【試乗記】ホンダ・シビック タイプR(FF/6MT)
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ホンダ・シビック タイプR(FF/6MT)
ハイパフォーマンスのその先へ
まずは乗り心地のよさに驚く
パルクフェルメ(というかフツーの駐車場)に用意されたタイプRは、全部で6台。サプライチェーンが混乱をきたしているなか、これだけの台数を確保するのも大変だっただろう。ただ、その姿は以前にたっぷり確認できていたため、特別な感動はなかった。ふくよかなフロントフェンダーとそこに収まる大径タイヤ、リアハッチにそびえるウイングがその存在を強く示していたけれど、全体の印象は相変わらずスマートだ。先導車として用意された先代モデルとのコントラストも、余計に現行タイプRをおとなしく印象づけたのかもしれない。個人的には、もうちょっとボディーパネルの面が出ていれば最高だった。あとやっぱり、羽は要らない。
かくして2度目の出会いにあまり新鮮さはなかったけれど、走りだしたらいきなり驚いた。予想をはるかに超えて、乗り心地がよいのである。今回その足もとには、オプション設定される「ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2コネクト」が履かされていた。春先に鈴鹿でワークスドライバーの伊沢拓也選手がアタックした際と同じ、ホンダの認証タイヤだ。
265/30ZR19サイズの幅広・低偏平なタイヤを履いたタイプRは、コースインするまでの荒れた砂利道を、あまりにも普通に走った。カップ2が標準タイヤの「パイロットスポーツ4 S」よりソフトな可能性はあるが、それにしてもサイドウォール剛性の高さからくる小刻みな横揺れまでもが抑え込まれていたことには、ちょっと驚きを隠せなかった。
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2022年7月に世界初公開され、同年9月に発売された新型「シビック タイプR」。シビック タイプRとしては6代目(「タイプRユーロ」を含むと7代目)のモデルにあたる。
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赤と黒のハイコントラストな内装色と、アルカンターラ巻きのステアリングホイールが目を引くインテリア。ダッシュボードの装飾パネルには、反射を抑える偏光ガンメタリック塗装を用いている。
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空力パーツはいずれも実効性を備えたもので、200km/h走行時にはフロントフードが42N、フロントスポイラー&アンダーカバーが207N、リアディフューザーが63N、リアスポイラー(写真)が580N、標準車の「シビック」より大きなダウンフォースを発生する。
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試乗車にはホンダが“補修パーツ品”として用意するハイグリップタイヤ「ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2コネクト」が装着されていた。サイズは265/30ZR19。加速性能とグリップ力を重視し、先代より幅広、かつ若干小径となっている。
快適な走りを支える強靭なボディー
ならばと「スポーツ」モードを試すと、前述の“フワッ”がなくなった。全体的に伸び側減衰力が高められたのだろう。しかしそれが突っ張ることも一切なく、運転感覚としてはしなやかさ100点満点。縁石をまたいだ時などはさらに感動的で、直接のライバルである「ルノー・メガーヌ ルノースポール」のダンパー・イン・ダンパー「HCC」よりも、ショックの吸収力が高いという印象を持った。
もっとも、こうしたサスペンションのスムーズな伸縮は、可変ダンパーの制御だけがもたらしたものではない。新型タイプRは、先代に対して構造用接着剤の塗布長を3.8倍に増やしており、特にリア側のねじり剛性を15%向上させている。
操舵に粘り強さがあるのは、2軸式のフロントストラット「デュアルアクシスストラットサスペンション」の恩恵だろう。これによってダンパー軸と転舵軸が分割され、ダンパーは横力の影響を受けにくくなった。かつ転舵軸がナックルに近づくことで、トルクステアも抑えることができるのだ。一方リアには、スムーズな動きと高い剛性を実現できるマルチリンクをおごっている。
しっかりとしたボディーにブレない足まわりが付いたおかげで、サスペンションがスムーズに伸び縮みする。だからリアダンパーを固めて安定性を高める必要がなくなった。もしかしたらその乗り心地は、低荷重領域だと標準車……すなわち普通のシビックのほうがスポーティーに感じるかもしれない。
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走行モードは「コンフォート」「スポーツ」「+R」、そしてカスタマイズモードである「インディビジュアル」の4種類。モードに応じてエンジンの制御やパワーステアリングのアシスト量、可変ダンパーの減衰力特性、エンジンサウンド、レブマッチシステムのレスポンス、メーター表示が切り替わる。
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センターコンソールに配置されるドライブモードセレクターの操作スイッチ。「コンフォート」と「スポーツ」はシルバーのツマミで切り替え、「+R」はその上の専用ボタンで選択する。
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フロントの足まわりには先々代の「FK2」型から採用される「デュアルアクシスストラットサスペンション」を踏襲。265幅のタイヤに合わせてジオメトリーを変更するとともに、ナックルやダンパーフォーク、ロアアームの剛性を最適化。先代比でキャンバー剛性を16%向上させた。(写真:webCG)
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ボディーについては剛性の強化と同時に、樹脂製のテールゲートを使うなど軽量化も追求。サイズアップに伴う重量増を40kgに抑えている。
サーキットで実感する圧倒的な進化
今回の試乗ではホンダのワークスドライバーである武藤英紀選手と伊沢拓也選手が先導走行を務めてくれたのだが、このふたりがドライブする先代の「タイプR リミテッドエディション」よりも、アマチュアドライバーである筆者が運転する新型タイプRのほうが、確実に速かったのである。
