【試乗記】ホンダ・フリードe:HEVエアーEX/トヨタ・シエンタ ハイブリッドZ(前編)
宣戦布告
ライバルにあらずとはいうものの……
ただ、われわれ外野の人間からすると、「とはいえ、おたがいに強く意識しているのも事実ですよね」と申し上げざるをえない。細かく観察すればするほど、この2台はバチバチにしてガチンコの間柄だからだ。
両車は販売成績からしてバチバチだ。コロナ禍真っただ中の2020年は、国内登録車販売ランキングでフリードが7位、シエンタが8位とほぼ互角。先代のモデル末期だったシエンタが13位に落ちた2021年には、10位のフリードが少し先行。さらに、8月に新型に切り替わったシエンタが8位に回復した2022年も、フリードは粘り腰でシエンタをおさえる6位だった。新しくなったシエンタが3位に躍進した2023年は、さすがに10位のフリードを大きく引き離したものの、この2024年上半期(1〜6月)は、新型の台数が少し加味されたフリードが7位となり、3位のシエンタにふたたび肉薄しはじめている。
車体のスリーサイズもガチンコに近い。新型フリードの全長が先代より45mm延びたことで、シエンタとの全長差は50mmとなったが、逆にいうと、それまではわずか5mmの差しかなかった。フリードが長くなったのは、主に新しいハイブリッドをおさめるためという。そして全幅は当然、(SUV風加飾の「フリード クロスター」を除けば)ともに5ナンバーいっぱいの1695mm。全高だけは60mmの差があるが、それがそのままフリードとシエンタのパッケージレイアウトや商品コンセプトのちがいを象徴する部分となっている。
ホンダの販売現場からの要望
単純な額面では、フリードのほうが少し高価なのは先代から変わりない。ただ、フリードはシエンタより広々と開放的な室内空間に加えて、リアクーラーや電動パーキングブレーキなど、シエンタにはない大きな装備もつくことを考えると、額面ほどの割高感はない。……が、シエンタはシエンタで、ステアリングヒーターに前の交通環境に応じて先回りでブレーキや警告をしてくれる「プロアクティブドライビングアシスト」が含まれるので、やっぱり割安感がある。今回のフリードの試乗車は、定員はシエンタよりひとり少ない6人だが、2列目がベンチシートになる7人乗りも、4万4000円のプラスで手に入る。
ただし、フリードでの売れ筋は圧倒的に6人乗りで、7人乗りが用意されるのは5ナンバー最上級の「エアーEX」のみ。2列目がキャプテンシートとなって、3列目にアクセスしやすい6人乗りに人気が集まるというところにも、フリードの客層がうかがえる。つまり、普段からミニバンとして3列目が頻繁に使われるのだろう。
新型フリードで新開発されたリアクーラーは、かねて販売現場から強く要望されてきた装備だという。なるほど室内最後端の3列目まで人が座るミニバンとして見ると、リアクーラーの存在はデカい。シエンタの試乗車にもオプションのサーキュレーターは備わっていたものの、今回のような激暑下でのロケ取材では、3列目どころか、2列目に座っていても、噴き出す汗の量はシエンタのほうが如実に多かった。
3列目シートの構造に見るそれぞれの個性
室内寸法では甲乙つけがたい2台だが、スライドドアを開けて乗り込んだときの第一印象では、フリードのほうが広々と感じられる。その理由はキャプテンシートのおかげで3列目までの動線が開かれていることに加えて、全体に乗員の目線が高いことにある。全高はフリードのほうが高いが、室内高でシエンタが逆転するのは、シエンタのほうが全体にフロアとシート高が低いからだ。
両車の設計思想が如実に表れているのは、いうまでもなく3列目だ。その収納法はそれぞれおなじみのスタイルで、フリードが左右跳ね上げ式、シエンタが床下収納式となる。
新型フリードは新たに跳ね上げ機構の軸を低くして、スプリングやモーターなどの力を借りずとも、より小さな力で収納・展開ができるようになった。収納最後のベルト固定も、斜め上ではなく、真横方向に押しつけるだけでよくなった。成人男性なら片手で、非力な女性でも苦もなく操作できるだろう。
シエンタの3列目も、収納操作そのものに大きな腕力は要さない。しかし、2列目を最前端までスライド→2列目をタンブルアップ→3列目を引き出す(あるいはダイブダウン)→2列目を降ろす→2列目スライドを元位置に戻す……という工程がいちいち必要で、日常的にそれをおこなうのは正直いって面倒くさい。
逆にいうと、3列目収納時の荷室の使い勝手がすこぶるいいシエンタは、ミニバンというより、2列のハイトワゴンとしての姿を優先しているのは明らかだ。「このクラスで本格的なミニバンがほしい人は、フリードを選んでいただいている」というフリードの開発責任者の弁にウソはないと思われる。
3列目シートの居住性を比べる
対するシエンタの3列目はシートそのものが薄く平板であるだけでなく、足もとの余裕も明らかに小さい。このあたりも良い悪いというより、「2列が本来の姿?」というシエンタの設計思想の表れと理解すべきだろう。もっとも、シエンタの3列目にも178cmの筆者がなんとかヒザをそろえて座ることは可能で、ヘッドルームにも不足はない。シエンタの全長や全高を考えれば、これはたいしたものだ。
