【試乗記】ホンダ・シビックEX(FF/CVT)/シビックEX(FF/6MT)
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ホンダ・シビックEX(FF/CVT)/シビックEX(FF/6MT)
渾身の一球
マニアを泣かせる6段MT
さて、その新型シビックの初期受注だが、MTが全体の4割近くに達したという。ハッチバックに6段MTが用意されていた先代も3割という高比率だったが、新型はそれ以上ということだ。もっとも、これは正式発売から10日前後時点の数字である。つまり、その大半が実車も見ずに予約した熱烈なファンによるものであることは想像に難くなく、そこは差し引く必要はあるだろう。
しかし、それにしても……である。考えてみれば、いま国内で入手可能な新車で、このように適度なスポーツ性と日常性を両立していて、しかもそれなりの所有欲を満たしてくれるMT車は希少である。そうした、絶対数は少ないが確実な需要を集められれば、日本市場でもまだビジネスとして成立する余地はある。新型シビックがそれを示唆してくれているとすれば、ありがたいというほかない。
そんな新型シビックのMTは、縦横ともにほぼ手首の返しだけで決まるクイックな操作量と、コクッという小気味いいゲート感が心地よい。先代シビックのMTもいいデキだったが、今回はさらにいい。実際、新型シビックのMTは変速機本体こそ先代と同じものだが、シフトノブからレバー、アルミ製ブラケット、横方向の動きをつかさどるバネのレートやピンの精度まで見直されている。最近のモデルでは、MTのラインナップだけはかろうじて残されていても、MT自体の開発はほぼ止まってしまっている例も少なくない。それと比較すれば、新型シビックにおけるホンダの姿勢は、マニア的にはステキというほかない。
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11代目となる新型「シビック」。まずは装備や内外装の異なる「LX」「EX」の2グレード構成で販売が開始された。
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インストゥルメントパネルまわりはエアコンの吹き出し口を内包したメッシュパネルと、開放的な視界が特徴。上級グレード「EX」には、レッドステッチや合成皮革のセンターパッド、ヘリンボーン柄の装飾パネルなどが用いられる。
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心地よい操作感を実現する6段MTのシフトノブ。握りの形状はグレードによって異なり、「EX」には革の巻かれた球状のものが採用される。
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6段MTは操作性のよさに加え、デュアルマスフライホイールの採用によって静粛性の高さも追求。ワイドなギアレシオにより、加速性能と燃費性能の向上も図られた。
そこここに進化を感じるパワートレイン
2000rpmも回せば十分といえる柔軟性はいかにも最新の直噴ターボだが、新型シビックでは3000rpmあたりでけっこう明確なさく裂感をみせるのがマニア好みだ。そこから4000rpmまでの最常用領域で、小気味いいピックアップと爽やかな快音を味わえるのが心地よい。
さらに4500rpm、5000rpmと回転上昇に伴ってレスポンスはさらに高まり、リミットの6500rpmまでアタマ打ち感はほぼ皆無。こうした“回しがい”はさすがホンダのエンジンで、これならあえてMTを選ぶ価値もある。また、これほどパワフルで抑揚のあるトルク特性ながらも、過給ラグがほぼ体感できないのは高応答ターボチャージャーのおかげか。
先代ではCVTだけエンジンの最大トルクが絞られていたが、トルクコンバーターが強化された新型では、どちらの変速機でもエンジンスぺックは共通となった。それもあってか、日常域におけるCVT仕様のピックアップ感やパワー感はMT仕様を上回るほどで、開発陣も今回のCVTの制御には絶大な自信があるようだ。個人的には、「スポーツ」モードでなくても小気味よすぎて、エコモードにあたる「ECON」に入れてちょうどいい。それでも、慣れるにしたがってクルマと気心が通じるようになり、最終的には現行CVT車のなかでも、速度の微調整が屈指にやりやすいことが分かった。
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エンジンは従来型のユニットをベースに大幅な改良を加えたもので、加速時の応答性のよさや伸びやかさを重視。加速と一体感のあるサウンドも追求された。
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CVTはターボエンジンの大トルクに対応するべくトルクコンバーターの性能を強化。全開加速時やブレーキング時に段階的な変速を行う、ステップアップ/ダウンシフト制御が搭載されている。
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CVT仕様にはドライブモードセレクターを搭載。「ノーマル」「スポーツ」、およびエコモードに該当する「ECON」の3つのなかから、状況に応じて好適な走行モードを選択できる。
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CVT仕様についても、エンジンの回転上昇と加速が乖離(かいり)する、いわゆる“ラバーバンドフィール”は小さく、レスポンスのよいエンジンとも相まって気持ちのいい走りを楽しめた。