勘違いしてほしくないのだが、その原因は筆者にはない。そして(本人らいわく)ふたりがサービスしてくれたわけでもない。これこそが、新型モデルの進化の証しなのだ。そして既に新型タイプRを予約したアナタが、ガッツポーズをするべきところである。
その差は、長いストレートを駆け下りる1コーナーから、いきなり明らかになった。高速旋回しながらブレーキングしていくその過程で、新型タイプRは前を走る先代「FK8」型よりも、明らかにリアが安定していた。なおかつ下りながらの旋回速度も速かった。回り込んだ2コーナーのアプローチでは、余裕をもったブレーキングでも旋回区間で遅れを取り戻せる。そしてクリップめがけてアクセルを踏み込んでいけば、追いついてしまうのである。
FK8型のタイヤサイズは新型より20mm細身だ。ただし、その車重は40kgほど軽い。先導車はリミテッドエディションなのでさらに20kg軽く、たぶん筆者と彼らの体重差を加えたら、こちらはもっと重たい(笑)。そんな物理的ハンディを押しのけて、新型が先代を圧倒できるのは、前述したシャシーワークがまずひとつ。そして、「(恐らく)最後のVTECターボ」のパンチも効いている。
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試乗は、レーシングドライバーの武藤英紀選手と伊沢拓也選手の先導のもとに実施。両氏によると、動力性能における先代と新型との違いは、加速とコーナリングで顕著に感じられたという。
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専用のスポーツシートは、サポート性の強化や、シフト/ペダル/ステアリングの操作性向上、および軽量化を追求したもの。背もたれの中央などには、通気性を高めるハニカム模様のパーフォレーションを施している。
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「コンフォート」および「スポーツ」モードでは、液晶メーターの表示はコンベンショナルな2眼式。指針の色は「タイプR」伝統の黄色で、速度計には320km/hまで目盛りがふられている。
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スポーツ走行に特化した「+R」モード時のグラフィック。写真では点灯していないが、ディスプレイ上部には高輝度LEDのレブインジケーターが装備される。
あの“鈴鹿”でさえ冷静に走れる
だから走れば走るほど、FK8型とのパワー差が目に見えて広がっていった。午前中の、気温が低い状態ではわずかだったその差も、走行を繰り返した午後の走行では、明らかな違いとなって現れた。こうした、一発の速さではない耐久性に関しては、開発陣が国内レースのスーパー耐久でコツコツと先代タイプRを走らせてきた成果が表れているのだと思う。
こうした、ダイナミクス性能における新型タイプRのキャラクターをひとことで表すならば、「優しいクルマ」だと筆者は思った。タイプRのイメージから一番遠いところにある表現かもしれないが。
まず、シャシーの動きがとびきり優しい。「+R」モードを長押ししてVSC(車両安定装置)の制御を切った状態では、ややリアダンパーの動きが規制されてギャップに対する跳ね感は出るものの、姿勢はさらに安定する。逆バンクやスプーンコーナー、130Rという手ごわい高速セクションでも、ターンインからの挙動には、ズバッとリアを振り出すようなピーキーなところが一切ない。カーブではアンダーステア知らずでよく曲がる。だから、ドライバーは落ち着いて、この超高速域で自分の走りを精査・修正できる。目の前で展開するGTドライバーの運転を手本に、アプローチを学び、ラインをトレースできるのだ。
操作系では、6段MTのスムーズさが際立っていた。シフトダウン時にエンジン回転を自動で上げてくれるレブマッチング機能は、極限状態でアクセルをあおるワンアクションを省いてくれて、運転に集中できる。ホンダであればDCTで多段化・クロスレシオ化する道もあっただろう。そうすれば、左足ブレーキによるさらなる運転の高度化が可能になったとは思うが、開発陣はコスト増と重量増を嫌った。そのぶんシフトフィールに磨きをかけ、ドライビングプレジャーをも残したというわけだ。
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最高出力330PS、最大トルク420N・mを発生する2リッター直4直噴ターボエンジン。ターボチャージャーの効率向上や吸排気系の流量増大、ECU制御の最適化などにより、高出力化と高レスポンス化、環境性能の向上を同時に実現した。
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ターボチャージャーはファンの羽の枚数を減らしたほか、コンプレッサーホイールとタービン側スクロールを小型化。ベアリングの抵抗も低減させた。これにより、回転に伴う慣性モーメントを14%低減、過給の効率を3%向上させた。
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マフラーはセンター3本出しで。先代とは異なり中央が最も太くなっている。この中央のマフラーにはアクティブバルブが備わっており、高負荷走行時に開くことで排気流量を増大。迫力あるサウンドにも寄与している。
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フライホイールは先代比で重量を18%、慣性モーメントを25%低減。これによりブリッピングのレスポンスは10%向上し、レブマッチシステムが2速から1速へのダウンシフトにも対応するようになった。
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新型「シビック タイプR」はシフトフィールも徹底追求。専用のリンク機構の採用や、ゲート形状の最適化により、剛性感や節度感、スムーズ感をさらに向上させた。
より“操る喜び”を高めたバージョンも見たい
加えて個人的には、先述した“優しさ”の先に、ホンダがさらなるドライビングプレジャーを用意してくれたら、もう言うことはない。現状では、誰が乗っても安全にタイプRの性能を引き出せる、幅の広いセッティングが与えられている。だがその先にある、「コントロールする喜び」の領域に一歩踏み込むことも、タイプRに寄せられる期待だと思うのである。それは決して、マシン特性をピーキーにしろということではない。むしろその穏やかな操縦性のまま、ヨー慣性モーメントでクルマを曲げていく楽しさを表現してほしいのである。
