真っ向勝負。 [レクサスIS 古山淳一 チーフエンジニア](4/4)

ハイブリッド投入で言い訳はできない

今日のプレミアム・スポーツセダンの市場で勝ち抜く上で、欠かすことができないのが環境性能です。欧州の競合車はクリーン・ディーゼルの改良によ り、劇的にCO2の排出量削減を実現しています。レクサスにはハイブリッドというキラーコンテンツがあったので、これを武器として前面に押し出し、展開し てきました。しかし、残念ながら、ISにはその設定はありませんでした。ISのサイズでFRレイアウトに載せられるハイブリッドパワートレーンをトヨタは 持っていなかったからです。

ですから、走りもさることながら、環境性能こそがISの最大のウイークポイントでした。このクルマの開発に合わせて、「もっとコンパクトなFR用の新しいハイブリッドを開発してほしい」と私たちは社内を走り回って、強く要望しました。
しかも、ただ小さくして、載せればいいというわけにはいきません。それこそ、ハイブリッドが普及している日本であれば、「ハイブリッドだから、電池の 分、荷室が犠牲になるのは、しかたないよね」ということがまかり通ると思いますが、欧州ではそんな言い訳は通用しません。荷室スペースの大きさ、レイアウ トにしても当然ながら、他の車と同じ以上の使い勝手が求められます。

そのため、新しいハイブリッドでは電池を従来のリアシートの後ろではなく、トランクの下のスペアタイヤを収納していた場所に設置し、十分な荷室スペースを確保するとともに、長尺モノも収納できるトランクスルーも実現しました。

こうして、でき上がったのが新型クラウンにも搭載されている直列4気筒の2.5Lハイブリッドパワートレーンです。発売時 期の関係でクラウンの方が先に搭載してデビューしましたが、もともと開発を強く呼びかけていたのは私たちなのです。「クラウンと同じハイブリッドですね」 といわれるのは、本当に悔しい限りですが、お客様にとって、使い勝手を犠牲にしないまま高い燃費性能を実現するハイブリッドパワートレーンができたのは、クラウンの協力があったからこそであり、苦労の末、完成したことはとても喜ばしいことだと思っています。

世界で勝てるクルマができました

さて、こうしてそれぞれのコンポーネントにおいて、競合車をしのぐ最高の素材が集まりました。あとは、これを組み上げれば、最高の走りを実現するクルマが出来るはず?
残念ながら、クルマづくりはそんなに簡単ではありません。パソコンならば最高の部品、高性能のCPUやディスクを集めて組み上げれば、ぱぱっと最高 性能のパソコンができるのでしょうけど、「クルマづくりは、摺り合わせ技術」といわれるように、それだけでは最高のものにはなりません。

案の定、最初にできてきた試作車に乗った時は「これじゃあ、駄目だ」という出来ばえのものでした。しかし、ここからがクル マづくりの真骨頂です。いろいろなコンポーネントの組み合わせを替えて調整し、多くのコースで何度も走り込んで、ベストなチューニングを探す。それはさな がら、料理の味付けと同じです。いくら最高の素材を集めてきても、その調理方法が悪く、味付けが決まらなければ美味しい一皿にはなりません。

クルマの場合はとにかく時間をかけ、なんども距離を走り込む。それしか方法はありません。そうした試行錯誤を続けて、世界最高水準の『走りの楽しさ(FUN TO DRIVE)』を実現したNew ISが完成しました。

New ISには、ニュルブルクリングの耐久レース出場などを通じてつくり込んでいったLFAと同じDNAが受け継がれています。それは、けっして、(危険が伴うような無謀なまでに)速く走る、ドリフトをしながらコーナーを駆け抜ける、そんな楽しさとは異なります。

ニュルのようなタフなコースはもちろん、世界中の道を安心して、ドライバーの意のままに、思い通りに操作ができ、気持ちよ く走れる。そして、ちょっとだけドライバーの期待以上のパフォーマンスを発揮してくれる。それがISをはじめレクサスが提案する「FUN TO DRIVE」なのです。

『走る楽しさ』に説明はいりません。まずはNew ISを走らせてみてください。それできっとお分かりいただけると思います。

( 文:宮崎秀敏 (株式会社ネクスト・ワン) )​

MORIZO on the Road