【試乗記】フォルクスワーゲン・ゴルフeTSIアクティブ(FF/7AT)
進化か 変化か
アイデンティティーを継承
もちろん、そうした功績も一朝一夕に成し遂げられたものではなく、なんとなれば“ゴルフ8”なる通称名からも明らかなように、今度のゴルフは数えて8代目。初代の誕生は1974年だから、ゴルフ8はそのライフ中に生誕半世紀という記念すべき時を迎えるモデルということにもなる。
そんな歴代ゴルフは、アイデンティティーの継承を強く意識してきたことが特徴のひとつに挙げられる。3500万台という累計生産台数も90万台超という日本でのシリーズ累計台数も、高い人気が保たれてきたことに加え、“継続は力なり”のたまものであったということだ。
3代目をベースに初登場となった「ヴァリアント」の名で紹介されるステーションワゴンは今ではすっかり定着した感が強いが、「ハッチバックとミニバンのはざまを埋める」とうたわれる「ゴルフプラス」など、さらなるボディーバリエーションの拡充が模索された時期もあった。
とはいえ、そんな背の高いゴルフというポジションに新たな顧客層が存在しなかったことは、ゴルフプラスが一代限りで消滅したことからも明らか。一方、ボディーサイズと搭載するエンジンバリエーションの拡充に関しては、しっかりと進化してきたのがこれまでのゴルフの歴史でもあったのだ。
先代モデル以上に小回りが利く
先代モデルに対して全長こそ再度伸びたものの、全幅とホイールベースに至っては現状維持どころか、わずかながらもマイナスとなった。ホイールベース値はこの世代で初めてステーションワゴンとの間に差が設けられ、実際欧州ですでに発表済みの新型ヴァリアントの写真を目にすると、ホイールベースが延びリアウィンドウの前傾角も増したその姿が、歴代のゴルフヴァリアント中で最もスタイリッシュに見える。
全幅の差は先代比でわずかにマイナスの10mm。しかし、少なくとも「大きくならなかった」ことに対してホッとした人は少なくなさそう。最小回転半径5.2mだった先代に対し、導入時点での4グレードがすべて同5.1mと小回りが利くことも、ゴルフ8の特徴といえるだろう。
同時にベーシックグレードに搭載される心臓部が、わずかに1リッターという排気量の3気筒ユニットに変更されたことも、ゴルフ8におけるエポックメーキングな出来事である。これまでのベーシックゴルフに積まれていた1.2リッター直4と同じくターボ付きの直噴ユニットではあるものの、前出の1リッターや3気筒という数字を目にすれば「何だか心もとないなぁ」と内心そう感じる人がいそうなのもごもっともだ。
とはいえ、実はそんな新しい心臓には2つの“飛び道具”が用意されている。日本に導入される新型ゴルフには全モデルに搭載される48Vマイルドハイブリッドシステムと、3気筒ユニット限定で採用されているVG(可変ジオメトリー)ターボがそれである。
“飛び道具”の効果
いざ走り始めると、ともに微低速時にこそ威力を発揮するとおぼしき前出の“飛び道具”の効果もあってか、先に危惧した力不足の心配はいずれも杞憂(きゆう)にすぎなかったことを教えられる。スタートの瞬間からその加速は思いのほか力強く、また少なくとも街乗りのシーンでは、その心臓が3気筒であることもほとんど認識できないのだ。
もちろんそれでも「飛び切り快足の持ち主」といった印象でないのは事実。スポーティーな走りの感覚を重視するならば、同じゴルフ8でも選ぶべきは1.5リッター直4ユニットを搭載したモデルであるのは間違いない。
しかし、実用性という部分にスポットライトを当てるならば、こちらで十分なのもまた確か。そうした満足のいく挙動は、自然吸気のガソリンエンジンであれば2リッター級のユニットが発する200N・mという最大トルク値を、2000〜3000rpmという範囲で発するというデータにも裏打ちされているわけである。
両立が難しい見た目と操作性
一方、街乗りシーンでもその優秀さを実感できた静粛性の高さは、こうして速度域が上がっても優れた印象をキープする。特に、100km/hを超えても高まることのない風騒音には、自慢のエアロダイナミクスが実際に効果を発揮していると感じられた。
路面にかかわらず常に高い4輪の接地感と、速度が高まるほどに際立つ安定感の高さには、「さすがはゴルフ」というフレーズを使いたくなる。1.5リッターモデルの4リンク式に対してトレーリングアーム式と、恐らくはコスト由来で差がつけられたリアサスペンションを採用するが、それによるハンディキャップは「みじんも感じることはない」というのが率直な印象である。
ところで、ゴルフ8の大きなセリングポイントでもある「デジタルコックピットプロ」だが、これに関しては「功罪相半ばする」という思いを抱かされることになった。
