【試乗記】スズキ・ジムニーXC(4WD/5MT)
ジムニーならこわくない
市街地での燃費改善に効果あり
人気は相変わらずで、積み上がる受注に生産が追いつかない。スズキの広報部でも納期についてのアナウンスはしなくなった。筆者の知り合いに去年オーナーになった人がふたりいるが、両名ともたっぷり1年半待たされたという。
そんな好調ジムニーの最新ニュースは、MTモデルにアイドリングストップ機構が付いたことである。マイルドハイブリッドもフルハイブリッドもないジムニーにとって、アイドリングストップは重要な省燃費アイテムで、2021年9月にATにはインストールされていた。
アイドリングストップする新型MTのカタログ燃費はWLTCモードで16.6km/リッター。従来型と0.4km/リッターしか違わないが、市街地モード(WLTC-L)では14.4から15.6km/リッターに向上している。
試乗したのは最上級の「XC」(180万4000円)。最近は2ペダルの自動変速機付きモデルと3ペダルのMT車を同一価格で売るクルマも多いが、ジムニーは昔ながらにMTのほうが一律9万9000円安い。
オフロードが鍛えた驚異の粘り
5段MTのジムニーは7000rpm+のレブリミットまで回してもローで33km/h、セカンドでも54km/hしか出ない。ちなみに「ホンダS660」の6段MTはローで50km/h、セカンドは81km/hまで伸びる。「本籍、オフロード軽四駆!」を思い知らされるウルトラローギアリングである。そのため、とくに発進加速の頻度が高い街なかだと、右足ひとつでスイスイ加速してゆくATジムニーとはまったく違う運転物件である。
そのかわり、低速でのエンジンやパワートレインの“粘り”は驚くべきだ。エンストしてもすぐにクラッチペダルを踏み込めば再始動する、なんていう親切機構は付いていないが、そもそも実用の場面でMTジムニーをエンストさせるのは不可能である。スタートでどんなに荒っぽいクラッチミートをしてもシレっと立ち上がる。シフトダウンをサボって高いギアのままアイドリングスピードで路地のカドを曲がれる。急坂も4速でゆっくり登れてしまう。言うまでもなく、副変速機はハイレンジのままでだ。登山者ならぬ“登山車”である。
新設されたアイドリングストップはノープロブレムだ。MTはクラッチをつなぐひと手間があるから、ATのように再始動のタイムラグでまだるっこしさを感じることはない。ただ、エンジンが止まる瞬間、縦置きエンジンがブルンと小さく揺れるのはATにはない個性である。
独自のファン・トゥ・ドライブがある
高速道路でも街なかでも、オンロードでもオフロードでも、ジムニーを運転していると、堅固な鋼鉄製ハシゴ型フレームの上に載っている“実感”が常にある。それはラダーフレームを採用する「ジープ・ラングラー」にも「トヨタ・ランドクルーザー」にもあるが、今回、マニュアル変速を楽しみながら峠道を走ってみると、ジムニーはそういうステージでも格別にファン・トゥ・ドライブだった。ターマックのカーブでは腰高のボディーがグラッと傾く。でも、傾いたところで安定しているからこわくない。重量感のある床下のラダーフレームが、ヨットの船底から伸びるキール(おもり)をイメージさせる。
約340kmを走って、燃費は13.9km/リッター(満タン法)だった。658cc 3気筒ターボを容赦なく回してこの数値は、けっしてワルくないと思う。4年前に試乗したATのXCは11km/リッター台だったから、燃料経済性におけるMTの優位性は明らかだろう。
MTこそ本家本元
遠隔地の峠だと、往復は高速道路で移動しないといけない。その点で二の足を踏んだ先代ジムニーに対して、格段の進歩を遂げたのが今のJB64型である。快適性の向上が行動範囲を広げたのだ。その一方、本来のオフロード性能も犠牲にしなかった。というか、4代目でも「ジムニーであること」を変えなかった。奥多摩の狭い峠道を上っていたら、杉の丸太を積んだトラックが上からおりてきた。すれ違えないから、こっちがバックするしかない。そんなときもジムニーならラクで気楽だ。
縦置きエンジンで軽としてはロングノーズだから、その分、車室長は短い。そのため、後席やトランクの狭さはおなじみだが、そのかわり、運転席から振り返って、これほど後ろがよく見えるクルマはない。
副変速機付きの本格的オフロード四駆でも、車重は1tそこそこ。崩れやすそうな崖側の路肩に寄せるときも、ランクルやジープよりはるかに安心だ。ボディーが軽ければ、深雪やぬかるみにも強い。極端なオフロードコースでアクロバットのようなことをさせなくても、ジムニーはありがたいのである。
そのなかでも、MTは「基本のジムニー」である。ジムニーのオリジナルはやっぱりこれだなと痛感した。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1725mm
ホイールベース:2250mm
車重:1040kg
駆動方式:4WD
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:5段MT
最高出力:64PS(47kW)/6000rpm
最大トルク:96N・m(9.8kgf・m)/3500rpm
タイヤ:(前)175/80R16 91S/(後)175/80R16 91S(ブリヂストン・デューラーH/L 852)
燃費:16.6km/リッター(WLTCモード)
価格:180万4000円/テスト車=212万1130円
オプション装備:ボディーカラー<ブリスクブルーメタリック×ブラック2トーンルーフ>(4万4000円) ※以下、販売店オプション フロアマット<ジュータン>(2万0515円)/パナソニック スタンダードプラス8インチナビ(17万1105円)/オーディオ交換ガーニッシュ(5830円)/アンテナセット・アンテナ交換ケーブル(1万6830円)/ドライブレコーダー(3万7730円)/ETC車載器(2万1120円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:171km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:340.8km
使用燃料:24.5リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:13.9km/リッター(満タン法)/13.6km/リッター(車載燃費計計測値)
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