【試乗記】2023ワークスチューニンググループ合同試乗会(前編:NISMO/STI編)
より優雅にも 獰猛にも
いうなればNISMOの2重がけ
とはいえその内容は、こちらが勝手に想像したものよりずっとヘルシーだった。ご存じスカイラインNISMOのエンジンは、3リッターV6ツインターボ「VR30DDTT」がベースとなっている。そのチューニングレベルは、先んじて発売された「400R」の最高出力405PS、最大トルク475N・mを飛び越え、実に420PS、550N・mまで盛られている。これをいたずらにドーピングするより、シャシー性能をレベルアップさせようとNISMOは考えた。パワー志向の「豚マシ」「アブラマシ」ではなく、「野菜マシマシ」のバランス志向だ。
というわけでそのメニューを列記すると、エンジン系は専用ECM「スポーツリセッティング」とスポーツチタンマフラーでチューニングされている。“スポリセ”のレベルは「TYPE-1」となっており、スピードリミッターが解除されるのみの仕様だ。一方、スポーツチタンマフラーは「スカイライン400R」登場時にラインナップされたシステムを踏襲。メインが径51mm、テールが径110mmとなるマフラーは、意外にも出力アップには貢献しない。しかし、その素材にチタン合金を使うことで10.8kgの製品重量(純正比-10.6kg)を達成しており、車両のパワーウェイトレシオ低減に寄与するのが大きなセリングポイントだ。また、その近接騒音値も74dB(400R装着の場合は75dB)まできちんと抑えられている。
そして外観面では、今回の仕様からフィニッシャーにDLCコーティングを施して、チタンの焼け色とはまた違う落ち着いた雰囲気を演出した。54万7800円という価格は絶対的には高額だが、センターパイプ以降のチタンマフラーとして考えれば、決して高くはない。職人がひとつずつハンドメイドするという理由もあるが、実際、このマフラーはバックオーダーを抱えるほどの人気ぶりなのだ。
オープンロードで感じる上質な走りの味
いわゆる“車高調”を装着したその乗り心地は、予想以上にマイルドだった。メインスプリングはフロント12kg/mm、リア6kg/mmとそれなりにスポーティーだが、ピロボールを使わず純正のゴムアッパーマウントを選んだことが功を奏している。また純正で標準装備となる可変ダンパーは思い切って取り外され、このキットでは減衰力調整が手動式となる。試乗時の設定は、フロントが20段階中10段戻し、リアが同じく20段階中5段戻しだったが、垂直方向の入力はダンパーがうまく減衰し、バネの伸縮に対しても自然な追従をみせていた。乗り味が上質なぶん小刻みな横揺れ感が少し気になったものの、チューニングに親しんだドライバーであれば耐えられる乗り心地だろう。
また、ゆっくりと大きくハンドルを切って角を曲がるような場面でも、2WAYのLSDは全くチャタリングを起こさず、引きずり感もなかった。聞けばその開発はスカイライン400Rが登場した2年前から始まっており、ようやく完成にこぎ着けたのだという。ちなみにそのイニシャルトルクは1.5kgf・mと、非常にマイルドな設定だ。
なんてことを構内路で確認したら、いよいよコースイン。試乗のステージは普段レーシングカートにも使われるモビリティリゾートもてぎの北ショートコースだから、スカイラインNISMOを走らせるには道幅が狭いのが難点だが、その素性はある程度把握できた。
軽やかで“曲がりたがり”な味つけに
このフットワークの軽さに貢献しているのは、車体側では恐らくトルクベクタリング機構。そしてチューニング側では、先述の足まわりとともに装着されたタイヤ&ホイールのレスポンスだ。NISMOいわく、純正の「ダンロップSP SPORT MAXX GT600」とエンケイ製19インチホイールの組み合わせは剛性感の高さが特徴。どっしり、かつ、しっとりと路面をつかむキャラクターだという。対してNISMOは、自分たちのフラッグシップホイールである鍛造1ピースの「LM GT4」でバネ下の動きに軽さを与え、「ミシュラン・パイロットスポーツ4 S」でしなやかさのバランスをとった。ちなみに、ホイールの重量は4本で15kgほど軽く、車両全体ではマフラーと合わせて約25kgの軽量化を果たしている。
ただ、この軽やかな身のこなしで最大550N・mのトルクをさく裂させると、その走りは途端に豹変(ひょうへん)する。お察しのとおり、いとも簡単に後輪が滑り出すわけだ。機械式LSDが外輪にトルクを伝えてトラクションを保とうとはするのだが、そもそものトルクが強烈すぎて、クルマは一気にスナップしてしまう。
手ごわさに“スカG”の面影を感じる
またアクセルレスポンスも結構鋭いため、2850mmのホイールベースをもってしても割と素早くスピンモードに入ってしまう。試乗車は複数のメディアが試乗したためタイヤの表面温度が高まっていたという状況も考えられるが、そうした厳しい条件でも電子制御に頼り切らず、シャシー側で懐深いコントロールができればなおいい。ただ、それを求めるには、いささかシャシー自体が古すぎる気がする。
一方で、このシャシーファスターならぬエンジンファスターな走りに、“スカG”らしさを感じるのも事実だ。そして全長調整式サスペンションと減衰力調整でそのシャシーをバランスさせ、自分好みにセットするのもわれわれチューニング世代にとっては面白いことなのだと思う。安定性を求めるなら、4輪駆動の「GT-R」がある。スカイラインはFRでその理想を追い求めるのがきっと正解なのだ。
