【試乗記】スバル・フォレスター スポーツ(4WD/CVT)
真面目なスバルの憂鬱
実は大黒柱である
あまり目立たないが(再び失礼)、実はフォレスターこそ、スバルを支える大黒柱である。スバル自身も最量販車種のグローバル戦略車と位置づけている。コロナ禍の影響とレヴォーグのモデルチェンジを考慮して、昨2020年ではなく2019年のデータを取り上げると、国内の年間販売はフォレスターが3万台以上に対してレヴォーグはざっと1万2000台(国内販売トップは「インプレッサ」の4万台強)と大きな差がついている。
さらにスバルにとっての最重要マーケットである北米ではフォレスターは毎年「アウトバック」とベストセラーの座を争うボリュームセラーであり、どちらも年間17万~18万台ぐらいを売り上げている。最新のデータが手元になくて申し訳ないが、もっと言えば世界中で満遍なく売れているフォレスターは、現時点でも世界一売れているスバル車でもあるはずだ。ちなみに、ざっくり世界で100万台規模のスバル車のうち、およそ70万台が北米で売れている。それに対して日本は10万台程度、フォレスターと北米市場の重要度が分かる数字だろう。
入魂の新型エンジン
そのフォレスターに新たに搭載されたターボエンジンは、新型レヴォーグと同じCB型水平対向4気筒1.8リッター直噴ターボである。これはスポーツグレード専用ユニットで、従来の2.5リッターと置き換えられるかたちになる。新型1.8リッター直噴ターボの最高出力とトルクは177PS/5200-5600rpmと300N・m/1600-3600rpmというもので、ピークパワーは2.5リッター(184PS)よりも若干低いものの、トルクは上回っているうえにより低回転から生み出されている。スポーツとはいうものの、高効率と扱いやすさを狙ったユニットである。
CB型は最近トレンドのロングストローク(80.6×88.0mm)タイプだが(吸気流速を高め高速できれいに燃焼させるため)、フラット4ではストロークを延ばすと横幅が広がるし、だからといってコンロッドを短くすると偏角が大きくなってフリクションが増すという弱点があるためにスバルでは採用が難しかった。それを克服するためにオフセットシリンダーを採用したが、直列エンジン以外では非常に珍しい。さらに低回転低負荷ではリーンバーンで燃費向上を図っているうえに(ターボのリーンバーンも珍しい)、エンジンのカウンターウェイトやジャーナルは非常に薄く、エンジン前後長はおよそ44mm短縮できたという。オーバーハングに位置するフラット4ユニットの前後長を短縮できれば重量配分の最適化にもつながるし。空いたスペースを電動化のために使うこともできる。今のところ、このエンジンでのマイルドハイブリッド化の予定はないというが、それでも熱効率は最高40%にも達するという。スバル入魂の新型エンジンなのである。
真面目さが落ち着く
とはいえ、やはり微妙なスロットル操作に即応してくれるわけではない。スロットルトラベルの半分あたりまでで穏やかに踏んだり放したりという、要するに普通に走るぶんには扱いやすさが向上している。スポーツは専用レートのスプリングとダンパーを装備するというが、これまでのフォレスターもリニアでスタビリティーの高い自然なハンドリングが持ち味であり、特筆すべき違いは感じられなかった。乗り心地もまずまず穏当、実用的なSUVとしてはまっとうなキャラクターである。
フォレスターだけでなく、スバル各車の美点はまっとうで機能的なことだ。はやりの“おしゃれSUV”がおしなべてコンパクトなグリーンハウスを採用して流麗なクーペスタイルを強調するいっぽう、フォレスターのプロポーションはスクエアで背が高く、SUVとして正統派だ。リアドアのハンドルをピラーに隠すようなことはせず、真面目に使いやすさを追求しているところがスバルらしい。ウエストラインが低く、ガラス面積が大きいフォレスターは、明るくルーミーなうえに視界良好である。Aピラーまわりも斜め後方視界もよく考えられており、全体的にちょっと昔風だが落ち着くし、扱いやすさが際立っている。
角は矯めないで
肝心の燃費だが、新型エンジンをもってしてもそれほどでもないのがちょっとつらいところだ。WLTCモードでは13.6km/リッターというが、都内から箱根を回って往復するいつもの試乗撮影コース(およそ300kmの大半が高速道路走行だ)を終えてみると8.4km/リッターにとどまった(満タン法)。最新の直噴リーンバーンターボでこのぐらいでは、いささか期待外れである。レギュラーガソリン仕様であることは加点要素とはいえ、今どき胸を張れる数字ではない。世の中のスバリストの望みと同じく、「角を矯めて牛を殺す」ようなことになってほしくはないが、ここだけは何とかもうひと踏ん張りしてもらいたいのである。
(文=高平高輝/写真=荒川正幸/編集=藤沢 勝)
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