【試乗記】トヨタGR86 RZ(FR/6MT)
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トヨタGR86 RZ(FR/6MT)
文化を紡ぐということ
目新しさよりも本質を追求
つまり、牛丼にトッピングを施すことで目新しさをアピールするマイナーチェンジではなく、牛丼の味そのものにこだわったマイチェンだと推察した。
2.4リッター水平対向4気筒エンジンはシュンと目覚め、粛々とアイドリングを開始する。シフトレバーは、東西南北どの方向に動かしてもコキコキという節度と、スッと吸い込まれるスムーズさが絶妙にバランスしていて、細部までしっかりチューニングされていることが伝わってくる。
クラッチペダルも同様で、すこぶるスムーズ。踏み応えがあると感じる反力と、重すぎると感じる反力の中間のほどよいバランスで、やはりスポーツカーやスポーツドライビングを愛する人が丁寧にセッティングしていることが伝わってくる。
クラッチのミートポイントもいいあんばいに分かりやすく、アクセルペダルに触れることなく、アイドル回転の状態でスムーズに発進した。ところが──。
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2024年夏にマイナーチェンジを受けた「トヨタGR86」。レースの現場からの声を生かし、「GRらしい走りの味」に磨きをかけたとされている。
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今回の試乗車は最上級グレード「RZ」の6段MTモデル(車両本体価格351万8000円)。鮮やかな「スパークレッド」のボディーカラーは5万5000円のオプションだ。
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「RZ」にはヘッドランプの下を縁取るデイタイムランニングライトが追加された。外観上の変更はこの1点のみだ(その他のグレードは外観が何も変わっていないということ)。
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「GR86」のマイナーチェンジは2023年9月に続く3度目。2021年の発売以降、兄弟車の「スバルBRZ」とともに毎年なにがしかの改良を受けている。
シフトダウンが楽しい
「むむむ」と思いながら運転を続けると、前方に赤信号。ここで、3速から2速にシフトダウンする際に、軽くアクセルペダルをあおって中ブカシ(ブリッピング)を入れると、水平対向エンジンが「フォン!」と気前よく回転を上げて、気持ちよくシフトダウンが完了した。なるほど、心地よい中ブカシ、ひいてはシフトダウンの快感を提供するためのレスポンスなのか。
マイチェンにあたっては、モータースポーツに求められるブリッピング操作のしやすさを実現するために、エンジントルクの制御を変更したとのことで、なるほど、確かにシフトダウン時の中ブカシは楽しくなっている。
ヒール&トーを試してみると、ブレーキングとシフトダウンの複合技がビシビシ決まる。エンジンのレスポンスのよさに加えて、ABCペダルの配置が適切なことも貢献している。右足の親指の付け根あたりでしっかりブレーキペダルを踏んで減速、かかとでアクセルペダルをあおるという動きがスムーズにできるのだ。
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6段MTモデルはアクセル踏み込み初期のエンジンの吹け上がりが鋭くなった。慣れれば問題ないと思うが、初めて乗った人は思わず面食らうほどの鋭さだ。
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この赤×黒のインテリアは「RZ」専用色(黒のみも選べる)。ステアリングホイールやシフトブーツなどに赤いステッチがあしらわれる。
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ウインカーレバーは倒した先で固定される方式に変わった。以前のソフトタッチ式は手動で戻すときの中立ポイントが分かりづらく、誤操作が多かった。
あざとさにはすぐに慣れる
そうこうしているうちに、気になっていた加速時のあざとさをすっかり忘れていることに気づいた。無意識のうちに学習して、加速するときにはじわじわとアクセルペダルを踏むような運転スタイルに変わっていたのだろう。
つまり、「キュン!」と飛び出すクセがあるけれど、それは一見さんには不快なだけで、このクルマと長く付き合うオーナーにとっては大した問題ではないということだろう。慣れれば、気にならなくなる。そしてクルマと一対一で向き合うような、宿命のライバルとタイマンを張るような、マニュアルトランスミッションならではのダイレクト感を享受することができる。
こんな仕事をしていながらもMTのクルマに乗るのは久しぶり。MTならなんでもいいというわけではないけれど、シフトフィールやクラッチのスムーズさなどにこだわったこのクルマに乗っていると、やっぱりMTは楽しいと実感する。
