トヨタ クラウンマジェスタ 開発責任者に聞く(3/4)
HV専用車という決断
聞き手:新型マジェスタはV8エンジンを捨てて、3.5Lのハイブリッド専用車になりました。これはどういう考えでこうなったのでしょうか?
山本:結論から言えば、トップ・オブ・クラウンであるマジェスタは環境性能車でなくてはいけない。だからハイブリッドなのです。この時代にあって「V8エンジンである必要があるのか?」そう考えたとき、マジェスタがV8エンジンにこだわる必要はない。
この理屈はトヨタ社内では分かってもらえました。しかし、社外、お客様や販売店はそうはいきません。ロイヤルやアスリートがV6じゃなくて直列4気筒2.5Lのハイブリッドを採用した時と同様に「えーっ、V8じゃないの」という声が上がりました。「V8じゃないマジェスタなんてありえない」。特にマジェスタは販売店の代表者の方が自分のクルマとして乗っていただいていることが多く、その説得には苦労しました。社内は理屈を通せば分かってもらえますが、お客様や販売店は理屈じゃない。
岩月:もう、そうなったら、「V6ですから」という言い訳は一切通用しません。また説明や説得じゃなくて、発想を変えて、実際にモノをつくって乗ってみてもらうしかない。
秋山:最終的にはクルマが出来上がって販売店の代表者のみなさんにお集まりいただき、実際に乗っていただいて、やっと納得していただきました。もちろん、そこに至るまでは相当苦労しましたけど…。
山本:マジェスタにハイブリッド仕様車をつくってほしいという要望はかねてより、お客様や販売店からもたくさん出ていました。問題はV8をやめて、3.5LのV6エンジンにしたことでした。もっとも、LSのようにV8でハイブリッドをつくるとなると、価格はかなり上がります。また、マジェスタのようなニッチなクルマでエンジンを2つ持つわけにはいかない。だから「3.5LのV6ハイブリッドでV8に負けないものを絶対につくるぞ!」と大号令をかけたわけです。とはいえ、これはかなり大変でした。
岩月:すでにJC08モード走行燃費18.2km/Lを実現した3.5LのV6ハイブリッドは新型GSで採用されていましたから、開発はこれをベースにおこないました。しかし、GSはマジェスタに比べるとはるかにスポーティなクルマです。クルマづくりの指向が違う。GSにはマッチしている音がマジェスタだとすごくうるさく感じてしまうのです。だからエンジンを載せるマウントを変更したり、制御を最適化するなど、ありとあらゆる手を尽くして、マジェスタならではのハイブリッドパワートレーンに仕上げました。
山本:「こんなうるさいエンジンを本当に載せるつもりか?」と僕がかなりうるさくいったからね。ハイブリッドの開発工数がかなり逼迫している中、岩月くんがいろいろ苦労し、頭を下げてまわって、なんとかやってもらえた。無理なことも10回いえば何とかなる(笑)
岩月:試作段階で、社外走行評価をしたのですが、峠を走ろうものなら、“うぉーっ”とうなりを上げる・・・。皆で頭を抱えたのをいまでも思い出します。
山本:試験を早々にやめて、みんなで飲んだこともありました。それくらい酷かった(笑)
秋山:マジェスタはロイヤルのボディを75ミリストレッチしていますから、その分、プロペラシャフトが長くなります。そうすると、剛性が下がるし、曲げ共振が起こったりします。その対策として、プロペラシャフトを太くして共振を抑えるなど一つひとつ問題を解決していきました。
秋山:こうしてそれまでV8のマジェスタのお客様にも満足していただける静粛性、運動性能のクルマに仕上がりましたが、同時に、これまで3.5LのV6ハイブリッドのクラウンにお乗りいただいていたお客様にも購入を検討いただけるクルマになりました。もともと先代までのクラウンハイブリッドのお客様は6割くらいが法人のお客様で、その比率はマジェスタとよく似ていました。ですから、新型マジェスタはマジェスタやセルシオからの買い替えのお客様に加えて、先代のクラウンハイブリッドからの買い替えのお客様にも世界トップレベルの環境性能とゆとりのある動力性能を備えた車として、購入いただけると考えています。
山本:威厳と落ち着きのある風格、クラウン伝統の格式とおもてなしと兼ね備えた日本を代表する環境性能車ができました。ぜひ、このクルマは現総理大臣である安倍首相に乗っていただきたいと思います。日本の宰相にお乗りいただくのに最もふさわしい最高峰のクルマになっていると自負しています。
目線を高く。さらなる革新への挑戦
聞き手:その他、開発でこだわった部分、苦労した部分はありますか?
岩月:きりがないくらいたくさんありますが、フロントグリルのデザインにも、かなり拘りました。
山本:実は営業や販売店からマジェスタの名前を残してほしいと嘆願があったのですが、合わせて、「フロントの顔はロイヤルとは違うものにしてほしい」という強い要請もあったのです。ロイヤルのグリルデザインが横基調になっていますから、縦とか斜めにしたものとか、いろいろ試行錯誤しましたが、やっぱり縦基調だなというところに落ち着きました。しかし、そこからが苦労しました。
岩月:縦に走る柱を何本配置するのか?また、1本1本の太さを微妙に変えて何度も何度もつくっては変更し、またつくっては変更し、を繰り返しました。ある時、正面から見たらなかなかきれいにできたと思い、太陽の光の下に置いてみたら、太陽の反射光が、美しく整っていない。それで、またやり直し。正面だけでなく断面、ラウンドを何度も見直して、美しく輝くように調整。こうして、マジェスタ伝統の縦バーをフード前端からバンパー下端まで大胆に配した新鮮かつ存在感のあるデザインになりました。
上下に光の幅が変化するメッキ縦柱と、それを受けるバンパー下端のメッキバー、大変見ごたえのあるフロントデザインになっていると自負しておりますので、是非、実車でご覧頂きたいと思います。
秋山:豊田章男社長にご試乗いただいた時のことですが、「えっ、そんなスピードで!」とこちらが驚くような勢いでコーナーに入っていく。実は後席の乗り心地を堪能していただきたかったのですが・・・。そして運転席から降りてきて、「ロールをもっと少なくして…、あと、ステアリングフィールがもっとほしい」とご注文いただいた。
私たちはリヤのおもてなしを重視していましたが、自分で運転して楽しいということも必要なこと。詰めが甘かったと反省しています。
岩月:すでに工場で量産試験が始まっていた切羽詰まった時期だったので、またもや頭を抱えましたが(笑)、アブソーバーを再適合して、後日、改めて乗っていただいて「これならOK!」というお墨付きをいただきました。後部座席にゆったりと乗れる車としての魅力と同時に、自分で運転しても楽しいクルマという魅力を高い次元で両立することができました。
山本:平日は後ろに座ってドライバーに運転してもらい、休日は自分でハンドルを握るという使い方は十分考えられますから、両方必要なのです。最後の最後で社長に助言をいただいたわけです。
岩月:ロイヤルのボディを75ミリ伸ばした部分はすべて後ろのキャビンのスペースに使っています。リヤのおもてなしの演出として、フロントシートのバックボードへの木目調加飾追加、リヤドアトリムへのイルミネーションの追加など、ロイヤルにはないものをいろいろ追加しました。しかし、やればやるほど、いままで気にならなかったことが気になってくる。最後の最後に山本さんから指摘されたのは、リヤシート灰皿のノブにメッキをすることでした(笑)。また、音の問題にしても、計器で計測して「○○デシベル」という数値目標を達成したとしても、今度は音色が気になってくる。そんなことばかりでしたが、すごく勉強になりました。
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