確かに、その操作法に完全に慣れてしまえば使いやすいという側面はあるのかもしれない。多くの物理スイッチ類が整理されたことで、これまでのゴルフでは考えられなかったシンプルで未来的なインテリアの見栄えが実現されたことも確かだ。
しかし例えばのハナシ、走行中、突然深い霧に包まれた時にライトを点灯したかったり、トンネルへの進入時に空調を内気循環のモードにしたい場合など、従来であればとっさに手探り操作できたものが、ゴルフ8ではそれを作動させるためにモニターに視線を移す必要に迫られ、しかも複数のアクションが必須となったりするのは何とも理不尽だ。
そうした点からもゴルフ8のデジタルコックピットプロには、本来あるべき目標に対して、まだ“道半ば”と思える部分も認められた。特に、従来は問題なく可能だったブラインド操作ができなくなった項目が少なくないのは考えもの。「直感より触感」のほうが理にかなっていることもあるはずだ。
特に、ゴルフ7からの乗り換えを検討される向きには、そのあたりをじっくり検証するべきとアドバイスしたい。
(文=河村康彦/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
テスト車のデータ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4295×1790×1475mm
ホイールベース:2620mm
車重:1310kg
駆動方式:FF
エンジン:1リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:7段AT
エンジン最高出力:110PS(81kW)/5500rpm
エンジン最大トルク:200N・m(20.4kgf・m)/2000-3000rpm
モーター最高出力:13PS(9.4kW)
モーター最大トルク:62N・m(6.3kgf・m)
タイヤ:(前)205/55R16 91V/(後)205/55R16 91V(グッドイヤー・エフィシェントグリップ パフォーマンス)
燃費:18.6km/リッター(WLTCモード)
価格:312万5000円/テスト車=359万8000円
オプション装備:ボディーカラー<ライムイエローメタリック>(3万3000円)/ディスカバープロパッケージ(19万8000円)/テクノロジーパッケージ(20万9000円) ※以下、販売店オプション フロアマット<テキスタイル>(3万3000円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:3529km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:371.0km
使用燃料:19.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:18.9km/リッター(満タン法)/15.6km/リッター(車載燃費計計測値)
最新ニュース
-
-
「めっちゃカッコいい」新型レクサス『ES』のデザインにSNSで反響
2024.11.21
-
-
-
光岡、話題の55周年記念車『M55』を市販化、100台限定で808万5000円
2024.11.21
-
-
-
日本発の「ペダル踏み間違い防止装置」、世界標準へ…国連が基準化
2024.11.21
-
-
-
楽しく学べる「防災ファミリーフェス」を茨城県の全トヨタディーラーが運営する「茨城ワクドキクラブ」が開催
2024.11.21
-
-
-
『簡単にキズが消えた!』初心者でも簡単、コンパウンドで愛車の浅いキズを手軽に修復するテクニック~Weeklyメンテナンス~
2024.11.21
-
-
-
VW『ティグアン』7年ぶりの新型発売、初のマイルドハイブリッドも 487万1000円から
2024.11.19
-
-
-
レクサス『ES』改良新型、新スピンドルグリル採用…広州モーターショー2024
2024.11.19
-
最新ニュース
-
-
日産のフルサイズSUV『アルマーダ』新型、ベース価格は5.6万ドルに据え置き…12月米国発売へ
2024.11.21
-
-
-
軍用ジープが最新モデルで蘇る…ドアなし&オリーブドラブが渋い「ラングラー ウィリス'41」発表
2024.11.21
-
-
-
EV好調のシトロエン『C3』新型、欧州カーオブザイヤー2025最終選考に
2024.11.21
-
-
-
「めっちゃカッコいい」新型レクサス『ES』のデザインにSNSで反響
2024.11.21
-
-
-
光岡、話題の55周年記念車『M55』を市販化、100台限定で808万5000円
2024.11.21
-
-
-
日本発の「ペダル踏み間違い防止装置」、世界標準へ…国連が基準化
2024.11.21
-
MORIZO on the Road