明確に“ドライバーズカー”
新型シビックはそのうえで、高張力鋼板の使用比率拡大や、アルミボンネットと樹脂バックドアを採用した上屋構造、格子状のフレーム設計に構造用接着材の適用を拡大したフロアなど、高剛性化と軽量化を促進させた車体構造となっている。またサスペンションでは、各部の徹底したフリクション低減策が目をひく。
その走りはというと、8代目が日本上陸したばかりの競合車「フォルクスワーゲン・ゴルフ」にも似て、“熟成の味”という印象が強い。今回の試乗ルートには中央自動車道・小淵沢IC付近のアップダウンと高速コーナーが連なるルートも含まれていたが、そこでのヒタリと安定した直進性と絶大な接地感は、見事というほかない。新型シビックのダイナミクス性能は、全方位で要求水準が高い欧州の交通環境でまず仕上げた後に、各マーケットに合わせて微調整するという手法で開発された。新型シビックの高速性能も、そうした環境下での開発のたまものといわれれば納得したくもなる。
国内向けのシビックが18インチの「グッドイヤー・イーグルF1アシンメトリック2」を履いていることからも分かるように、それはけっこうスポーツ寄りの仕立てである。街なかでの乗り心地は基本的に引き締まり系であることは確かで、クルマ全体の剛性感が高いので不快ではないが、クルマに興味がない家族にウケがいいタイプとはいいがたい。やはりドライバーズカーであることが第一義といえる。
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前席には、背もたれと座面に面形状のサスペンションを用いた「ボディースタビライジングシート」を採用。安定した着座姿勢が保ちやすく、長時間乗車していても疲れにくい設計となっている。
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新型「シビック」では、ホイールベースの延長により前後席間距離が従来モデルより35mm拡大。後席の居住性が改善している。
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タイヤサイズは全車共通で235/40R18。18インチのツイン5スポークホイールはグレードによってカラーリングが異なり、「EX」では切削箇所にダーククリア塗装が施されている。
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ボディーについては、アルミ材や高張力鋼板の採用拡大、設計の最適化、従来比で9.5倍という構造用接着剤の多用などにより、軽量化と剛性強化を同時に実現。ねじり剛性は現行モデルより19%向上している。
熟成の進んだプラットフォームの恩恵
こうした敏感すぎず、軽快なのに安定した身のこなしをあえて擬音化すると“カキカキ”というより“スイスイ”といったイメージか。なるほどキャッチフレーズどおり、爽快と形容したくなる味わいだ。さらに、ほぼフルバンプに近い状態で激しい凹凸に遭遇しても、涼しい顔でフラットに吸収してみせる体幹の強さも、乗り味としては爽快である。
こういう、リアルに鍛えられて練り込まれたダイナミクス性能は、同じくプラットフォームをあえて継続使用しつつ徹底して熟成を図った現行「フィット」や「ヴェゼル」にも通じるところがある。
かつてのホンダといえば、モデルチェンジごと、あるいはクルマごとに新機軸や専用設計を入れるのが使命みたいな、よくも悪くも技術者の心意気が最優先の社風だった。それはそれで、ファンがいうところの“ホンダらしさ”の一面だったのだろう。それに、今回も車体のスリーサイズがほとんど変わらないのに車重が先代より増えているあたりは、完全新設計ではない継承・改良型プラットフォームの影響といえそうだ。しかし、その操縦性や乗り心地、そしてパワートレインの一体感を見るに、少なくとも新型シビック(個人的には、現行フィットやヴェゼルもそこに含めたい)では、プラットフォームを継続した利点のほうが大きかったと思う。
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コーナリング性能や乗り心地の改善には、ボディー剛性の強化や足まわりの改良に加え、従来モデルより35mm拡大したホイールベースと12mm拡大したリアトレッドも寄与している。
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「EX」に備わる10.2インチのフルグラフィックメーターは、大胆な表示レイアウトの変更が可能。各種走行情報に加え、インフォテインメントシステムの設定、運転支援システムの作動状態などが確認できる。
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インフォテインメントシステムには、9インチのタッチスクリーンを備えたディスプレイオーディオを採用。「EX」には12基のオーディオを備えたBOSE製のサウンドシステムも装備される。
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3連のダイヤル式コントローラーが目をひく、空調の操作パネル。人が触れる箇所については、視覚的な上質感はもちろんのこと、操作した際の手応えのよさや心地よさも追求して設計がなされた。
まさに“爽快”の2文字につきる
