【試乗記】トヨタ・ノア ハイブリッドS-Z(FF/CVT)
これは序章にすぎない
国産ミドルサイズミニバンが一斉に世代交代
狭い日本の住環境に合わせた外寸のなかで最大限の容積を、子育て事情に合わせて数々の装備を切磋琢磨(せっさたくま)しながらひねり出してきた、そんなM寸ミニバンの、今年は当たり年だ。まずはトヨタがノア/ヴォクシーを、次いでホンダが「ステップワゴン」をフルモデルチェンジ。日産も「セレナ」のフルモデルチェンジがうわさされているから、もし実現すれば衆参W選挙も及ばないくらい、驚きの惑星直列となる。もっとも、最新の情報ではくだんの半導体不足やサプライチェーンの混乱等もあって、セレナはその時期を先送りするのではないかと推測されてもいるようだ。
こういった外的要因はノア/ヴォクシーの生産にも影響しているようで、現在の納期は6カ月以上となっている。ハンコは押せど、なかなか納期がみえないという話を耳にする方々もいらっしゃるかもしれない。内需の塊のような車種なのに、つくりたくてもつくれない、工場を遊ばせるしかないというのは、国内雇用を支えるメーカーとしては結構な痛手だと思う。
そんなわけで納期もままならないノア/ヴォクシー。販売から3カ月の少ない分母ではあるものの、一体どちらが人気なのかと台数を追ってみると、今のところは五分五分という情勢だ。ちなみに前型までのノア:ヴォク比は4:6〜3:7といった感じでヴォクシーのほうが人気を博していた。新型に関しては、目を合わせたくない不穏さのヴォクシーに比べれば、まだプレーンにみえるノアのほうが受け入れられるのではないかと個人的には思っている。が、正直この手のマーケットの嗜好(しこう)はなにがなんだかわからん……というのは、現行「アルファード」の一件でも痛感させられたことだ。
限られた寸法のなかに最大限の工夫を盛り込む
何も考えずに全部載せていくとラーメンもお札1枚では足りなくなるのと同じで、どこかで線引きしなければとめどないことになってしまう。しかし、これらのオプションはある程度パッケージ化されたものが多く、個別での付加機能の選別は難しい。装備の複雑化は理解するが、コストにシビアなファミリーカーだけに、もう少しきめ細かな設定にしてあげてもいいんじゃないかと思う。
限りなく5ナンバー級という縛りがあるという点でみれば、M寸ミニバンは敷地面積が実質確定している軽のようなものだから、基本パッケージうんぬんはもうやり尽くされた感がある。新型ノア/ヴォクシーはサイドウィンドウを立てて箱型感を増したシルエットによって側頭部スペースに余裕をもたせたほか、室内高も若干高め、アップライトな着座姿勢により前後席間距離を稼ぎ出すなど、涙ぐましい空間のたたき出しを施した。
その努力の跡は一目瞭然……なわけはなかろうが、まぁ広さにおいてはケチのつけようがない。取材車は2列目が独立キャプテンシートとなる7シーターだったが、左右席間を保ったままドーンと後方までスライドが可能。手動のオットマンを引き出せば、他のクルマではあり得ないくつろぎの空間が生まれる。
ショーファードリブンとしても資質は十分
そう思う第1の理由は燃費だ。新型ノア/ヴォクシーにて初出となる、さながらお笑い芸人のように第5世代と称される新しいTHS(トヨタハイブリッドシステム)は、要素技術の進化をしっかり採り入れているほか、モーター出力の向上、リチウムイオン電池の採用などもあって、効率のみならずドライバビリティーも大きく進化した。モーター走行領域は大幅に拡大、街なかで低中速域を多用している限りはエンジンの稼働をあまり意識させないほどだ。
実感として「ヤリス」以降のTHSは、みなしBEVくらいに言っちゃってもいいんじゃないかというほどのマネジメントになっているが、新型ノア/ヴォクシーもそれなりにデカいずうたいをもってそういう走りに仕上がっている。こういうクルマで実燃費が20km/リッターなんて話は10年前ならあり得なかったと思うが、新型ノア/ヴォクシーのハイブリッドはどうやらそこに手をかけているというのが、今回の試乗における燃費の推移をみながらの実感だ。
第2の理由として、新型ノア/ヴォクシーはライドフィールが前型比で大きく改善されている。具体的には、トヨタのミニバン系で特に気になっていたフロアから連続的に伝わる微振動がかなり整理され、サスペンションの許容度の拡大も含めて乗り味の雑みが取れ、加減速・旋回といった所作の情報量や質が一気に高まった。言い換えれば思いどおりに動かすための解像度が高まっているということだ。とりもなおさず、それはドライバーだけではなく2列目のあるじにとっても快適性に直結することだ。
これから登場するモデルも期待大
