ランドクルーザー70(30周年記念モデル)開発責任者に聞く(1/4)

地球上で最後に残る 人類の夢を運ぶクルマ。

小鑓貞嘉(こやり・さだよし)
小鑓貞嘉(こやり・さだよし)
​京都市出身。1985年トヨタ自動車入社。シャシー設計部でハイラックス、ランドクルーザープラドのサスペンションを担当。1996年に製品企画部門に異動し、ダイナのフルモデルチェンジに携わり、2001年からランドクルーザー、タンドラのプラットフォーム開発に従事。2007年からランドクルーザーのチーフエンジニアとして開発を指揮。会社生活29年間、一貫してフレーム車に関わる開発業務を手掛ける。大学時代に自動車部で始めた国内ラリー競技の魅力にはまり、トヨタ自動車に入社後も含め17年間参戦。I LOVE CAR,LAND CRUISER!
ランドクルーザーバン。ボディーカラーはシルバーメタリック<1F7>。電動ウィンチはメーカーオプション。

ヘビーデューティ(heavy-duty)という言葉がある。道具や機械にとって、いにしえより「激しい使用に耐える」「堅牢である」ことは、掛け替えのない大きな価値であり、魅力であった。どんなに過酷で、厳しい環境下でも寡黙に動き続けるその武骨ともみえる姿に、人々は美しさを感じ、憧憬の念を抱いた。およそ対極にあると思われるファッションの世界でも、ヘビューデューティなるジャンルやスタイルがある。「タフ」であることには、それほど多くの人の心を惹付ける価値と魅力がある。
外気温が50℃を超える砂漠の道でも200キロで疾走し、氷点下40℃を超える極寒の地でもきちんと走行できる。およそ道とは言えないような悪路や道なき道をひた走り、浅い流れの川であれば楽々と渡りきる。しかも堅牢で壊れない。何十年乗っても、何十万キロ走っても…。「お客様の生命と荷物と人類の夢(行きたいところに行って、確実に帰ってくるという移動の自由)を運ぶクルマ」「地球上で最後に残るクルマ」それがランドクルーザー(以下、ランクル)である。
国土の大部分が舗装されている日本において、ランクルは高級SUVとしての評価が高く、ラグジュアリー・ステーションワゴンの200系やモダンで洗練されたフォルムのプラドが主流となっているが、本来、ランクルの本流は前身のトヨタジープBJ型から40系、そして70系へと受け継がれてきたヘビーデューティの系譜である。とくに、環境の厳しい新興国や資源国において、その評価には他のクルマの追随を許さない圧倒的なものがある。彼の地においては「トヨタ=ランクル」であり、それは人気があるとかというレベルを超越して、「必要とされている」「なくてはならない」クルマなのである。
2004年に惜しまれながらも国内での販売が終了したランクル70であるが、海外では2007年の意匠チェンジを経て、いまでも販売が継続されており、世界中の道を走っている。そんなランクル70がデビュー30周年を記念して、約1年間の限定ながら、10年ぶりに日本で発売される。このランクル70の30周年限定記念モデルの仕掛人であり、ランクルファミリー全体の開発責任者である小鑓貞嘉チーフエンジニアをトヨタテクニカルセンターに訪ね、ランクルというクルマの魅力とランクル70復活の意図について、じっくりお話を聞いた。

63年に渡る「信頼性」「耐久性」「悪路走破性」の歴史

左から、ランドクルーザー“200 SERIES”、“70 SERIES”PICKUP、“70 SERIES”VAN、PRADO。

これはあまり知られてないかもしれませんが、ランクルはトヨタの中で一番長い歴史を持ったクルマです。多くの人はカローラが一番長いのではと思われているかもしれませんが、初代カローラが登場したのは1966年です。ランクルの前身となるトヨタジープBJ型が誕生したのはそれを遡ること15年前。1951年のことです。ですからランクルには63年の歴史があるわけです。ランクルについて知っていただくためには、まずこのランクルの軌跡についてお話しする必要があります。それは60年以上に渡る、トヨタが誇る「信頼性」「耐久性」「悪路走破性」の歴史といっても過言ではありません。
トヨタジープBJ型は当初、トラックのシャシー四輪駆動の機能を付けるという、警察予備隊(現在の自衛隊の前身)からの要請に応える形で開発された「ランドクルーザーの原点」ともいえるクルマです。タフな走りを身上とするランクルのヘビーデューティの系譜の出発点です。
その後、1955年に20系が開発され、初めて「ランドクルーザー」と命名されました。海外に初めて本格的に進出したのもこの20系です。北中米で特に支持され、トヨタを支える柱となりました。そして、1960年には高速走行の快適さを求める北米のニーズを重視して設計され、以降、24年間にわたり販売されたロングセラーモデルの40系がデビューしました。現在のFJクルーザーにまで受け継がれていくデザインをはじめ、ランクル史上の中核モデルとしていまだに多くの愛好家から支持され、現役として世界中の道で活躍しているクルマです。
その一方で、1967年には北米を中心とした四駆のレジャー用途に応える形で55系が登場。ヘビーデューティの系譜から派生したランクルのステーションワゴンの系譜がここから始まります。それはその後も進化を続け、60系、80系、100系を経て、今日の200系へと受け継がれています。
そして、80年代後半からの本格的なアウトドアブームの到来を見据えて開発に着手し、24年間続いた40系の後継モデルとして1984年に登場したのがランクル70系です。また、翌年にはアウトドアスポーツを楽しむために、もっと気軽に四駆を操りたいとするニーズに応えて、70系から派生した70系ワゴンが登場。後に、このシリーズはプラドと命名され、90系、120系を経て、今日の150系プラドへと続くライトデューティの系譜が生まれました。
こうして3つの系譜へと派生していったランクルですが、現在は世界170カ国以上で発売され、年間40万台以上販売されています。当初は警察予備隊向けに企画台数・数十台というところからスタートして、40万台超にまでなった。こんなクルマは他には例がありません。

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