【試乗記】レクサスLX600プロトタイプ(4WD/10AT)
万能ゆりかご
遺伝子は本格クロスカントリー
時系列がややこしくなるが、LXはレクサスブランドの誕生から7年後の1996年に初代が登場している。時の80系「ランドクルーザー」をベースに加飾要素を高めたそのつくりは、後の「リンカーン・ナビゲーター」や「キャデラック・エスカレード」にも影響を与えたはずだ。
その後、1998年には100系ベースの2代目、2007年には200系ベースの3代目がデビュー。要はアーキテクチャーを共有するランドクルーザーの刷新に連動するかたちで、新型へとバトンタッチし続けてきた。ちなみに日本で初めてLXがLXとして発売されたのは2015年、3代目のフェイスリフトを伴うマイナーチェンジが施されたタイミングだ。でも厳密に言えばそれ以前、1998年に2代目LXが「ランドクルーザーシグナス」としてトヨタブランドで販売されている。
新しくなった4代目も、ベースとなるランドクルーザーが300系へとスイッチしたことに伴う刷新の意味合いが強いのは確かだ。でも過去3代と状況が異なるのは、ラダーフレーム構造シャシーの新開発時からLXをつくることを想定し、レクサスらしいパフォーマンスを発揮できるような工夫を設計に織り込んでいることだという。ちなみにLXの主査を務める横尾貴己さんは、300系の開発にも主査として深く携わってきた。
新型LXのディメンションは全長が5100mm、全幅が1990mm、全高が1885〜1895mmとなる。300系ランドクルーザーに対してはやや長く、やや低い数値になるが、これは意匠や加飾などからくる違いであって、室内空間・容積等のユーティリティー面は同じとみていいだろう。ちなみに300系との比較で言えば、ホイールベースはファミリーの黄金比ともいえる2850mmを踏襲。トレッドは1675mmと10mm広く、地上高は200〜210mmと15〜25mm低い。地上高についての理由は後述する。
機能で選べる3グレード
パワー&ドライブトレインは基本的に3グレードで共通している。エンジンは直噴とポート噴射を併用する3.44リッターV6ツインターボのV35A-FTS型を搭載。最高出力415PS、最大トルク650N・mを発生する。組み合わされるトランスミッションは10段AT。トランスファーは全グレードで副変速機とセンターデフロックを備えるが、それに加えてオフロードには前後軸にもデフロックが備わる。
サスペンションは前:ダブルウイッシュボーン、後ろ:トレーリング車軸すなわちリジッドだ。スプリングはコイル式だが、新型LXは先代にも搭載されていた「アクティブハイトコントロールサスペンション(AHS)」が標準装備となる。これは100系のランドクルーザーで初搭載された油圧式車高調整システムを祖とするもので、300系では乗降モード/標準/ハイ1/ハイ2と4段階で車高調整が可能。車高の変更はドライブモード等との連動だけでなく、任意での設定もできる。また、車両がスタック状態と認識すると、脱出のためにさらに10mm車高を高める緊急モードも備わっており、最大で110mmの可変幅をもっている。デフォルトの最低地上高が300系より低い理由はそこにあるわけだ。
300系は225mmの最低地上高は固定ながら、「GRスポーツ」はE-KDSSを採用し、スタビライザーをフリーとすることでサスペンションのトラベルを拡大、悪路走破性を高めていた。対してLXは車高を物理的に持ち上げることで地上高を上げて悪路走破性を高めようという仕組みだ。ちなみにAHSで車高を高めた際のランプブレークオーバーアングルやデパーチャーアングルは300系を上回っている。登坂能力45度、最大安定傾斜角44度は300系と同じ。そして渡河深度も同じ700mmだ。
確かにランクルとは違う
最大の特徴は前方から連続する大型コンソールによって隔てられたパーソナルリアシートで、最大角48度のフルリクライニング時には「中立姿勢」を参考にしたポジションをとるように設定されている。これは宇宙空間で人間が力を抜いて休む際にとる最も疲れない姿勢としてNASAが提唱するもので、市中では既に座椅子などが商品化されている。LXは形状の最適化に加えてクッション材をソフトウレタン化して頭や体のホールド性を高め、悪路走行時の横揺れを抑える工夫が盛り込まれている。また、助手席の前方スライド量を他モデルより長くして最大1000mmのレッグスペースを確保。オットマン使用時も踏ん張りがきくように足置き部の形状も検討が重ねられた。後席大型モニターはリクライニングポジション時にも前方視界を妨げないように電動可倒式となっている。
正式発売前ということで、限られた環境で短時間の試乗となったが、そこでも感じられたのは300系とは異なる静粛性の高さや整えられた乗り心地だ。遮音材、制振材などの物量的な差異もさることながら、ボディーとフレームの結合部のマウントベースをコンマmm単位でチューニングを重ねるなど、根本からの因子遮断にも力を入れてきたという。
ハンドリングはGA-Fプラットフォームの採用により200kg近い軽量化を果たした結果が如実に表れており、同形式をとる「Gクラス」あたりを想定してもその動きはひと回り軽やかだ。前述のとおり発売前であるがゆえ、この手のクルマには似つかわしくないミニサーキットのコースを走る羽目になったが、それでもライントレース性の高さや加減速姿勢の安定ぶりに感心させられた。波状路にあえてタイヤを乗せてみても、リジッドサス由来のオツリが増幅していくようなそぶりもなく、すっきりした足さばきに仕上がっている。
軽量化が効いている
サスのトラベル自体も長くはなったものの、その差はわずかということで、物理的な走破能力に大きな差はなさそうだが、ここでも効いてくるのは軽さ。そして何より激変しているのは駆動制御の緻密さに加えて電子制御油圧ブレーキの採用による各輪制動制御のキメの細かさだ。前型ではガツガツとしたブレーキやトラクションコントロールの作動で縦揺れや横ゆすりを伴いながらドシンバタンと越えていたセクションを、新型は最小限の駆動力とつままれている感覚さえ伝わらない制動力とでスルリと抜けていく。車高が最も高い状態でタイヤを地に落とした際のショックの丸さは油圧式車高調整の利だろう。電動パワステ化によるキックバック等のショックの伝わり方もよくチェックされているようで、大きな入力にも不快感はなかった。
とはいえ、だ。果たしてLXを買うユーザーがそこまでの走りを望むのだろうか。そういう場面が想定されるなら、ランクルの側を別途購入するのではないか。そんな疑問もつきまとうのは確かだ。
が、たとえそうであったとしても、LXにはランクルと同等の安心感、つまり必ず生きて帰られる……うんぬんがなければならない。それがユーザーの期待値の根底にあるという。後席空間確保のためにダッシュボードに食い込まんばかりにスライドするエグゼクティブの助手席をみて、ロングホイールベースとか考えなかったんですか? と愚問を投げかけてしまった自分が恥ずかしい。ちなみに中東の少なからぬLXユーザーは、ランクルも所有しているという。究極の環境でさえ快適を究める。LXに託された使命はこの新型でますます明確になった。誰よりそう感じるのはこういうユーザーたちだろう。
(文=渡辺敏史/写真=田村 弥/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5100×1990×1895mm
ホイールベース:2850mm
車重:2610kg
駆動方式:4WD
エンジン:3.4リッターV6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:10段AT
最高出力:415PS(305kW)/5200rpm
最大トルク:650N・m(66.3kgf・m)/2000-3600rpm
タイヤ:(前)265/50R22 105V(後)265/50R22 105V(--)
燃費:8.0km/リッター(WLTCモード ※社内測定値)
価格:1250万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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