスタイリングだったらしい。

それでも、先代よりなんとなくカッコよく見えるのは、新型の車体サイズが先代比でわずかに短く、幅広く、そして低くなっている(日本仕様における全幅や全高の諸元値はそのかぎりではないが、欧州仕様「クリオ」のデータを見ると、実際の車体はより幅広く、低くなっているようだ)からだろう。しかし、体感的なサイズ感は先代とほぼ変わらず、それも新旧の区別がつけにくい理由のひとつだ。先代の発売当時はBセグとしては大きめだった車体サイズも、上級車からダウンサイジングしやすく“ちょうどいい”と評価された。実際、これ以降の競合他車の多くが、このサイズ感を後追いしている。

デザインもサイジングも超キープコンセプトの外装に対して、「顧客の不満が少なくなかった」という内装は大変身である。立派なセンターコンソールによるコックピット感覚で、208のようなキラキラ感はないが、各部品の組みつけ精度は大幅向上、また身体が触れやすい部分(今回の試乗車だと白い部分)をことごとくソフトパッド化するなど、肌ざわりで高級感を巧妙に演出する。

ダイヤル式だったフロントシートの背もたれ調整が、微調整がきかない(けど調整時間は短縮される)レバー式になったのは賛否両論だろうが、プラットフォーム刷新によって調整幅は広がっている。あと、すこぶる細かいハナシだが、大型化したセンターコンソールに備わるドリンクホルダーの直径が拡大されて、最近の太めのペットボトルでもスルッと収まるようになったのは、ドライブ用のドリンク選びが微妙に制限されていた先代の元オーナーにとって、しみじみとした朗報と感じた(笑)。

新型プラットフォームを採用

室内に入ると、兄貴分の「メガーヌ」に続いて採用されたカラフルなアンビエントランプが出迎える。「ルノー・マルチセンス」と銘打った細かい車両設定機能も売りで、そのアンビエントランプの色からデジタルメーターパネルのデザイン、ドア開閉時のウエルカムサウンド、オートワイパーの有無、そしてウインカーやパーキングセンサーの作動音までを好みに設定できる。いわゆる標準にあたるモードもあえて「My Sense」と名づけられており、同モードではパワステの操舵力まで、3種類から好みの重さに固定できるようになっている。

そうした設定はすべて中央の7インチタッチパネルでおこなう。欧州では巨大な9.3インチの縦型パネルも用意されるのに対して、インフォテインメント機能が本国より少ない日本仕様は小型版となるが、それでも普通に使うには十分な大きさである。いまだに根強い需要がある国内向けローカルナビは現在開発中というが、現状でも「Apple CarPlay」か「Android Auto」による接続でスマホのナビ機能は使える。というか、もはや時代はそっちに移りつつある。

今回の試乗車は最上級のテックパックだった。走りにまつわる部分は標準のインテンスと同様で、タイヤサイズは先代インテンス(もしくは208でいうと「GTライン」)と同サイズとなる17インチの低燃費銘柄タイヤを履く。

新型ルーテシアはとにかくすべてが新しい。基本骨格は日産や三菱とも共用予定の「CMF-B」プラットフォームであり、このクルマがその市販化第1号だ。エンジンはダイムラーと共同開発されたもので、厳密には1.333リッターの排気量を持つ4気筒は「メルセデス・ベンツAクラス」などに積まれているものと同じ基本設計をもつ。デュアルクラッチ変速機も先代とは別物の湿式クラッチの7段タイプとなる。

数値以上に速く感じる

新旧ルーテシアで走り比べて、もっとも大きく変わったのは、とにかくパワフルになった動力性能だ。日産由来のミラーボアコーティングが独自に施されるルノー版は、たとえば車重が150kg以上重い「A180」に積まれるメルセデス版より、ピークトルクが40N・m大きい。先代ルーテシア比でも35N・m大きく、20kg軽い。

ただ、実際の新型ルーテシアにこうした数値以上に速くなった感があるのは、エンジンの音質が少し粗野で迫力があるせいもあるだろう。車内に侵入するエンジンノイズやロードノイズは数値的には下がっているというが、エンジン音はよくも悪くも存在感がある。ただ、それを差し引いても1~1.2リッターターボが主流の競合他車に対して、パンチが効いた動力性能は新型ルーテシアの売りになる。

新しいCMF-Bプラットフォームは軽量化や空力性能の向上、そして高い衝突安全性などのほか、乗り味に直結する部分では、クイック化されたステアリングレシオと強化されたロール剛性がポイントとなる。低速では少しばかりゴツゴツする乗り心地は、同サイズのタイヤを履いていた先代インテンスと大差ない。プジョーやシトロエンなどの典型的ネコアシ感と比較すると、実用域での乗り心地に分かりやすい快適性や個性は薄い。ただ、別の機会に乗った個体は明確にしなやかで柔らかかったので、個体差か、あるいは走行距離に応じて改善するものかもしれない。

ただ、スピードが上がって、外からの入力Gが高まるほどにサスペンションが生き生きとストロークしはじめるルノー味は、新プラットフォームでもまったく変わらない。

ステアリングは正確だがマイルド。意地悪に振り回しても走行ラインは穏やかに安定して、ゆったりと大きな弧を描く。4輪をバラバラに蹴り上げる荒れた路面に前荷重のまま突入……といった普通は思わず呼吸を止めてしまいそうな場面でも、涼しい顔でスルスルッとクリアしていく鷹揚さも健在である。こういうタフさがルノーの真骨頂であり、それは新型ルーテシアでも確実に受け継がれている。

きちんと働くADAS

ただ、横Gが高まってもこれまで以上に上屋をフラットに保つロール剛性と、クイックレシオのステアリングのせいか、手から伝わる接地感が明らかに薄味になっているのは少しばかりさみしい。自慢のマルチセンスでパワステを重い「スポーツ」モードに固定すれば少しはマシになるが、それでもベストとはいえない。この点ではプジョーに明らかなリードを許している。

もっとも、21世紀に入って電動パワステ&リアトーションビーム化されて以降のルノーは、ステアリングフィールが総じて薄味なので、ステアリングに依存しすぎない運転を心がけるのが快適に乗るコツでもある。それに、新型ルーテシアはタイトなコーナーや交差点でのステアリング操作量が明確に減少しており、接地感がどうこうとツッコミを入れつつも、体力に限界を感じつつある50代の筆者は、素直に「ラクだなあ」とも思ってしまう(涙)。

自慢のADASには日産の技術も入っているのか、総じてデキがいい。緊急自動ブレーキはおいそれと試せないが、ACCの加減速は滑らかだし(完全停止マナーだけはかなり唐突で要改善だが)、道路標識はフランス車とは思えないほど(失礼)高い精度で読み込んでくれる。レーンセンタリングアシストは、通常はけっこう強引に車線中央をトレースしたがる設定なのに、ドライバーの能動的な操作には抵抗しすぎないサジ加減もちょうどいい。それほど強力なセンタリング制御でも、ステアリングにピクピク感がほとんどないのは、クルマの基本的な直進性が高いこともあるだろう。

ルノーの日本法人では、日本での売れ筋はテックパックより20万円安い通常のインテンスを想定している。インテンスではレーンセンタリングアシストと360°カメラのほか、スマホのワイヤレス充電やヒーター付きレザーシートも省かれる。それでもリアカメラだけは残るし、なぜかステアリングヒーターも省かれないのは末端冷え性にはありがたい。インテンス専用となるベロアとレザー調のコンビシート表皮の肌ざわりも、テックパックのレザーより個人的には好みである。

(文=佐野弘宗/写真=荒川正幸/編集=藤沢 勝)

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