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パワーステアリングは全体的に操舵感が軽くなった。ドリフト時にカウンターステアが当てやすくなるなどが主目的のようだが、駐車時などのごく低速域でも扱いやすくなっている。
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変わっていないところばかりを紹介して恐縮だが、実際に変更点が少ないのだから仕方がない。シートは中央部がウルトラスエードで、サイドに本革を使っている。
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ゴムの滑り止め付きのアルミペダルは「RZ」専用装備。ペダルレイアウトが適切でクラッチも扱いやすい。
文化を継承したいという熱意
今回のマイチェンではショックアブソーバーの減衰力を見直したとのことで、路面の凸凹からの衝撃をさらりと受け流す快適性と、正確で俊敏なハンドリング性能がさらに高い次元でバランスするようになったと感じる。
パキッ、パキッと曲がるのではなく、滑らかにロールして、路面をなめるように向きを変えるあたりは、速いだけでなく、コントロールする楽しさも味わえる大人のコーナリングだ。気持ちよくコントロールできることには、ミシュランの「パイロットスポーツ4」も貢献していると見た。
それにしても、2021年秋にデビューした現行GR86は、翌年に最初の小変更を受け、2023年にはかなり大がかりなマイナーチェンジを受けている。そして今回の改良だ。率直に言って、採算を最優先していたら、それほどたくさんの数が出るわけでもないこのクルマに、ここまで手間暇をかけることはしないはずだ。スポーツカー文化を継承したいという熱意がなければ、ここまでできない。
最近は、ちょっと古い、MTの、FRのクルマの値段が上がっている。それはそれでひとつのクルマ文化ではあるけれど、最新のGR86を買って、自分だけのビンテージカーに仕立てるというのもアリではないだろうか。
試乗をしながら、大事に育てられているハチロクなんだから、われわれも大切にしていきたいと強く思ったのです。
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ショックアブソーバーの減衰特性を変更し、ダイレクトなハンドリング特性を追求。2023年の改良で少しソフトになっていたのが、少し元に戻った格好だ。
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メーターパネルにはタイヤ空気圧モニターが表示できるようになった。同じタイミングで改良モデルが登場したのに「スバルBRZ」には設定されていない機能だ。
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スバルは6段MT車に独自の「スポーツ」モードを加えたが、それはこちらにはない。「GR86」は元からスポーツモードのようなセッティングだから……とのことらしい。
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トヨタとスバルが大事にはぐくんできた「GR86」と「BRZ」。比較的安価なFRスポーツカーとしてわれわれも大切にしていきたい。
テスト車のデータ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4265×1775×1310mm
ホイールベース:2575mm
車重:1270kg
駆動方式:FR
エンジン:2.4リッター水平対向4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:235PS(173kW)/7000rpm
最大トルク:250N・m(25.5kgf・m)/3700rpm
タイヤ:(前)215/40R18 85Y/(後)(前)215/40R18 85Y(ミシュラン・パイロットスポーツ4)
燃費:11.9km/リッター(WLTCモード)
価格:351万8000円/テスト車=393万5780円
オプション装備:ボディーカラー<スパークレッド>(5万5000円) ※以下、販売店オプション 9インチベーシックナビ(24万4310円)/カメラ別体型ドライブレコーダー<ベーシックナビ連動タイプ>(4万3450円)/ETC2.0ユニット<ナビ連動タイプ>(3万1020円)/バックモニター(1万7600円)/GRフロアマット(2万6400円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:1438km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:322.5km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:11.0km/リッター(車載燃費計計測値)
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