が、そんな話をホンダの関係者に振ってみると、へぇー、そうなんですかぁとニヤニヤするばかりだ。僕はまだ新型ステップワゴンには触れていないが、彼らは既に比較検証もできているだろうから、相応の自信があるのだろう。
“トヨタ・ウイッシュVSホンダ・ストリーム”に代表される日本市場での争いは、以前は各メーカー間で頻繁に起こっていたが、近ごろはトヨタの横綱相撲が目立ち、そういうガチな話も聞かなくなりつつあった。今年は久しぶりのアツい祭りといえるのかもしれない。
一方で、トヨタにはこの後、ノアヴォクゆずりの新しいアーキテクチャーを活用するだろう次期型アルファード、そして恐らくは「レクサスLM」もスタンバっており、かつこれらの車種は“日本の固有種”からの本格的な脱却も想定されているはずだ。新型ノア/ヴォクシーの仕上がりは、トヨタが独走するL寸ミニバンの今後も期待させる。
(文=渡辺敏史/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4695×1730×1895mm
ホイールベース:2850mm
車重:1700kg
駆動方式:FF
エンジン:1.8リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:98PS(72kW)/5200rpm
エンジン最大トルク:142N・m(14.5kgf・m)/3600rpm
モーター最高出力:95PS(70kW)
モーター最大トルク:185N・m(18.9kgf・m)
システム最高出力:140PS(103kW)
タイヤ:(前)205/55R17 91V/(後)205/55R17 91V(トーヨー・プロクセスR60)
燃費:23.0km/リッター(WLTCモード)
価格:367万円/テスト車=455万5720円
オプション装備:快適利便パッケージHigh<ハンズフリーデュアルパワースライドドア[挟み込み防止機能付き]+パワーバックドア[挟み込み防止機能&停止位置メモリー機能&パワーバックドアスイッチ〈車両サイド〉付き]+「ナノイーX」+ステアリングヒーター+キャプテンシート追加機能[シートヒーター+オットマン〈2WD車のみ〉+角度調節アームレスト〈2WD車のみ〉]>(14万8500円)/ドライビングサポートパッケージ<カラーヘッドアップディスプレイ+デジタルインナーミラー>(9万9000円)/ディスプレイオーディオ コネクテッドナビ対応Plus 12スピーカー<コネクテッドナビ[車載ナビあり]、FM多重VICS+10.5インチHDディスプレイ、DVD、CD、AM/FMチューナー[ワイドFM対応]、テレビ[フルセグ]、USB入力[動画&音楽再生&給電]、HDMI入力+スマートフォン連携[Apple CarPlay&Android Auto&Miracast]+マイカーサーチ、ヘルプネット、eケア、マイセッティング+Bluetooth接続[ハンズフリー&オーディオ]+ETC2.0ユニット[VICS機能&光ビーコンユニット付き]>(19万0300円)/Toyota Safety Sense<緊急時操舵支援[アクティブ操舵機能付き]+フロントクロストラフィックアラート[FCTA]+レーンチェンジアシスト[SEA]+ブラインドスポットモニター[BSM]+安心降車アシスト[ドアオープン制御付き]+パーキングサポートブレーキ[後方接近車両]+トヨタチームメイト アドバンストドライブ[渋滞時支援]>(13万4200円)/トヨタチームメイト アドバンストパーク<リモート機能付き>+パーキングサポートブレーキ<周囲静止物>+パノラミックビューモニター<床下透過表示機能付き>+パーキングサポートブレーキ<後方歩行者>(12万6500円)/プロジェクター式LEDヘッドランプ<オートレベリング機能付き>+LEDターンランプ+LEDクリアランスランプ<デイライト機能付き>+アダプティブハイビームシステム(6万2700円)/デジタルキー(1万6500円)/ ※以下、販売店オプション ドライブレコーダー<TZ-DR210>(4万4220円)/フロアマット<ラグジュアリータイプ>(6万3800円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:544km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5)/高速道路(5)/山岳路(0)
テスト距離:164.2km
使用燃料:9.0リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:18.2km/リッター(満タン法)/18.7km/リッター(車載燃費計計測値)
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