ボディーを引っ張って応答遅れを解消
試乗車2台に装着されるのは「フレキシブルタワーバー」と「フレキシブルドロースティフナー リア」だ。前者は、文字どおりフロントのストラットアッパー部に共締めするタワーバーだが、中央にピロボールを挟むことで路面のギャップといった外圧を適度にいなすため、乗り心地を損なわずにタワーバー効果が得られる。一方の後者は、リアバンパービームに装着するスプリング内蔵式のロッドである(車種設定によってはフロント用もあり)。このパーツで車体にテンションをかけることで、パネルの接合面に生じるわずかな隙をなくすというのが効果のイメージだ。
STIの開発スタッフいわく、車体というのはどうしても板金部分の合わせ目が完全にはふさがっておらず、車体に力がかかった際に応答遅れが起きるという。現行のスバル車はそのボディーを環状構造とした第2世代の「SGP(スバルグローバルプラットフォーム)」へと進化させたが、それでもヒステリシスロスは起こっているのだという。だから、このクリアランスを引っ張る(Draw)ことでなくし(狭くし)、車体剛性を上げる(Stiff)。これがドロースティフナーの狙いである。
主張は控えめでも確かな効果がある
果たしてその効果は、ばっちり車体の動きに反映されていた。インプレッサは操舵時にタイヤが路面をつかむ感じが確かに明瞭になっており、これなら自信を持って4WDモデルを薦められる。ハンドルの切り始めからジワッとグリップが立ち上がっているのは、その内輪接地力が向上しているからだ。そしてタイトターンでは、その接地感が最後まで途切れることなく続く。またリアにイナーシャが発生するような高速ターンでも4輪がしぶとく路面を捉え続けるから、最後まで落ち着いてコントロールしようという気持ちになれる。この穏やかな接地感を維持できる感覚があれば、雪道でもさらにその安心感が高まるはずだ。
こうして走らせていると、空力性能の高さを如実に感じるということはない。終始そのハンドリングが、穏やかかつリニアになったという印象なのだ。またボディー剛性がガッチリ上がったというより、中身がみっちり詰まったという感じがする。派手さは全くないのだが、確かにそのハンドリングは正常進化した。
“STI製ダンパー”も試してみたい
これも毎年乗る度に思うことだが、フレキシブルパーツはアクセサリーではなく標準装着品とし、これを備えたクルマをカタログモデルの上位グレードに据えるべきだ。そうすれば、スバル車の評価はまた一段上がることだろう。ただ、その取り付けは複雑なためにライン装着ができず、カタログモデル化ができないこともわかっている。ぜひスバル車オーナーでもう一段上質なハンドリングが欲しいと思っている人は、迷わずフレキシブルパーツをディーラーで装着してほしい。
加えて思うのは、STIはそろそろ新手のパーツを提案してもいい頃ではないか? ということだ。そんな質問を投げかけると、開発陣は「ダンパーに着手してみたい」と語った。いわく、コンプレッション側の減衰力を上げることで、キャスター角がついたステア時の内輪が路面に押し付けられ、さらに内輪の接地力が高まるのだという。ただ、“本家”のスバルは段差等の乗り越えなどを考慮し、標準モデルではコンプレッション側の減衰力はソフトにしたいという考えを持っている。STIはこれを高めても乗り心地には影響しないと考えているようだが、そこには若干の意見の違いもあるようだ。
もし再び、インプレッサ(や他のモデルでも)に「STI Sport」が設定されれば、あるいはそれはコンプリートモデルになるかもしれないが、上述したSTIの思いはかたちになることだろう。個人的には、それを待たずともSTIのオリジナルパーツとして、ダンパーをラインナップしてみたらいいのにとも思うのだが。
テスト車のデータ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4835×1820×1440mm
ホイールベース:2850mm
車重:1760kg
駆動方式:FR
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:420PS(309kW)/6400rpm
最大トルク:550N・m(56.1kgf・m)/2800-4400rpm
タイヤ:(前)245/40ZR19 98Y XL/(後)265/35ZR19 98Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツ4 S)
燃費:--km/リッター
価格:788万0400円/テスト車=--円
