ランドクルーザー70(30周年記念モデル)開発責任者に聞く(3/4) ― 夢を叶えるクルマ ―

徹底的に壊すことを試みる「壊し切り試験」

アナログコンビネーションメーター(メーター照度コントロール付)
アナログコンビネーションメーター(メーター照度コントロール付)
激しく車体が振動する中でも、メーター指針位置を直感的に把握できるアナログメーターを装備。各メーターおよびインジケーター類を的確に配置することで視認性を向上しています。
厳しい中にも、温かい人柄が見え隠れする小鑓(こやり)チーフエンジニア。ランクルへの熱意と誇りが伝わってきました。

もう一つ、ランクルが大切にしているのが「壊し切り試験」です。私たちはどんな過酷な環境下でも壊れないクルマを開発しています。しかし、機械である以上、それはいつか壊れます。大切なことは、その壊れる限界を知っておくことであり、また、どのように壊れるのか?その壊れ方を把握しておくことです。ですから、それを確認するための試験が「壊し切り試験」です。
私がまだシャシー設計部にいた80年代の後半の話です。当時、ランクルの開発責任者である主査が開発車両の試作車ができたとき、クルマの評価をする部署の人間を集めて一言いわれたことは「このクルマはいまできたばかりだ。だから、君たちにはこのクルマをとことん乗って、壊してみてくれ。壊れたところは、俺が絶対に直すから」ということでした。そのために、岩石路のような大変厳しい路面のテストコースで試作車が壊れるまで走り続けたそうです。
豊田章男社長がよく「道がクルマをつくる」とおっしゃっていますが、まさしくそれを地でいく評価です。私たちはそのために(悪路の)道作りから始まります(笑)。
繰り返しになりますが、私たちは「信頼性」「耐久性」「悪路走破性」の3つにこだわり抜き、キングオブ4WDと胸を張れるクルマをつくっています。ランクルの使命は「お客様の生命と荷物、そして夢を運ぶクルマ。ここでいう夢とは、移動の自由。行きたいところに行って、そしてきちんと帰って来られるということです。行けるだけでは、駄目なんです。きちんと、帰って来られることがなによりも重要なのです。壊れないのが理想ですが、万一、壊れてもなんとか帰れるクルマを作らなくてはいけない。だから「壊し切り試験」が必要なのです。
こうしたランクルの開発思想を後に続く人に継承していくこと、これが最も重要なことであり、ランクルのチーフエンジニアである私の使命だと思っています。かねがね若いメンバーには「ランクルというクルマはどんなことがあっても、地球上で最後に残るクルマと認識して、どんなことがあっても残るクルマであるというふうに考えて挑んでください」といっています。しかし、きっと言葉だけでは伝わらないので、「その意味を仕事の中で体得してほしい」と要望しています。クルマづくりで最も大切なことはやはり人づくりです。

へビーデューティこそが保守本流

ランドクルーザーバン。ボディーカラーはダークレッドマイカメタリック<3Q3>
ラゲージスペース(バン)※リヤベンチシートタンブル状態
ラゲージスペース(バン)※リヤベンチシートタンブル状態
左右で大きさが異なる2枚のドアは、全開にして広く使うことも、左方扉だけを開けて手軽に荷物を出し入れすることもできます。奥行の深いラゲージスペースは、リヤベンチシートをタンブル機能により折りたたみ、さらに広いスペースとして使うことができ、大きな荷物にも余裕で対応します。

ここまでのお話で、ランクルというクルマがいかに特別なクルマであるかということがお分かりいただけたのでないかと思います。そんなランクルの中にあって、ど真ん中に位置する、保守本流ともいえるクルマが、40系からヘビーデューティの系譜を受け継いでいる70系なのです。
確かに販売台数だけで見れば、プラドや200系に比べ少ないですが、未だに根強いファンが世界中にたくさんいて、「このクルマしかない」という切実で強固なニーズに支えられ、コンスタントに売れ続けているのが70系なのです。
ステーションワゴンやライトデューティの系譜が市場のニーズに応え、モデルチェンジを繰り返して進化してきているのに対して、デビュー以来30年の長きにわたりロングセラーとなっているのが70系です。この間、2度のマイナーチェンジ、そして、2007年の意匠チェンジをしたものの基本的な部分の変更はありません。つまり30年間、一つの形で変わらないまま、それでいて、いまだに世界のユーザーから高い人気と圧倒的な支持を受けているのが70系であり、それがこのクルマの希有で、すごいところです。(もちろん、この間、車両の強度や走行性能などにおいて、度重なる改良を加え、信頼性や快適性を磨き上げてきているのはいうまでもありません。)
ステーションワゴンやライトデューティの系譜はいわば、時代時代のニーズ、SUVブームに合わせて、派生したクルマであって、あくまでランクルの本流はヘビューデューティの40系であり、70系なのです。ですから、私はランクル70のような本流のクルマは安易に変えてはいけない。変えない、変わらないことが信頼だと考えています。
ランクルのファンの方々で古い40なり70を改造や補修しながら、ずっと乗り続けたいという人が多いですけど、われわれ開発者はそれではいけません。過去の古い車に対する敬意や思いやりは持ちながらも、そこに固執したり、留まっていてはだめで、次の世代のクルマ、未来のクルマをつくっていくという使命があります。
ランクルには63年の歴史があります。現在発売されているランクルシリーズを一本の樹に例えるならば、そのベースにはトヨタの理念やグローバルビジョン、さらにはこれまでお話ししたようなランクルウェイ、ランクル基準ともいうべき考え方が土壌として存在しています。そして長い年月の中で、ランクルという樹の幹から枝分かれして、70系、200系、プラドといったクルマが天に向かって伸びていっているのです。ですから、守るべきところ、継承していくべきところと、革新していかなければいけないこと。これらを両天秤にかけながら、ランクルという樹を持続的に成長させていく。そして、ランクルは「行きたいときに行きたいところに行く」という人類の夢を叶えるクルマでありたい。それを通じて、「幸せを運んでくるクルマ」「働くクルマ」「生活になくてはならないクルマ」として“いい町づくり”に貢献していきたい。この先、10年、100年、地球がある限り、それを持続していきたい。それが私のランクルチーフエンジニアとしての使命であり、想いです。

 

MORIZO on the Road