新型シビックはファストバッククーペ的なプロポーションを先代から受け継ぎつつも、視界性能がハッキリと向上している。それは「ノイズを排除した」というシンプルな内外装デザインに加えて、低く水平なベルトラインに先代比で50mm後方に引かれたAピラー、6ライトのウィンドウ、そしてドア直付けとなったサイドミラーなどによるものだ。
低く水平基調のダッシュボードデザインは、世界的なターゲットである20〜30代の若者の美意識に沿ったものでもあるそうだが、1980年代から90年代の低ボンネットなホンダ車を肌身で知る中高年は「これこそホンダ!」とヒザをたたくことだろう。50代のオッサンである筆者が新型シビックにシンパシーを抱く理由は、いうまでもなく後者だ。
またAピラーは、その根元の延長線がフロントタイヤの中心に着地する位置・角度となっているのが、デザイン上のポイントらしい。それが、新型シビックを先代より伝統的なクルマらしく見せるキモとなっている。同時にそんなAピラーは、フロントタイヤの位置を直感的かつ正確に把握させる一助にもなっていて、新型シビックを爽快に乗りこなせる車両感覚につながっている。
新型シビックはあらゆる部分が“爽快”という合言葉に収斂(しゅうれん)している。ここまで統一された世界観を表現できている国産車はめずらしい。さすがはホンダのベストセラーだけに、新型シビックはホンダの地力をいかんなく発揮したかのようなクルマだ。そして、ゴルフ8をはじめとする最新の欧州勢力と比較しても、ニヤリとできる力作である。
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広々としたガラスエリアと相対的に薄く見えるボディー、水平基調のショルダーラインが織りなすサイドビュー。このデザインの方向性は、1983年に登場した3代目「シビック」、通称“ワンダーシビック”に着想を得たものだったという。
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フロントウィンドウに備えられたワイドビューカメラ。予防安全・運転支援システムは従来モデルから全面刷新。センサーの認識能力が大幅に向上したほか、踏み間違い衝突軽減システムやトラフィックジャムアシスト(渋滞運転支援機能)などの新機能が追加された。
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荷室容量は「LX」が452リッター、「EX」(写真)が446リッター。側壁の上部には、引き出して使用するカーゴエリアカバーが装備される。
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試乗を通して筆者に高いポテンシャルを実感させた新型「シビック」。2022年にはハイブリッドモデルや「タイプR」も登場する予定だ。
テスト車のデータ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4550×1800×1415mm
ホイールベース:2735mm
車重:1370kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:182PS(134kW)/6000rpm
最大トルク:240N・m(24.5kgf・m)/1700-4500rpm
タイヤ:(前)235/40R18 95Y/(後)235/40R18 95Y(グッドイヤー・イーグルF1アシンメトリック2)
燃費:16.3km/リッター(WLTCモード)
価格:353万9800円/テスト車=368万8850円
オプション装備:ボディーカラー<プラチナホワイトパール>(3万8500円) ※以下、販売店オプション ドライブレコーダー フロント用 16GBキット<DRH-204WD>(3万9600円)/フロアカーペットマット<プレミアムタイプ>(4万8400円)/取り付け工賃(2万2550円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:1415km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
ホンダ・シビックEX
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4550×1800×1415mm
ホイールベース:2735mm
車重:1340kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:182PS(134kW)/6000rpm
最大トルク:240N・m(24.5kgf・m)/1700-4500rpm
タイヤ:(前)235/40R18 95Y/(後)235/40R18 95Y(グッドイヤー・イーグルF1アシンメトリック2)
燃費:16.3km/リッター(WLTCモード)
価格:353万9800円/テスト車=368万8850円
オプション装備:ボディーカラー<ソニックグレーパール>(3万8500円) ※以下、販売店オプション ドライブレコーダー フロント用 16GBキット<DRH-204WD>(3万9600円)/フロアカーペットマット<プレミアムタイプ>(4万8400円)/取り付け工賃(2万2550円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:1485km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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