【試乗記】トヨタ・プリウスZプラグインハイブリッド(FF/CVT)
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トヨタ・プリウスZプラグインハイブリッド(FF/CVT)
満点の80点
空力フォルムの集大成
というのは1980年代にナベゾ画伯こと渡辺和博さんがおっしゃっていたことばのひとつで、私はいまも折に触れて思い出す。渡辺さんは手塚治虫が1950〜1960年代に『鉄腕アトム』とかで描いた未来が実現しつつあることを、こう表現しておられたのだけれど、あれから40年近くの歳月が流れ、21世紀も23年目を迎えたこんにち、ますますそう思うことが増えてきたように思う。
試乗した新型プリウスPHEVはそのひとつの例である。2022年11月に公開された5代目プリウスの、2023年3月に追加されたプラグインハイブリッドモデルで、今回筆者は5代目プリウス自体、初めてということもあって、その未来的なこと、現実感の希薄なことに驚嘆した。なんというか、僕ら「20世紀少年」の想像を超える、これぞ21世紀の大衆車であり、トヨタにとってひとつの到達点だとまで私は思う。正直に申し上げて、私は圧倒されました、トヨタのクリエイティビティーに。
まずもって、どうですか、このスタイリング。1997年の初代の誕生から四半世紀。初代プリウスは「RAV4」と並ぶトヨタの発明のひとつだけれど、5代目プリウスのカッコよさときたら、バブルの頃のスペシャルティーカーもかくや。5ドアハッチバックの量産実用車で、「ランボルギーニ・カウンタック」もしくは「ロータス・エスプリ」みたいな、フロントのボンネットからフロントスクリーンまで一直線につながる、夢のスーパーカースタイルを実現しているのだ。
それも、突然現れたのではなくて、2代目以降、いや、2代目だって初代の進化形と見ることができるのだから、これはプリウスが4代にわたって磨き上げてきた空力フォルムの現時点での集大成である。だから、ひと目でプリウスだと認識できる。先駆けるひと、プリウスの面目躍如であろう。
もちろん、このロー&ワイドなエクステリアの4ドア+ハッチのボディーには、おとな4人が乗れる居住空間が確保されている。あまりのルーフの低さに、後席の乗り降りには慣れを要するとしても、リハーサルを1回やれば次からとまどうことはない。
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従来型は「プリウスPHV」と呼ばれていたが、新型では「プリウスPHEV」に改称。単独車種ではなくプリウスのハイパフォーマンスモデルに位置づけられている。
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インテリアはオーバルシェイプのダッシュボードが浮いているように見せている。Aピラーの後傾角度がすごい。
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センターコンソールにはドライブモードセレクターなどに加えて、「PHEV」専用のホールド/チャージモードへの切り替えスイッチが備わっている。
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液晶メーターパネルのサイズは7インチ。ドライバーから遠くにレイアウトされる割に表示項目は小さめ。
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センターコンソールの一番前にあるトレイは上下2段式。インフォテインメントへの接続用と充電専用のUSBタイプCポートが1基ずつ備わる。
クルマ全体から伝わる軽快感
フロントスクリーンはかなり寝ていて、着座位置は低い。試乗を開始した日は、そのちょっと前までコンパクトSUVの「レクサスUX300e」に乗っていたこともあって、なおさら低く感じる。ファストバックスタイルゆえ、これも慣れの問題だとしても、後方視界は上下にかなり狭くて限られている。
デジタルのメーターは、バッテリー残量が85%で、700km走れる、と示している。エネルギー無補給で、大阪・神戸を越え、広島までは無理としても岡山あたりまで行けることになる。プリウスPHEVがエコカーを名乗る証拠だともいえる。
85%も電気があれば、ダッシュボードのスターターの丸いボタンを押してもエンジンが始動することはないようで、プリウスPHEVは静かなままである。
走りだすと、ステアリングが軽く感じられる。新型プリウスの目玉のひとつが、テスト車も装着していた195/50R19という細幅大径タイヤだ。パワーアシストがあるから一概には言えないにしても、タイヤが細いほうがステアリングフィールが軽くなる。
クルマ全体から軽快感が伝わってくるのは、そもそも車重が軽いからだ。最前まで乗っていたUX300eは1820kg。プリウスPHEVのテスト車は1590kgで、230kgの差がある。UX300eが地面にとどまろうとするのを強力なパワーで軽々走らせているとしたら、プリウスPHEVはもっと軽いものを、抵抗なく走らせている感がある。