2列目については、空間そのものはどちらも似たようなものだが、シート自体の座り心地やホールド性は、見た目どおりフリードのキャプテンシートに軍配が上がる。
ただ、ちょっと気になるのはフリードのキャプテンシートのヒール段差(座面とフロアとの高低差)がちょっと小さいことで、身長178cmの筆者が普通に座ると、太ももがわずかに浮いてしまう。脚を伸ばせば少しはマシになるが、前席下に電動機構が配されるハイブリッドでは、つま先が途中までしか差し込めず、体格によっては伸ばしきることができないのがタマにキズである。
フリードとシエンタの基本パッケージレイアウトのちがいが象徴されるのは1列目だ。ドライビングポジションは、フリードのほうがアップライトで目線が高くミニバン感が強い。これと比較するとシエンタの運転席は、ミニバンというよりハイトワゴンだ。
(後編に続く)
テスト車のデータ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4310×1695×1755mm
ホイールベース:2740mm
車重:1480kg
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:106PS(78kW)/6000-6400rpm
エンジン最大トルク:127N・m(13.0kgf・m)/4500-5000rpm
モーター最高出力:123PS(90kW)/3500-8000rpm
モーター最大トルク:253N・m(25.8kgf・m)/0-3000rpm
タイヤ:(前)185/65R15 88S/(後)185/65R15 88S(グッドイヤー・エフィシェントグリップ パフォーマンス2)
燃費:25.4km/リッター(WLTCモード)
価格:304万7000円/テスト車=357万1700円
オプション装備:ボディーカラー<フィヨルドミストパール>(3万8500円)/マルチビューカメラシステム+LEDアクティブコーナリングライト+アダプティブドライビングビーム+後退出庫サポート(11万9900円) ※以下、販売店オプション Honda CONNECTナビ9インチ(20万2400円)/ナビ取り付けアタッチメント(9900円)/ナビフェイスパネルキット(5500円)/ETC2.0車載器(1万9800円)/ETC2.0車載器取り付けアタッチメント(8800円) フロアカーペットマットプレミアム(5万2800円)/ドライブレコーダー3カメラセット(6万7100円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:2544km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(6)/山岳路(3)
テスト距離:240.2km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:19.5km/リッター(車載燃費計計測値)
トヨタ・シエンタ ハイブリッドZ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4260×1695×1695mm
ホイールベース:2750mm
車重:1370kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直3 DOHC 12バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:91PS(67kW)/5500rpm
エンジン最大トルク:120N・m(12.2kgf・m)/3800-4800rpm
モーター最高出力:80PS(59kW)
モーター最大トルク:141N・m(14.4kgf・m)
システム最高出力:116PS(85kW)
タイヤ:(前)185/65R15 88S/(後)185/65R15 88S(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:28.2km/リッター(WLTCモード)
価格:291万円/テスト車=338万4100円