そして実は、速さよりもこうしたドライビングプレジャーを大事なものとして捉えているのが、最大のライバルであるメガーヌなのだ。もっと言えば、後輪駆動になってしまうが「トヨタGR86」や「マツダ・ロードスター」も、速さより“そこ”を大事にしている。
かつて、こうした部分のマニアックなカスタマイズは、サードパーティーが担っていた。だが、タイプRが可変ダンパーを使うようになってから、そのサスペンションチューニングの需要は大幅に減ったと聞く。「これを換えてしまうのはもったいない」とユーザーが判断するようになったからだ。だとすれば、ここまで高度化したタイプRでそれを行うのは、ワークスの役目だろう。車高の変化による「Honda SENSING」の閾値(しきいち)調整は大変だと思うが、この可変ダンパーシステムを生かしたまま、わずかでもそのキャンバーやレイクバランス(前後の車高差)を変更できるダンパーケースを用意してほしい。
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ブレーキではフロントのディスクを2ピース化したほか、ブレーキダクトと導風板の改良により冷却性を向上。マスターバックも操作性の改善が図られた。
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「シビック タイプR」は2017年登場の「FK8」から電子制御式のアクティブダンパーシステムを採用。快適性と走行安定性および応答性の両立が図られた。
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「シビック タイプR」専用設計の「ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2コネクト」(左)と「パイロットスポーツ4 S」(右)。FFのハイパワー車に合わせてコンパウンドやタイヤ構造、トレッドパターンが最適化されている。
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タイヤの開発に際しては、高負荷領域でのコーナリングパワー向上と前後荷重依存性の低減を重視。先代の専用設計タイヤより、特にドライグリップ性能を向上させた。
フラッグシップに課せられた使命
それと同時に、ホンダにはこの“優しいタイプR”を使って、ユーザーをきちんと導いてほしいと思った。それこそ、今回の2台の先導車のように。
5ドアハッチの日常性を併せ持つシビック タイプRは、この新型もヒット作となることだろう。オープンロードでの試乗は少し先だが、先代以上にその快適性は向上しているはずで、それなら家族のいるお父さんも、奥方にファミリーカー候補として力説できる。ただ、そんなユーザーがタイプRを手にする根本的な理由は、「純ガソリンエンジンの、最後のタイプRになりそうだから」とか「価値が落ちないから」ということではなく、走りへの期待にあるはずだ。
だからこそホンダはユーザーに、もっともっと積極的にタイプRのパフォーマンスを安全に解放できる場を提供し、その走らせ方をきちんと伝えていくべきだ。その地道な努力こそが、仮に電動化の未来が来ても、ホンダらしさを理解してもらえる礎になる。
このまま、2022年いっぱいで「NSX」が生産終了となれば、シビック タイプRはホンダのスポーツイメージを一身に担う顔となる。フラッグシップとして、とことんやるべきだ。
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ホンダのモータースポーツ活動を統括するホンダ・レーシング(HRC)。最近では、モータースポーツのイメージを生かした高性能モデルの展開についても検討しているという。
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後席や荷室の使用感は、標準車の「シビック」と共通。高いパフォーマンスを実現しつつ、5ドアハッチバックとしての実用性を併せ持つ点も、「シビック タイプR」の魅力だ。
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軽スポーツの「S660」は既に絶版。スーパースポーツの「NSX」が2022年12月に生産終了となると、「シビック タイプR」はホンダでスポーツモデルと呼べる唯一のクルマになりそうだ。
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ホンダのスポーツイメージを一身に担う新型「シビック タイプR」。ホンダはこのクルマをどのように育て、オーナーとの間にどのような関係を築いていくのだろうか。
テスト車のデータ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4595×1890×1405mm
ホイールベース:2735mm
車重:1430kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:330PS(243kW)/6500rpm
最大トルク:420N・m(42.8kgf・m)/2600-4000rpm
タイヤ:(前)265/30ZR19 93Y/(後)265/30ZR19 93Y(ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2コネクト)
燃費:12.5km/リッター(WLTCモード)
価格:499万7300円/テスト車=506万3300円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション フロアカーペットマット プレミアムタイプ<エンブレム付き>(6万6000円)/ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2コネクト(--円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:649km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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