装着部品:NISMOスポーツリセッティング<TYPE-1、スピードリミッター変更品>(12万1000円)/NISMOスポーツサスペンションキット<全長調整式 減衰力20段調整式、OHLINS社製NISMOオリジナルチューニング>(50万9300円、レーダー調整費等別)/NISMOスポーツチタンマフラー<チタン合金製、DLCフィニッシャー>(54万7800円)/NISMO機械式L.S.D.<R190、2WAY>(20万3500円)/NISMOアルミロードホイール「LM GT4」<鍛造1ピース、ブラック&マットガンブラック塗装、前:19×9J +39/後ろ:19×9.5J +45>(前:10万2300円×2本/後ろ:10万4500円×2本)/NISMOセキュリティーロックナットセット<マックガード社製>(3万5750円)/NISMOエアバルブキャップ<アルミ製、ブラックアルマイト仕上げ、4個セット>(3080円)/NISMOブレーキパッド<ロースチール材、許容温度域:常温〜650℃>(前:3万3000円/後ろ:3万3000円)/NISMOピラーガーニッシュ<アクリル+ポリカーボネイト、カーボン柄>(3万0800円)/NISMOドアハンドルプロテクター<ハイボスカル製、カーボン調、Lサイズ>(6160円/1台分)/NISMOマルチファンクションブルーミラー<親水、防げん、広角効果>(2万3100円)/NISMOオイルフィラーキャップ<アルミダイカスト製>(6820円)/NISMOフューエルフィラーキャップカバー<アルミダイカスト製>(6050円)/NISMOフロアマット<黒+赤ステッチ>(5万8300円)/NISMOドアインナープロテクター<ハイボスカル製、カーボン調>(2万5300円/4枚セット)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:2428km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
スバル・クロストレック リミテッド STIパフォーマンスパーツ装着車
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4480×1800×1575mm
ホイールベース:2670mm
車重:1610kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター水平対向4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:145PS(107kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:188N・m(19.2kgf・m)/4000rpm
モーター最高出力:13.6PS(10kW)
モーター最大トルク:65N・m(6.6kgf・m)
タイヤ:(前)225/55R18 98V M+S/(後)225/55R18 98V M+S(ファルケン・ジークスZE001A A/S)
燃費:15.8km/リッター(WLTCモード)
価格:328万9000円/テスト車=--円
装着部品:フレキシブルタワーバー<e-BOXER用>(3万3000円)/フレキシブルドロースティフナー リア(3万5200円)/ルーフスポイラー(4万9500円)/パフォーマンスマフラー&ガーニッシュキット(14万8500円)/アルミホイールセット<18×7J、ブラック>(4万6200円×4本)/STIバルブキャップセット<ブラック>(4290円)/シフトノブ<CVT>(2万7500円)/プッシュエンジンスイッチ(1万6500円)/ドアハンドルプロテクター(6600円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:6934km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
スバル・インプレッサST-H STIパフォーマンスパーツ装着車
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4475×1780×1515mm
ホイールベース:2670mm
車重:1580kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター水平対向4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:145PS(107kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:188N・m(19.2kgf・m)/4000rpm
モーター最高出力:13.6PS(10kW)
モーター最大トルク:65N・m(6.6kgf・m)
タイヤ:(前)215/50R17 91V/(後)215/50R17 91V(ダンロップSP SPORT MAXX 050)
燃費:16.0km/リッター(WLTCモード)
価格:324万5000円/テスト車=--円
装着部品:STIエアロパッケージ<チェリーレッド>(15万7410円)/フレキシブルタワーバー<e-BOXER用>(3万3000円)/フレキシブルドロースティフナー リア(3万5200円)/ルーフスポイラー(4万9500円)/パフォーマンスマフラー&ガーニッシュキット(14万8500円)/アルミホイールセット<17×7J、ブラック>(4万2900円×4本)/STIバルブキャップセット<ブラック>(4290円)/シフトノブ<CVT>(2万7500円)/プッシュエンジンスイッチ(1万6500円)/ドアハンドルプロテクター(6600円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:4397km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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