「マカン」のドライバーがギョッとする
EVモードの一充電走行距離は87kmで、これは先代の50%以上アップを実現しているという。おかげで一般道をふつうに運転している限り、エンジンはなりを潜めている。
問題は首都高速に上がってからだ。ガバチョと踏み込む。エンジンが始動する。ロードノイズみたいなサウンドが混じる。これがエンジン音らしい。快音とはいえないものの、ガサツではない。でもって、こっちを先に書くべきだった。速い! それもめちゃんこ。
エンジンは2リッターの直4で、最高出力151PSと最大トルク188N・mを発生する。モーターは163PSと208N・mで、システム最高出力は223PSに達し、0-100km/hは6.7秒で到達する。ふつうのハイブリッドのプリウスの2リッターは、196PSで7.5秒だから、PHEVは一枚上手の速さを誇る。
ゼロヒャク6秒台というと、例えば「ポルシェ・マカン」が6.4秒である。それよりコンマ3秒遅いにしても、プリウスPHEVはマカンのドライバーを一瞬ギョッとさせる加速を備えている。
ステアリングはプリウスにしてはクイックで、不満があるとすれば、ボディーの四隅がつかみにくい、ということはあるかもしれない。
それと、河口湖周辺まで足を延ばしたところ、やっぱりこの地域は積雪もあるためか、139号線は東京の道路より路面が荒れている。そういう路面だと、ボディーの剛性感がもっと高ければいいのに……とは思った。
21世紀に見合うレベルの満足感
筆者は待ち合わせ場所の中央道の石川パーキングエリアで充電しようとしたのである。充電エリアにとめたとき、編集部のFさんから、トヨタのほかのPHEVと同様、急速充電はできないことを告げられた。PHEVはエンジンを備えているから急速充電の必要はない。ただでさえ少ない急速充電スポットをPHEVでふさいではいけない。トヨタはそう考えているらしい。
ごもっともである。だけど、急速充電はできるにこしたことはない。わざわざ80km走れる電池を載せているのに、化石燃料を燃やして走るというのも、釈然としない。トヨタの主張するように、PHEVは電気自動車(BEV)の6分の1のリチウムイオンバッテリーでつくれるのだとすれば、いっそのこと、6分の1の容量のBEVをつくったらどうなのでしょう? というのは極論としても。
そんなわけで、走行した路面の80〜85%で、プリウスPHEVは不満がなかった。たぶん、都内から出ていなければ、好印象に終始しただろう。それからこう思った。もしもトヨタが彼らのクルマづくりの基準を、あとほんの数%でも引き上げ、例えば河口湖周辺の荒れた路面にも対応しはじめたら、とんでもなく素晴らしい量産車を生み出すことになる、と。
それから、そうではないと思い直した。80%の路面で満足を与えるクルマづくりをしているからこそ、トヨタの成功はある。プリウスPHEVは、満足の中身が21世紀に見合うレベルになっている。「愛車」を目指したという新型プリウスで称賛すべきは、そのことなのだ。
テスト車のデータ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4600×1780×1430mm
ホイールベース:2750mm
車重:1590kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:151PS(111kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:188N・m(19.2kgf・m)/4400-5200rpm
モーター最高出力:163PS(120kW)
モーター最大トルク:208N・m(21.2kgf・m)
システム最高出力:223PS(164kW)
タイヤ:(前)195/50R19 88H/(後)195/50R19 88H(ヨコハマ・ブルーアースGT)
ハイブリッド燃料消費率:26.0km/リッター(WLTCモード)
充電電力使用時走行距離:87km(WLTCモード)
EV走行換算距離:87km(WLTCモード)
交流電力量消費率:134Wh/km(WLTCモード)
価格:460万円/テスト車:506万9700円
オプション装備:ソーラー充電システム(28万6000円)/ITS Connect(2万7500円)/デジタルインナーミラー+デジタルインナーミラー用カメラ洗浄機能+周辺車両接近時サポート<録画機能>+ドライブレコーダー<前後方>(8万9100円)/デジタルキー(3万3000円) ※以下、販売店オプション フロアマット<ラグジュアリータイプ>(3万4100円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:2178km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:376.1km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:18.5km/リッター(車載燃費計計測値)
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