【試乗記】スバル・レヴォーグSTI Sport EX(4WD/CVT)
ワゴンがあるじゃないか!
低いことはいいことだ
増える一方のSUVと違って、まずアイポイントが低い。つまり路面に近い。成人の目線よりずっと低い位置に座って動くこういうクルマは、本来、それだけで非日常的でリフレッシングなのだ。身のこなしのレスポンスも背高のSUVとは初期設定が違う。なんてことをファーストタッチで再認識させてくれたのが新型レヴォーグである。
試乗したのは「STI Sport EX」。シリーズ唯一400万円を超す最上級モデルだが、これまでの販売比率ではSTIが全体の6割を占め、2グレードあるSTIでは上級のEXが95%を占めるという。
新開発の1.8リッターエンジンは全車共通だが、電子制御ダンパーやドライブモードセレクトなど、スバル初の機能装備や専用の内外装をまとうのがSTIである。さらにEXは最先端の運転支援システム「アイサイトX」や11.6インチのセンターディスプレイといった新型レヴォーグ自慢の装備を持つ。「出たては高いほうから売れる」という定石どおりのナンバーワン売れ筋モデルである。
歴代最高のフラットフォー
しかも、ただモーターのようにスムーズなわけではなく、回転マナーにはかつてのボクサーサウンドをキメ細かく濾したような独特のフィールも残っている。2030年代半ばにはなくなるという噂もある純内燃機関だが、最近の国産ユニットのなかでは、「GRヤリス」の1.6リッター3気筒ターボとともに「やっぱりエンジンってイイですね大賞」を差し上げたい。
約240kmを走って、満タン法測定値、車載燃費計表示いずれも8km/リッター台だった。40%という世界トップクラスの最大熱効率を掲げるわりに、燃費はそれほどでもなかった。パワフルな1.8リッターターボのフルタイム4WDならこんなものだろうか。レギュラーガソリンが使えるのは救いだ。
STIでも総じてマイルド
走行系ではパワートレイン、ダンパー、ステアリング、4WDシステムなどに効くドライブモードセレクトは5パターンだが、最強の「スポーツ+」を選んでも、上下動の振幅がわずかに小さくなるだけで、乗り心地のよさは変わらない。
並のクルマなら突き上げを食らうような凹凸でも、ショックのカドが丸いのは、ZF製電子制御ダンパーの恩恵大だろう。ダンピングはスポーツ+がデフォルトでもいいくらいだと感じた。でも、ハンドルはいちばん軽い「コンフォート」でいい。ACC(アダプティブクルーズコントロール)の反応は「スポーツ」がいい。といったように、可変アイテムをそれぞれ自分好みに設定できる「インディビジュアル」モードもある。
「インプレッサWRX」VS「ランサー エボリューション」の時代と違って、いまのSTIは大人の高性能モデルである。新型レヴォーグもまさにそうで、スポーティーさよりむしろ快適性のほうに感心させられた。それは結構だが、ただ一点、ドライバーズシートはもう少しサポート性の高いつくりのほうがいいのではないか。ワインとブラック、ツートーンのレザーシートで、見た目は好印象だが、座るとブニュッと柔らかくて、ちょっとコンフォートに振り過ぎに思える。
ファン・トゥ・ドライブかつ快適
自動運転に近づいた分、人間(ドライバー)への監視も強まって、横を向いたり、上半身を大きく傾けたりすると、たちまち警告が発せられる。停止時にハンドル上にトリセツを広げて読もうとしたら、ピピピピと鳴って「居眠り警告」というメッセージが出た。センターディスプレイ近くにあるカメラで常にドライバーをモニタリングしているからだ。
人間に運転をさせたいのか、それとも人間から運転を取り上げたいのか、どっちやねん? と言いたくなるようなフクザツな思いにかられるのはこうしたハイテクカーに共通だが、新型レヴォーグは運転もとびきりイケるクルマだ。
いいエンジンといい足まわりのおかげで、ファン・トゥ・ドライブかつ快適だ。しかもステーションワゴン。後席を畳めば、床は完全フラットになり、テールゲート開口部に邪魔な敷居もない。車高を上げていないから、荷室フロアも低い。とくに重いかさものを運ぶヘビーユーザーにとって、ステーションワゴンは最適解である。409万2000円だが、内容は濃い。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=郡大二郎/編集=関 顕也)
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