【試乗記】ホンダN-ONEオリジナル(FF/CVT)
椀より正味
世にもまれなやり方
N-ONEはホンダ軽のベーシックモデルである。新型も立ち上がりの販売は好調だが、いまやニッポンの国民車ともいえるハイトワゴンのN-BOXほどは売れない。泣く泣くF1からの撤退を決意するような状況にあって、日本専用の軽自動車でいまあえて無理をしたくなかったということだろう。最近、ホンダのエンジニアがよく口にする「選択と集中」の結果、ボディー外板はキャリーオーバーという結論になったわけである。
今回試乗したのは、159万9400円の最廉価ベースグレード、その名も「オリジナル」。ハイトワゴンではないフツーの軽としては高いが、Honda SENSINGの内容は上級グレードと変わらない。14インチのスチールホイールは、15インチのアルミよりもこのスタイリングに合っていると思う。
この乗り心地で軽なのか!?
いまの軽は「これが軽!?」と驚かされることばかりだが、いまの軽のなかでも新型N-ONEが傑出しているのは乗り心地だ。ホンダには「マン・マキシマム/メカ・ミニマム」という思想がある。メカを可能な限り小さくつくって、人間に最大の空間を与えるという考え方だ。それでサスペンションをコンパクトにし過ぎた結果、昔のホンダ車は乗り心地がよくなかったりしたのだが、いまは違う。
このN-ONEオリジナルも、生意気なくらい乗り味の質感が高い。RSではサスペンションのたっぷりしたストローク感に驚かされたが、オリジナルも基本的に変わらない。アシがよく動く。ボディーはとくにフロアの剛性感が旧型より格段にアップした。街なかではしっとり落ち着いたフラットな乗り心地が印象的だ。
試乗中の一日は強い北風が吹いていた。高速道路でも乗り心地はいいが、ときおり横風を感じてハンドルに力が入った。台形プロポーションを謳うN-ONEは、フツーの軽といっても「スズキ・アルト」より5cmほど背が高い。でも、これがさらに25cmノッポのN-BOXだったら、もっと横風にはシビアだろう。N-ONEのほどほどさを再認識した。
機関のデキもなかなか
ACC(アダプティブ・クルーズコントロール)は渋滞追従機能付きの全車速対応型。上は135km/hまで設定できる。セットしたのを忘れて、いちど高速道路の空いた追い越し車線に出たら、全力の自動加速が始まった。ノンターボながら、けっこうがんばる。「これが軽か!?」のワンシーンだった。
約240kmを走って、燃費は16.6km/リッター(満タン法)。「フィット」や「ヤリス」のハイブリッドにはぜんぜんかなわないが、それらのノンハイブリッドモデルと同等かちょっといいくらいだろうか。センタータンクレイアウトのガソリンタンク容量は27リッター。旧型のベースグレードより3リッター減った。
しかし今回、満タンから200kmを走った時点で航続可能距離はまだ241kmあった。「ホンダe」をぶっ飛ばせ、である。燃料タンクの吹き返しはなく、簡単にクチまで満タンにできる。車載燃費計の表示(16.8km/リッター)ともほとんど差はなかった。
実のあるフルモデルチェンジ
室内幅は限られるが、高さに余裕があるので狭苦しさはない。後席の足もとは広い。だが、黒のシート表皮は薄く簡素で、ツートーンの前席とは差をつけている。
後席を畳むと、荷物を積む性能はステーションワゴン並みだ。テールゲートの開口部に敷居はほとんどない。リアシートと荷室のアレンジも多彩だ。そんな美点はもちろんキャリーオーバーされている。
社内にデザイナーがいるのだから、余裕があれば、モデルチェンジでカタチもチェンジしたいに決まっている。だが今回は外形デザインやボディーの金型にはお金を使わず、浮いた予算でできること、やりたいことをやった。実際、乗ってみると、モデルチェンジ感は十分高かった。
「N-ONEは“たまたま軽規格におさまっているマイクロカー”という感じで、プロダクトとして粋な印象を受けます。初代『スマート』やいまの『フィアット500』に通じるような……」
これは前述の編集部Sさんがくれた感想メール。同感なので、原文のままコピペしました。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=田村 弥/編集=関 顕也)
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