【試乗記】スバルBRZ S(FR/6MT)
二つの顔をもつ男
初めての味つけ変更
ちなみに、2022年発売のB型ではウインカーレバーのオートライトスイッチ部分が変更されただけだったが、続く2023年のC型では、6段MT車にも「アイサイト」が備わるようになったほか、ブレンボ製のフロントブレーキと専用ダンパー(フロントが日立アステモ製のSFRD、リアがSTIチューン)を組み込んだ「STIスポーツ」が追加されるなど、比較的大規模なものだった。GR86は同じC型でも、横滑り防止装置の「VSC」の制御と電子スロットルのアクセル特性が全車でリチューニングされたが、BRZでは、そうした基本的な“味つけ”の部分に変更はなかった。
というわけで、D型である。通例だと、D型はそろそろモデルライフ折り返しのマイナーチェンジのタイミングでもある。実際、わかりやすい派手なトピック(アイサイトや新グレード追加)ではC型にゆずる面もある今回だが、MT車にも「スポーツ」モードが追加されたり、パワーステアリングや(STIスポーツ以外の)ダンパーの特性が熟成されたりと、現行BRZとしては初めて、クルマの基本チューニングの部分に手が入った。
いっぽうで、マイチェンというわりには、GR86ともども内外装デザインにはいっさい手がつけられず、エンジンのパワーアップなども実施されなかった。「今のデザインは市場でも好評」というのが公式見解らしい。実際そのとおりなのだろうが、この種のスポーツカーは事業性確保も簡単ではなく、金型変更を伴うような、コストがかかる変更はやりにくいのも現実だろう。また、排ガスや燃費に対する規制も厳しくなるばかりの昨今、自然吸気エンジンの性能アップも簡単ではない。
地味ながら大きいウインカーレバーの改良
D型では、ここまでに書いた走りにまつわる熟成や改良のほかに、GR86と共通で、実用・安全面での改良も2点ほど実施されている。ひとつがヘッドライトに常時点灯のデイタイムライニングライトが内蔵されたこと、もうひとつがウインカーレバーが操作に合わせてカチャッと固定されるロック式に変更されたことだ。
従来のウインカーレバーは中立位置を常に維持する電磁式(モーメンタリ式とも呼ばれる)で、それじたいは最近めずらしくないが、BRZ/GR86のそれはちょっと繊細な操作感が問題だった。たとえば点滅を止めたい場合、力加減をわずかでも間違えると反対側が点滅し、それを正そうと再操作すると今度はまた反対側が……なんてケースがよくあって、多くのユーザーにも不評だったようだ。ロック式はある意味で先祖がえりではあるのだが、誤操作は確実に減ると思われる。素直な改良として歓迎したい。
MT車に新しく追加されたスポーツモードは、スイッチじたいはAT車のそれと同じだ。スポーツモードを作動させると、エンジン音が高まるのもMT車とAT車で変わりはない。ただ、AT車のスポーツモードはシフトプログラムが高回転重視になる(だけな)のに対して、MT車ではスロットル特性が変わる。
リアサスがわずかにハードな設定に
ここで個人的な事情をお伝えすると、BRZに乗るのは、じつは2021年末のA型以来である。対して、GR86については、webCGでもリポートしたように、半年ほど前にC型を試すことができている。さらに、今回の取材直前にはD型も体験できた。
BRZのスロットルは、以前からGR86のそれよりマイルドな設定だった。しかし、今回のようにGR86の記憶が新鮮な(かつアップデートされた)状態で乗ると、正直いって「こんなだったっけ?」と面食らうくらい穏やかである。アクセルペダルをわざと荒っぽくオンオフしても姿勢変化が最小限に抑えられる上品さは、誤解を恐れずにいえば、ちょっとしたラグジュアリーサルーンを思わせるほどだ。
そして、そのまま高速道路に乗り入れる。従来のフットワークもGR86から乗り換えた瞬間に、「あ、リアが柔らかい」という思わせるものだった。今回のD型でもコイルやスタビライザーなどのバネ類に変更はなく、GR86と比べると相対的にフロントがハード気味、リアがソフト気味なのは今までどおりだ。
しかし、ダンパーの減衰特性に手が加えられたD型では、そのリアが少しだけ張りのある感触になった。その意味では、わずかにGR86に近づいたといえなくはない。スポーツモードでなければスロットル特性は穏やかそのものだが、軽くなったパワステに加えて、わずかにフロントに荷重が乗りやすくなったからか、ステアリングレスポンスに少しだけ軽快感が増量されたように思える。
とはいえ、GR86よりもリアが濃厚に接地している感覚は健在だ。シートに伝わる突き上げも明らかに軽く、柔らかい。高速道路での安定して快適なツーリングカー適性は、D型になってもなお、GR86より上手といっていい。
スポーツモードで身のこなしが軽くなる
それでも、そのアクセル特性はGR86よりはまだマイルドで、ターンインでのノーズの動きもGR86より抑制がきいている。全体に軽くなったパワステも、同じく軽くなったGR86のそれよりはわずかにしっとり系。しかし、アクセル操作で曲がるキッカケがつくりやすくなったのは事実で、とくに低速コーナーが続く場面では、身のこなしが軽くなった。
と同時に、リアが滑らかに吸いついて粘るBRZならではのキャラクターも、絶妙に残されている。回頭性は明らかに上がっても、コーナー出口に向けてアクセルを踏み込むと、すっと滑らかにリアを沈めた安定姿勢に移行してくれるから、GR86よりも安心感が高い。
ここで試しに、スポーツモードをオフにしてみる。アクセル反応が穏やかに戻って、コーナーが続く山坂道では意識的な操作が必要になる。しかし、GR86より落ち着いたBRZのシャシーには、このもともとのスロットル特性が滋味深くマッチしていることにあらためて気づく。とくに高速コーナーでテールをどっしりと落ち着けて加速していく、どこかヨーロピアンな味わいがBRZらしい。
この種の小型後輪駆動スポーツカーは、コントロール性や俊敏性を高めると、過敏になりやすい。その意味でコントロール性を高めたセッティングをスポーツモードに閉じ込めて、高速や日常で柔軟かつ気安い味わいも残すBRZのアイデアは、おおいにアリだと思う。
BRZより俊敏なコントロール性を身上とするGR86は、2年続けてアクセル特性を調整するなど、試行錯誤が続いている感もある。であればこそ、GR86もBRZ同様にMT車にスポーツモードを用意すれば、より思い切った試みも可能では……なんてことも思った。
テスト車のデータ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4265×1775×1310mm
ホイールベース:2575mm
車重:1270kg
駆動方式:FR
エンジン:2.4リッター水平対向4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:235PS(173kW)/7000rpm
最大トルク:250N・m(25.5kgf・m)/3700rpm
タイヤ:(前)215/40R18 85Y/(後)225/40R18 92W(ミシュラン・パイロットスポーツ4)
燃費:11.9km/リッター(WLTCモード)
価格:350万9000円/テスト車=356万4000円
オプション装備:ボディーカラー<イグニッションレッド>(5万5000円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:1433km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(6)/山岳路(3)
テスト距離:288.1km
使用燃料:35.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.2km/リッター(満タン法)/8.4km/リッター(車載燃費計計測値)
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