オプション装備:185/65R15タイヤ+15×5 1/2Jアルミホイール<切削光輝+ブラック塗装/センターオーナメント付き>(5万5000円)/トヨタチームメイト アドバンストパーク+パーキングサポートブレーキ<周囲静止物>+パノラミックビューモニター<床下透過表示機能付き>+パーキングサポートブレーキ<後方歩行者>(9万3500円)/ディスプレイオーディオ<コネクティッドナビ>Plus(8万9100円)/天井サーキュレーター+ナノイーX(2万7500円)/アクセサリーコンセント<AC100V・1500W/2個/非常時給電システム付き>(4万4000円)/ドライブレコーダー<前後方>+ETC2.0ユニット(3万1900円)/コンフォートパッケージ<UVカット・IRカット機能付きウインドシールドグリーンガラス[合わせ・高遮音性ガラス]+スーパーUV・IRカット機能付きフロントドアグリーンガラス+スーパーUV・IRカット機能付きプライバシーガラス[スライドドア+リアクオーター+バックドア]+シートヒーター+ステアリングヒーター+本革巻き3本スポークステアリングホイール[シルバー加飾付き]>(7万9200円)/ファンツールパッケージ<カラードドアサッシュ+カーキ内装>(0円) ※以下、販売店オプション フロアマット<デラックスタイプ>(4万2900円)/ラゲージボード(1万1000円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:1万4597km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(6)/山岳路(3)
テスト距離:208.0km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:19.3km/リッター(車載燃費計計測値)
ホンダ フリードの試乗記事
-
-
【ホンダ フリード 新型試乗】グッと心地よい“ピープル(+ドッグ)ムーバー感”…島崎七生人
2024.10.24 クルマ情報
-
-
-
【ホンダ フリード 新型試乗】ハイブリッドの「e:HEV」を選ぶべき3つの理由…中村孝仁
2024.10.18 クルマ情報
-
-
-
【ホンダ フリードクロスター 新型試乗】まさしく「無事之名馬」と呼ぶに相応しい…中村孝仁
2024.10.02 クルマ情報
-
-
-
【試乗記】ホンダ・フリードe:HEVエアーEX/トヨタ・シエンタ ハイブリッドZ(後編)
2024.09.20 クルマ情報
-
-
-
【試乗記】ホンダ・フリードe:HEVエアーEX/トヨタ・シエンタ ハイブリッドZ(前編)
2024.09.13 クルマ情報
-
-
-
新型フリードの2列目がベストな理由
2024.08.31 クルマ情報
-
ホンダ フリードに関する情報
-
-
日本メーカー製の二つのコンパクトなクルマ・・安東弘樹連載コラム
2024.07.31 コラム・エッセイ
-
-
-
今や貴重な5ナンバーミニバンを比較:シエンタ&フリード…サイズ、居住性、荷室
2023.01.08 ニュース
-
-
-
子供が育ち盛りの今だから! 家族みたいなホンダ フリードと一緒に作る、何気なくても幸せな毎日
2022.11.28 愛車広場
-
-
-
家電ライターのクルマ選び <第2回 ミニバン編>
2019.03.28 コラム・エッセイ
-
-
-
【懐かし自動車ダイアリー】2011年(平成23年)~クルマで振り返るちょっと懐かしい日本
2019.03.15 特集
-
-
-
【懐かし自動車ダイアリー】2008年(平成20年)~クルマで振り返るちょっと懐かしい日本
2019.03.08 特集
-
最新ニュース
-
-
高性能4シーターオープン、メルセデスAMG『CLE 53カブリオレ』発売、価格は1400万円
2024.11.22
-
-
-
【ラリージャパン 2024】開幕!! 全行程1000km、SSは300kmの長く熱い戦い
2024.11.22
-
-
-
「GT-R」の技術が注ぎ込まれたV6ツインターボ搭載、日産『パトロール』新型が中東デビュー
2024.11.22
-
-
-
「高いのはしゃーない」光岡の55周年記念車『M55』、800万円超の価格もファン納得の理由
2024.11.22
-
-
-
レクサスのレザーもリサイクルでグッズに、リョーサンがトヨタと共同開発
2024.11.22
-
-
-
50台限定の『ディフェンダー110』発売、アリゾナの自然を表現した「赤」採用 価格は1300万円
2024.11.22
-
-
-
日産のフルサイズSUV『アルマーダ』新型、ベース価格は5.6万ドルに据え置き…12月米国発売へ
2024.11.21
-
最新ニュース
-
-
高性能4シーターオープン、メルセデスAMG『CLE 53カブリオレ』発売、価格は1400万円
2024.11.22
-
-
-
【ラリージャパン 2024】開幕!! 全行程1000km、SSは300kmの長く熱い戦い
2024.11.22
-
-
-
「GT-R」の技術が注ぎ込まれたV6ツインターボ搭載、日産『パトロール』新型が中東デビュー
2024.11.22
-
-
-
「高いのはしゃーない」光岡の55周年記念車『M55』、800万円超の価格もファン納得の理由
2024.11.22
-
-
-
レクサスのレザーもリサイクルでグッズに、リョーサンがトヨタと共同開発
2024.11.22
-
-
-
50台限定の『ディフェンダー110』発売、アリゾナの自然を表現した「赤」採用 価格は1300万円
2024.11.22
-